【京都観光のいま】 地域に溶け込み、環境を守る。「我がまちのホテル」が世界に伝えること ~ホテル日航プリンセス京都~

京都随一の繁華街・四条烏丸近くに立地し、開業からまもなく20年を迎えるホテル日航プリンセス京都。

観光を楽しむ人々の拠点としての役割に加え、祇園祭や災害対応などの地域貢献、また独自のリサイクルシステムを構築することで京都市や国からも高く評価され、京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」に選ばれています。来街者を主な顧客とするホテルでありながら、地元とのつながりを重視する姿勢の源にはどんな思いがあるのでしょうか。

エグゼクティブフロア スイートルーム
画像提供:ホテル日航プリンセス京都

もてなしの根底にあるのは、地域や人を思うスピリット

ホテル日航プリンセス京都 総支配人 河戸省三さん

京都各所の観光名所へアクセス抜群のロケーションをもつホテル日航プリンセス京都。このまちを代表する企業の一つ「京セラ」グループが地元京都につくったホテルで、総支配人の河戸省三さんは「“我がまちのホテル”としてみなさまに喜んでご利用いただけるよう、地域や社会に貢献することを創業当初から掲げてきました」と話します。

保昌山の粽作り
画像提供:ホテル日航プリンセス京都

たとえば祇園祭では、山鉾巡行の冒頭に長刀鉾の稚児が行う「注連(しめ)縄切り」の準備として、注連縄やそれを立てる「齋竹(いみたけ)」のお祀りの場所を提供しています。ホテルがある高橋町では齋竹奉賛会が古くから組織されており、お祀りの場所は町内で持ち回りとなっていましたが、管理が大変なことからホテルの宴会場を使ってもらうよう申し出たといいます。


「お祭りに関わらせていただくきっかけになったのは、実はお掃除だったんですよ」と河戸さん。社員を挙げて清掃を行うなかで、敷地だけでなくその周辺や道路など範囲を広げて掃除するよう心がけていたところ、隣近所の住人と少しずつ親しくなり、地域に溶け込んでいったことで山鉾町の行事にも誘われるようになったのだとか。隣接する山鉾町「保昌山」では河戸総支配人自らが山鉾巡行に参加しているほか、地域の人々といっしょに粽や護符づくりをお手伝いしており、新入社員が京都の文化や地域との関わりを学ぶ貴重な場になっています。

ホテル周辺の清掃のようす
画像提供:ホテル日航プリンセス京都

質の高いサービスのために欠かせないものとして第一に人材育成を挙げており、部署ごとに成功・失敗事例をもとにした対話形式での研修を定期的、計画的に継続して行っています。加えて、普段とは異なる業務を担当する「クロストレーニング」を行うことでマルチタスク化を進め、効率化と生産性の向上を図るほか、先輩が後輩をサポートする「メンター制度」の導入、また、資格取得も推奨し、京都検定をはじめ、各種認定試験を受験するよう河戸総支配人自らも先頭を切ってチャレンジし、モチベーションを高めています。

大雨の夜、問われたのはホテルの姿勢と一人ひとりの人としての在り方

人材育成においては、京セラの創業者である故・稲盛和夫氏の「人間として何が正しいのか」を指針にしており、そのスピリットが大いに発揮された出来事として河戸さんが昨夏のエピソードを話してくれました。


大雨により新幹線がストップした日のこと。京都駅で足止めされた修学旅行生150人の宿泊と翌日の食事も用意できないかという急報が入ったのは、すでに日も暮れた夕刻のことでした。赤字になることも予想されるなか、すぐに受け入れを決め担当者が準備を始めましたが、どうしても翌日の朝食準備が間に合いません。そこでスタッフが奔走し、周辺のコンビニエンスストアをめぐって人数分のおにぎりを買い集め、翌朝に間に合わせました。「困っている子どもたちを前に、営利を抜きにして現場の判断で個々が動けたのは、人として正しく在りたいという指針があったからにほかならないと感じています」と河戸さんは振り返ります。

ホテル敷地内の水栓 画像提供:ホテル日航プリンセス京都

また、ホテル周辺には良質の地下水脈があり、下鴨神社や京都御所などの湧水と同じ水脈で結ばれていることから自前で井戸を掘削。井戸から汲み上げるミネラルバランスの良い軟水を、客室やレストラン、宴会など全館で利用しているほか、地域のだれもが24時間いつでも自由に水を汲めるよう、2カ所の水栓を無償で開放しています。


ホテルの井戸は京都市の「災害時協力井戸」制度にも登録されていて、このたびの能登半島地震で起こったような断水の際には地域住民の「命の水」として供給する使命も担っています。ショッピングやビジネスなど常時多くの人が往来するまちなかにあって、帰宅困難者対策を視野に入れ、館内の貯水槽には常時200トンの地下水を確保。飲料水のほか、災害時用の備蓄として米や炭、カセットボンベ、予備毛布なども備蓄して非常時に地域を支える用意を整えています。

「食品リサイクルループ」の構築で、持続可能な“循環”をホテルから発信

生ゴミ処理機
画像提供:ホテル日航プリンセス京都

ホテルがいま最も力を入れているのが、多岐にわたるSDGsへの取り組みです。とくに廃棄物に関しては自家処理を積極的に推し進めており、2017年に最新鋭の生ゴミ処理機を導入したことで、それまで専門業者に処分を依頼していた生ゴミの廃棄量のうち、実に73.6%削減することに成功しています。処理機で分解できないロブスターの殻など残りの廃棄物はバイオガス発電プラントで活用され、焼却処分ゼロを達成。プラントで発電の副産物として生成された「堆肥」は、協力農場で有機米の栽培に用いられ、その米はホテルの社員食堂で提供されています。

再利用事業者や農林漁業者と共同で構築したこの「食品リサイクルループ」は、京都市の環境関連3認定「2R及び分別・リサイクル活動優良事業所認定」「2R特別優良事業所認定」「産廃処理・3R等優良事業場認定」のすべてを取得しており、数ある京都の宿泊施設のなかでも初の快挙として京都市環境政策局から「永久認定」の資格を獲得しています。また、2023年6月には厚生労働大臣、農林水産大臣、環境大臣の認定を取得し、話題となりました。

親子で食育ミニ料理教室のようす
画像提供:ホテル日航プリンセス京都

また、SDGsに関する取り組みを地域にも広げ、地元小学校で開催した「親子で食育ミニ料理教室」では、ホテルの総料理長が講師となってプロの技を伝授するとともに、食品ロス削減や食品ゴミ削減を学ぶ機会としました。教室の手土産として配られたお菓子のレシピと材料には、ホテルの納入業者から提供されたごま油の絞りかすを活用し、サプライチェーンを巻き込んだ試みも進めています。

オランジェット 画像提供:ホテル日航プリンセス京都

さらに2024年1月からテイクアウトスイーツとして登場した「オランジェット」は、捨てられてしまうオレンジの皮にサステナブルチョコレートを組み合わせて“アップサイクル”した商品です。レストランでは、牛などに比べて生産時の環境負荷が少なく環境問題の改善に効果的といわれる「大豆ミート」を使った料理も販売し、新たな食生活の選択肢をホテルから提案しています。

20周年を迎え、100年後も愛されるホテル、愛される古都京都のために

20周年を迎える2024年。それに先駆けてリニューアルも進められており、15階のエグゼクティブフロアではインバウンド需要を視野に長期滞在型の客室を整えました。ウォークインクローゼットを完備した部屋や、広々としたバスルームなど水回りを一新し、これまで以上に居住性の高い客室となっています。

画像提供:ホテル日航プリンセス京都

世界中の観光客が集まるここ京都にあって、このまちでの滞在がより良いものであるよう努めるのはもちろん、「ホテルとしての使命、存在意義は宿泊のお客様に対してだけでなく、どのように地域と共存共栄が実現できるかにあると考えます」と河戸さん。100年後も愛されるホテルとして、また京都が100年後も世界の人々に愛され続けるまちであるよう、ホテル事業を通じて地域や環境、社会の安全、発展、持続に貢献していきたいと語ってくれました。


■リンク 

【京都観光モラル】優良事例集
ホテル日航プリンセス京都 公式HP

記事を書いた人:上田 ふみこ

ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。

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