※「京都一周トレイル」®は京都一周トレイル会の商標登録です。ご利用される前には事前にご連絡をお願いします。
京都一周トレイルの北山西部コースは、二ノ瀬から清滝までの全長19.3kmのトレイルです。鷹峯(たかがみね)の迂回路からはじまり、コースの終点清滝までが今回の旅。キーワードは“京都市のワイルドサイド”。さぁどんなトレイル歩きが待っているのでしょうか?
北山西部コースをともに歩くのは、今回の撮影を担当されたカメラマン奥田高文さんの娘さんであり、京都市内のデザイン会社に勤務する万里菜さん。京都一周トレイルの存在は知っていたものの、歩くのは初めてで、この日を心待ちにされていました。
※京都一周トレイルコース全体図はこちら。
ルートと所要時間
【ルート】北大路〜上ノ水峠〜沢ノ池〜高雄〜清滝/所要時間:約5時間(約8.4km)
- 1.トレイルに入る前に北大路でおやつを購入/約20分
- 2.天下の名妓・吉野太夫ゆかりの寺 常照寺/約5分
- 3.せせらぎの紙屋川沿いを上流へ/約40分
- 4.直線の連続! めずらしい北山杉の森/約25分
- 5.京都市の秘境・沢ノ池でひと休み
- 6.この角度から眺める京都市内はレア!/約1時間20分
- 7.京都で一二を争う景勝地・高雄/約10分
- 8.古刹・神護寺は青もみじ、赤もみじが見ごと/約20分
- 9.清滝川の渓谷美を味わいながらゴールへ/約1時間40分
※所要時間(距離)は目安です。観光・散策時間(距離)は含まれていません。
※本記事は9月に取材しています。日没を考えて、余裕をもったスケジュールを立てましょう。
※途中で体調が悪くなった場合は、無理せずエスケープ(コースから離脱)しましょう。
各コースの公式ガイドマップを、京都駅ビル2階の京都総合観光案内所(京なび)などで販売しています。
ガイドマップ販売店舗一覧:https://ja.kyoto.travel/tourism/article/trail/stores.php
この記事にも登場する「道標」の番号やトレイルのみどころなどを掲載した、トレイル歩行時必携の公式ガイドマップです。
トレイルを歩く前にはぜひご購入ください!
※ガイドマップの売上は、コースの維持補修費用に充当しています。
京都一周トレイルコースの詳しい情報は、京都一周トレイルサイトへ。
1.トレイルに入る前に北大路でおやつを購入
市営地下鉄烏丸線「北大路」駅〜市バス「鷹峯源光庵前」バス停
所要時間:約20分
道標:コース外のため道標なし
北山西部コースの今回の起点は、京都市北区にある鷹峯(たかがみね)エリア。アクセスは市営地下鉄烏丸線「北大路駅」から市バス「北1系統」に乗車するのが手軽です。せっかくなので、鷹峯へ向かう前にトレイル歩きの休憩で食べられるおやつを購入していきましょう。
バスターミナルから南西へ徒歩約2分、北大路通りに面した「吉廼家(よしのや)」へ徒歩で向かいます。
京都の四季と自然を色とりどりの和菓子に表現する「吉廼家」は、昭和元年(1926年)創業。老舗が並ぶ京都においては若い和菓子店ですが、全国各地にファンのいる“知る人ぞ知る”人気のお店。その日は旬のフルーツを使った季節ならではの和菓子などがショーケースに並んでいました。何を購入したのかはあとでのお楽しみ。
北山西部コースは、高雄まで途中に公衆トイレがありません。トレイルを歩く前に済ませておきましょう。 北大路バスターミナルに戻ったら、さっそくバスに乗車します。バスに揺られること15分足らず。「鷹峯源光庵前」バス停で下車し、東に1分ほど歩くと常照寺の参道に到着です。
2.天下の名妓・吉野太夫ゆかりの寺 常照寺
鷹峯源光庵前バス停〜常照寺
所要時間:約5分
道標:コース外のため道標なし
朱塗りの山門「吉野門」がお出迎え。
常照寺はその昔、京で随一の美しさと詠われた名妓・二代目吉野太夫がこの山門を寄進したことから、“吉野の寺”とも呼ばれています。太夫は容姿が美しいだけでなく、和歌や俳諧、茶道、琴、書、琵琶……といった諸芸に秀で、才色兼備を称えられたその名声は海を渡って明国にまで届いたのだとか。
常照寺
1616年、日蓮宗中興の祖とされた寂照院日乾上人が開創。その後僧侶たちの学問所として「鷹峰壇林」(学寮)が開設され、境内には最盛期には300名ほどの僧侶が勉学にいそしんでいた。1624〜44年ごろには吉野太夫が帰依。今では毎年4月第2日曜に「吉野太夫花供養」が行われ、鷹峯交差点から常照寺本堂まで島原の太夫が練り歩く「太夫道中」は多くの人で賑わう。
吉野太夫ゆかりの茶席「遺芳庵(いほうあん)」には壁一面の丸窓「吉野窓」があります。仏教では完全な円は悟りの完成した姿とされることもありますが、太夫は窓の下部だけが直線になっているこの窓に自分の心を投影し、自らを「いまだ、悟っていない」と戒めていたといわれています。
※現在「吉野窓」は天候や季節によって開放される日が変動します。
3.せせらぎの紙屋川沿いを上流へ
常照寺〜上ノ水峠
所要時間:約40分
道標:コース外のため道標なし
ここからは鷹峯の住宅街を抜けて急坂でいったん谷あいに下り、京都一周トレイルから紙屋川沿いに下りてくる迂回路(アスファルト舗装の車道)を登っていきます。登山口までは「東海自然歩道」の看板が目印。
鷹峯エリアはちょうどニデック京都タワーの先端と同じくらいの高さに位置します。京都盆地の北の端にあり、気温も街中より低め。木々を縫って抜ける風が心地よく、木漏れ日のなか緩やかな上り坂を進んでいきます。地元の方の車がときどき通るので気を付けて。
傍らに流れるのは、王朝の時代、天皇の論旨に用いる紙を漉いたとも言われる紙屋川。水辺に下りられる場所もあり、その清らかな流れに手を浸してみてもいいですね。
アスファルト舗装の道(迂回路)を行けるところまでひたすら進み、何軒か立ち並ぶ最終集落の脇にある「東海自然歩道」の標識から、写真の方向へさらに進みます。ほどなく上ノ水峠への登山道入口があります。
そこからは山道。山肌を巻くようにして歩きごたえのある登りが始まり、尾根に近づいていると実感するひと時です。台風でところどころ倒木も。ここは注意して通過しましょう。
4.直線の連続! めずらしい北山杉の森
上ノ水峠〜沢ノ池
所要時間:約25分
道標:北山76〜80
鞍馬の二ノ瀬から氷室、京見峠を経て、ここ上ノ水峠へと続く北山西部コースにようやく合流できました。上ノ水峠から道標79番のわずかな区間も斜面の崩落などで現在通行止め。トレイルに設置された案内に従って、北にある菩提の滝方面に伸びる東海自然歩道(北山75〜79迂回路)をまわって沢ノ池方面に進みます。
「見ごとにまっすぐ!」と等間隔で植えられた北山杉を見上げて思わず歓声をあげます。小石から川まで、曲線で成り立つ自然のフィールドにはめずらしく、直線が連続した北山杉の印象的な風景が北山西部ルートではたくさん見られます。
室町時代からこの一帯で植林が始まった北山杉は、年輪が緻密で、皮を剥いた木肌が非常に滑らかなことで知られます。格調高い色艶があることなどから、桂離宮や修学院離宮の茶室、数寄屋造りの建築物に使われる北山の名産品です。
迂回路を回って、道標79からは車も通る林道を進みます。やがて道がじゃり道に変われば、ほどなく京都市の秘境・沢ノ池に到着。
5.京都市の秘境・沢ノ池でひと休み
沢ノ池(ビューポイント)
道標:北山80
標高約375mにある沢ノ池は、灌漑用に造られた江戸時代の人工池。昭和50年代までおもに右京区の田畑を潤すため使われていましたが、現在は市民の憩いの場として愛される場所に。この日も水面にSUP(スタンドアップパドルボード)を浮かべて楽しむ人が見られましたが、実は映画やドラマのロケ地としても有名。太秦映画村が近いことから、運がよければ時代劇の撮影にもめぐり合えるかもしれません。
さあお待ちかねの“おやつタイム”。
バックパックの底へ入れ、大切に持ってきたのは吉廼家の「おとぎ草子」(9個入り)。宝石箱のように華やかで愛らしい和菓子が詰められた吉廼屋の看板の品です。仲間とシェアして2〜3個いただくのにちょうどいいひと口サイズ。練り切りや羊羹、かのこなど四季折々に内容が変わり、3段のお重を用いた豪華な48個入りもあるのだそうです。
6.この角度から眺める京都市内はレア!
沢ノ池〜高雄白雲橋
所要時間:約1時間20分
道標:北山80〜87
ひと時足を休めたら、北山西部コースの最深部より、景勝地・高雄に向けてハイキング再開です。
道標81を過ぎ、ひと登りすると仏栗峠(ほとぐりとうげ)に出ます。沢山や白砂山方面への分岐でもありますが、ここは迷わず西に進路をとりましょう。しばらくは平坦な木立の道をゆく楽しい稜線歩きです。
ところどころ木々の間に展望が開け、京都市中が一望できます。京都の街並みを望むビュースポットは東山コースの大文字山のほか、京見峠、将軍塚などがメジャーですが、桂川や西山方面が眼前に広がるこの角度からの風景は、京都に詳しい人でもなかなか縁がありません。シャッターチャンスですよ!
道標84から先は深く道がえぐれた急勾配の下り坂に差しかかります。場所によって木の根っこや岩が露出し、また粘土質の土が滑りやすい箇所もあるので慎重に。
道標85まで出てきました。ここから先は舗装路の福ヶ谷林道をさらに下っていきます。仏栗峠から高雄までトータルすると250m以上の標高差を下ることになるので、沢ノ池の休憩時に靴ヒモを強めに結び直しておくと安心です。
7.京都で一二を争う景勝地・高雄
高雄白雲橋〜高雄橋
所要時間:約10分
道標:北山87〜90
京都市の北西部に位置する右京区・高雄は、古くから紅葉の名所として知られ、3つの古刹「高雄山神護寺」「槇尾山(まきのおさん)西明寺」「栂尾山(とがのおさん)高山寺」に「尾(雄)」の字がつくことから「三尾(さんび)」としても親しまれているエリア。
道標87からは一般道の周山街道を少し歩き(交通量が多いので気をつけて)、道標88から清滝川沿いの道に入ります。
高雄と清滝を結ぶ渓谷は錦雲渓と呼ばれ、秋は燃えるような紅葉が一面に広がる里山風景となります。こんなふうに……。
写真は、ここ高雄に宿を構えて100年余という料理旅館「もみぢ家」の別館「川の庵」の玄関口。毎年4月から11月までは清滝川畔に川床席が据えられます。
夏には青もみじやホタルを眺めながら涼を取りつつ、秋には紅葉の絶景に包まれながら、美味しい川床料理を楽しむことができます。
※写真右は秋の「湯葉しゃぶ御膳」(10月・11月限定)
8.古刹・神護寺は青もみじ、赤もみじが見ごと
高雄橋〜神護寺
所要時間:約20分
道標:コース外のため道標なし
道標90からコースを少し外れ、京都有数の山岳寺院・神護寺へ向かいます。
高雄山の山腹にある神護寺へ続く参道は、石段で約400段といわれています。
「今日で一番しんどい登りですね(笑)」。ハァハァと息を切らしつつも楽しそうにお寺のある標高200m付近を目指して石段を登ります。清滝川のせせらぎが少しずつ遠のき、標高を上げていることに気づきます。もみじが風に揺れるたび木漏れ日の表情が変わり、参道にいながら森林浴の気分。
ほどよく疲れたところで、参道の途中に建つ茶屋「硯石亭」でお昼をいただきます。神護寺の宿坊跡地に建てられたこの茶屋では、名物「もみじ餅」のほか、おそばやおうどんも人気メニュー。
朝から動き続けた身体にお出汁が染み渡ります。
さらに進み、最後の急登を登りきったら神護寺の楼門に到着。
神護寺は平安時代に和気清麻呂が開いた寺院。境内には約3,000本ものもみじがあり、夏は艶やかに緑色の葉を輝かせ、秋には辺り一帯が見ごとな錦色に染まります。敷地は広々とした約20万㎡。人気の高雄であっても、ゆったり静かに参拝できるのも神護寺の魅力といえます。
神護寺
弘法大師・空海が14年間住持したことでも知られる、長い歴史を有する真言宗の古刹。最澄もまた学僧に講義を行なうなど、日本仏教にとって重要なふたりの僧が数年に渡り親交を続け、真言宗と天台宗が交流する舞台となった。金堂厨子のなかに安置される国宝本尊・薬師如来立像のほか、貞観時代と鎌倉時代を中心に数え切れないほどの貴重な仏像や絵画などを所蔵している。
厄除けなどの願いをかけて、高い場所から素焼きや日干しの皿や酒杯を投げる「かわらけ投げ」は、ここ神護寺が発祥なのだそう。地蔵院前の展望広場から錦雲峡に向かって素焼きの皿を投げて、無病息災を祈願しました!
今回はまだまだここから道標94番のある清滝を目指して歩きます。
もちろんここで京都市内に帰ることもOK! 「高雄」バス停から市バス8番にて市内中心部へ、もしくは「山城高雄」バス停よりJRバスで京都駅へ、バス1本で帰ることができます。
9.清滝川の渓谷美を味わいながらゴールへ
高雄橋〜金鈴橋
所要時間:約1時間40分
道標:北山90〜94
神護寺参道の入口まで下りてきました。コースを先に進むと、ほどなくして公衆トイレがあります。この先約1時間のトレイル歩きとなるので、必要な人はここでお借りしておきましょう。
北山西部コースのクライマックスはワイルドな雰囲気が漂う錦雲渓歩き。高雄と清滝とを結ぶ清滝川沿いに敷かれた約3kmのハイキングコースを歩いていきます。
京都の渓谷と言えば保津峡が有名ですが、その支流の清滝川の渓谷美もまた見ごと。夕刻に近づいて、この時間帯特有の光と影が立体的でドラマチックな風景を浮かび上がらせます。この写真だけを抜き取れば、ここが京都市内だなんて誰が想像するでしょうか。
東海自然歩道でもあるこの林道は道もよく整備され、川の流れに沿って傾斜を感じないほどの緩やかな下り坂を進みます。
沈没橋を渡る道標91から先は未舗装路となり、もっとも川面に接近するエリア。場所によってゴツゴツした岩場を通ったりする場所がありますが、増水時でない限り心配はいりません。
深度ごとに水色やエメラルドブルーに変化する清滝川の輝きは、まさにここを歩いた人しか出会うことのできない神秘的な光景。風によって水紋が広がるたび、その美しさにため息が漏れるほどです。
マイナスイオンを浴びながら、今回のゴールに向かいます。道標94の立つ愛宕山への登山口と金鈴橋が見えてきました。そこが京都一周トレイル北山西部コースの終着点であり、西山コースの起点です。
「自分の住んでいる町からこんなワイルドな表情の自然につながっているとは思ってもみませんでした。きっとコースごとに特徴や表情が違うんでしょうね! 他のコースも歩いてみたくなりました」と、京都の山の楽しさを発見した1日でした。
にぎやかな観光地が近い東山コースや西山コースとはまた違い、神秘的な森や池、川のせせらぎなど京都の多様な自然にぐっと近寄る北山西部コース。今回ご紹介していないエリアにも魅力がたくさんありますので、ぜひ歩いてみてください。
今回登場したスポット
※新型コロナウイルスの影響により、営業時間が異なる場合がございますので、事前に各スポットHPまたはお電話にてご確認をいただきますようお願いいたします。
吉廼家
住所:京都市北区小山東大野町54
電話番号:075-414-5561
営業時間:9:00~18:00
定休日:不定休
ホームページ:https://kyoto-yoshinoya.com
常照寺
住所:京都市北区鷹峯北鷹峯町1
電話番号:075-492-6775
参拝時間:8:30〜17:00
休日:年中無休
ホームページ:http://tsakae.justhpbs.jp/joshoji/toppage.html
もみぢ家別館 川の庵
住所:京都市右京区梅ヶ畑高雄
電話番号:075-871-1005
営業時間:11:00~15:00(ラストオーダー14:00)、18:00〜20:30(ラストオーダー19:00)
定休日:なし
ホームページ:https://www.momijiya.jp
硯石亭
住所:京都市右京区梅ヶ畑高雄町5
電話番号:075-872-3636
営業時間:9:00~17:00
定休日:不定休(11月は無休、1〜2月は休み)
ホームページ:http://www.suzuriishitei.com
神護寺
住所:京都市右京区梅ヶ畑高雄町5
電話番号:075-861-1769
拝観時間:9:00~16:00
休日:年中無休
ホームページ:http://www.jingoji.or.jp
企画編集:福瀧智子(株式会社ヨンロクニ)、光川貴浩、長谷川茉由(合同会社バンクトゥ)
モデル:奥田万里菜
バナー作成:金原由佳(合同会社バンクトゥ)
写真撮影:奥田高文
協力:京都一周トレイル会
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一緒にめぐった人:奥田 万里菜(おくだ まりな)
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山岳部だった父親に連れられ高校時代に大文字山へ登り、その世界観に魅せられ以来山好きに。京都の大学生時代はワンダーフォーゲル部に所属し、国内の山を多数歩く。現在は市内のデザイン会社に勤務しながら、余暇に登山を再開すべく情報を収集中。
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この記事を書いた人:福瀧 智子(ふくたき ともこ)
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アウトドアライター、編集者。大学卒業後、地元・京都を離れ東京の出版業界へ。登山やスノーボードなどフィールドの体験を元に関連雑誌で執筆。女性向けアウトドア雑誌『ランドネ』の創刊編集長でもあり、早くから新しい女性のアウトドアスタイルを提案。現在は子育ての傍らでアウトドアニュースサイト『Akimama』を運営制作中。