【京都観光のいま】 地域と海外の架け橋に。もてなしの心に根ざした多様性への質の高いサービスを~京都嵐山 良彌~

京都随一の観光地として知られる嵐山は海外から訪れる人が多いエリア。この地で80年余にわたって暖簾を掲げる「京都嵐山 良彌(よしや)」では、イスラム教徒の人々に対応したハラール食やヴィーガン料理などにも積極的に取り組んでいます。京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」にも選ばれ、海外と地元の中学生たちの交流で橋渡し役になるなど、地域への貢献と多様性に応えるサービスについてお話を聞きました。

観光でにぎわう嵐山で、人と人、人と地域をつないで

一年を通して観光客が途絶えることがない嵐山・渡月橋。そのたもとで戦後まもなく創業した「京都嵐山 良彌」は、伝統的な和食から精進料理、気軽に味わえるダイニングや路面店、土産物店などを展開しています。すべての席から嵐山の風景を一望できる「レストラン嵐野亭」ではオープンキッチンで和牛の鉄板焼きや天ぷらを調理するようすを五感で楽しむことができるほか、豆腐や湯葉などを使った京都嵯峨ならではの料理が味わえる「奥の庭」では、和モダンなテーブル席やテラス席、離れの座敷や広い宴会場などが用意され、さまざまな観光と食のニーズに応えています。

近江牛すきやき重御膳

海外からの観光客が増えるなか、従来の和食をベースとしながらハラール食やヴィーガン料理、アレルゲンフリー食など多様なリクエストに対応し、その充実したサービスが人気を呼んでいます。海外からの修学旅行生もいち早く受け入れてきたなかで代表取締役副社長を務める佃幸千代さんは、あるときその旅程に日本の文化や環境課題などについて学ぶ機会が多く盛り込まれていることに気づきます。「これだけ多くの子どもたちが京都を訪れ何かを学んで帰ろうとしているのなら、京都の子どもたちにとっても海外の文化を知る良い機会になるのでは」と考え、地元と海外の中学校の交流を仲介。先生方の積極的な取り組みもあり、2018年からはお互いの伝統文化の紹介やスポーツでの交流がスタートし、同店からもハラール食のコロッケなどを提供することで、食を通して宗教理解を深める手伝いも続けています。


また、海外から同店を訪れる観光客にとって安心材料の一つになっているのが外国人スタッフの登用です。サービス担当のハスナ アウサフィナ ナビラさん(写真右)は中学生の交流会でも通訳を務めており、ほかにも留学生として京都を訪れていた際に、同店が主催する交流会に参加したことをきっかけに「ここで働きたい!」と手を挙げたというスタッフもいるのだとか。春からはさらに2名の留学生の採用も決まっています。また、それを差配するレストランマネージャーでトルコ出身のエキンジ トゥルグットゥさん(写真左)は20年以上にわたって同店の東京支店(現在は閉店)や京都店舗で接客を担ってきたサービスのエキスパートでもあります。

食から考える「ダイバーシティ」と受け継いできたもてなしの心

同店がハラール食に取り組むことになったのは、佃さんの親しい友人がイスラム教徒だったことが始まりでした。自らの店へぜひ招待したいという思いから、総料理長の山口晋司さんにハラール食について勉強してもらい料理を工夫して提供したところ、友人にとても喜ばれ「ほかにも安心して和食が食べられる店を探している人はたくさんいる。ぜひ紹介したい!」といわれたことがきっかけになったといいます。

ただ、ハラール食を正しく理解し、メニュー化するには越えなければならない関門がいくつもあり、「精進料理などの長年の経験が生かせた点もありましたが、ハラールでは出汁や食材はもちろん、器や調理器具、収納、冷蔵庫、搬入場所などについても細かく気を配る必要があります」と山口さん。当初は食材などのロスも多く、スタッフみんなでまかないとして食べる日が続いたといいますが、店頭で料理内容についてわかりやすく表示したことで安心して食べてもらえるようになり、口コミで人気が広まっていきました。山口さんは「いちばん大変なのは調理の手間ではなく、手間をかけることの重要性を知ることと、多様性への理解をスタッフの間でしっかり共有すること」と話してくれました。

HALALピリ唐せいろ御飯風月湯豆腐鍋

ハラール食をはじめ、ベジタリアンの人やアレルギーをもつ人に対応し、食のダイバーシティをめざして工夫を重ねていくなかで、その取り組みを知った右京区役所の職員からハラール認証制度があることを教えられ認証を取得。また店内に礼拝堂も設置しました。なかを見て驚いたのは礼拝堂が和のしつらえになっていること。「テレビで水に濡れても大丈夫な畳を見たとき、これだ!と思い早速取り入れました(笑)。せっかく遠路訪れてくださるのですから、礼拝室も嵐山ならではの空間にしたいと思って」と佃さんのサービス精神は店内のあらゆるところに反映されています。

礼拝室

アイデアを出し合い、一人ひとりに寄り添うサービスを

観光客にとって食事処は行動の拠点になるということもあり、1970年代ごろからオリジナルの散策マップを作って配布しています。よく質問されるポイントや迷いがちな箇所を簡潔にわかりやすく示した地図は、長年にわたり地元の観光振興にひと役買ってきました。さらに近年では、営業部課長の桂悦子さんが中心となって、二次元コード等を用いたデジタルでのマップの提供も進めています。これは時代のニーズに応えるというだけでなく、観光地におけるゴミ問題を視野に入れた対策の一つとして取り組みを行っているといいます。


良い人材に恵まれ、またスタッフそれぞれの個性を生かしたサービスで業績を伸ばしてきた同店ですが、近年には幾度かの危機にも直面しました。2013年の桂川の氾濫では嵐山一帯が大きな被害を受けるなか、同店も床上浸水に遭いました。夜も明けない真っ暗ななか、押し寄せる水を防ごうと土嚢を積んでいると、「一人、また一人とスタッフやOBがやってきてくれて…。みんなが一丸となって店を守った夜のことは忘れられません」と佃さんは振り返ります。この洪水を機に地域団体の必要性を感じ、「東嵐会」を発足させ地域の方々に参加を呼びかけました。今では、河川敷の清掃活動などをみんなで行っています。

飲食業が大打撃を受けたコロナ禍では、雇用が継続できるよう休業期間中も店舗の清掃や営繕、植栽の増設などに人員を配置したほか、再開後は感染対策を徹底して営業に力を入れ、テイクアウト専用の店舗やネットでの弁当販売も 始めました。「コロナ禍を経て、観光客のみなさんが戻ってきてくださったことをいましみじみとありがたく感じ、スタッフ一同が感謝の思いを新たにしてお一人お一人のお客様に向き合えているように思います。オーバーツーリズムが課題になっている面もありますが、そのすべてが悪いことではなく、問題を一つひとつ丁寧に検証し、対応していくことが大切なのではないでしょうか」と佃さん。
 
日々、たくさんの観光客を迎えるなかでは、ともすれば対応に追われるばかりになりがちですが、一人ひとりに対して顔が見えるサービスを心掛け、食事を残す人がいれば何がダメだったかを聞き取って改善につなげるなど、サービス向上への試みを繰り返してきました。お客様の声から生まれたメニューも数多く、海外からの観光客に対しても「日本を楽しんでいただくこと」を念頭に、各国の食文化にあわせて親しみやすいよう和食にスパイスを用いることもあるとか。きめ細やかで多様なサービスとは何かを常に問い続けているといいます。
 
スタッフから上がってきたアイデアもすぐにサービスに転嫁していますが、とくに勉強会などは設けていないと桂さん。「あえていえば雑談がアイデアの種になっているかもしれません」と話し、佃さんも「お客様の言動をヒントにするのはもちろん、テレビやまちなか、旅先で観たこと、聞いたことなど“業務連絡ではない”話題をみんなで話していることが多いかも」と笑います。そうして醸し出される風通しの良い雰囲気と信頼関係が、顧客に寄り添う心のこもったサービスを生み出してきたといえそうです。

■リンク 

◇【京都観光モラル】優良事例集
◇京都嵐山 良彌公式HP

記事を書いた人:上田 ふみこ

ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。

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