京都みやげの定番の一つといえば「京漬物」ですよね。
漬物は保存食として重宝され、その歴史は、なんと奈良時代にさかのぼるそうです。
今回は三大漬物と呼ばれる、千枚漬・すぐき・しば漬を中心に、その歴史や美味しさの秘訣をご紹介します。
京都で漬物が発達した理由
京都で漬物が発達したのは、京野菜と密接な関係があります。そもそも、なぜ京野菜が発達したのでしょうか?
京都は海から遠く、新鮮な魚介類が手に入らなかったので、日持ちする野菜や乾物を使った料理の研究が古来よりなされてきました。必然的に良質な野菜を求めるようになり、栽培法の改良も盛んに行われ、いつしか京野菜がひとつのブランドとなっていきました。その野菜を美味しく食べるための調理法の一つが「お漬物」だったというわけです。
京都の三大漬物+α
京都府漬物協同組合によると、千枚漬・すぐき・しば漬を「京都の三大漬物」と定義しています。そこには、なるほどと思える理由とエピソードがありました。順に紹介してまいります。
千枚漬
江戸時代末期、孝明天皇の宮中大膳寮に大藤藤三郎という職人がいました。天皇の好みにあう食事を求めて日ごろから工夫を重ねていた大藤氏は、ある日、かぶら(かぶの別名)の漬物にヒントを得ます。研究の末、調理法を確立した後、美味を極めるべく、最高のかぶらを探し求めたところ、聖護院の里で至高のかぶらと巡りあいます。こうして生まれたのが千枚漬でした。
ふつうの漬物との違いは、「長期保存を目的とせず、繊細に漬け上げる」ところにあります。その淡味の新鮮さは、幕末から維新の武辺者たちまでが“みやこやぶり”と好んだというほど賞賛されたそうです。
すぐき
「すぐき」とは、京都の上賀茂に伝わる、かぶの一種です。桃山時代に上賀茂神社の社家が漬物にしたところ、独特の風味ある酸味が生まれました。以来、上流階級の贈答用として重宝されたため、その製法は秘伝とされていました。
しかし、江戸中期の大飢饉の際に庶民救済のために公開すると、その美味しさに人気が爆発したそうです。おすすめの食べ方の一つをご紹介します。すぐきの漬物にしょう油を数滴たらし、七味をふりかけてみてください。最高の「ご飯の友」となること、うけあいです。
しば漬
平家物語で有名な建礼門院徳子は、源平の戦いで失った我が子や一族を弔うべく、大原の寂光院に隠棲していました。ある日、村人が慰めに漬物を献上したところ、大変喜ばれ「紫葉漬」と命名されました。そんな逸話で知られるのが、しば漬です。
左京区の大原で栽培される紫蘇の葉を野菜と一緒に塩漬けにするのがポイントです。大原は朝夕の寒暖差が大きく、紫蘇に独特の風味を加えてくれるのだとか。しば漬といえば、なんといっても鮮やかな紫色に食欲をそそられます。その色の具合は、漬物石の重さ加減で決まるそうで、職人の経験がものをいう世界です。
さて、この三大漬物に加えてもう一つご紹介したいのが、壬生菜(みぶな)です。新選組ゆかりの寺としても知られる壬生寺のあたりで生まれた壬生菜は、水菜の変種で葉が丸いのが特徴です。
塩漬け、ぬか漬けともに美味ですが、特にぬか漬けは「京糸菜漬(きょういとなづけ)」の名前で江戸期に全国に広まり、京都名物となりました。
他にもいろいろ四季のお漬物
色とりどりの漬物は、京みやげのテッパン。でも「たくさんある中から、どれを選べばいいの?」という悩みも。そこで季節ごとのおすすめ京漬物をセレクトしました。
春…花壬生菜、菜の花、日野菜、春キャベツ
夏…ゆず大根、賀茂なすのしば漬、瓜
秋…壬生菜、赤かぶら、千枚漬、みょうが
冬…白菜、すぐき、ごま大根
※食べごろの時期には産地よって異なります。また、その年の気候によっても変動することがあります。
京都観光の締めくくりには、色とりどりの漬物をお土産として購入し、ご自宅で味わいながら、京都の余韻に浸ってはいかがでしょうか。
【参考文献】
「京つけもの歳時記 旬香彩菜(しゅんかさいさい)」/石橋郁子著 光村推古書院
京都府漬物協同組合 公式サイト
「JA京都の京野菜」サイト
画像提供:京都府漬物協同組合
-
記事を書いた人:吉川哲史
-
一般社団法人 日本ペンクラブ会員。八坂神社中御座三若神輿会 幹事。祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。さまざまな京都ネタを題材に仮説を立てた記事をKyoto love Kyoto. サイトに寄稿中。2021年「西陣がわかれば日本がわかる」を上梓。