後世に残したいまちかど遺産! 京都の旅のシメはレトロな銭湯へ

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長者湯

京都の街を歩くと、昔ながらの銭湯をあちこちで見つけることができます。地元の人の憩いの場として愛され続ける銭湯ですが、最近は若い人たちの注目度も上がっており、観光の一つとして楽しむ旅行者も増えています。

そこで今回は、京都の銭湯の歴史や、その特徴、楽しみ方のポイントなどを『京都極楽銭湯読本』などの著書をもつフリーライター・林宏樹さんにお聞きしました。

1. 京都の銭湯事情とその歴史について

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長者湯

――ここ数年、昔ながらの銭湯の人気が高まっています。京都の町でも昔ながらの銭湯をあちこちで見かけますが、どのぐらいの数があるのでしょうか?

林さん:現在、京都市内には100軒ぐらいの銭湯があります。大阪市内だと約200軒、大阪府下も含めると300数十軒もあります。ちなみに東京だと大阪よりたくさんの銭湯が残っていますよ。

全国的にみると、銭湯が残っているのは東京、大阪、京都といった大都市です。もはや銭湯は都市文化の一つで、郊外に行くといわゆる町の銭湯というものはほとんどないですね。京都市内に100軒あるのに対して、市内を除く京都府下には10軒ほどしかないんですよ。

ちなみに、昭和40年(1965年)頃のピークには、京都市内だけで500軒の銭湯がありました。それ以降は新しい銭湯はほぼできていませんね。そのころからの減少率を見ると、全国では1/9ぐらいになっているのに対して、京都市は1/5程度ですので、歴史のある銭湯が残っている町といえるかもしれません。

――銭湯はいつ頃どのような理由で減少したのでしょうか?

林さん:かつては総務省が5年に1回、家に浴室がある割合を調査していました。昭和40年代までは、半数以上の家に風呂がなかったので、銭湯に行くのが普通の生活でした。昭和40年代を境に「家にお風呂がある」生活がスタンダードになったのが、銭湯が減った一番の理由ですね。

2. 銭湯文化の東西比較! 京都ならではの特徴とは

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長者湯

――関東と関西など、地域による違いや特徴はありますか?

林さん:「銭湯」というと、高い煙突があって、お寺みたいな大きな建物で、浴室には富士山のペンキ絵があって…みたいなイメージをもつ方が多いと思いますが、実はこの富士山のペンキ絵というのは、東京の銭湯の特徴の一つなのです。東京の神田にあった「キカイ湯」という銭湯で最初に描かれたという話があって、その後広まっていったといわれています。

私も、“銭湯といえば富士山”というイメージをもっていました。「京都に富士山のペンキ絵はないのかな?」と思って探し始めたのが、銭湯巡りのきっかけです。

実際、京都にはペンキ絵の富士山が描かれた銭湯は1軒もありません。最近になって、東京からペンキ絵師を呼んで描かれた絵とか、学生さんが描いた絵はありますが、いわゆる昔ながらの富士山、というのはないんですよ。

また、これは大阪の特徴ですが、昔からある大阪の銭湯の浴槽はほとんど御影石で、浴槽の外側に腰かけ段が付いているのが特徴です。カランのない時代は浴槽から湯を直接汲んで体を洗っていました。カランの普及後も、大阪では腰かけ段に座り、浴槽からお湯を汲みだして体を洗う習慣が残ったため、小ぶりな桶の方が使いやすかったことから、有名なケロリン桶は東西で大きさが違っていて、関西はひと回り小さく作られているんですよ。

――関西のなかでも、京都ならではの特徴があれば教えてください。

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長者湯

林さん:京都の特徴といえば、なんといっても水質の良さですね。京都は、塩素臭さを感じる銭湯というのがほとんどありません。この理由は地下水。京都の銭湯は統計的に8割以上が井戸を持っていて、浴槽のお湯に地下水が使われています。

多くの水風呂では井戸水を濾過せず直接かけ流しにされているので、塩素も何も入っていない素の地下水を感じることができるんです。そして水風呂といえばサウナですが、京都はサウナが無料という点もめずらしいですね。東京や大阪は有料のところが多いのですが、京都市内のサウナがある銭湯は、ほとんど無料で利用することができます。

また、京都の銭湯は昔のままの建物で営業されているところが多いのも特徴のひとつ。町家のような木造のお風呂屋さんが多いですね。

京都は戦災をあまり受けなかったので、戦前からの建物がたくさん残っています。ほかの地域だと、鉄筋コンクリートのビル型の銭湯も増えていていますし、建て替わっているものも多いですが、京都は部分的な改装をしていても、元は戦前の建物というところもたくさんあります。さらに京都は地割もほとんど変わっていないので、建て替えたとしても同じ場所で営業されているので、昔と変わらない小ぢんまりとしたところが多いです。

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錦湯(2022年閉業)

林さん:脱衣カゴの使い方も特徴のひとつですね。四角い脱衣カゴに着替えや荷物を入れて、ロッカーにそのままカゴごと収納するのは、京都だけに残る習慣です。これは私の想像ですが、大阪や東京に比べると、京都の銭湯は規模が小さく脱衣所も狭い。スムーズに着替えるためには、カゴごと空いているスペースに移動する必要があったからではないかと考えています。

昔の脱衣カゴは多くが柳行李(やなぎごうり)だったのですが、今は生産者も希少となりほぼ使われていません。そんななかで中京区の錦湯(2022年閉業)さんや上京区の長者湯さんは今も柳行李を使われていて、そんなレトロ情緒が味わえるのも京都の銭湯を楽しむ醍醐味です。

3. 観光客が銭湯を利用するための気になるあれこれ

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錦湯(2022年閉業)

――旅行者が利用するにあたって、便利な情報があれば教えてください。

林さん:京都市内では、週末に朝風呂をやっている銭湯がいくつかありますね。高速バスで京都駅に到着して、京都駅から歩いていける銭湯へその足で向かう方もいるみたいですよ。京都府公衆浴場組合の公式サイトを見れば、エリア検索のほか、午前営業(朝風呂)やサウナの有無などの条件検索もできるので、チェックしてみてください。

また、シャンプーや石鹸はたいていミニサイズのものを販売していますし、貸しタオルがあるところがほとんどですので、手ぶらで行っても大丈夫です。最近は、グッズとしてオリジナルのロゴ入りのタオルを販売されている銭湯も増えているので、タオルを入浴記念のおみやげにするのもおすすめですよ。

――京都の銭湯の最近の特徴や傾向などはありますか?

林さん:少しずつですが、30~40代の経営者の方が増えてきていますね。歴史ある銭湯を再生させたり、若い方が代替わりされたり。このほかにも、長者湯さんではマルシェをしたり、中京区の玉の湯さんでは毎年12月~3月頃にイルミネーションを行ったり、お風呂以外の新たな取り組みをされている銭湯も増えてきています。

また最近は、SNSを活用している銭湯も多くて、京都でもTwitterを始めた銭湯が増えていますね。お風呂以外の取り組みも含め、みなさん個性豊かなので、そういった情報をチェックして、面白そうだなと感じるところに行ってみるのもいいですね。

――地元に根付いた町の銭湯を観光客が利用することに、ハードルの高さを感じる人もいるようですが…。

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長者湯

林さん:京都に限らず、町の銭湯ってその銭湯ごとにコミュニティがありますよね。「この時間のこのカランは〇〇さん」って決まっているとか、そういう話を耳にすることもありますが、気にしなくてもいいと思います。いろいろ気になる方もいらっしゃると思いますけど、初めてならそんなこと知らないわけなので、「日常の空間におじゃまします」という気持ちがあれば充分です。

銭湯としても、観光客の方に対してウェルカムなところも増えてきていますし、あまり構えずにぜひ気軽に利用してみてください。「Twitterを見て来ました」と言われたら銭湯の方もうれしいと思いますし、それをきっかけに銭湯の方やお客さんと話が盛り上がることもあるかも。私も、地方の銭湯に行ったときは、「おいしくて安いお店ありますか?」とか聞いたりもしますね。

4. 林さんが感じる銭湯の魅力とおすすめポイント

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長者湯

――銭湯を利用するときは、どんなところをチェックされますか?

林さん:どこの銭湯も必ずいいところはあるので、自分なりの気に入ったポイントを探しますね。ほんとに何気ない「カランから出る水が冷たくて心地いいな」ぐらいのことでもいいんです。

銭湯のタイルを見るのも好きなので、タイルの使い方がおもしろいところや、珍しいタイルを使っているところは注目します。いろいろ見ていると、「ここの銭湯のタイルはあそこの銭湯と同じ業者さんやな」とか気付いたりするんですよ。

あと、時間帯や地域によって銭湯の雰囲気が全然違うのもおもしろいですね。早い時間だとお年寄りばっかりとか、京大の近くの銭湯は学生さんが多いとか、そういう違いを感じるのもの銭湯の楽しみの一つですね。

――銭湯を利用するおすすめの時間帯はありますか?

林さん:夕食時は空いていることが多いので、混雑を避けたいなら夕食時がおすすめです。あとは、陽が高い時間の入浴はゆったりした気分になれるので、そういう時間帯もおすすめです。ちょっとしたことですが、非日常感を味わえますよ。

――ずばり、銭湯の一番の魅力とは?

林さん:一番いいところは、シンプルですが、お風呂に入ると体も心もほぐれるところです。私は一人静かにお風呂に入って、リフレッシュできれば充分というタイプで、正直いうと、地元の人とのふれあいを積極的に求めて銭湯に行くわけではないんです。

でもそれは人それぞれで、コミュニケーションを求めて行かれてももちろんいいと思いますし、自分と銭湯の心地いい距離感みたいなものが見つかれば、それがベストですよね。「ここを楽しんで!」みたいなことは全然なく、自分なりの楽しみ方やお気に入りの銭湯を探してもらうのが一番だと思いますよ。

京都府公衆浴場組合 公式サイト  https://1010.kyoto/

錦湯(2022年閉業)
住所:京都市中京区堺町通錦小路下ル八百屋町53
アクセス:地下鉄烏丸線「四条」駅から徒歩5分
電話:075-221-6479

長者湯
住所:京都市上京区上長者町通松屋町西入ル須浜東町450
アクセス:市バス「大宮中立売」から徒歩2分
電話:075-441-1223

玉の湯
住所:京都市中京区押小路通御幸町西入ル亀屋町401
アクセス:地下鉄東西線「京都市役所前」駅から徒歩2分
電話:075-231-2985

※取材・編集:JTBパブリッシング

取材をした人:林 宏樹(はやし ひろき)

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フリーライター。1969年京都市生まれ。「富士山のペンキ絵が京都にはないのか?」という疑問から銭湯巡りにはまる。著書に『京都極楽銭湯案内』『京都極楽銭湯読本』(淡交社)など。2021年4月には、おしどり浴場組合の一員として『銭湯 文化的大解剖!』(神戸新聞総合出版センター)上梓。
Twitterアカウントhttps://twitter.com/kyoto_sentolove

この記事を書いた人:るるぶ編集部

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全国各地の「見る」「食べる」「遊ぶ」を徹底的にガイドした旅行情報誌『るるぶ』の編集部です。神社仏閣やグルメ、おみやげ、話題のニュースポットなど、京都のお出かけにかかせない情報を幅広く網羅。旅行者はもちろん、地元の方にも役立つ情報を日々チェック!

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