京都市立芸術大学が京都駅東部エリアに移転
京都市立芸術大学は1880(明治13)年に日本初の公立の絵画専門学校として開設された「京都府画学校」を母体とする芸術大学です。京都に培われた美の伝統を背景に、美術と音楽を両軸としてたくさんの優れたアーティストを輩出してきました。
竹内栖鳳、堂本印象、富本憲吉、小野竹喬、草間彌生、佐渡裕、阪哲朗、上村昇、菅英三子など著名な芸術家が卒業生です。
2023年10月、京都市西京区から京都駅東部エリアに移転しました。3つの地区に10棟の建物が配置される新しいキャンパスには鴨川と高瀬川が面し、京都の玄関口である京都駅から徒歩6分という好アクセスの立地です。
オーケストラやオペラ、アンサンブルなど多様な編成の演奏会に対応できる2つの音楽ホールや、金属や木材などさまざまな素材の加工が可能な「ワークショップ」も整備され、学生が力を発揮しやすい環境が整えられています。
学長様インタビュー
京都市立芸術大学の移転について、学長の赤松玉女さんにお伺いいたしました。
そもそも、京都市立芸術大学はなぜ移転することになったんでしょうか?
赤松「京都市立芸術大学は、1980年に京都市西京区の沓掛(くつかけ)に移転し、初めて美術学部と音楽学部が同じキャンパスで活動するようになりました。それから43年が経ち、その間に大学院や日本伝統音楽研究センター、芸術資源研究センターなどができ、総合的に芸術を学べる環境が整いました。
しかし沓掛キャンパスの建設当時はまだバリアフリーが公共施設でも必要であるという認識が社会に浸透していなかったため、その対応ができていなかったほか、40年以上が経過する中で施設・設備の老朽化や狭隘化、建物の耐震性の問題などが顕在化してきました。
本学では、美術学部・美術研究科の学生がキャンパス内で作品を展示する「作品展」を開催していますが、作品を展示し、一般のお客様にお越しいただくのにふさわしい環境にはなっていないなという実感がありましたね。
そんな中で、学内で検討した結果、京都駅東部エリアの崇仁(すうじん)という地域が移転場所の候補として望ましいという結論になり、京都市に対して移転の要望書を提出することになりました。交通至便の土地であるということももちろんですけれども、歴史のある地域ですよね。そこに若いアーティストを育てる教育機関がある、私たちがそこに行って地域と一緒に新しい歴史を作っていくということに、みんなが共感できる部分があったんですね。」
この移転によってどういう変化やメリットがありそうでしょうか?
赤松「夏休み期間中に引っ越しを行い、2023年10月1日に移転オープニングセレモニーを開催して翌2日から授業を開始し、11月4日からは『芸大祭』を開催しました。これまで学生は夏休みに芸大祭の準備をしていましたが、引っ越し作業でそれができない中、なんと移転後から3週間でやってくれたんです。学生たちは、昨年対面での開催が復活した芸大祭を今年も新キャンパスでやるんだと頑張ってくれました。
3日目が雨だったにもかかわらず、去年までの2倍以上の方が来場されました。もちろん新しい校舎だから見てみたいという方もいらっしゃったと思いますが、たくさんの人に学生の活動に触れていただける機会になりました。また、11月2日には、新しいホールで杮(こけら)落としの演奏会を行ったんですが、申込受付開始後1日目で定員を超える応募があり、最終的に倍率が約10倍にもなりました。アクセスのよい立地の有難さを実感しています。」
多くの方が京都市立芸術大学に興味を持たれてるんですね。学生にとっては発信しやすい環境になったということですね。学生たちは移転についてどう思っているんでしょうか?
赤松「沓掛の時から地域に開かれた大学を目指していたのですが、反響の大きさにおいて、やっぱり街中はすごいなと思っています。地域の人たちとつながっていくんだ、という大学全体のポリシーみたいなものが、今回の移転で学生たちにも浸透したように思います。芸大祭にしてもこの機会に多くの地域の人に来てほしいということを実行委員が言ってくれましたし、それ以前にも学生たちが自主的な活動として地域でワークショップを行った事例もありました。
新しいところに移り、自分たちが一歩目を踏み出すんだというような気持ちもあって、本当に千載一遇のチャンスが自分たちの学生時代に来たということで楽しんでくれているんじゃないかな、と感じます。
移転前は敷地が狭くなることや、住居の問題など、いろいろな不安があったと聞いています。新しい校舎に来て、たくさんの学生たちに聞いたんですが今は本当に前向きな意見が多いですね。学内のところどころに共有スペース、テラスがあるんですが、そこがほっこりできる場所になっているみたいです。また、学部や専攻の垣根を越えて他学部・他専攻の教員たちと出会うこともできる横断的な場になっているようです。」
今後イベントなどがあれば参加してみたいのですが、市民や観光客は学校とどのように関わらせてもらうことができるんでしょうか?
赤松「『ギャラリー@KCUA(ギャラリーアクア)』では2023年12月16日から移転後初めての展覧会が始まります。ふらりと立ち寄られた方も鑑賞していただけますよ。そしてそのすぐ横に『芸術資料館』があるのですが、京都市立芸術大学の143年間の歴史を受け継いでおり、例えば画学校時代の教員の絵手本だとか、学生の卒業作品のコレクションがありますので、その中から企画展示をやっていきます。2024年4月から展示を始める予定です。
音楽学部では、『堀場信吉記念ホール』で成績優秀者が出演する卒業演奏会やその他のコンサートを開催していきますので、ぜひ足をお運びいただきたいです。『日本伝統音楽研究センター』では、定期的にセミナーを開催していますし、『芸術資源研究センター』のすぐそばにある『カフェコモンズ』では学生たちも交えて研究が行われていて、様子を見ていただくことができますので、ぜひ寄っていただけたらなと思っています。
『伊藤記念図書館』は京都市内在住または通勤されている方のみのご利用になるのですが、美術工芸、デザイン、建築、写真、音楽に関する書籍や資料などを中心にして14万冊の蔵書があります。
『崇仁テラス』は、交流広場としてのオープンスペースですが、地域の方々とお祭りの時に一緒に何かできたらいいなと思っております。『学食』も整備を進めておりますので、ぜひお茶を飲んだり、ご飯を食べに来てください。
忘れてはいけないのは敷地内にある『柳原銀行記念資料館』です。展示もされていますのでぜひ見学していってください。この間も修学旅行生が見学後に、建物の前で記念写真を撮っていたんですが、そんな光景もいいなと思いました。」
柳原銀行記念資料館
開館時間:午前10時~午後4時30分
閉館日:月曜日、火曜日、祝日・振替休日(国民の休日)。12月29日~1月3日)展示替えの日。
入館料:無 料
市民や観光客が学内施設を訪問することにあたって注意点などありますか?
赤松「開かれた大学でありながら学生や教職員・大学関係者のプライバシーやセキュリティ、教育・研究のための静かな環境は守らなければなりません。
学生たちは作品の制作にあたって、コンセプトを考えたり、資料を読んでイメージを膨らましたりします。音楽学部の学生たちの日々の練習でも同じですが、技術を磨く時間と空間は大事ですし、それを学生たちは大学に求めていますので、その点はご理解いただけたらと思います。
作品展などで学校が開かれているときはぜひどんどん入ってきていただき、逆に立ち入り禁止のときには学生を温かく見守っていただければと思います。それはどちらも大切な応援の形だと思うんですね。展覧会や演奏会などの機会には積極的に関わっていただけると嬉しいです。」
京都市立芸術大学は「テラスのような大学」「開かれた大学」というコンセプトを大事にされているんですね。
赤松「『テラスのような大学』は私たちの目指す新たな大学像です。テラスは外に向かって開かれ、地面から少し浮いている場所です。また、開かれた大学とよく言っていますが、さまざまな人に作品を見ていただくアーティストや、演奏を聞いていただく音楽家たちを育てているという特殊性が既に外に開かれていると思うんですね。
社会に自らの表現を届けて初めて表現者と言えますので、その経験を繰り返す必要があります。だから、自分の発想だけで終わってはダメで、作品や演奏を、それがどういうふうに伝わるかを自分で体験することを通して磨いていってもらいたいと思います。」
貴重なお話をいただき有難うございます。
アクセスの良い京都駅周辺に移転となったことで、市民だけでなく市外から京都に来られた際にも、京都観光の合間にぜひギャラリーや展覧会・コンサートに足をお運びくださいね。
京都市立芸術大学が近々開催するイベント
久門剛史「Dear Future Person,」
会期:12月16日(土)~2月18日(日)
場所:京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA
2023年度 京都市立芸術大学作品展
会期:2月7日(水)~2月11日(日)
場所:京都市立芸術大学
最新情報は、公式HPよりご確認ください。
-
記事を書いた人:Kyoto Love.Kyoto
-
京都の街、そして京都にかかわる人たちの役に立ちたい。そんな想いを原点に、人と人、人と地域との交流のなかで見つけた物語をまちかどの語り部たちが発信しています。智恵の循環が紡ぎ出す、京都人でもよく知らない京都、そして深遠なる京都の魅力を伝えていきます。
Kyoto love Kyoto.