そんな見方アリ!? 庭園マニアが語る「京都のお庭のここが萌える!」

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「お庭って、萌えるんです」

そうおっしゃるのは、今回お話を伺ったお庭のエキスパート・烏賀陽百合(うがや ゆり)さん。

烏賀陽百合

世界約30ヶ国の庭園を見てまわる
・自身で庭園のデザインも行なう
・丸の内朝大学で庭園講座を開講した
・庭園に関する著書も多数

など、お庭への愛が止まらない烏賀陽さんに、今回はその思いを語っていただきました。「萌え」目線のお庭紹介では、お庭の見え方が変わること間違いなしですよ!

1.マニアに聞く、庭園の見方

まずは、”烏賀陽さん的”目線での庭園の見方、楽しみ方についてお聞きしました!


ー 本日はよろしくおねがいします。さっそくですが、庭園マニアはお庭をどう見ているのでしょうか?

烏賀陽:私はお庭を〈構図〉でとらえたりしますね。たとえば「借景庭園」は、背後の山までをとりこんだデザインになっていて、お庭の中で主張する「主木」「主石」といわれるポイントをとらえて、そこから全体を鑑賞したり。

ー 庭園の向こう側の景色も含めて、ひとつの作品なんですね。

正伝寺正伝寺「獅子の児渡し庭園」  撮影:野口さとこ

烏賀陽:あとは、情報も重要な要素かと思います。作られた時代背景、作庭した人のコンセプト。そうした情報を知ることで、石一つからも物語を読み解けるのです。そして、庭師さんの剪定やお手入れの技術も、重要チェックポイントです。

烏賀陽さんが庭園で特に気になるものはなんですか?

烏賀陽:やはり「石」ですかね。石は形や配置で、水や島、仏様の世界を表現します。破格の高価な石、権力者に愛された石など、石にまつわる逸話は限りなく、知るほどに石がだんだん愛おしくなり……。「石萌え」の境地になってしまいます(笑)。

「石萌え」!(笑)。

烏賀陽:石造物、とくに灯籠は、お庭で重厚な存在感ですが、笠をかぶった姿はよく見ると可愛いくって! わたしが開催していた東京・丸の内のお庭教室では、OLたちが「灯籠部」を結成して、お庭のマスコットとして愛でています(笑)。

ー 灯籠がマスコット……! はやくもお庭への愛が伝わってきました。

烏賀陽:みなさんもぜひ、お庭の中でお気に入りのポイントを見つけてほしいです。そうすることで、お庭を眺めながらゆっくりと過ごす時間が、より豊かなものになると思いますよ。

2.マニアが語る「お庭萌え」

次に、”烏賀陽さん的”庭園の魅力を、苔・石・植物に注目して「萌え」の観点から語っていただきました。なんだか庭が可愛く思えてくるかも……!?

萌えポイントその1:苔

一つめに注目するのは「苔」。風が通らず湿度が高い、そんな京都の環境は、お庭の苔をぐんぐん育ててくれるんですよ。お庭のドレス、苔の可愛さにクローズアップしていきましょう!


モッフモフ。でも、おさわり厳禁!
白龍園】

鞍馬山の麓にある庭園「白龍園」は、湿度が高く空気の澄んだ環境のなか、春秋は桜と紅葉が息を飲む美しさです。上だけでなく、足元にもご注目! 苔もお見事です。あっちもモフモフ、こっちもモフモフ。ハリ、ツヤ、弾力も最高のスギゴケ、ハイゴケ、スナゴケと多くの種類がそろい踏みなんです。心躍るモフモフ天国にしばしうっとり……。こうした美しい苔は、苔の上の落ち葉を拾い、雑草も手で取るといった庭師さんの愛情のこもった手入れの賜物です。

白龍園苔は繊細で、傷ついたら回復に数年かかることもあります。絶対に触ったり踏んだりしないこと。ただ、もし庭師さんがその場にいらしたら、「触ってみてもいいですか?」とお願いしてみてもいいかも。


チェックのシャツではいチーズ!
【東福寺

東福寺「北庭」は、平たい正方形の石と、もっこり苔が市松模様になっています。日本庭園とは思えないモダンさに萌えちゃいます。これは作庭家・重森三玲(しげもりみれい)の作です。三玲は、古典的なお庭を研究し、デザイン的感覚を取り入れました。石の配置にもご注目ください。奥に行くほどまばらになって、フェードアウトしていくような視覚効果もあるんです。アート的な写真が撮りやすいこの「デザイン苔」。ぜひチェックのシャツを着て、おそろコーデしてみてください。

東福寺重森三玲の「デザイン苔」の庭は、大徳寺瑞峯院、光明院でも鑑賞できます。


仏さまも、思わずごろ寝!
【宝厳院

「ああ! 寝転んでみたい!」と思わず胸が高鳴るほどの、広く美しい、ふっかふかの苔庭……! まるで毛足の長い緑の絨毯のようで、特に「しっぽ苔」と呼ばれる苔は、なんと厚みが5cmほどもあるんです。春は新緑とのグリーン×グリーン、秋は紅葉とのツートーンの景色に圧倒されます。天龍寺の塔頭「宝厳院」の「獅子吼(ししく)の庭」は、室町時代の禅僧、策彦周良が作庭しました。獅子吼とは仏さまが説法することを意味するんだとか。

宝厳院苔の絨毯に散り積もる紅葉。どこにカメラを向けても、フォトジェニックな色の洪水!

萌えポイントその2:石

二つめに注目するのは「石」です。石は、お庭で、言葉なくしてサインやメッセージを発する存在なんです。灯籠のような石造物、敷石や関守石。寡黙な存在感にたまらなく萌えるのが、お庭鑑賞上級者!


フィギュア化して部屋に並べたい
【黄梅院(大徳寺塔頭)

見過ごされがちな灯籠にも、お庭の持ち主のセンスや作庭当時のトレンドが反映されていて、中には「柄付き」のかわいい灯籠もあるんです。黄梅院の「善導寺型灯籠」には、なんとハートとお茶道具の文様が! 重厚な石造物に似つかわしくないそのマークになぜ!? と驚きますよね(笑)。実はハートに見えるのはイノシシの目をかたどった魔除けの模様「猪目(いのめ)」で、社寺の建築によく見られるデザインなんです。目を凝らせば見えてくる、石造物の可愛い一面に萌え心がくすぐられます。

善導寺型灯籠「善導寺型灯籠」は猪目のハート型だけでなく、柱の丸みを帯びたシェイプ、くるっと端がワラビのように丸まった蕨手(わらびて)など、萌えポイントがいっぱい。


KEEP OUTのプレゼント?

お庭で、丸い自然石を黒い紐で十文字にくくりつけてあるオブジェを見かけたことがあるでしょうか? これは、「関守石(せきもりいし)」といって、もともとは茶室の庭・路地の分岐点などに置いて、通行止めや立入禁止をあらわすものでした。つまり、関守石を見かけたら、そこから奥には入ってはいけないというサイン! 現在では料理店や旅館のお庭でも見かけます。「関守石」の名の由来は、通行の要所・関所を守る関守にちなんだもの。お庭に佇んで、無言、不動で、粛々と任務を務める「関守石」のけなげさ……。キュンとくるものがありませんか?

関守石十文字の紐結びがプレゼントのように見えますが、決して持ち帰ってはいけません。


お洒落も庭も、足元から

敷石の道を、延段(のべだん)といいます。”お洒落は足元から”という言葉があるように、庭においても足元の石は景観の印象を決める重要ポイントなんです! 延段には、自然石や切石が組み合わせられていて、場所の格式の高さの順に「真」「行」「草」という3つのスタイルに分けられているんです。切石のみで構成されたフォーマルな印象の延段は「真」、自然石だけの場合は「草」。「行」はその中間で、切石と自然石の両方を使います。主張しすぎず、しれっと場にふさわしい道をつくっている敷石たち。それに気付くとなんだかときめきませんか?

延段

ファッションに置き換えると「真」=スーツ(フォーマル)、「行」=ジャケット(セミフォーマル)、「草」=ジーパン(カジュアル)。

萌えポイントその3:植物 

三つめに注目するのは「植物」。日本のお庭では、植物にも、はっとする見所が多数仕掛けられています。定番の紅葉、刈り込みで飾るサツキ、ユニークな葉っぱをもつ半夏生。お庭を彩る存在は魅力的で惹かれるものがありますよね。


チラリズムに思いを馳せて
【雲龍院

お庭鑑賞のハイライト、紅葉。一面真っ赤に染め上げられた紅葉もいいけれど、「雲龍院」では、お部屋の中から、障子や正方形の色紙窓を通して見える、まるで絵画のような紅葉が心をくすぐります。見えない部分は想像力で補って楽しむ……。これぞまさに「チラリズム」! お気に入りのお部屋とアングルを選んで、建築と紅葉のコラボレーションにうっとりしちゃいましょう。

雲龍院「蓮華の間」の障子の「色紙窓」。「悟りの窓」という丸窓のあるお部屋もあって、室内のどこからでも紅葉が眺められます。皇室のお寺・泉涌寺の別院で、静けさも格別です。


年にいちど、わびさびを忘れるとき
【詩仙堂(丈山寺)

花が咲くと、お庭の印象が変わりますよね。それが特に鮮やかなのが、普段は質素なイメージの禅寺のお庭かなと思います。サツキは刈り込みに強い植物で、丸や雲の形に刈りこまれて、お庭の景観を作ります。「詩仙堂」の唐様庭園でも、シンプルに丸く刈り込まれたサツキが、禅寺の緊張感をかもしています。ところが春の開花時になると、刈り込みがわびさびムードを一気に返上し、キュートなピンクをまといます。 たとえるなら、クールな理数系男子が可愛い花柄のハンカチを持っていた……。そんなギャップにキュンとする植栽です。

サツキの刈り込み枯山水庭園にサツキの刈り込みのあるお寺は、ほかに酬恩庵、正伝寺などがあります。東福寺には、ハート形に見える刈り込みも!


「半顔メイク」に見えるからハンゲショウ?
【両足院(建仁寺塔頭)

いつもは緑色の葉が、夏の訪れとともに、純白に! まるで平凡な少女がある日、急に垢抜けたような眩しさ。それが、半夏生(はんげしょう)です。暦の七十二侯で、夏至から数えて11日目の7月2日頃から七夕頃までの5日間を「半夏生」といいます。この前から、建仁寺の塔頭「両足院」では、池の水辺に生い茂った半夏生が純白のベールのような美しさになるんです。実はこれは、花が地味なため、葉を白く派手にして虫にアピールしようとする、植物のモテテクニックなんですよ。清らかな姿で内面は必死なところも可愛いですよね。

ハンゲショウ

ハンゲショウの名は、半分白粉を塗ったように葉の一部が白く見えるから、という説もあるとか。

3.マニアに教わる、庭園ミニ知識

最後に、プラスアルファで知っておくとより楽しめる庭園知識を、Q&A形式で教えていただきました!


Q1. 日本庭園といえば松のイメージがあるのはなぜですか?

烏賀陽:松は、1年中青々とした緑の常緑樹で、秋冬になっても葉を落としません。寒さにも耐え、年中変わらない「普遍の美」。それが、室町時代に武士たちの間で流行した、精神を鍛える「禅」の思想と相性がよく、松が好まれたといわれています。また一方で、繁栄や永遠の美をあらわしているともいわれており、自分や子孫の幸運を祈る縁起のいい樹木として人気だったという面もあるようです。枯れないから手入れ不要かというと実は逆で、毎年春には、松の新芽を摘み取り、秋には葉をむしる剪定が必要で、いずれも庭師さんが素手で作業をします。

瑠璃光院瑠璃光院  撮影:野口さとこ


Q2. アート的なお庭写真を撮るテクニックってありますか?

烏賀陽:「わーキレイ!」と、シャッターを切ってみても、見たままには撮れないのが、お庭の写真ですよね。そういう時は気分を切り替え、フレームの中の構図を意識的につくり込んでみるといいかもしれません。一番簡単なのは、「額縁構図」。お寺の窓や軒下など「自然のフレーム」を額縁に見立てて、その中でお庭をとらえれば画面が一気に引き締まって、ドラマチックな一枚になりますよ。葉や花にグッとクローズアップしながら背景をボカしてお庭を撮るのもエモーショナルでおすすめです。


烏賀陽さんの溢れるお庭愛が伝わりましたね! お話を聞けば聞くほどドキドキするポイントがいっぱいで、厳かなイメージの庭園が、なんだか親しみやすいイメージに変わった気がします。ぜひみなさんも、自分なりの”萌え”を見つけて、京都の庭園を楽しんでみてくださいね。

今回登場したスポット

※新型コロナウイルスの影響により、拝観時間が異なる場合がございますので、事前に各スポットHPまたはお電話にてご確認をいただきますようお願いいたします。

白龍園
住所:京都市左京区鞍馬二ノ瀬町106
電話番号:075−741-2863
アクセス:叡山電鉄「二ノ瀬」駅より徒歩約7分、京都バス50系統「二ノ瀬」より徒歩約4分
観覧時間:一般観覧 10:00~14:00(受付終了13:30)/予約観覧 14:00〜16:00(受付終了15:30)
観覧料:一般観覧 1300円(10月・12月)、1600円(11月)/予約観覧 2300円(10月・12月)、2800円(11月)
ホームページ:http://hakuryuen.com/
※今秋の公開は12/3で終了、来春は3月末から公開予定
※2020年11月27日現在

東福寺
住所:京都市東山区本町15丁目778
アクセス:JR奈良線「東福寺」駅より徒歩約10分、京都市バス88、208、207、202系統「東福寺」より徒歩約4分、京阪本線「鳥羽街道」駅より徒歩約8分
電話番号:075−561−0078
拝観時間:4月〜10月末は9:00〜16:00/11月〜12月第1日曜日前日は8:30〜16:00/12月第1日曜日は9:00〜15:30
拝観料:本坊庭園(方丈)大人500円、小人300円/本坊庭園(方丈)・通天橋・開山堂共通 大人1000円、小人500円
ホームページ:http://www.tofukuji.jp/
※秋季(11月10日〜11月30日)は拝観料が変わります

宝厳院
住所:京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町36
アクセス:JR「嵯峨嵐山」駅より徒歩約10分、嵐電「嵐山」駅より徒歩約3分、阪急「嵐山」駅より徒歩約10分、京都市バス28系統「嵐山天龍寺」より徒歩約5分
電話番号:075-861-0091
拝観時間:9:00〜17:00 ※春と秋のみ公開
拝観料:大人500円、小中学生300円
ホームページ:http://www.hogonin.jp/

黄梅院(大徳寺塔頭)
住所:京都市北区紫野大徳寺町83-1
アクセス:京都市バス1、12、204、205、206ほか系統「大徳寺前」より徒歩約5分
電話番号:075-492-4539
拝観時間:10:00〜16:00 ※春と秋のみ公開
拝観料:大人800円、中学生・高校生400円
ホームページ:https://www.instagram.com/k.oubaiin/

雲龍院
住所:京都市東山区泉涌寺山内町36
アクセス:市バス「泉涌寺道」より徒歩約15分、JR・京阪「東福寺駅」より徒歩約20分
電話電話:075-541-3916
拝観時間:9:00〜17:00(受付は16:30、写経は15:00まで)
拝観料:一般400円、中高生・大学生400円 ※写経は1名1,500円(拝観料・抹茶付き)
ホームページ:https://www.unryuin.jp/

詩仙堂(丈山寺)
住所:京都市左京区一乗寺門口町27
電話番号:075-781-2954
アクセス:京都市バス「一乗寺下り松町」より徒歩約7分
拝観時間:9:00〜17:00(受付は16:45まで)
拝観料:大人500円、高校生400円、小・中学生200円
ホームページ:https://kyoto-shisendo.net/

両足院(建仁寺塔頭)
住所:京都市東山区大和大路四条下る4丁目小松町5914
アクセス:京阪本線「祇園四条」より徒歩約7分、阪急「河原町」より徒歩約10分、京都市バス206系統「東山安井」より徒歩約5分
電話番号:075-561-3216
拝観時間:10:00〜16:00
拝観料:1000円
ホームページ:https://ryosokuin.com/



企画編集:光川貴浩、松田寛志、長谷川茉由(合同会社バンクトゥ)、沢田眉香子
ライター:沢田眉香子
写真提供(サムネイル含む):野口さとこ
バナー作成:金原由佳(合同会社バンクトゥ)
イラスト作成:Neぎ

取材した人:烏賀陽 百合(うがや ゆり)

烏賀陽 百合(うがや ゆり)

庭園デザイナー。淡路景観園芸学校、カナダ・ナイアガラ園芸学校で園芸とデザインを学び、イギリスの王立キューガーデンでインターンを経験。30ヶ国を旅し、世界中の庭園を見てまわる。ニューヨーク・グランドセントラル駅構内に石庭を造り、日本庭園の空間をプロデュース。丸の内朝大学でお庭講座をしていたことも。著書に『一度は行ってみたい京都 絶景庭園』『しかけに感動する京都名庭園』など。

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