庭師が語る、京都の紅葉が人を惹きつけるワケ。 ~全部で256通り!?様々な表情の紅葉を見に行こう~

日本のみならず、世界各地からの観光客を魅了する京都の紅葉。それぞれのスポットごとに異なる趣があり、夜の幻想的なライトアップも素晴らしいですよね。全国各地に紅葉の美しいスポットはありますが、京都の紅葉はどうしてここまで多くの人を惹きつけ、また来たいと思わせるのでしょうか?

そこで今回は、江戸時代から京都で数多くの庭造り・管理を行ってきた植彌加藤造園の代表取締役社長である加藤友規(かとう・ともき)さんに、その秘密を教えてもらいました!

土地柄、気候、まわりの環境…。様々なものが作り上げる京都の紅葉

「都」だった京都には、素晴らしい庭園とそれを支える技術が息づいている

今回お話をうかがった植彌加藤造園代表取締役社長の加藤友規さん

平安京が遷都されてから1000年以上に渡って都だった京都。政治と文化の中心地として栄えたことが第一の理由です。
「京都には数多くのお寺や庭がありますが、国指定の"名勝庭園"(文化財保護法における庭園の文化財としての位置づけ。重要文化財と同等)は全国234箇所中53箇所、"特別名勝庭園"(名勝に同じ、国宝と同等)"の数は、24箇所中13箇所とダントツの多さなんです。素晴らしいお庭が多く、それを支える技術があるということですね。」

まわりの景観とのマッチングの素晴らしさ

水路閣のコントラストが美しいモミジ

まわりの自然や建物との調和も、紅葉が美しい理由の一つ。京都市は、景観条例のため高い建物がなく、庭園から現代的なビル群などが見えないところも大きなポイントです。そして、美しい日本建築とのコントラストを意識した作庭、大自然を借景とした庭づくりがされており、そこに時の流れや、自然の雄大さを感じることができるのです。

美しい紅葉に欠かせない地理的要素が揃っている

モミジが綺麗に色づく条件として大事になるのが、
「気温差(寒暖差)の大きいこと」
「日光がよく当たること」
「湿度や水分が十分にあること」
の3つのポイント。モミジは最低気温が8度を下回ると色づき始め、5、6度になると鮮やかな色づきになると言われています。盆地で朝晩の寒暖差が大きく、遮蔽物が少ないため日光がよく当たり、豊かな水源がある京都はモミジに適した土地と言えるのです。

自然に溶け込ませた「何をどのように見せるか?」という視点

上に挙げたポイント以外にも、京都の紅葉が美しい理由は他にもあります。それが、美しい庭を造る庭師さんの存在。どういった点を大事にしながら、庭造りをしているのか聞いていきましょう!

場所によって様々な紅葉の表情を楽しめる

庭造りの基本と言えるのが「視点場、視対象」だと語る加藤さん。「視点場(してんば)とは、眺めを楽しむ場所(自分が立つ場所)のことで、英語だとview (=視る)point(=場所)と言います。視対象(したいしょう)とは、視点場から眺められる対象のことで、focal(=焦点となる)point(=場所)にあたりますね。ここが定まってはじめて、どのように紅葉を見せるかという考えになるんです」

作庭において大切なポイントについて語る

例えば、南禅寺では、三門を潜る前、潜ったあとに振り返ってみる紅葉、その先の光景で、それぞれ紅葉の見え方が変わります。視点場ごとに、紅葉の様々な美しい表情を視ることができるのも、庭師さんの努力のおかげかもしれません。

下から見上げた南禅寺の三門

「額縁」に彩られた紅葉 

建物とのコントラストが美しい

「ちなみに、江戸時代の南禅寺は松並木がメインで、漢学者の頼山陽が"遇人休問南禅寺一帯青松路不迷(人に遇うて問うをやめよ南禅寺。一帯の青松、路迷わず)"という言葉を残しています。南禅寺参道は松林の一本道なので、人に聞かなくても道に迷うことはないという意味ですね。実は、モミジもサクラも昭和になってから植えることになったものなんです。マツやヒノキの渋さも良いですが、モミジには多くの人の心を打つ魅力があると考えています」

花洛名勝図会の南禅寺、昔の南禅寺は松並木のなかにあった
昔から伝わる造園技法「飛泉障(ひせんさわり)」とその応用

加藤さんが見せてくれた資料『築山庭造傅(北村援琴、享保20年・1735年)』のなかに記載されている技法の一つが「飛泉障(ひせんさわり)」。これは、滝口や池の手前に木を植え、飛泉(滝)の水がありありと見えないよう、奥ゆきをつくるというものです。
御簾のようなモミジの隙間から滝が見えるのも奥ゆかしく、滝とモミジの両方を組み合わせて楽しむのもなんとも乙ですね。シンメトリーが基本となる西洋庭園も美しいですが、日本ならでは庭造りの魅力を感じます。

色づくモミジの後ろには滝が

この「飛泉障」の技法は、様々な場所で応用されています。例えば、滝の代わりに灯籠を隠したり、奥に見える建物の前にモミジを置いたり…。今年の秋は、「●●障(さわり)」を探してみるのも面白いかもしれません。

灯籠とモミジのコントラストが美しい
水面や石に映った紅葉を愛でる

水面に映った紅葉を楽しむ「水鏡(みずかがみ)」も昔からある技法の一つ。植彌加藤造園では、嵐山にある星野リゾートの「星のや 京都」の庭園を造る際に、「水鏡」を応用して、表面を磨き上げた石をいくつか設置し、そこに映るモミジを楽しめる「石鏡」をつくったのだとか。枯山水の庭園なかにある石に映ったモミジ、なんとも綺麗ですね!

手前の石に映えるモミジの赤
年月や時間の経過を楽しむ

時間によって見え方が変わるのも、モミジの魅力。朝の爽やかな空気のなか見るモミジもいいですし、夕日に照らされたモミジやライトアップもそれぞれの美しさがあります。

「庭園造りの技法のなかには、南側に池を作り、太陽が特定の位置に来ると建物のひさしに池の波紋が映るようになっているものがあります。そこから庭の紅葉を眺めるのも、とても綺麗ですよ」と加藤さん。

加藤さんのお話を聞いていると、普段何気なくみている紅葉が、「視点場、視対象」という考え方を軸に、様々な技法や、時の流れなどを考えて造られたことに気付かされます。

「"無作為の作意"と呼んでいるのですが、何も創っていないような自然に見える感じで、紅葉の様々な表情を楽しんでいただけたらなと思っています。優雅に見える白鳥が水の下では、足をバタバタさせている感じですね(笑)」

長くに渡って楽しめる京都の紅葉。時期や時間をずらして快適に!

京都のモミジは、地域によって色づく順番が変わります。山に近い京北から色づき始め、高尾の三尾エリア(高雄山神護寺、栂尾山高山寺、槙尾山西明寺)、下鴨と順に紅葉していきます。早い場所では、10月下旬から色づき、11月下旬にピークを迎え、12月の上旬まで楽しむことができるのです。

11月になると、メジャーなスポットはかなり込み合うため、ゆったりとモミジを楽しみたい場合は、時期や時間をずらすのがおすすめです。12月上旬でも結構モミジが残っているので、おすすめですよ!
最後に、加藤さんにモミジの楽しみ方についてお話を聞きました。

「人によっていろいろな見方、楽しみ方があると思いますが、私は『そこでどう時間がデザインされているか?』という視点で見ることが多いです。また、去年や一昨年に見た紅葉など、自分の記憶と重ね合わせて見るのもおすすめです。

当たり前かもしれませんが、同じモミジというものは存在しません。建築物は変化が少ないかもしれませんが、お庭はこれまでの歳月が刻まれていくもの。リピーターの方にはその変化をぜひ味わっていただきたいですね」

時間の流れを感じながら、今しか見られないモミジを楽しんで欲しいと語る加藤さん

少なくとも、「4×4×4×4=256(※)」通りの表情があると語る加藤さん。お話を伺っていると、ただモミジを見るという行為なのに、そこに「今」を味わう全てが盛り込まれているような気さえしてきます。
(※)それぞれ、下記の通り。
四季:春、夏、秋、冬/時間帯:朝、昼、夕方、夜/天気:晴れ、曇、雨、雪/シチュエーション:花、鳥、風、月

加藤さんにお話を聞いて、京都の紅葉が美しい理由の一端に触れられた気がします。今年は、綺麗な紅葉の裏側にも思いを馳せながら、味わい深い紅葉を楽しんでみませんか?


京都市内全体の紅葉の色づき具合やライトアップ情報については、こちらからチェック!

▽紅葉だより(毎週金曜日更新※ピーク時は火曜日も調査)

https://ja.kyoto.travel/flower/momiji/


【おすすめ】金戒光明寺の秋の特別拝観で、匠の技と美しい紅葉に触れよう

京都を見下ろせる高台に位置し、新選組ゆかりの寺でもある金戒光明寺では、11月15日〜12月3日の間、秋の特別拝観が実施されます。

御影堂や大方丈をと紅葉の調和を楽しむ昼に、幻想的な雰囲気のなか水鏡に映る紅葉にうっとりする夜。「今、ここで」しか見れない、美しさを見つけに行きましょう。

今回、お話をお伺いした植彌加藤造園の庭師さんが境内を案内してくれるプランもありますよ。

 

【秋の特別公開】くろ谷 金戒光明寺 御影堂・大方丈・庭園/山門
2023年11月15日(水)~12月3日(日)
▽詳しくはこちら
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=8762

【秋の特別公開 夜間拝観】くろ谷 金戒光明寺 御影堂・大方丈・庭園
2023年11月15日(水)~12月3日(日) 
▽詳しくはこちら
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=8763

 

※特に断りのない写真は植彌加藤造園 提供

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記事を書いた人:立岡美佐子

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東京から京都に引っ越してきた、編集者。
普段は『TRANSIT』や『FRaU』など雑誌やメディアづくりに関わったり、企業や個人のWEBサイトを制作していますが、それは表の顔。裏では人を軸に京都を深ぼるイベント「ひみつの京都案内」を運営しています。東京の大学在学中も京都が好きで、同志社大学に国内留学していました(専攻は歴史学)。趣味は、合気道と食べ歩き。
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