【私のお気に入りの京都】小説家 門井慶喜さん

京都ゆかりのあの人に聞く 私のお気に入りの京都 小説家 門井慶喜さん

京都には千年を超える歴史に培われ、伝統・文化・自然など「京都の奥深い魅力」が感じられるスポットがたくさんあります。京都にゆかりの深い方々にとっての名所、思い出の場所とはどんなところなのでしょう。様々なエピソードと共に、お気に入りスポットをご紹介いただきます。第一弾は、小説家 門井慶喜さんです。

小説家 ・推理作家 門井慶喜さん

【プロフィール】 群馬県生まれ、同志社大学文学部卒。2003年『キッドナッパーズ』でオール讀物推理小説新人賞を受賞し、デビュー。2018年『銀河鉄道の父』で直木三十五賞受賞。他、著作多数。

2023年春映画公開予定の『銀河鉄道の父』(講談社)/1012円(本体920円)

 

古本屋めぐりとともに思い出す“白雪チキンカツ”

中学時代から歴史が好きだったので、大学でも日本史を学びたいと考え、京都の同志社大学に進学しました。

1・2年生のときは京都府南部の京田辺市、後の2年間は京都市左京区の出町柳に下宿していました。3年生のころから始めたのが古本屋めぐり。寺町通や河原町通、京都大学かいわいの古本屋に足繁く通い、いつも何冊も買い込んでは読書三昧の日々を送っていました。中でも印象に残っているのが京都大学近くにある「吉岡書店」と「井上書店」です。文学全集から美術書、哲学書など、いずれも小さい店ながら品揃えは豊富で、いつも時間を忘れて掘り出し物を探しました。

 

そんな古本屋めぐりの帰りに必ずと言っていいほど立ち寄ったのが両書店の近くにある食堂「ハイライト」です。ハンバークや鶏の唐揚げなど、ボリューム満点の定食メニューが有名で、しかも安くてうまい。いつも学生でいっぱいでした。名物はチキンカツなのですが、中でもよく注文していたのが「ジャンボ白雪チキンカツ定食」です。白雪に見立てた大根おろしがたっぷりとのったチキンカツは皿が隠れるほど大きくて、腹一杯になれたのが嬉しかったですね。サクサクとしたカツの食感と鶏肉のうまみに、さっぱりとした大根おろしとポン酢の酸味が合う。古本屋めぐりとともに忘れられない思い出の味です。

ジャンボ白雪チキンカツ定食/ハイライト外観



京都の奥深さを知った詩仙堂

神社仏閣で印象に残っているのは「詩仙堂」ですね。僕は学生の時に3度も同寺を訪れています。

詩仙堂(紅葉イメージ)

最初は中学の修学旅行でした。詩仙堂は教科書や歴史書では知り得なかった世界で、特にお堂から眺めた庭の美しさ、静寂のひとときが心に残っています。2度目は高校の修学旅行のとき。そして3度目は大学時代でした。さすがに3度目ともなれば多少新鮮味も薄れるだろうと思って訪れたのですが、そこで改めて感動したのです。高校生までは目に映るものをただ美しいと眺めていただけでしたが、大学生になると創建者で文人の石川丈山に思いが及ぶようになりました。

詩仙堂(冬イメージ)

徳川家康の家臣だった丈山は武芸に優れ、関ヶ原の戦いにも参戦した、いわば歴史の表舞台にいた人。ところが50代できっぱりと隠棲の身となり、今の左京区一乗寺に草庵を結ぶ。それが詩仙堂です。58歳だった丈山は老齢にも関わらず1年をかけて同地で理想の終の棲家をつくりあげました。そんな背景に思いを巡らせながら改めて詩仙堂を見ると、そこかしこに丈山の喜びが息づいているようで、生気に満ちた美しさに包まれていました。二度、三度、繰り返し訪れてもその度にまた異なる感動がある。京都の奥深さも知った瞬間でした。

 

新旧の美しい融合、京都市京セラ美術館

京都には三条通や東華菜館など街のあちこちに多くの近代建築が残っています。古い建造物の改築というのは新旧のバランスを絶妙に保ちながら新しい価値を創造しなければなりません。これが大変難しいのですが、京都市京セラ美術館の新旧の融合は見事にそれを実現していると思います。

京都市京セラ美術館 / 撮影:来田猛

建物の素晴らしさはもちろんですが、東側に造られた庭園は出入り自由で、寛ぎの場として広く利用されていると同館の館長から伺い、そうした仕組みも含めて感銘を受けました。古い建物は日常的に利用されることで新たな価値が生まれてくるのだと思います。

京都市京セラ美術館 / 撮影:来田猛

古いものを残しながらいかに現代に合った建物にするかは全国どこの都市でも直面している問題ですが、それに対する非常に勇敢で、かつ美しい回答だと思います。

 

 

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ご紹介いただいた各スポット情報

吉岡書店

http://www.yoshiokasyoten.sakura.ne.jp

・井上書店

https://www.kosho.or.jp/abouts/?id=32020050

ハイライト食堂 百万遍店(本店)

https://hilite-kyoto.com

・詩仙堂丈山寺

https://ja.kyoto.travel/tourism/single01.php?category_id=7&tourism_id=515

・京都市京セラ美術館

https://ja.kyoto.travel/tourism/single01.php?category_id=11&tourism_id=343

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ライター:五島 望

写真:田口 葉子(1・3枚目)

 

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