野菜たちが育った風景と 作り手の営みに想いを巡らせながらいただく一皿、一鉢。 そのすべての料理に命が宿っています。

 「草喰なかひがし」は、最も予約が取りにくい店として全国に知られる人気の料理店。その人気の秘密は、主人・中東久雄氏が自ら、野や山に分け入ったり畑に訪れたりして集めた食材を丁寧に料理することで、野山の生命力や農家の想いが込められた美味しさにあります。中東久雄氏の料理哲学もまた、同店が提供する料理の味わいの一つといわれています。

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「いただきます」は、自然と農家の人々の営みに感謝すること

 「肉や魚はもちろん、野菜にも道端の草にさえ、命が宿っている」という中東氏。その自然の命を生かし切るのが料理人の仕事だという中東氏の料理をいただくため、銀閣寺道の「草喰なかひがし」へ伺いました。1階は13席のカウンター、2階にはお座敷が2つあり、その2階の1室に通されました。床の間には掛け軸がかけられ、可憐な季節の花が生けられています。「先ずは食べてみてください」と供された「草喰なかひがし」の昼のコースです。 

先付-臼に見立てた四方漆器の鉢にヒトデ楓の照葉を蓋にして。
・リンゴで挟んだ北山の鹿肉
・柚子釜-南瓜煮・柚子の絞り汁をかけて赤く発色させた赤蕪の擂り下ろし・金時豆・貝割
・ブロッコリーとカリフラワー炒め、氷餅まぶし ~初冠雪に見立てて~
・丹波黒豆の乾煎り
・栗金団と銀杏の摺り潰しに慈姑(くわい)煎餅(せんべい) ~山茶花に見立てて~
・軽く火どった味女(あじめ)ドジョウと抹茶をまぶした鰹のハラゴ

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  手間と時間をかけた品々が、クリスマスのもみの木に見立てた青かいしき(※)の上に美しく盛られています。リンゴの甘酸っぱさと共に鹿肉の旨味を味わったあと、柚子釜の赤蕪の擂り下ろしで一旦口中を清め、雪を戴く木々に見立てたカリフラワーやブッロコリー、山茶花(さざんか)を模した栗金団・銀杏・慈姑煎餅、そして味女ドジョウと抹茶をまぶした鰹のハラゴ(腹側の肉)という珍味のほろ苦さに、次の料理への期待が高まります。
※青かいしき-青葉のかいしきのこと。かいしきは、食物を盛る木の葉や小枝のこと。 

お造り-鯉・野蒜の葉・辛味大根・ラディッシュ・辛子水菜・レッドマスタード・鯉の骨の煮こごり・イワナの卵 

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 鯉は泥を吐かせるため、滋賀県安曇川(あどがわ)の農家と契約して清流で飼ってもらっているだけあって、臭みのない淡白な味。添えられる野菜は季節によって変わるそうですが、これらの食材も醤油をかけて混ぜ合わせて食べてほしいと、またしても口中の調理を薦めます。コリコリした鯉、ツルリとした煮こごり、プチッと口で弾けるイワナの卵の食感、ラディッシュや水菜、野蒜など草や野菜のそれぞれ微妙に違う歯触りなど、異なる食感と異なる滋味が複雑に絡み合って、奥行きのあるお造りです。

炊合せ-海老芋・大根・堀川牛蒡・人参・壬生菜・紅葉麩

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 「ベジタブルボックスです」と笑顔で供されたのは、長方形の朱色の蓋物に盛られた〝炊合せ〟。とはいえ、料理店がするように具を別々に炊いて器に盛り合わせたものではなく、ふろふきの冬野菜。柚子味噌をつけ、またはそのまま食します。まさに、野菜そのものの味が分かる「草喰なかひがし」ならでは一品です。

ご飯-煮えばなご飯 普通のご飯 お焦げ。
漬物・万願寺唐辛子の炒り煮・干椎茸と唐辛子の葉の炒り煮・目刺し鰯

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お焦げの3種

 最後は、土鍋炊きご飯と「これがうちのメインディッシュ」という鰯の目刺し。ご飯はまだ少し芯の残る〝煮えばな〟と普通のご飯、そして土鍋にこびりついたお焦げの3種類の味が楽しめます。とりわけ、塩と山椒オイルをつけていただくお焦げは、香ばしさとパリパリした食感が懐かしいけれど新鮮な味。塩、目刺し、漬物など、素朴なおかずや調味料のありがたさにも気付く「草喰なかひがし」の真骨頂です。お腹だけでなく、心まで豊かに満たしてくれる見事なエンディングでした。 

「ごちそうさまでした」は、体の芯から、心の底から

 先付からご飯までをいただく間、時折中東氏は「この草は畦道に生えていて、この野菜はこういう人が育てて・・・」とか「この鉢は、クリスマスの景色に見立てて・・・」など、一皿ごとのお料理にまつわるお話を聞かせてくれます。その一言、一言から、農家の人々の営みや自然の景色を想像することができ、箸を口に運ぶ度に農家の人や自然への感謝の気持ちがジワジワと涌き出て、自ずとていねいに、残さずに食べ切ってしまいます。
 「ごちそうさまでした」と箸を置いて手を合わせると、「よろしゅうおあがり」と返ってきます。「よろしゅうおあがり」は、少し前まで京都の家々で普通に聞かれた言葉で、文字通り「よろしくめしあがりましたね」という意味ですが、中東氏は、
「私はもっと深い意味があると思う。目の前の食事をおいしく食べてよかったね、だけではなく、作った人にもそれを育てた自然にもありがとうございました、ごちそうさまでした、という気持ちをこめて残さずに食べたことが『よろしく』なのです」と。
 「草喰なかひがし」の料理は、口においしいだけでなく目に美しく、人や自然に寄り添う気持ちが涌き出る味。その爽やかな気持ちが心の底から「ごちそうさまでした」といえる料理で、氏の「よろしゅうおあがり」もまた、食してくれた人への深い感謝がこめられていました。
 この心まで豊かになったような満足感を味った人々の評判から同店が〝最も予約が取りにくい店〟といわれていますが、ぜひ、一度はご賞味いただきたい料理です。

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この記事を書いた人:株式会社グラフィック 京都いいとこマップ編集部

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