※「京都一周トレイル」®は京都一周トレイル会の商標登録です。ご利用される前には事前にご連絡をお願いします。
京都の町を囲む山並みに、整備された“歩くための道”があることをご存知でしょうか? 「京都一周トレイル」と呼ばれ、地元京都の人だけでなく、観光客や全国の山好きにも人気の自然散策ルートです。
今回は、四季を通じてさまざまな表情を見せる京都の身近な自然を歩く旅のすすめ。京都の自然、文化を満喫するヒントをご紹介します。
この記事では、京都市出身のアウトドアライター・福瀧智子が、京都一周トレイルに関わりのあるお二人に取材! 京都府山岳連盟・竹内光雄さんと、「山食音」を営む東岳志さんに、京都一周トレイルの魅力と楽しみ方について、いろいろとお話を聞かせていただきました。
京都一周トレイルコースの詳しい情報は、京都一周トレイルサイトへ。
(★時間のない方は末部の「京都一周トレイルのまとめ」をチェック!)
観光と自然が合わさった「京都一周トレイル」の魅力
― まずは、お二人の京都の町やトレイルとの関わりを教えてください。
竹内:私は就職してからずっと京都にいます。京都に来てから山や人との出会いに恵まれたので、次は返す番だなと思い、京都一周トレイル会(※)からの委託を受け、年間34回、コースをパトロールしています。
※京都一周トレイルを通じた観光振興等を行う。京都市、京都府山岳連盟、京北自治振興会、鉄道事業者等によって構成される。
― 34回も! 健脚でいらっしゃるんですね!
東:僕は京都に暮らすようになって16年です。山の友達もたくさん増え、最初は食堂に来る人たちと京都一周トレイルを歩くツアーを企画しました。店が京都一周トレイルのベースにもなる河原町今出川にあって山道具も扱っているので、トレイルに行くお客さんが寄ってくれます。
河原町今出川で登山用具のガレージブランド「山と道」の商品や書籍などを販売する食堂「山食音」。
― 京都出身の私が聞くのもナンですが……そもそも京都一周トレイルとは?
竹内:京都は三方を山に囲まれています。その山道をぐるりと全長約83.3キロの周遊トレイルが続いているんです。京都一周トレイルの構想が立ち上がったのは1991年からですね。
― は、83キロ!?
竹内:そうですね(笑)。伏見桃山から始まり、比叡山、大原、鞍馬を経て嵐山、そして苔寺へと至るトレイルで、「東山」「北山東部」「北山西部」「西山」という4つのコースと豊かな森林や清流、田園風景に恵まれた全長約48.7キロの「京北」コースを加えたトレイルを総称して京都一周トレイルと呼んでいます。
各コースのガイドマップは京都駅ビル2階の京都総合観光案内所(京なび)などで販売している。
ガイドマップ販売店舗一覧:https://ja.kyoto.travel/tourism/article/trail/stores.php
― 1991年というと、登山はおろか、アウトドアにもまるで興味がなかった中学生ですよ、私(笑)。
竹内:京都一周トレイルのコースを設定する際、コース周辺の住民の方や所有者のご協力のもと、もとからあった古道や杣道(そまみち)などを活かして、京都の歴史探訪の道となるようにしました。入山、下山のルート設定に関しても、公共交通機関の停留所や駅などの位置を考慮しています。
東:これだけ多くの交通機関を活用できる山は日本でも珍しいと思います。たとえ滋賀県側に降りたとしても、公共交通機関で帰ってくることができるというのも画期的ですよね。
― 今はなかなか遠くの山にも行けない状況ですが、車を使わなくても行ける京都一周トレイルは旅行者にとってもいいですね。
東:町からのアクセスが良く、山から離脱するルートも多く、ひとつのコースを「小分け」にして歩くことができるのも京都一周トレイルの魅力だと思います。山の近さとコースのバリエーションの組みやすさは、ピカイチではないでしょうか。
伏見稲荷駅~ケーブル比叡駅をつなぐ「東山コース」。交通の便が良く、初心者にもおすすめ。京都観光を代表する寄り道ポイントがたくさんあり、京都の文化と自然を満喫できる。
竹内:1日の予定の半分トレイルを歩いて、半分観光をする。そして帰ってきて町で美味しいお料理を食べる! という3点セットを楽しみにしている方は多いはずです。コースを分割できるからこそ、こうした旅の計画が立てられるんですね。リピーターが多いのも、コースのバリエーションが多いことが理由のひとつだと思います。
― 3点セット!素敵ですね。何度も訪れたくなるのもうなずけます。
東:楽しみ方がたくさんあるんです。例えば、東山コースを反時計回りで歩いたら、右手にずっと他の山と道が見えているので、あの道はどこへ行くんだろうとガイドマップを広げて、相談されたりすることもあります。
竹内:京都は町が小さいので、トレイルコース上から、市内を見わたすことができ、自分がどこを歩いているのかがわかります。北山コースは少し山が深くて遠いので山好きな人たちが歩いていますし、東山コースや西山コースは、清水寺や嵐山など有名な観光地も近いので観光客が立ち寄られる姿も見かけます。
清滝~苔寺へとつづく「西山コース」。嵯峨嵐山からも近く、観光と合わせて楽しむことができる。春夏秋冬、どの季節に歩いても魅力的。
― 京都一周トレイルは山に慣れてない人でも歩きやすいですか?
竹内:京都一周トレイルの特徴は、誰でも安心して歩けるように、わかりやすい道標(道しるべ)が整備されているところ。とくに東山コースは、近隣の住民や園児たちのお散歩道にもなっているほどなんですよ。
東:その道標を追って歩いていくだけで、迷うことはないと思いますが、トレイルコースに入る際は、ガイドマップとコンパスがあるともっと楽しくなりますよ。
― 東さんのお店「山食音」は東山ルートの近くですが、どんな人たちが来るのですか?
東:週末は京都一周トレイルの一部を歩いてきたあとに、昼や夕方にご飯を食べに来てくれる人がいます。金曜日など休みの前には、明日から山で使う道具や行動食を買いに来てくれる人もいますね。
楽しみ方は無限大!? 5つのコースのおすすめを紹介
― おすすめのコースはありますか?
竹内:市内の展望がいいポイントでいえば、東山コースに隣接する大文字から見る京都市内は最高ですね。また同じく東山コースの比叡山の山頂近くや、伏見稲荷周辺にある大岩山の展望台、東山山頂公園からも市内が良く見えます。あとは、北山西部コースの京見峠、西山コースの松尾山、京北コースのパラグライダー離陸場からの景色も素晴らしいですよ。
細野~余野~大森~山国~弓削~熊田~細野、山国~黒田と大自然を満喫できる「京北コース」。滝、寺、吊橋など多くの名勝や、里山風景を一望できる絶景ポイントなど、見所あふれる散策が楽しめる。
― 初京都一周トレイルならどこがおすすめですか?
東:初めての人には、南禅寺から大文字山、比叡山ぐらいまで歩くことをおすすめしています。東山を半分歩いて、途中で町に降りてくる。展望もあって名所も多い、いちばんメジャーなコースで京都を知るのにちょうどいい目次にもなります。
― 目次、なるほど。京都の山と町の全体像を知れそうですね。では何度か来ている人は?
東:もうちょっと深い山に行ってみたいという人には、北山西部コースにある沢ノ池がいいですね。沢ノ池は、いろいろな映画や時代劇のロケにも使われている場所でもあり、なかなか神秘的な場所なんです。
京都の秘境として愛される沢ノ池。秋には紅葉の景色も感動的。
竹内:夏は、西山コースの清滝川沿いを散策しながら高雄から歩くのも涼しくていいですね。同じコースでも季節ごとに表情が違って、春には崖に咲くツツジが見ものです。ツツジでいうと、東山コースもきれいですよ。また、比叡山音羽川の源流近くや、京北コースの滝又の滝も清涼感を感じられて暑い季節にぴったり。ちなみに音羽川はクリンソウというピンクの可愛らしい花の群生地としても有名です。
― 京都の夏は暑いので、涼を感じる場所、最高ですね。
東:水場を経由して顔を洗ったり冷やしたりできるコースもいいですね。東山コースの瓜生山から比叡山に登って行く途中に川を渡るところがあります。「水飲対陣跡(みずのみたいじんのあと)」という史跡があり、展望もよくて、のぼり下りも少ない気持ちのいいコースが続きます。
― コース上や、入山口、下山口近くにあるおすすめ店はありますか?
竹内:京見峠の近く、山の中に突然現れる定食屋さん「山の家はせがわ」は、ハイカーにも人気ですね。ハンバーグが有名です。また、北山東部コース大原の戸寺にある手づくりドレッシングで有名な「味工房 志野 戸寺店」は、お土産を買いに立ち寄られる方も多いです。
ケーブル比叡駅~二ノ瀬までの「北山東部コース」、二ノ瀬~清滝を歩く「北山西部コース」。真っ直ぐに伸びた北山杉など、のどかな風景を望みながら、さわやかな山道を堪能できる。
東:個人的おすすめは、銀閣寺付近では「光兎舎」や、おにぎりを竹の包みに入れてテイクアウトできる「青おにぎり」、修学院付近では「山道具とごはん 麓」ですかね。いずれも東山コースの入山口の近くです。
竹内:前日に町の中で1泊して、翌日の朝ご飯やお昼ご飯を買って準備をして山に行く、というような楽しみ方もいいですね。
― なるほど、魅力的なお店がたくさんあるんですね!
東:京都市内は至るところに銭湯もあるので、汗を流してから町に出るのもいいですね。
竹内:それぞれのコースの近くには温泉もあります。西山コースの嵐山にある「風風の湯」は庭園風の露天風呂があり、開放的な景色で疲れを癒せますよ。
― 本当に町の観光と結びつけて楽しめますね。とはいえ、一般的な観光の準備だけでは危険ですよね。注意しておくことはありますか?
竹内:町に近いとはいえ、山ですから野生動物などもいます。何年かに1度くらいクマが出たという報告は受けます。あとは、過去に北山コースと東山コースの一部にヒルが出たという報告もありました。クマやヒル、ハチが発見された場合、多くのケースでは山岳連盟の方に連絡がくるのですが、頻度は決して高くありません。必要以上に気にせず、油断せず、安全管理の対策をしておきましょう!あとは事前の情報収集もお忘れなく。
京都一周トレイルのホームページでは、台風や水害などで通行止めになっているコースや箇所を随時アップしている。合わせて交通機関などの運行情報も要確認。
東:コースの計画を立てるのには公式のガイドマップを使うといいと思います。あとは、先ほども言いましたが、持ち物にガイドマップとコンパスが必携ですよ。
竹内:京都は、まちなかの観光と自然を両立して楽しめる世界でも珍しい都市です。トレイルを利用される際は、ゴミのポイ捨てを行わないなどルールを守って気持ちよく歩いてくださいね。
― 今まで観光地が多い華やかなコースに目がいきがちだったのですが、全コースそれぞれに魅力があることが分かりました。本日はありがとうございました!
京都一周トレイルのまとめ
■ 京都市内を囲むように全長約83.3キロの周遊トレイルがあり、「東山」「北山東部」「北山西部」「西山」という4つのコースから構成される。
■ 京都市北部にある京北町にも田園風景に恵まれた全長約48.7キロの「京北」コースがあり、それも含め総称して「京都一周トレイル」と呼ぶ。
■ もとある古道など生かし、また歴史的な峠や場所をコースに取り入れて、京都の歴史探訪の道になるように考慮。また公共交通機関も使いやすいコース設定。
■ どの道もよく整備され、年配者や幼稚園生が散歩で歩くトレイルもある。
■ ビギナーには「東山コース」がおすすめ。1日の予定の半分はトレイルを歩き、半分は観光をするスタイルが人気。
■ 「西山コース」は嵐山などの観光地と合わせて楽しめる。
■ 山好きには自然が多く静かな「北山コース」「京北コース」が人気。
企画編集:滝沢 守生、福瀧 智子(株式会社 ヨンロクニ)、光川 貴浩、長谷川 茉由(合同会社バンクトゥ)
バナー作成:金原 由佳(合同会社バンクトゥ)
写真提供:京都府山岳連盟、東 岳志
協力:京都一周トレイル会
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取材した人:竹内 光雄(たけうち みつお)
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京都府山岳連盟・トレイル委員会委員長。長野県出身。昭和44年卒業とともに京都に就職。京都で山や人との出会いに恵まれ、退職年代になったため次は自分が社会に奉仕する番だと思い至り、通常の山行とボランティア活動の両立を目指し、「トレイル委員会」に参加。道標の設置や、台風被害の調査、倒木処置など、トレイルの整備で年間34回コースをパトロールしている。
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取材した人:東 岳志(あずま たけし)
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菜食を中心とした食堂と山道具の店『山食音』店主。自身が自然の中にいたり、食事で身体が変わったことがきっかけとなり、日常に地域の食事や環境がリンクすることの重要性を感じる。『山食音』では、鎌倉の山道具ブランド『山と道』と一緒に地元・近畿の自然で暮らすことに特化した店を目指し、イベントなども企画している。