【京都観光ではたらく】~南禅寺八千代~

女将 中西 裕子さん(右)
スタッフ 関 暁さん(左)

宿泊プランを工夫するなど新たな取り組みで仕事量を減らし効率アップ。たくさんの思い出紡ぐ旅館を未来へ

―女将 中西 裕子さん

南禅寺の参道に静かにたたずむ旅館「南禅寺 八千代」(以下八千代)。門の先では落ち着きある日本建築と庭園、アットホームなおもてなしでお客様をお迎えします。たくさんのスタッフとともに国内外から訪れる旅行客をもてなしてきた女将の中西裕子さんに、旅館を切り盛りするなかで工夫されているポイントについて、お話を伺いました。

予約状況に応じて、チャットグループでアルバイトを募集

「八千代では、昔から近隣大学の学生さんにアルバイトに来てもらっていました。今もそれは継続していて、人手は足りてはいるんですが、学生さんは卒業して就職されますから、慣れた人が定期的にいなくなってしまうのが残念です。仕方ないことですが、長期で働いてくれる人がいると助かりますね」

旅館だけではなく料亭としても営業している八千代。予約状況を見ながら、登録してくれている学生たちにチャットグループで連絡。必要なスタッフ数を確保しています。「学生時代のアルバイトの経験は大事だと思うんですよ。社会人になる前に仕事がどんなものかを見ておく意味で。特に11月の紅葉シーズンはとても忙しいんですけど、この時期に頑張ってくれた人は、就職しても、しっかりとした社会人になるだろうなと思って見守っています」

旅館や料亭が忙しいのは土日や長期休暇、春や秋の観光シーズン。その頃に、従業員にまとまった休みを取ってもらうことは難しいですが、その分、オフシーズンには積極的に連休を取ってもらっていると中西さん。「忙しい時期はある程度決まっていますから、少し落ち着いた時期に連続した休暇を取ってもらっています。実家が遠方で、そういう時を利用して帰省する方もおられますね」

また、従業員の休みを確保するためにも、仕事の効率を上げることや、省力化に取り組むのは必要なことと、以前から対策してきたそう。その一つが、お客様への連泊プランの提案です。「早くからインターネットを取り入れ、海外からの集客に力を入れてきました。連泊プランを用意したところ、外国のお客様に多くご利用いただいています。おかげで現在、八千代の平均宿泊日数は1.9泊と連泊してくださる方が多いんです。連泊が増えれば、チェックイン、チェックアウトの回数も減り、客室清掃の回数も減ります。こうして仕事量を減らすことで、少ない人数でも運営が可能になります。また、スタッフの負担が軽くなれば、離職率の低下にもつながると思います」

いつでも戻ってこれる場所であり、日本を感じられる場所

連泊の発想は、「アーリーチェックイン」や「レイトチェックアウト」のプランを用意したことにも表れています。「例えば、海外からのお客様が、朝、日本についてヘトヘトなのに、チェックインは15時から……だとしんどいですよね。到着したらまず、日本の部屋でゆっくりしてほしい。それができるようにアーリーチェックインのプランをつくりました。このプランを利用すると、前日から部屋を予約していることになります。旅館側としては、予約は入っているものの前日に宿泊されるお客様がおられないので清掃の回数が減りますし、朝到着してチェックインなさいますので、荷物だけを先に預けに来られた場合の対応がなくなるというメリットがあります」

こうして少しずつ効率をよくする工夫は負担が減るとタッフには好評です。このようにさまざまな方策を打ち出して、旅館を続けてきた中西さん。「旅館」というスタイルを守ることには強い思いがあります。
「バブル崩壊後の不況で経営が厳しかったとき、外国の方が旅館の玄関にきて、スケッチブックを見せてくれました。子どもの時に、お父さんと一緒に八千代に泊まったのだそうです。そのスケッチブックには門が描かれていて、yachiyoと書いてありました。それを見て、これは店を残さないといけないなと思いましたよ。遠い外国から、お父さんとの思い出をたどって来てくれた人が、ここがなかったら寂しいじゃないですか。がんばれる限りがんばり続けようと」
今も「新婚旅行で」「修学旅行で」と、以前に宿泊したときの思い出を話してくれるお客様は絶えないそう。そのたびに、やり続けてよかったと思うと中西さんの顔がほころびます。

現在八千代の宿泊客は京都の旅館ならではの魅力や、インターネットの効果もあり、インバウンド客が大半。中西さんは外国人客をもてなすときに、特にスタッフに言うことがあります。
「毎日、お客様がたくさんいらっしゃるけれど、お客様にとっては今日が初めての日本で、あなたは日本人の代表。だから、笑顔一つ、言葉遣い一つとっても、日本人として自信の持てる行動をしてほしい。日本人って優しいなと思うのは、あなたが優しいからそう思うのよと話すんです。そういう気持ちを持って働いてくれるとありがたいです」

思い出に残る建物、たたずまい、料理やおもてなし。旅館という日本独特の宿泊施設を、存分に満喫してもらえるように細かく工夫し、スタッフの負担を減らした八千代。そうして働く側を思いやる気持ちがあることが、スタッフ全員での素晴らしいおもてなしにつながっているようです。

 

どうしても働きたい!と電話で直談判してから17年。思い出を作り続ける“黒子”であることがやりがい

―スタッフ 関 暁さん

千葉県出身で、京都旅行で見かけた八千代に興味を抱き、就職を希望した関暁さん。働き始めて17年目になり、料理の配膳や調理場とのやり取り、結婚式の打合せなどさまざまな仕事を任せられるリーダー的な存在です。

旅館は、宿泊客も働く人も日本の文化を体感できる“THE 日本”

旅館で働く魅力として、「日本の文化が感じられる職場であること」と答えた関さん。「旅館は外国人のお客様にとってはテーマパーク。着物を着て女将が出迎えてくれて、仲居さんが案内してくれて、日本食を食べて、浴衣を着て布団で寝る。“THE 日本”なんですよね。実は旅館で働く日本人スタッフも、そうやって日本の文化に入っているんです。僕たちの旅館英語はあまり通じてないかもしれないけど、積極的に話しかけます(笑)。それも楽しんでもらえていると思います」

仕事のなかでもひときわ緊張するというのが結婚式。料理のタイミングなど細心の注意を払って提供しています。

「何年後も、何十年後も思い出す一日ですから責任重大です。新郎新婦やプランナーと事前に何回も相談して、つくり上げます。結婚式の後でも記念日や子どもが生まれたときに再び来館してくださるのも、うれしいことです。僕たちはいわゆる“黒子”の存在。それでいい。でもそれがお客様の思い出の1ページをつくっているなんて、素晴らしい仕事だと思います」

関さん自身、千葉に住む母の還暦にも八千代での宿泊をプレゼントしたそう。「京都で八千代に泊まったね」とたくさんの人が振り返る思い出は、関さんのようなスタッフの働きが支えているのです。

平日休みをうまく活用して、趣味や帰省も

千葉県出身の関さんが、旅行で訪れた京都で八千代を見かけたのは17年前のこと。
「もともと宿泊業には興味があり、地元でも旅館で働いていました。でもせっかくなら自分が好きな土地で働きたいと思って仕事を探し始めていたところ、旅行で訪れた京都で見かけたのが八千代だったんです。新選組とか歴史が好きで、京都には憧れがありました。帰ってホームページを見てみると、京都らしい風情のある旅館で、ここで働きたいと思ったんです」

関さんが思い切って電話で連絡すると、女将から「一度来てみますか?」と返事をもらうことができ、ワクワクしながら京都へ。「まず体験バイトを1日だけしに来ました。その時に、お給料だけではなく宿泊費までいただいて……」。職場のあたたかい空気に、関さんの八千代で働きたい気持ちがますます募る一方、女将は、遠方から就職しに来る関さんの将来のことや家族はどう思っているのだろうと心配していたそう。「女将さんは、従業員の人生を預かる覚悟でいる人。ですから僕の母にも会ってくれて気持ちを確認してくれました。最終的には、僕のどうしても働きたいという思いに応えて、採用してくれたんです」

今では、誰もが信頼を置くスタッフに成長した関さん。「旅館は、一つ屋根の下で働く家族だと思っています。そこにどのように身を置くのかは自分次第ですよね。土日に休みにくいことは確かですし、すごく忙しい時もあります。でも忙しいときには働いて、その後まとめて休むことができるのは、僕はむしろ宿泊業で働くメリットだと思っているんです。平日のすいている日に観光に行ったりもできますし、千葉の実家に帰ったりもできますから」。平日に多い、テレビドラマや映画のエキストラにも応募しているという関さん。宿泊業の勤務スタイルとプライベートの趣味や楽しみをうまくマッチさせています。

 

中西さん―
関君は京都というまちが好きなんでしょうね。

関さん―
働いていても、休みの日にまちを歩いていても歴史を感じるし、学ぶ楽しみがあります。趣味のエキストラにも行けますし(笑)。京都の旅館で働くメリットはたくさんあると思います。

中西さん―
ありがとう。旅館が、八千代が長く続いていくには、関君のようにこの仕事が好きだと思ってれる人が必要だなと思います。

 

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記事を書いた人:株式会社文と編集の杜

株式会社文と編集の杜

京都で活動している編集・ライティング事務所。インタビュー、ガイドブック、書籍などジャンルを問わず、さまざまな「読みもの」に携わっている。近年は、ライティングに関するイベントの開催も。
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