代表取締役 嶋本 洋二さん(左)
店長 中野 圭太郎さん(右)
飲食業で働く喜びを伝えて、「働きたい」と思う人を増やしていきたい
―代表取締役 嶋本 洋二さん
京都市内の繁華街・四条烏丸周辺や観光客も多く訪れる先斗町で、6店舗を展開する株式会社セカンダイズ(以下セカンダイズ)。「うしのほね」という屋号で親しまれ、和食からイタリアンまでさまざまな美味しさで、京都の食の魅力を発信しています。代表取締役の嶋本洋二さんにお話を聞きました。
社員の人生を考えたとき、やるべきは店を増やすことじゃないと気付いて
「飲食業界には、何年か働いていつかは独立したいと考えている人が多いと思います。私もゆくゆくは自分で事業を起こしたいと思って、仕事に飲食業を選びました。ですから独立を夢見て働く人たちへのサポートは惜しまず続けてきました」と話す嶋本さん。自身も大阪出身で大学時代から京都の飲食業界で働き、1985年に開業。今では本店を先斗町に構え、2日煮込んで仕上げるビーフシチューが店の看板メニューです。
現在、店舗は6店。5店まで増やしたとき、嶋本さんはふと、「このままで良いのか?」という思いに駆られたと言います。
「スタッフはここで働くことに何の価値を感じてくれているだろうと疑問に感じたんです。新規出店して会社の規模を大きくするよりも、経営者としてもっと働いている人のこと、社員の人生をしっかり考えるべきなんじゃないかと思うようになりました。それで店の数はこれ以上増やさないで、目の届く範囲でビジネスをしようと決めました」
独立開業を考える人も多い飲食業。嶋本さんはこれまでも独立を目指して働く人たちには、その思いを汲んでさまざまなサポートしてきました。
「料理や接客の技術だけではなく、店の運営、資金繰り、飲食業という職業の在り方など、飲食業を“営む”側の考え方が、働きながら身に付くように教えてきたつもりです。うちにいる間にいつ独立しても商売ができるくらいのレベルになってほしいと思っています」
働く人の休みをきちんと確保するために、休業日を設ける決断
長年飲食業に身を置いている嶋本さんですが、「人手不足は慢性的。特効薬はありません」と、人材確保には苦心してきました。「特にここ14~15年ほどは人手が足りないと強く感じています。昔からこの業界には若いうちは“修業”というようなイメージがあり、厳しい仕事という印象が先行して、人が集まらない。それは以前からです。それを改善するために、待遇の面を充実させることは大前提ですが、飲食業のやりがいをしっかり伝えていくことも必要。それぞれの店が、自分たちの魅力を打ち出して『飲食業で働きたい』という人を増やさないといけないと思っています」
コロナ禍も飲食業に憧れる人たちに変化をもたらしたと嶋本さんは言います。「先行きに不安を感じて、簡単に“独立”と言えないような状況になってしまいましたから。コロナ禍で、飲食業で働いている人や働きたいと思う人が減ってしまったんです」
人手不足に拍車をかけたコロナ禍。そのため、従来のような営業スタイルでは、働く人の負担が大きいと判断した嶋本さんは、それまでほとんど無休だった営業を、不定休に変更。店を休む日を設けることにしました。
「それまでと同じようなシフトの組み方ではスタッフが休憩時間や休日を十分にとることができません。それでは、ますます『飲食業界はきつい』ということになって、飲食業で働きたくないと感じてしまいます。それは一番してはいけないこと。ですから思い切って店を閉める日を設けました」
また、人手が足りないため、採用活動にも力を入れられていますが、採用する際には、飲食の魅力や会社の考え方をきちんと話し、価値ある仕事であることを伝えているそう。
「飲食業は、人間にとって大切な“食べる”ことに携わる仕事です。それぞれの店が一生懸命考えて、一生懸命つくり上げたものが、お客様に受け入れられたら、自分自身が評価されていることにつながる。それが目の前で繰り広げられるとてもダイレクトな仕事なんです。その喜びは、お金にかえられない財産になって、その人の人生にとってもプラスになるでしょう。このことを知ってほしいと思います」
店舗は増やさないと考えていた嶋本さんでしたが、2021年、以前から嶋本さんが考えていたフードロスへの取り組みを具現化した店舗「ELOVE(えらぶ)」をオープンしました。
「前から生産者を大事にしたいとは思っていたんですが、なかなか始められずにいました。コロナで僕たち飲食業が動けなかったとき、生産者さんや中間の業者さんも動けませんでした。やっぱり運命共同体なんだと実感して。飲食店、中間業者、生産者。その大きな循環で考えないといけないと思って、この『ELOVE』を始めました」
規格外で廃棄されてしまうフードロスの解決など「食の SDGs」の推進を目的とした店で、以前からつながりのあった京丹後の農家などから仕入れた野菜を販売するほか、それらを使った料理をレストランで提供したり、デリカテッセンで販売したりしています。
この「ELOVE」のような取り組みも飲食業の可能性を示し、働きたいと思う人が増えるのではと嶋本さん。さまざまな形で食に関わる仕事に携わる喜びを伝え続ける、嶋本さんの挑戦は続いています。
目の前のお客様に喜んでいただくには―? 夢を叶えるための経験を積むことができる職場
―店長 中野 圭太郎さん
現在、先斗町にある、「うしのほね草風土」で店長を務めている中野圭太郎さん。大学時代、アルバイトとしてセカンダイズに入り、22歳の大学卒業と同時に入社しました。実家も飲食業を営んでいたため、もともと興味があっての選択でした。
店長であっても、働く時間はみんな平等
「実家が福岡で弁当店を営んでいて、幼いときから店の仕込みや販売を手伝ってきましたので、料理や接客への興味はもともとありました」。入社から3年後には店長となり、店舗運営に携わるように。今は「うしのほね草風土」のほか、取材に訪れた「ELOVE」でも店に立っています。
「『ELOVE』は朝から営業していて、バタバタと忙しい時もありますけど、必ず休憩はとるようにしています。セカンダイズではみんな平等。店長だけ予定よりも長く働いているというようなことがないように、ちゃんと休みます」
これもスタッフ思いの嶋本さんの方針です。
学生時代、アルバイトをするようになって驚いたのはお客様との距離の近さだと中野さん。「お客様がすぐ目の前にいらっしゃって、常に触れ合えるくらいの近さ。働きはじめて、自然とお客様が喜んでくれるにはどうしたら良いかを考えるようになりました」
このとき芽生えた探究心が今につながっていると話す中野さん。入社後、本格的に料理やお酒の勉強を始め、将来は自分の店を持つのが夢です。
「“食べる”ことは人間に欠かせないこと。実家の当店は“中食”(持ち帰って家庭内で食べる食事)ですからお客様のリアクションを感じることができなかったけど、外食は結果がその場で見えます。良くも悪くも、お客様のリアクションが見える。良くなかったら、何かあったのかなと気になります。仕事としては注文をうけて料理を出すというシンプルなことだけど、突き詰めると奥深くて楽しい」と、飲食業の醍醐味を語ります。ですが、現場で働く店長としては、人手不足は気になるところ。
「僕は入った人に続けてもらうための努力も求められていると思っています。現場の空気感や環境を良くするように努力しています」
働きがい、やりがいを大切に、考えを実践できる自由度の高さも魅力
大学進学で来てから、京都に住んで10年以上がたち、3人の子供の父親となった中野さん。休日はできるだけ家族と過ごすようにしているとのことですが、月に一度は会社の同僚と食事に行きます。
「京都は食のレベルが高いですから。会社のメンバーと外食して料理を見に行ったりします。生活の中にいろいろな情報があふれているので常にアンテナをはって、気になったものを直接見て仕事に活かします」
セカンダイズでは、自由度が高いことも特徴です。「料理も接客も、自分で考えたアイディアはまずやってみる。お客様が喜ぶんじゃないかと考えたことは、どんどん挑戦させてもらえます。そして反応が良ければうれしいし、悪ければ改善を考える。その繰り返しが良い店をつくるんです。」
お客様とのキャッチボールを楽しめることが飲食業の魅力でもあると中野さん。
そして「社長は休みや給料も考えてくれていますが、特に働きがい、やりがいの部分に力入れて、話をいろいろしてくれていると感じます。独立を目指す人も、そうでない人にとってもやりがいをもって働ける、そんな会社だと思います」とも。ゆくゆくは自分の店を持つ夢を持つ中野さんは、セカンダイズの会社としての姿勢も吸収して、どんどん成長しています。
中野さん―
社長はほぼお父さん代わり。良い時も悪い時も察してフォローしてくれます。ほかにも同年代が多いのでそんな感じの雰囲気です。
嶋本さん―
腹立つ息子も多いですけどね(笑)。僕もほぼ毎日現場に入るんですが、スタッフが独立することは、会社にとってはマイナスの部分もありますが、その人にとっては大事な選択。そう思って応援しています。
▼京都で働きたい人と観光事業者をつなぐメディア「京都観光はたらくNavi」
https://job.kyoto.travel/
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記事を書いた人:株式会社文と編集の杜
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京都で活動している編集・ライティング事務所。インタビュー、ガイドブック、書籍などジャンルを問わず、さまざまな「読みもの」に携わっている。近年は、ライティングに関するイベントの開催も。
https://bhnomori.com/