【京都グルメ】有斐斎弘道館 館長 濱崎加奈子さん~伝統文化の真髄は京の食芸術にあり~

京都レストランスペシャルアンバサダーインタビュー有斐斎弘道館 館長 濱崎加奈子さん

もてなしの心で五感を満たす、京都の和食は総合文化である。

京都レストランスペシャルアンバサダー特別インタビュー、今回ご登場いただくのは有斐斎弘道館 館長の濱崎加奈子さん。京都大学文学部を卒業後、東京大学大学院に進み、幅広いジャンルを横断しながら伝統文化の現場で研究をされてきました。今回は京都府立大学和食文化学科で教鞭をとり、食芸術学を立ち上げていらっしゃる濱崎さんに、京都の食文化が持つ文化の垣根を超えてつながる総合芸術としての価値などについてお話を伺いました。

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プロフィール

京都大学文学部卒業、東京大学大学院修了。学術博士。日本の伝統文化の継承にかかわるさまざまな取り組みを行う伝統文化プロデューサー。公益財団法人有斐斎弘道館館長。京都府立大学文学部和食文化学科准教授。著書に『京都かがみ』『香道の美学』、共著に『京菓子と琳派』『知っておきたい和食の文化』、監修に『京都二条城と寛永文化』他。

 

食は多彩な分野の美意識が越境し、融合した京文化の完成形。

神戸出身の濱崎加奈子さんは、高校時代に所属していた茶道部での活動を通じて、国内外のさまざまな人々との交流を重ねていくなかで、日本の伝統文化の重要性にあらためて気付かされたといいます。京都大学へ進学すると美学美術史学を専攻。当時習っていた日本舞踊の型の継承についてなど身体論を研究しながら、同時にさまざまな伝統文化の現場へと足を運び、フィールドワークを重ねていきました。そこで濱崎さんは、伝統文化を継承していくための素材、技術が失われ、後継者が育っていない事実を目の当たりにし、自分に何か役に立てることはないかと考えるようになりました。
京都大学卒業後は東京大学大学院に進み、そこで世界各国から集まる研究者たちに京都を案内するコーディネートの仕事を引き受ける機会が増えていったため、自らの会社を設立。そこから現在へとつながる活動がスタートしたのでした。

濱崎さん「論文の数も多くはないし、研究者としては落ちこぼれでした。それに研究者は本来ひとつの分野の学問を極めていくものですが、私はむしろ多様なジャンルを横断していくことに関心がありました。異なる分野に共通する普遍的な美意識を探りあてる作業。しかも私には京都で現場を回って現状の課題にじかにふれ、研究で浮き彫りになった課題が現場で反映されていないという問題をこの目で見てもきました。そうした経験から、現場と研究者を繋ぐ仕事をする人が必要だという思いが、大学生の頃から私のなかにはすでにありました。」

今回取材でお伺いした「有斐斎弘道館」は、濱崎さんが保存活動を務め、2009年より館長を務めています。もともとは江戸時代後期の儒者で門弟3000人ともいわれる皆川淇園が興した学問所でありサロンだった場所。かつてはそのマルチな才能ぶりから知らない人はいないほどの有名人だったのですが、現在その功績はおろか彼の名を知るものさえ少ないといいます。

濱崎さん「私はそのこと自体が、今日の日本や京都の文化・学問の衰退を象徴していると危惧しています。現代は『わかりやすさの時代』であり、特定分野の専門家の「答え」を求める傾向があまりに顕著です。即物的ですぐに成果が得られる研究が求められ、裾野の広い豊かな学問環境が失われていると感じています。でもだからこそ、マルチな才能を有した皆川淇園ゆかりの有斐斎弘道館を再興することで、多彩なジャンルを横断することの価値を伝えていきたいと考えています。」

そんな濱崎さんは、これまで母校である京都大学をはじめ、同志社大学や東京の専修大学など数多くの大学で教鞭を取り、伝統文化の多彩な魅力を多くの学生たちに伝えてきました。なかでも特筆すべきは京都府立大学 和食文化学科での仕事。食は、農学、生物学、化学、栄養学、宗教史や生活史、文学や美術などの文化にいたるまで、幅広いジャンルの学問や研究を横断する学問であり、毎日食べる身近なものであるにもかかわらず、これまで食はあまり研究されてこなかったといいます。「食は総合文化」であると語る濱崎さん。そしてその仕事は、日本舞踊における身体論研究や香道など、視覚だけではなく五感を研ぎ澄ますことで知覚できる美意識を探求し続けてきた自分にこそふさわしい。濱崎さんはそう確信し「食芸術学」を立ち上げます。

濱崎さん「食は、日本人の美意識と深いところでつながっています。その真髄ともいうべきものが茶道なんです。客をもてなす亭主が、菓子、器、掛け軸、お花、庭など、トータルに場をプロデュースする。そのなかで日本人の美学や美意識は培われてきました。そしてその思想は脈々と受け継がれ、京都ではとくに今日にいたるまで、世界にも類を見ない独自の食文化として息づいています。私が大学や大学院で分野を超えて横につなぐ活動をしてきたこと、さらには神戸の高校で茶道部にいたことも、もしかしたら現在のような仕事に携わる運命を予言していたのかもしれません」

「おいしい」と感じるために、心を整えておくことがなにより大切。

『もてなしのかたち』を考える仕事をしている濱崎さんにとって、心地よいと感じる飲食店の基準は、やはりトータルな美学を感じさせてくれる「空気感」と「距離感」だといいます。食材の良さ、仕事の丁寧さはもちろん、適度に放っておいてくれつつ、それでいて遠くから目配りはきちんとされており、安心感を与えてくれる絶妙な距離。フラッと店に入り、なにも考えずにひとときを過ごし、一切のストレスを感じることなく帰って来られる。店の気遣いを客に感じさせない、という気遣い。それこそが理想のお店なのだと濱崎さんは話します。

濱崎さん「たとえばホテルや旅館をチェックアウトするとき、もし気持ちよく過ごせたと感じているのであれば、履きものや寝具を揃えるなどキレイに片付けて帰ろうと思うでしょう?それも義務感ではなく自然にそうしたくなる。そういうときはサービスが行き届いていて、受け取るこちら側の気持ちが整っているからできるのだと思います。相手の気遣いや自然な心配りに、こちらも自然となにかお返しをしたくなる。ホテルでも飲食店でも、あるいは人と人とのお付き合いでも、私はそれが理想的な関係性だと思うし、それが日本のおもてなし文化の根幹にあるものだと考えています。」

食べること、それはすなわち「心の健康バロメーター」なのだという濱崎さん。かつて京都と東京を行き来し、数多くのプロジェクトを一手に請け負っていた時期に体調を崩したことがあったそうです。食事がまともに摂れなくなり、身体も心も限界を超えてしまい、なにを食べても味が分からず、気がつくと「おいしい」と感じる心さえも失っていました。
それからしばらくして、ようやく自分で炊いた炊きたての白ごはんを食べたとき、ひさしぶりにお米の優しい甘みが感じられました。柔らかく温かいごはんの味わいに感動し、涙と一緒に「おいしい」という感情が溢れだしました。と同時に、食事を美味しいと感じられなかった自分に対して申し訳ないという気持ちと、なにより自分の命に力を与えてくれている食べものへの感謝の気持ちをあらためて強く感じたと、濱崎さんはいいます。

濱崎さん「おいしいと思えることが生きるうえでどれほど大事なことか。食事を摂ることは、栄養を摂ることでもあると同時に、『おいしい』と感じることそれ自体が、心身ともに活力を与えてくれていたのだと気づかされました。先ほどのホテルの話と同じで、やはり自分にきちんと受け取る準備ができていないと、心地よさもおいしさも感じられなくなってしまうもの。だからいつも、おいしさをきちんと味わいたいと念ずることがとても大切なことなのです。お肉、お魚、お野菜、フルーツなど、すべての食事は自然から命をいただく行為なわけですから、ちゃんと味わって食べられていないとしたら、それはとても罪作りなことだと思います。」

さて、恒例となっている『最後の晩餐』は?という質問に対しては、やはり「白いごはん」と答えてくれました。そこには濱崎さんの心に「おいしい」を取り戻してくれたお米への愛情と、日本の食文化だけではなく、神事や伝統文化など、日本人の精神性や美意識を形成してきた米・稲作に対する、濱崎さんらしいリスペクトが感じられました。

和食に限らず、洋食や中華にいたるまで、手間ひまかけて作られた料理をおいしく食べられることへの感謝の気持ちを、今回のウィンタースペシャルでみなさんもぜひ噛みしめてください。

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記事制作:ENJOY KYOTO

企画:京都レストランスペシャル

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