【Street Guide】大徳寺通-溝上良子さん(木印)

エリアごとに独特の文化や歴史が色づく街、京都。たくさんのガイドブックがこの地の魅力を語っていますが、それが全てではありません。旅を忘れられないものにする、驚きや発見。その地を自分の足で巡り歩いた人だけが見つけられる、知られざるスポットがまだまだあります。

※Street Guideシリーズは、外国人観光客向け京都観光オフィシャルサイト「Kyoto City Official Travel Guide」にも掲載しています。

https://kyoto.travel/en/street/index.html

 

京都の市街地の北西部、北山通の賀茂川より西側を中心としたエリアは、古くから住宅地として発展し、「紫竹(しちく)」と呼ばれ地元の人々に親しまれてきました。今回ご紹介するのは、その紫竹エリアを縦に走る大徳寺通と大宮通り。繁華街や観光名所からは少し離れた場所にありながら、古くからの商店街と新しく感度の高いお店が共存する、今注目を集めるエリアです。このエリアで暮らしながら家具と雑貨のお店「木印」を営む溝上さんに、実際に歩きながら街を案内してもらいました。

案内人:溝上良子(みぞかみ・りょうこ)

お店の名前「木印」は、家具職人である溝上さんの夫・吉郎さんがデザインと制作を行う家具ブランドの名前でもあります。最初は上賀茂(京都)の自宅をショールームとして予約制で開放し、実際に使っている木印の家具をお客さんに見てもらっていたそうですが、より多くの人に気軽に立ち寄ってもらえる場所を作りたいと、2015年にお店をオープンしました。「家具だけだと簡素で生活感がないので、より日常に近い形で家具を見てもらえるようにと雑貨も置くことにしました」と溝上さん。シェーカー家具を思わせる機能性を追求した美しい家具と、家具に馴染む上質な雑貨や衣類が並ぶお店には、国内外から様々なお客さんが訪れます。

もともと京都の雑貨店で働いていた溝上さんは、お店で雑貨のセレクトを主に担当しながら、吉郎さんと共に木印の家具の魅力を発信しています。「シンプルで流行り廃りがなく長く使えるものが好き」と話す溝上さんは、昔ながらの街並みが色濃く残る紫竹エリアをどんな感性で見ているのでしょうか?

木印の家具と溝上さんがセレクトした雑貨が並ぶ店内

紫竹エリアの特徴

久我神社

新大宮商店街

大徳寺

「お店の向かいにある久我神社は昔『大宮』と呼ばれていました。境内も昔はもっと大きく、大宮交通公園までこのあたり一帯が『大宮の森』という森だったそうです。だから今も神社や公園に大きな木が残っていたりしますよ」と溝上さんが想像力をかき立てられるストーリーを語ってくれました。この久我神社を中心として栄えてきたのが紫竹エリア。昔ながらの商店街が今もしっかりと生活を支え、一方でセンスのいい新しいお店も点在し、のんびりとしていながらモダンな空気が漂う、京都の中でも独特な雰囲気を持つエリアです。

エリアの北の端には、1591年、時の権力者・豊臣秀吉によって、外敵の来襲に備えるとともに、鴨川の氾濫から市街を守るために建設された土塁「御土居(おどい)」の跡が残っています。また、南の端には大徳寺という日本最大級の禅寺もあります。日本の昔話の主人公として有名な一休宗純禅師や、茶の湯を大成させた千利休とも縁の深いお寺です。歴史の痕跡を残しながらも進化を続けるこのエリア。ここを生活の場としている溝上さんからどんなお話が聞けるのか、期待に胸を膨らませながら出発します。

継承と更新がつくる豊かな街並み  

木印店舗外観。写真右側に大徳寺通、左側に大宮通が走る

お店の向かいにある久我神社でシャッターを切る溝上さん

お店の前からスタートして南にくだっていきますが、まず立ち寄ったのはすぐ向かいにある久我神社。手を清めるための水場にあしらわれた龍の装飾を見て、「龍が棲むといわれている上賀茂神社と関係が深いからなのかもしれないですね。上賀茂神社のシンボルになっている双葉葵もいろんなところに植えてあります」と溝上さん。「歴史にはあまり詳しくなくて」とおっしゃっていましたが、お話していると身近に触れるものの背後にあるストーリーへのリスペクトを感じます。

久我神社を左手に、大徳寺通を南へ進みます。昔ながらの町家が多く残る住宅街を歩きながらカメラのシャッターを切る溝上さん。「古い町家の窓の格子とか、石垣についた苔とか、年月を経た時間の積み重なりを感じられるものに目が行きますね」という言葉は、木印のモットーである「未来のヴィンテージ」にも通じます。10年、20年で使えなくなるものではなく、もっと長いスパンで使い続けられるものとはどんなものかを考え抜き、「究極のシンプルを追求している」と言います。それは家具づくりや商品のセレクトのポリシーであるとともに、溝上さん自身が普段の生活で使う道具を選ぶ時にも大事にしていることだそう。

住宅街の中に古い町家を利用したお店が点在する

10分ほど歩くと、大徳寺の敷地を囲む石垣が見えてきます。石垣の上に生い茂る大きな木を見て、「お寺や神社の前の道路の落ち葉は、近所に住んでいる方が掃除していることに気づいたんです」と溝上さんが教えてくれました。「行事やお祭りも盛んだけど、それだけではなくて普段から自然にお寺や神社のことを大事にしているんだなっていうのが伝わってきますね」。このお話を聞いて、年月を経て残る古いものへの敬意を住民ひとりひとりが持っていることが、古いものと新しいものが見事に調和するこの街並みを育んでいるのだと気づきました。それは同時に、今ある街並みも次代へと継承されていくものなのだという視点を持つことでもあります。だからこそ、時代や受け継ぐ人の感性を取り入れ更新していくことも大切にすることができる。そんな継承と更新のマインドがこの街を豊かにしているのだと感じます。「未来のヴィンテージ」をモットーとする木印が「どこにでも合うシンプルな家具」に行き着いたのも、このマインドを持っているから。ただ継承するだけでなく、受け継いだ人がそれぞれの時代や個性に合わせて使い方を更新していくことを想定し、そのための余白を残すこと。それがシンプルであるということなのかもしれません。

大徳寺の入り口が見えてくると、「大徳寺納豆ってご存知ですか?」と溝上さん。「大豆を発酵させて乾燥させたもので、しょっぱくて少し酸味もあります。とても栄養があるので、大徳寺の僧侶たちが薬やサプリメントのように使っていたそうです」。大徳寺納豆を知った時、栄養素についても自分で調べてみたとのこと。古くから伝わるものへの興味や探究心がお話の端々に表れていました。

大徳寺納豆は大徳寺近くの土産物屋で買うことができる

信頼できる間違いないお店で買い物

商店街の砂糖・雑穀屋。古くから営まれる個人商店が今も生活を支える

量り売りで売られている金時豆

大徳寺の前で東へ曲がり、次は大徳寺通のすぐとなりを平行に走る大宮通を北へ進みます。静かな住宅街だった大徳寺通とは大きく雰囲気が変わり、大宮通沿いは多くのお店が並ぶ「新大宮商店街」となっています。八百屋、果物屋、肉屋など個人経営の昔ながらの商店が集まっています。

「買い物はほとんどスーパーではなく個人経営のお店でしています。例えば果物。スーパーで買ったら美味しくないものもあったりしますけど、商店街には『ここの果物屋さんで買えば間違いない』って信頼できるお店がある。地元でとれた食材を買えるのも嬉しいですね」という溝上さんのお話からは、生活に使う道具と同じように、食にも確固たるこだわりを持っていることが伝わってきます。

「このあたりはお店が多いので、働いている方が休憩に立ち寄る喫茶店が昔から多くて、コーヒー文化が根付いています」という溝上さんの言葉どおり、通りには喫茶店や、コーヒー豆の焙煎と販売を行う店がいくつもありました。「古いお店だけではなくて、若い人が新しいお店を出すことも多くて、『またコーヒー屋さんできたの?』ってびっくりするくらい」と溝上さんは笑います。商店街には「新大宮広場」という施設もあり、本格的にお店を出す前の若い人が期間限定でお店をオープンしたり、フリーマーケットなどのイベントを開催したりしているそう。大型店の増加などにより、活気を失う商店街が増えている昨今。でもこの新大宮商店街は、ベテランの店が住民の生活を支えている安心感から生まれる落ち着いた空気と、新しい店が送り込む新鮮で溌剌とした空気がちょうどよく混ざり合う、まさに「生きている」商店街だと思いました。

コーヒー豆の焙煎・販売を行うお店

商店街の若い人たちの活動拠点になっている新大宮広場

「華やかに栄えているわけではないけれど、十分生活はできる。街すぎず田舎すぎず、ちょうどいい具合にのんびりしたこのエリアで生活していたら、がやがやした街に出かけたいとは思わなくなりました。コロナの影響もあって特に大きな街には出なくなりましたが、『これでいいやん』って思えます」と穏やかに語る溝上さん。紫竹エリアでのゆったりした暮らしには、これからの未来を生きるヒントも隠されているのかもしれません。

溝上さんの目線で切り取られた紫竹エリア 

ライター:新原なりか
写真:岡安いつ美
取材:2020年7月

記事を書いた人:ANTENNA

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