京菓子ヌーベルヴァーグの現在地。 京都洋菓子文化 ~「マールブランシュ」の今むかし~

 

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Made in Japanの洋菓子の新潮流、その旗手となったマールブランシュ。

京都のお菓子といえば、誰もが最初に和菓子を思い浮かべることだろう。実際に京都には、寺院や茶道の家元に納められる由緒ある上生菓子のお店から、家庭のおやつや手土産用としてデイリーに買い求めるお餅屋さん・お団子屋さんに至るまで、和菓子屋さんが数多く軒を連ねている。その中には誰もが一度は口にしたことがある有名店や創業100年を超える名だたる老舗も少なくない。修学旅行生をはじめ京都以外からやって来る観光客にとっては、和菓子は京都らしいお土産として長く親しまれてきた。
その一方で、近年の京都には世界中から訪れる観光客を狙って海外スイーツブランドが京都に出店。高級チョコレート専門店が数多くオープンしている。そのほかにもドーナッツ、シュークリーム、チーズケーキ、ミルフィーユなどなど、こちらも同じく高級店から庶民的なものまで多様な洋菓子店が出店し、京都の手土産事情も様変わりしていると言っていいだろう。

そうした京都の洋菓子文化が隆盛を極める前、80年代初頭の京都で、ひとつの洋菓子ブランドが立ち上がった。それが、北山に本店を構えるマールブランシュだ。いまでこそモダンな雰囲気が漂う北山エリアだが、マールブランシュが創業された1982年当時は、まだあちこちに田畑が残るのどかな田園地帯だった。しかし創業者で現会長の河内誠一氏が地下鉄路線の延伸計画を耳にし、いずれこの街は活気づいていくだろうとの慧眼により、北山の地に本店を構えることとなったのだという。「京菓子ヌーベルヴァーグ」誕生の瞬間である。(※「ヌーベルヴァーグ」とは「新しい波」の意)

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そもそもマールブランシュというブランド名は、どこから来たのか?じつは17世紀に活躍したフランスの思想家ニコラ・ド・マルブランシュに由来している。創業者である河内誠一氏がスイーツ研究のためパリに行った際、このマルブランシュの著作と出会い、彼の真理についての探求と思想に感銘を受け、自身の洋菓子ブランドにその名を冠したのだった。マールブランシュの名は京都の人ならおそらくほとんどの人が耳にしたことがあるだろうが、この由来を知っている人は意外と少ないかもしれない。

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そしてこれも今では記憶している人が少なくなったかもしれないが、実は当初マールブランシュは、フランスのスイーツや古典菓子をそのまま持ち込んだ本場の味を提供する「西洋菓子の芸術座」をブランドコンセプトにスタートしていた。当時はまだ京都で洋菓子を販売する店舗は少なかったこともあり、その戦略は成功。売上も上々で、百貨店への出店をはじめとした全国展開を図るなど、マールブランシュは本場の味を再現した本格洋菓子ブランドとしての地位を確立していったのだった。ところが2007年、突如とし全国展開していたお店の多くを撤退させ、京都に軸足を置いた「京都ブランドの洋菓子店」へと転換することになった。

和菓子の本場・京都で認めてもらえる、本格抹茶の洋菓子をもとめて。

マールブランシュが京都ブランドへと一大転換を図った最大の理由は、独自性を高める戦略へのシフトだった。というのも、少しずつ京都にも洋菓子店が進出しはじめ、百貨店には似たような洋菓子ブランドの似たようなスイーツが並ぶようになっていた。ライバルの増加に比例して大阪や東京での売り上げに陰りが見はじめていた。「このままでは埋没してしまう」「自分たちが勝てる場所を探さなければいけない」「マールブランシュにしかない独自性を打ち出さなければダメだ」。じわり、焦りと危機感が社内に広がっていた、まさにそのときだった。たまたま同時進行で進められていた商品開発プロジェクトによって生み出されたあるひとつの商品が、マールブランシュ全体の新しいブランドコンセプトの方向性を決定づけてしまうほどのインパクトとパワーを持っていた。その商品こそ、他でもないお濃茶ラングドシャ「茶の菓」である。

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濃緑色をした抹茶味のラングドシャに、ミルク感たっぷりのホワイトチョコレートを挟み込んだ「お濃茶ラングドシャ 茶の菓」。今ではマールブランシュの代名詞であり、京都の洋菓子の定番ともなっているこのお菓子だが、誕生のきっかけはご贔屓のお客様のひと言だった。京都在住のそのお客様からの相談、それは「京都からヨソの街に住んでいる知り合いに『おもたせ』として持っていけるお菓子はないやろか?」というものだった。そこから試行錯誤が始まる。担当アートディレクターが茶道具の店の娘でお茶に精通しているという偶然もあり、「抹茶の洋菓子」というコンセプトが決まった。

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開発に当たっては、まずは高級抹茶の産地として知られる宇治白川の茶農家・小島茶園をメインに、茶の菓のためだけの茶畑を作るところから始めた。しかも使用する茶葉は、一番茶のみとし、可能な限り手摘みの茶葉をブレンドした。そうした理由は、機械摘みではお茶本来の美味しさが損なわれてしまうこと、二番茶・三番茶は、どうしても味の質が落ちてしまうからだ。今では宇治茶の産地として名高い和束町や木津川市の茶園とも提携している。

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「山の茶葉」を栽培する宇治・小島茶園

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「川の茶葉」を栽培する城陽・木津川沿いにある茶園

また、使用する茶葉には、さらなるこだわりがある。それは「山の茶葉」と「川の茶葉」の風味の違いだ。じつは茶葉には、山あいで栽培されたものと、川のそばで栽培されたものがある。日照時間が短く、寒暖差のある山あいで育てられた茶葉は甘く、香りが深いのが特徴。一方、水はけがよく、山からの肥沃な泥土が運ばれてくる川のそばで栽培された茶葉はキレが良く、山の茶葉よりも旨味が強いのだという。最終的にホワイトチョコレートを挟み込んだお濃茶ラングドシャ「茶の菓」には山の茶葉が多く使われ、夏期限定の涼菓であるホワイトチョコレートが生地に練りこまれた「涼 茶の菓」には川の茶葉がメインで使われることとなった。

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こうして厳選された茶葉は一流の茶鑑定士の緻密な「技」によって、味・色・香りを総合的に見極められ、さらにお濃茶の風味と洋菓子としての甘みを融合させるのに最適なバランスでブレンドされる。そして、ブレンドされた茶葉は石臼で丁寧に挽かれ、きめ細やかで香り高く仕立てられた「お濃茶」を、マールブランシュのシェフがラングドシャへと焼き上げていくのだ。

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さらに、お土産やおもたせにふさわしい京都らしい焼印やパッケージ、贈り物として使われることを考えたおもてなしを表した包装紙からは、購入されるお客様はもちろん手土産としてお持ちするお届け先様や、ギフトの贈り先様までを含めたすべての人に対する、スタッフからの「心」が込められていることが感じられるのだった。

宇治茶の茶農家と提携し、“ほんまもん”の高級抹茶を使うこと。石臼で挽いて茶鑑定士にブレンドを依頼するなど、和菓子にも負けない丁寧な作り方を実践すること。そして、スタッフのおもてなし。「素材・技・心」の3つすべてが揃うことで実現できる茶の菓の贅沢感と満足感を、マールブランシュでは「京都クオリティ」と呼んでいる。それは和菓子の伝統を育んできた京都の菓子文化の矜持を、洋菓子にも受け継ぐためのひとつのステートメントだと言えるだろう。

なにげない日常に、幸せなひとときをもたらすスイーツブランドとして。

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京都のお菓子業界に新しい風を吹き込んでおよそ40年となるマールブランシュ。昨年、第3のフェーズともいうべき新たなフィールドの開拓へと歩みを進めた。それが、京都山科にオープンした「ロマンの森」である。マールブランシュの母体企業である株式会社ロマンライフ創業の地にあった製菓工場が、スイーツの森へと生まれ変わったのだ。ショップ・カフェ・工房がひとつになっているため、パティシエがひとつひとつ丁寧に作り上げていく様子を、ショップやカフェの店内から見ることができる。ロマンの森は、パティシエ、ショップやカフェのスタッフとお客様、みんながひとつの空間でスイーツの甘い香りを共有する世にも幸福な場所なのだ。

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  • オススメの人気商品「モンブランバタークロワッサン」

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数量限定・ロマンの森限定 税込¥378(本体価格 ¥350)
※テイクアウト価格 イートイン可

ロマンの森にはここでしか食べることができない限定商品がいくつかある。なかでもおすすめなのが「モンブランバタークロワッサン」。開店当初は行列ができ、おひとり様2個限定での提供だったほどの人気商品だ。塩味の効いた薄切りのバターと、マールブランシュの名物であるモンブランのマロンクリームを、発酵バターをふんだんに使用したミルキーなクロワッサンでサンドした贅沢な逸品。外側はパリッとサクサクで、中はもっちりとした食感が楽しめる。焼き上がると店いっぱいに甘やかな香りが広がり、焼きたてでいただくモンブランバタークロワッサンはまさに格別だ。

  • チーム茶の菓が開発した新商品「お濃茶シェイク」
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また、2021年春に発売された新商品「お濃茶シェイク」も好評だ。茶の菓と同じ宇治白川の手摘みをブレンドした一番茶葉を石臼で碾いたお濃茶に、ミルク感たっぷりの濃厚なホワイトチョコレートを加えたデザートドリンク。もちろんそのまま飲んでも美味しいし、さらに牛乳と1:1で割って飲むスタイルもおすすめだ。実はこの商品も「チーム茶の菓」によって生み出されている。コロナ禍で抹茶の消費が落ち込む中、少しでもお濃茶の消費を増やすことで茶農家さんたちの支援になればという思いから開発されたのだった。

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夏季限定お濃茶シェイク 税込¥391(本体価格 ¥362

こうした取り組みは、社会貢献にもつながっているのだという。実はコロナ禍にあって、茶道の家元や寺院での茶会が軒並み中止になったことで、特に高級抹茶を生産している宇治の茶農家さんたちも窮地に陥っているところが少なくない。だからこそ、マールブランシュは農家と一緒に手摘みの高級抹茶を作り続け、宇治茶の生産者から茶の菓のためのお茶を買い続けることで、持続可能な農業に貢献しているのだ。それこそが、何よりの産業支援、地域貢献につながると考えてのことだった。そこには“京都の”洋菓子屋さんとしてのプライドと、強い覚悟があった。
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社会貢献といえば、2020年からスタートさせたケーキの移動販売も、そうした取り組みのひとつだ。コロナ禍で自由に外出ができない窮屈な生活を、少しでも楽しい時間にしてほしい。気のおけない友人たちと一緒におやつを食べる喜びを感じてほしい。そんな思いから、マールブランシュではケーキと焼き菓子のデリバリーと移動販売のサービスを始めた。ケーキやお菓子を買いに行きたいと思っても、なかなかお店まで来られない人がいる。それなら私たちから出向いて、みんなのところへお菓子を届けにいこう。そこから、すべては始まった。

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昨年は月に1、2回のペースで行われた移動販売だったが、自粛生活が長引くなか「せめておやつの時間くらいは贅沢しよう」という人が増えたこともあってか、次第にあちこちから「また来てほしい」という声が増えていった。そこで、そうした人たちの切実な思いに応えるため、今では月に10回以上も実施。さらに2021年春からは、まるで映画に出てくるアイスクリーム販売カーのような可愛らしくも楽しいデザインの移動販売専用トラック「マールブランシュ オリジナルキッチンカー」も登場した。

カフェ併設の「ロマンの森」も、移動販売車「オリジナルキッチンカー」も、コロナ禍の逆風の中で始まった。しかし、むしろそのことで気づかされることがあったという。それは、お菓子を食べる時間、とりわけ家族や友人たちなど大切な人と共に食べる時間、それは必ず「幸せなひととき」であるということだ。「自分たちはそんな幸福な時間のお供をさせてもらっているのだ」という自負と喜び。人と気軽に会えない時期だからこそ、「おやつ」を通じて、自分たちにできることがある。例えば自分ひとりで食べるだけならコンビニスイーツでもいいかもしれない。でも誰かと一緒に食べたい、誰かにこのお菓子を食べる時間を共有したい、そういうときにこそ、自分たちのお菓子を選んでもらいたい。

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スイーツを食べる甘くて美味しい時間を、誰かと共有し、その喜びが伝播し、幸福が連鎖していく。そんな「おやつの時間」を日常のなかに取り戻していくことこそ、マールブランシュをはじめとした「お菓子屋さん」にしかできない大事な使命なのかもしれない。日々がんばる自分を、「甘いお菓子」で存分に甘やかせてみるのも、たまにはいいだろう。

マールブランシュ
店舗情報の詳細につきましては、ホームページをご確認ください。
http://www.malebranche.co.jp

  • マールブランシュ  京都北山本店

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  • ロマンの森

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記事を書いた人:ENJOY KYOTO

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