京都「葵祭」がわかる6つのポイント〜葵祭行列保存会の猪熊会長に教えていただきました〜

 

葵祭行列保存会の会長・猪熊兼樹さん

京都では毎年5月15日に、美しい平安装束をまとった約500人が都大路を練り歩く葵祭が行われます。2024年大河ドラマで話題の『源氏物語』にも登場する古来の祭りで、王朝風俗を伝える国内でも珍しい祭儀です。「平安時代から続くお祭りってなんだか難しそう…」と思う人もいるかもしれませんが、シンプルなポイントさえ理解すれば葵祭の面白さは広がります。

今回は葵祭行列保存会の会長・猪熊兼樹さんに葵祭の魅力や見どころについて教えていただきました。

ポイント1 天皇が賀茂の神様に祈りを捧げる国家的な儀式だった

葵祭は、祇園祭、時代祭と並ぶ京都三大祭の1つで、京都市の北東にある下鴨神社(賀茂御祖神社)と、北にある上賀茂神社(賀茂別雷神社)の例祭です。

起源は今から1500年前。欽明天皇の時代(在位539〜571)に災害が起こり凶作が続いたため、「賀茂の大神の祭りをせよ」という占いに従って、イノシシの面をつけた人を馬に乗せ疾走させて祭りを行いました。これが葵祭のルーツです。

現在の行列ルート図。賀茂の神に祈りを捧げるため、下鴨神社、上賀茂神社へと進む

やがて都が平安京にうつされると、賀茂の神を祭神とする下鴨神社と上賀茂神社に毎年朝廷から勅使(ちょくし)、つまり天皇の使者が送られ、祈りが捧げられる「賀茂祭(かもさい)」が営まれました。京都で“祭り”と言えばこの「賀茂祭」のことを表すほど、朝廷をあげた大切な儀式だったのです。

ポイント2 葵祭は主に3つの儀式で構成されている

現在の葵祭では、いったいどんなことが行われているのでしょうか。葵祭行列保存会・会長の猪熊さんに尋ねました。

「葵祭は大きく分けて3つの儀式で成り立っています。

1つ目は『宮中の儀』です。葵祭は天皇が賀茂の神様に対して祈りを捧げる祭りなので、天皇の祈りの言葉やお供え物を託して使者を派遣します。これが『宮中の儀』です。2つ目の『路頭の儀』は文字通り“路”は道のことですから、京都御所から下鴨神社を経由して上賀茂神社へ行く、道中の行列をさします。そして最後の『社頭の儀』は各神社の境内で営まれる儀式のことです。」

1)宮中の儀 天皇が使者を派遣する儀式のこと(現在は行われていない)

2)路頭の儀 御所から下鴨神社、上賀茂神社へ行く道中の行列のこと(5月15日催行)

3)社頭の儀 下鴨神社、上賀茂神社の境内で営まれる儀式のこと(5月15日催行)

※雨天の場合、順延

路頭の儀の前半に登場する御所車。車輪がきしむ音も雅びに感じる

ポイント3 「路頭の儀」は平安時代の様式を今に伝えている

葵祭を構成する3つの儀式の中でも、猪熊さんが会長をつとめる葵祭行列保存会が運営、保存活動を行うのが「路頭の儀」、昔から多くの人々が楽しみにしていました。

京都御所から上賀茂神社までのおよそ8kmの道のりを、公家男子の正装である束帯(そくたい)をまとった男性や、十二単姿の女性など、およそ500人が列をなしてゆっくりと進みます。その様子はまさに王朝絵巻さながらの美しさで、普段は車やバスの往来が激しい大通りも、この日ばかりは交通規制がかかり、平安時代へとタイムスリップしたような趣に包まれます。沿道で京都市民や観光客が自由に見ることができるのも特徴です。

「葵祭は、平安京に都がうつされて間もない頃から美しい行列を組んでいました。長い歴史の中で京の街は様変わりしましたが、束帯を着た人が馬に乗り、十二単のお姫様が輿(こし)に乗って、牛車や馬が進んでいく景色はほぼ変わっていないと思います。特に御所の建礼門(けんれいもん)や、下鴨神社、上賀茂神社の参道を行く行列、社頭の儀などは、平安時代の人たちが見た光景とほぼ同じものを見ることができるのではないでしょうか。」

葵祭の行列は応仁の乱で200年ほど途絶え、江戸中期に復興するも、明治維新や戦争といった時代の大きなうねりの中で中断と再興を繰り返し今に至ります。その時代に合わせて少しずつ変遷を遂げてきましたが、行列の基本や形、作法は平安期の様式を伝えているのだそうです。美しい行列の景色と、そこに込められた宮廷人たちの美意識を大切に守りながら次代へつないでいくことが保存会の仕事、と猪熊さんは語ります。

ポイント4 「路頭の儀」の主役的存在・近衛中将に注目!

葵祭の行列では老若男女、多様な人が参列しますが、中でも注目の人物について伺いました。

「お祭りというと、神様をお神輿に乗せてワッショイワッショイと運ぶ姿を想像される方が多いと思いますが、葵祭の行列ではそのような“神様のお出かけ”はありません。お出かけするのは勅使(ちょくし)、つまり天皇の使いです。通常は近衞中将が勅使を務めました。現在の葵祭の行列では『近衛使代(このえづかいだい)』に当たります。行列の中でも最高位であるため、一番格式の高い黒の束帯(そくたい)を着て、銀面をつけたきれいな馬に乗っています。行列の中核をなす重要な人物です。」

近衛使代は行列の中間よりやや後ろあたり。黒の束帯と馬の銀面が目印

ポイント5 キーパーソンを軸に、時には広い視野で見ると理解が深まる

そしてもう一人、「近衛使代(このえづかいだい)」の後方を「腰輿(およよ)」と呼ばれる輿(こし)に乗って進む「斎王代(さいおうだい)」も必見の人物。毎年、京都ゆかりの女性が選ばれる葵祭のヒロインで、約20kgもある十二単に身を包み、手には檜扇(ひおうぎ)を持ちます。髪はまとめて後ろに垂らし、「心葉(こころば)」と呼ばれる金属製の飾り物を額につけた優美な姿です。

腰輿に乗って進む斎王代

「葵祭は、人々の衣装の美しさ、色の重なり、調和も見どころと言えるでしょう。藤原道長や紫式部が活躍していた頃、宮廷が一番雅だった時代の品格や美意識を伝えているのです。」と猪熊さん。当時の宮廷文化や服飾デザインを実際に見ることができる数少ない機会、とも語ります。

一方で視野を広げて、行列全体を見渡すとまた違った角度から葵祭が楽しめる、とおっしゃいます。

「例えば『近衛使代』は、天皇から預かった言葉『御祭文(ごさいもん)』を神前で読み上げる人なので、彼の後ろには『御祭文』を預かる『内蔵使(くらづかい)』がいます。『内蔵使』は皇室の財産を管理する役人で、かつてはこの人が勅使を担っていたという説もあるほど大切な人物です。その他にも『近衛使代』の周囲には替えの馬をひく人、手荷物や靴箱などの身の回りの品を持つ人などが歩いています。参列する人たちはただ歩いているのではなく、それぞれにきちんとした役割があるので、少し俯瞰してグループごとに見ると、葵祭への理解が深まると思います。」

内蔵使もまた威厳に満ちている

一人ひとりをじっくり観察するのも良いですが、時々、全体を見渡して、各人物の仕事、ストーリーに想いを馳せてみるのも一興と、猪熊さんは話します。

遠い昔を生きた人たちの世界として見物するのではなく、現代の私たちの暮らしや仕事と関連づけながら親しみをもって見るのも、葵祭を楽しむコツです。

ポイント6 見て知って参加して。みんなで支える葵祭

葵祭の当日、行列を歩くのは約500人ですが、それを陰で支える人たちをあわせると関係者は1000人を超えると言われています。衣装や調度品の管理、牛や馬の訓練など、前日までの準備も考えれば、その限りではないでしょう。毎年、多くの人の力添えで葵祭は催行していますが、近年は学生のボランティア参加が減少していること、行列の参列者が履くわらじの原材料と作り手が不足し、思うように調達できないことが悩みなのだそうです。

あふれんばかりの造花を飾った「風流傘(ふりゅうがさ)」

「葵祭は、平安時代の人の格好をして当時を偲びましょう、というものではなく、今も葵祭そのものが続いているのです。ですからこれまで連綿と伝えられてきた葵祭のオリジナルスタイルをできる限り守り、継承していくことが大事と考えています。そのためには学生さんはじめ、多くの方のご理解とご協力が欠かせません。」と猪熊さんは話します。

千年も前から続く葵祭の一員となって行列を歩くことは、京都の歴史や風雅な王朝文化だけでなく、衣装、調度品を支える京の職人技、伝統産業に至るまで、多くのことを複合的に感じ、インターネットや書籍では知り得ない学びとなるのではないでしょうか。学生ボランティアの募集は毎年4月中旬ごろから各大学、マスコミにて発表される予定です。ご興味のある方はぜひご参加ください。

葵祭観覧記念符

また、4月9日から販売される「葵祭観覧記念符」は、売上の一部が葵祭保存・継承にあてられます。記念符には「葵祭」の名前の由来となった双葉葵が大きくあしらわれ、宮絵師の安川如風により描かれた美しい絵が使用されています。

この記念符は京都御苑と下鴨神社参道に設けられた有料観覧席の購入者にも配布されます。有料観覧席の詳細は以下のWebサイトをご覧ください。

2024年「葵祭」有料観覧席の詳細・購入はこちら

葵祭「有料観覧席のご案内」|【京都市公式】京都観光Navi

https://ja.kyoto.travel/event/major/aoi/seat.php

※有料観覧席は「公式ガイドブック」及び「観覧記念符」付きです。

「葵祭」観覧記念符

京都駅の京都総合観光案内所(京なび)にて、4月9日(火)から1枚500円で発売。その他、「公式ガイドブック」「記念扇子」の記念品も限定販売(数量限定の為、完売次第終了)

 

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参考文献

「葵祭に行くっ」(京都市産業観光局観光MICE推進室)
「葵祭」公式ガイドブック(京都市観光協会)
「葵祭」パンフレット(下鴨神社)

 

記事を書いた人:五島 望

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東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。

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