CEO 安本晃通さん(左)
宿泊部 フロント エージェント 陳美甄さん(右)
語学のスキルも大切にしながら、ホテルの“中身”を作る笑顔の接客ができる人材を
―THE REIGN HOTEL KYOTO CEO 安本晃通さん
京都駅の南、十条駅徒歩圏内に2021年にオープンした「THE REIGN HOTEL KYOTO」(以下レインホテル)。当初はオリンピックの開催に合わせて、2020年の6月にオープン予定で計画されていましたが、オリンピックが2021年になったことに合わせて、ホテルの開業も延期。観光需要が回復した現在では、多くの宿泊客が滞在しています。
スタッフの知人を紹介してもらうなどして人材を確保
烏丸九条でホステルスタイルの宿泊施設を2か所経営していた株式会社ALM CEOの安本晃通さん。その展開の一つとして「新しい世代のクリエイティブ感覚を誘発する」というコンセプトのもと開業したレインホテルは、アートの香りが漂うスタイリッシュなデザインが特徴的です。
「京都には外国人のお客様も多く訪れますので、語学を活かして働きたいという人や、ホテル業界や宿泊業界に興味がある人は多く、開業準備をしていた頃は充分な人材確保ができていていました。せっかく来てくれたスタッフですので、オープンが1年延びてもみんなとともに乗り越えてきました。今、コロナがおさまり、インバウンドが回復して客足も伸びてきています」
宿泊客の大半は外国人というレインホテルでは、英語など外国語を話せるスタッフが必要になりますが、安本さんの印象では、語学能力を活用したい人や留学経験のある学生アルバイトの雇用はやや難しくなっているそう。
「今働いているスタッフの知人を紹介してもらったりしています。語学を学んでいる人たちの考え方が変化したのか、まずは日本でのキャリア形成というより、最初から海外で働く人も増えてきたのでしょうね」
そこで今後は、働きやすい環境を作るために、働く時間帯を人によって工夫するなども検討してきたいと考えています。
「海外からの来訪者も多く、なおかつ日本のおもてなしを学べる京都のホテルで働きたい方がいないというわけではないと思うんです。ですから時間帯や仕事内容を整備して、環境を施設側が整える必要もあると思います。働ける時間帯に、できることをしてもらう。そんなフレキシブルな働き方ができるようにすることも、現場と相談しています」。このほか、フロントだけ、レストランだけではなく、1人で複数の仕事をこなせるようなマルチな人材を増やしていきたいとも考えています。「その分ハードかもしれないけれど、やりたいことがあればチャレンジしてほしい。もちろん専門職をつきつめるのもいい。いろいろなシーンでお客様と触れ合ってアットホームな雰囲気をつくれたら、スタッフ間の関係もよくなると思います」
多様な宿泊施設があるということは、多様な人が京都を訪れるということ
伝統的な旅館や海外のラグジュアリーホテル、そしてレインホテルのようにデザイン性のある宿泊施設など、さまざまなスタイルの宿泊施設が集まる京都だからこそ、多様な経験を積むことができると安本さんは話します。
「さまざまな施設が京都にできるということは、京都が、多様な感覚や価値観を持つお客様を迎え入れているということ。そんな京都でどうあるべきか。いつも私は“お客様がホテルを選んでくださっている”ということをスタッフに話しています。お客様がホテルを選ぶポイントは、外観のデザインではなくて、中身。多様なお客様と笑顔で、フレンドリーに接すること。そしてお客様優先でお客様のニーズに応えること。ホテルの中身はスタッフにかかっているんです」
インバウンドが盛況で、日本国内からも、海外からも多くの観光客を見かけるようになった昨今。安本さんが宿泊者と話をするなかで印象的だった出来事があるとか――。
「ホテルでは週末にバー営業をしていて、そこに来てくださった東京からのお客様が『京都観光に来たけど、異国に来てる気分です』とおっしゃられたんです。そんなことないでしょうと、東京の方が外国人の方が多いのでは?と尋ねると、東京はわりと外国人観光客の方がいるエリアは決まっているけれど、京都はどこにいっても海外の方が多いと感じられたのだそうです」
この時安本さんが感じたのは、だからこそ、しっかり京都のいいところをお伝えしなくてはということだそう。
「お客様は、日本の、京都の素晴らしいところを知りたいと思って来てくださっている。スタッフは国内外のお客様にその日本や京都のいいところを伝えていかないといけない立場です。たとえ語学が堪能でなくても、お客様とフレンドリーに触れ合うことができれば、気持ちは伝わると思います。そういう気持ちのある人にぜひホテルで働いてほしい。実は私も英語は全然できないんですよ。もうボディランゲージで、何でもコミュニケーションいけます(笑)。触れ合おうとする気持ちが大切です」
海外からの宿泊客が多いため、語学力が必要である反面、それだけでは、中身のあるおもてなしとは言えないのが宿泊業の奥深いところ。国内外、さまざまなお客様とのコミュニケーションをとりながら、京都の魅力を発信してくれるホテルスタッフ。レインホテルの皆さんのフレンドリーな接客が、たくさんの人の旅の思い出を鮮やかに彩ってくれています。
日本語、英語、中国語で“フレンドリーな接客”を実践中です
―THE REIGN HOTEL KYOTO 宿泊部 フロント エージェント 陳美甄さん
2022年8月に台湾から来日し、日本語学校に通いながらレインホテルでアルバイトをしたことがきっかけで、2023年4月からレインホテルの社員として働き始めた陳美甄(チェン メイ ヂェン)さん。笑顔でフロント業務に従事するチェンさんに、京都での暮らしを聞きました。
聞きなれない方言に戸惑いつつも、向上心ある日々
京都には本格的に住み始める前に、旅行で2回ほど訪れたことがあったというチェンさん。京都の印象を「天気も穏やかで、物価もちょうどいいですよね。住みやすいところだと思います。日本で日本語を勉強して働くのが夢だったので、今はそれがかなってうれしいです」と話します。
落ち着いていて静かなまちであることも京都の気に入っているポイントです。「東京にも行きましたが、人が多くて……。京都のほうが穏やかな感じがしますね。京都は外国人にも人気があります。昨年はホテルにもアメリカ人のお客様が多く来られました」
主な仕事はフロント業務。「チェックイン・チェックアウトの対応や電話応対などがメインですね。大変だなと感じるのは、日本語の方言です。関西弁には慣れてきたのですが、電話で日本語の方言を聞き取るのが難しい時もあります」。それから敬語も少し苦戦をしているそうですが、こちらは、先輩が話しているのを聞いて話し方を学ぶなど、向上心を持って仕事に取り組まれています。
「ありがとう」の言葉に支えられて、モチベーションアップ
チェンさんは台湾でもホテルで働いた経験があり、こういった仕事は慣れているそう。ですが、日本のスタイルに驚いたことも。それはお客様が帰るときのお見送り。「日本は見送りが丁寧ですね。台湾だとバイバイという感じでおわりですが日本は丁寧に見送りをしていて驚きました。そういうのはとても良いと思います」。また、お休みの日は何をしていますか?と伺うと「主に部屋の掃除をしたり、料理をしたり。友達に会ったりもしています」とチェンさんはどちらかというとインドア派。ですが、ホテルのお客様にご案内できるようにと、近くの寺社へ行ってみるなど、情報収集にも出かけています。
「お客様が快適に過ごせるように工夫をして、『ありがとう』という言葉をもらうと、やはりとてもうれしい。また、こうやって私の語学力を活かすことができることにもやりがいを感じています。今は従業員のみなさんと一緒に働くことが一番楽しい。日本の家族のように感じています」。柔らかな表情と流ちょうな日本語で話すチェンさんに話を聞いていると、CEOの安本さんの言うフレンドリーな接客を日々実践されています。
安本さん―
本当によく働いてくれます。チェンさんは台湾の出身で中国語と英語を話すことができて、日本語も頑張って覚えてくれています。英語と中国語、逆に日本語は……ちょっとまだまだかな(笑)。私が目指しているフレンドリーな対応をしてくれています。「彼女の笑顔素敵ですよね」というお声をいただくくらい。
チェンさん―
社長が従業員を家族のように大切にしてくれていると深く感じます。たまにケーキ買ってきてくれたり(笑)。この会社で働けて幸せですね。
安本さん―
スタッフとこうやって笑って話ができるだけでも、経営者としてはとてもうれしいこと。良い雰囲気で働いてもらうことが、お客様にとってもよい雰囲気づくりにつながると思います。
▼京都で働きたい人と観光事業者をつなぐメディア「京都観光はたらくNavi」
https://job.kyoto.travel/
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記事を書いた人:株式会社文と編集の杜
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京都で活動している編集・ライティング事務所。インタビュー、ガイドブック、書籍などジャンルを問わず、さまざまな「読みもの」に携わっている。近年は、ライティングに関するイベントの開催も。
https://bhnomori.com/