【京都観光ではたらく】~株式会社右源太~

CEO 鳥居宏行さん(左)
勇崎武彦さん(右)

営業スタイルを一部変更して効率化をはかり、新たな客層を獲得

―株式会社右源太 CEO 鳥居宏行さん

“京都の奥座敷”と言われ、夏の川床で有名な料理店が数多く点在する貴船エリア。昭和37年に開業した料理旅館「右源太」では、コロナ禍後、料理の提供方法やスタッフの配置の変更などによりさまざまな対応をして、新しい営業スタイルを確立することに成功しています。同店を運営する株式会社右源太CEO 鳥居宏行さんにお話を聞きました。

2つの楽しみ方ができるようになり、選択肢が増えた

貴船エリアで、「右源太」「左源太」「貴船倶楽部」の3つの飲食店と「キフネコスメティックス&ギャラリー」、4事業を展開する株式会社右源太。CEOの鳥居宏行さんにとって2020年は大きな転換期となりました。

「コロナ禍の後、省略化を図るべく、仲居さんが懐石料理を一品ずつ提供するフルサービスは『右源太』だけにして、『左源太』はセルフサービスとカジュアルなメニューのカフェスタイルに変更しました」「右源太」「左源太」の両方がフルサービスの時代は、川床の時期には多いときで1日60人もの接客スタッフが必要だったそうですが、より少ないスタッフ数で営業ができるようになりました。

 

伝統的なスタイルの「右源太」と、カジュアルに味わう「左源太」。両方の楽しみ方ができるようになったことで、訪れる客層にも変化が生まれています。「フルサービスの『右源太』には、送迎バスや駐車場のご用意があり、お客様も事前に予約をしてきてくださいますが、『左源太』は偶然に立ち寄ってくださる方やハイキングがてら歩いて来られる方もいらっしゃいます。セグメントが分けられるという点で、間口が広がったことはよかったと思います。コロナ禍で一度立ち止まって考える機会があったからこそ、こういった転換を思いつくことができました。お客様にとっては選択肢が増えて、多くの方に私たちに両方のスタイルがあることを知ってもらうきっかけになりました」

このほか、予約管理システムを導入したことも省力化のひとつ。「それまでは、どんな予約も電話で受けていましたが、今は自動で予約が入ってくる。“電話番”が少なくて済みますし、間違いがないのもよかったと思います。人がやるとどうしても聞き間違えなどもありましたから」

 

仲居によるフルサービスも残していきたい

限られたスタッフでできる方法を模索して、解決策を見出してきた鳥居さん。ですが、少し心配なことも――。「プロとしてきちんとした接客ができる仲居さんがなかなか確保しづらいことは悩みです。やはり『右源太』を選んでくださるお客様には仲居さんの役割が大きいんです」
料理を提供するだけではなく、客へのさりげない気づかいや会話も仲居のスキル。しかも、建物と道を挟んだ貴船川に設置される夏の川床は、厨房からの距離もあり、タイミングを見計らったりするのが難しいそう。
「世間的には人手不足が続いていますが、幸いなことに、今いるスタッフの修業時代の友人が手伝ってくれたりして営業できています。伝統的なフルサービスの良さは残していきたいので、仲居ができる人がもっと増えてほしいと思います」

 

飲食業はハードなイメージがあるから敬遠されてしまうのかもしれない。そう感じていた鳥居さんでしたが、スタッフから聞いて、驚いたことがあるそう。それは貴船ならではの働く楽しみがあるということ。
「結構遠方から、単発バイトに来てくれる人がいたんですが、普段は都市部で働いているけど、ここに働きに来たら癒やされるって言うんです。近くに川の音が聞こえて、緑も豊かで。リゾート地みたいだからでしょうね。貴船はパワースポットとしても有名ですしね」

さらにもうひとつ、こんなエピソードも。「雨が降ってきたら、お客様を建物に誘導したり、川の水が増えそうになったら、床の板を上げたりと力仕事もあるんですよ。雨に濡れることもあって大変なんですが、チームで仕事をする充実感を感じてくれて、『いい経験になりました』と言ってくれるスタッフもいます。やり遂げたようないい顔をしてましたね」。川床の時期は、雨雲レーダーを見ながら天候の急変に対応しなければならず、気を抜けない日々。そんな状況でも川床を続けるのは「せっかく来てくれたのだからできるだけお客様に川床を楽しんでほしい」という気持ちがあるからだと鳥居さん。運営しているスタッフも、同じ気持ちで連帯感が生まれるのですね。

ここでしかできない経験ができる場所と、スタッフの言葉から再認識した鳥居さん。貴船の自然を感じながら、生き生きと楽しみながらともに働くスタッフを鳥居さんは待ち望んでいます。

 

 

貴船は、2時間半通勤してでも働きたいと思わせてくれる場所です

―株式会社右源太 勇崎武彦さん

2023年に夏季の繁忙期に右源太で送迎の仕事を始めた勇崎武彦さんの主な仕事は俳優。その合間にと求人アプリで見つけたのが右源太の仕事でした。また来年も夏に働きに来たいという勇崎さんに貴船の、そして右源太で働く魅力について聞きました。

 

俳優業の傍らできる仕事をアプリで探していてたどり着いた仕事

「『勇 元気』の芸名で俳優をしていていますから、太秦の撮影所には前からよく来ていました。俳優の仕事の隙間で、何か働けないかなと思っていたら、役者の先輩に求人アプリを教えてもらって。それでこの右源太の仕事を知りました」

右京区の太秦からは少し距離がありますが、ここの仕事を選んだのには、貴船という場所の魅力もあったそう。「右源太に興味を持ったのは、貴船がパワースポットであることも理由の一つです。実は役者の仕事って喜怒哀楽が激しいんです。それで役者でない仕事のときには自然に癒されて、気持ちをリセットすることができる場所がいいんじゃないかと。実際にここで働かせていただいたあとで、映画の出演が決まりました。パワーをいただけたのかもしれませんね!」

右源太では送迎を担当。勇崎さんは、大型免許を持っていてマイクロバスを運転でき、自動車教習所で教えていたこともあるほど運転が得意。それを見込んで鳥居さんが採用を決めたのです。
「30人ほどが乗れるマイクロバスで、京都駅や最寄りの駅に送迎します。運転がうまいといいますか……安全運転には自信があります。そして快適な乗り心地にも気を配っています。ブレーキのかけ方一つでもカクンとなったり、不快になりますから、運転でもプロフェッショナルを目指します」と話す勇崎さんですが、応募する前は少し悩んだそう。「この辺りは道が狭いので、大丈夫かなとやや心配で。それで下見にきて、従業員の方にどんな感じなんですかって聞いてみたりしました。これは気を引き締めてやらないとと感じたのを覚えています」

送迎の途中には、ちょっとした京都の観光案内もして交流も

俳優だけあって、表情も豊かで、話も上手な勇崎さん。送迎の際には客と話をすることも。
「鴨川や有名な寺院のそばを通りますから、お客様の邪魔にならない程度に少しお客様にご案内をしたりもしています。お客様によって、そこは臨機応変に対応しています。接客は答えがないですから難しいですね」

そして、話を聞いていて一番驚いたのは、勇崎さんは兵庫県在住で、2時間半もかけて右源太にきていたこと。そこまでして右源太で働きたいと思わせたのは何だったのでしょうか。
「いろいろな人に出会えることも楽しいですし、仕事をしていく上ではやりがいも感じていました。遠いので周囲からも『なんでそんなとこまで行くの?』って言われるんですが、やっぱりここに来たいって思うんです。社長や働いている人に、そしてこの場所に引き寄せられているんですかね。それにここまで時間をかけて来るのだから、何かを掴んで帰らないとただの往復になってしまう。だったら、とより一生懸命に取り組めたのかもしれません」

いろいろな経験を積んできた勇崎さんにとって右源太で感じるやりがいを訪ねると、それはやはりシンプルに「ありがとう」の一言との答え。
「送迎バスで『ありがとう』といただけると、やっぱり来て良かった、また明日も頑張ろうという気持ちになります」

勇崎さんはバスを運転する前に必ず駐車場にある祠に手を合わせます。安全に送迎ができること、人と出会えることへの感謝の気持ちを忘れずに、気を引き締めてハンドルを握り今年の夏も貴船にたくさんのお客さまを送り届けてくれるでしょう。

 

鳥居さん―
お客さんと最初に接するのが送迎のドライバーなんですよね。そういう意味では一番大事。第一印象ですから。勇崎さんは運転がうまくて対応がいい。お客様で、テレビで見たことある!って言ってる人もいましたね。  

勇崎さん―
そうですねえ。ここは難しいですよ。やっぱり道幅が狭い。通れるかどうか。人生の見極めと一緒です(笑)。実は、私、初日にあててしまって。それがあったんで、もう無理はしないと決めています。

鳥居さん―
俺でもあてるからね。勇崎さんにはお客様への対応など、望んでる以上のことをしてもらってるのでありがたいですね。後輩が来たら、どんなふうに接しているかなど、そういうのを教えてあげてほしいと思っています。


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記事を書いた人:株式会社文と編集の杜

株式会社文と編集の杜

京都で活動している編集・ライティング事務所。インタビュー、ガイドブック、書籍などジャンルを問わず、さまざまな「読みもの」に携わっている。近年は、ライティングに関するイベントの開催も。
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