街のすぐそばに森がある?森の案内人・三浦豊さんが紹介する梅小路公園

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京都は糺の森など街ナカに原始的な森があるのが魅力のひとつ。しかし、もっと身近な場所……それこそ家のすぐそばに森の気配があって、ともすれば、街はすぐに森に還ってしまうんですよ、と「森の案内人」三浦豊さんは話します。

京都のみならず全国の植生を追い続けている三浦さんといっしょに梅小路公園を散策。広々とした芝生に、京都水族館や京都鉄道博物館があり家族連れでもにぎわう梅小路公園ですが、そこには森に還ろうと自由に根を下ろし枝葉を伸ばすワイルドな木々たちが息づいています。

また、日本庭園「朱雀の庭」や、京都ではじめての復元型ビオトープ「いのちの森」もあり、京都駅のすぐそばにも関わらず1000年前と同じ手つかずの森が。太古の姿そのままに繁茂する森の力強い生命力を学びました。

読めば皆さんも、街のすぐそばに育つ森を探しに出かけたくなるかも。

街は森に還ろうとしている!? 人の意思が効かないワイルド○○たち

梅小路公園やってきたのは梅小路公園。京都水族館や、遊べる遊具などもたくさんありますが、今回は公園内の緑を求めてブラブラ。

ー 三浦さん、今日はよろしくお願いします。

三浦:よろしくおねがいします。今日の前半は梅小路公園で「森」を見つけていきましょう。後半は「朱雀の庭」と「いのちの森」をご案内します。

梅小路公園

三浦:まずは歩きながら、梅小路公園の歴史についてお話しましょう。京都水族館が開設された2012年以降になって多くの人に知られるようになりましたが、もともと梅小路公園が整備されたのは1995年なんですよ。

ー 30年近く前なんですね。

三浦:ええ。JR貨物の跡地を京都市が購入して芝生広場や、このあと行く「いのちの森」「朱雀の庭」などがつくられました。もともとは貨物駅の跡地だったため、当時は植物とは無縁の荒れた土地に、市が莫大な予算をかけて緑化したんです。

芝生広場

三浦:25年の時間で、植物たちは大きく育っています。たとえば公園入り口の看板の裏に生えるこの大きな木、なんだと思います?

ケヤキ

ー え、え〜〜? なんでしょう。

三浦:これはケヤキです。思いっきり枝葉を広げてすごくいきいきしてるでしょう?

ー へえ〜! ケヤキって、なんとなく街路樹に使われているイメージがあるんですけど、これはかなり大きいですよね。街路樹のケヤキはもっとこじんまりしているような……。

三浦:人の手を加えず、もしくは最低限にとどまらせて、木の自由な意思で生やしてあげるとこんなに大きくなるんですよ。本来、ケヤキはこれだけ大きく育つ種類なんですが、小さなスペースに植えられて窮屈な思いをしているものも多いんです。

エノキこちらはエノキ。ケヤキと同様に、古来から日本にある代表的な広葉樹です。立派に育って来園者の日よけになっていました。

三浦:公園にはたくさんの植物が生えているのでわかりやすいんですが、公園以外の場所でもどこでも、人が気をぬくと、あっという間に街は「森」に還ってしまうんです。

ー あっというまに?こんなにコンクリートの建造物があるのにですか?

三浦:そうなんです。たとえばこれを見てください。

ワイルドエノキツツジの植え込みのなかに、もさもさと繁る何かが。

三浦:これは先ほど紹介した、エノキの幼木です。鳥がここに種を落として、芽吹いたんです。

ー エノキの幼木……!じゃあ、このまま放っておくとあの木のように育つってことですか?

三浦:そうなんです。僕はこういう勝手に種が飛んで芽吹いた木々を「ワイルド○○」って呼んでいます。さしずめこれは「ワイルドエノキ」ですね。

ワイルドエノキ体験展示「チンチン電車」の線路沿いにもワイルドエノキ。

ー こっちのワイルドエノキはより育って、樹木らしさがアップしていますね。意識してみると、街のあちこちに自然発生した木々が芽吹いているってことなんですか?

三浦:そうなんです。人が「ここには生えてほしくないなあ」という場所でもどんどん木々は芽吹きます。

ワイルドセンダン自動販売機の隅にワイルドセンダン! 

三浦:人間の考えやルールなんか知ったこっちゃないって顔で、枝葉を伸ばす姿、僕は好きですね。「いいぞ! どんどんやれ!」と思っちゃいます。とくに、ケヤキやエノキ、センダンなどは日本に昔から生えていた自生の植物。土地にあっているのであちこちで生えている姿を見ることができますよ。

ー 街が街とした姿であるのは、人が絶え間なく手入れをしているからなんですね。

三浦:そうですね。絶え間なく手入れをされた場合と、まったく手入れをしない場合とではどうなるのか……その比較が次に行く「朱雀の庭」と「いのちの森」で感じることができると思いますよ。

ここが現世の極楽浄土!? な「朱雀の庭」

梅小路公園「朱雀の庭」「いのちの森」はひとつの広い土地を二分するかたちで展開されており、梅小路公園西側にある複合施設「緑の館」から入場することができます。「緑の館」にはレストランなどもあります。

緑の館庭の入り口は緑の館の2階。200円のチケットを買って入場します。

三浦:この階段に生えている樹木も気になりますよね。この木々はみんな勝手に生えたやつじゃないかな。

ー へー! この植物たちも京都に昔から生えていた種類ですか?

三浦:そうですよ!

ー いまは国内外いろんなところから輸入された木をみることができますが、こうして「自分たちの土地には本来何が生えていたのか」を知ることはとても意義のあることですね。

朱雀の庭入場券をゲートに入れて、まずは「朱雀の庭」へ。視界に飛び込んでくるのはこの光景!

ー う、うわ〜〜〜〜!!!

三浦:綺麗ですよねえ。朱雀の庭は、日本の庭園技術の結晶といっても過言ではありません。手入れが端々に施され、意図的に美しい景観をつくりあげています。

ー この、まずは2階から全体を眺められるというのがいいですね。手前の木、そして最低部に池、向こうに丘と森が伸びている。なんというか、多層構造的な景色が美しいです。

三浦:そうですよね。その多層構造的な空間づくりが特徴的な建物が京都にはもうひとつあるんですがご存知ですか?

ー なんでしょう……?

三浦:じつは、京都駅がこの庭の光景と非常に似ているんです。

朱雀の庭

三浦:京都駅中央口に入ったら、向かって左側のエスカレーターを上がってみてください。上がりきったところから全体を見下ろすと、まさにこの多層構造の庭と同じ光景になっているんですよ。

ー ほうほう。

三浦:上から見ると改札がある中央口は池の底です。ハスをモチーフにしたステージ状の構造物がその上に浮かんでいて、視界を水平に伸ばすと伊勢丹などが入っている西口が丘のように見える。京都駅を設計した原広司さんは、駅という建物のなかに巨大な庭をつくりあげたんです。

ー 庭ですか……! 知らなかったです。こんどあたらめてじっくりみてみよう。

三浦:この「朱雀の庭」ができたのが1995年、そして京都駅は1997年に完成しています。互いにリンクし合っているんですよ。「京都の街にそぐわない」とかよく言われますが、僕個人としてはすごく好きな建物ですね。

朱雀の庭庭を見下ろせる高さから、遊歩道を下って池のそばまで降りてゆきます。

サルスベリとニチニチソウむせかえるようなピンク色の花々が緑に映えます。

ー 緑だらけの庭にピンク色が差し色で入っているのが印象的ですね。

三浦:サルスベリとニチニチソウですね。意図的に配置した色が綺麗ですよね。

ー なんだかもう、綺麗すぎて極楽浄土みたいです……! 今は夏の時期なので「緑×ピンク」の色合いですが、秋になるとモミジが色づいてまた様相が変わるんだろうなあ。四季折々の姿を楽しめますね。

朱雀の庭庭の外周には、川のせせらぎが。

三浦:池および、庭の中に設置された小川や滝の水は循環しています。静的な池の水、動的な川の水、コントラストをもうけているのが特徴です。

ー メリハリをつけて見る人を飽きさせないんですね。力を入れるところと抜くところのメリハリが効いているのが、日本の庭という感じがします。

三浦:水の流れだけではなく、植えた木々で視界をとところどころ遮って飽きさせない仕掛けもしてあるんですよ。見えないけれどせせらぎは聞こえるので「ああ、川が流れているんだなあ」とわかる。さらにあるくと視界がひらけて、水の流れそのものが姿を見せるんです。

朱雀の庭自然そのままではなく、かといって自然を殺すでもなく、絶妙な塩梅と計算でつくられる日本庭園の妙……!

朱雀の庭「朱雀の庭」から、里山のような一角を抜けて「いのちの森」へ。

ショウジョウトンボ池の淵にショウジョウトンボが飛んでいました。冴えるような赤が美しい。

1000年前にタイムスリップできる「いのちの森」

いのちの森いよいよ「いのちの森」へやってきました。

三浦:細部まで計算された「朱雀の庭」とは違い、「いのちの森」は計算をしないことで完成された森なんですよ。

ー 原初の森をつくるために、植えたらそのまま手つかずにしていると?

三浦:もちろん、庭の見回りや最低限の管理はしていると思います。でもわざわざ木を切ったりだとかそういうことはしていないんです。

いのちの森木でできた歩道を歩いて森のなかに入っていきます。

ー 鬱蒼としていますね。

三浦:「いのちの森」は「都市空間に京都の太古の森を復元する」をテーマにつくられました。下鴨神社の糺の森など、市内に残る原生林を調査し、そこに生えている木を各地から集めて植樹し、森をつくりあげたんです。

ー へええ……。すごいプロジェクトだ。

三浦:開発によって行き場を失った木の受け入れ先にもなったんですよ。1996年に京都市営地下鉄の東西線が開通しました。その際、伐採しないといけなくなった御池通のケヤキの木をここに移植したんです。

いのちの森この深い森が京都駅のすぐそばにあるなんて信じられません。

三浦:地元生まれ、地元育ちの木はやっぱり強いんですよ。その土地の在来種だけで構成された森は、なかなか外来種が入ってこれません。たった25年で、人の足跡なんてなかったかのように生い茂る。他所の木ではここまで繁茂しませんね。

ー 雄大でもあり、土地に合った植物たちは人の制御ができないんですね。自然の恐ろしさも少し感じます。

三浦:そうなんです。「森を守ろう」ってよく聞くじゃないですか。たしかに自然保護は大切ですけど、サイクルのスピードを人間が凌駕しさえしなければ、木は人間よりもずっと強いんです。人の手によって森が破壊もされていますが、木はどんどん街を森へと還そうともしている。

ー それがあの街々にいるワイルドな木々たちなんですね。

三浦:「自然は守ってあげないと」という人間の驕りみたいなのを、ワイルドエノキやワイルドケヤキたちは教えてくれるんですよ。

いのちの森

三浦:動物と違って樹木は「芽吹いた場所で一生を終えなければいけない」という宿命を背負っているんですよね。

ー 制約の多い宿命だ。

三浦:頭上を見上げるといろんな木が空へ向かって伸びていますよね。お互いの葉っぱが重ならないように、上手に生えていると思いませんか?

ー 確かに……!

ケヤキ枯死したわけではなく、木の意思で落とされた枝。

三浦:根づいた場所で一生を終える木は、生きることに合理的な選択をとります。このケヤキなんかは左側の枝が落ちていますよね。これは病気で枯れてしまったのではなく、ケヤキ自身が枝を落としたんです。

ー そんなことがあるんですか?

三浦:このケヤキの横にはヤマモモが生えています。ヤマモモは年中青い葉が生え続ける樹種です。秋に葉を落とすケヤキとしては、横にヤマモモがいると日光の取り合いに不利なんですよね。だからヤマモモ側の枝はもう落として、別の方向に枝を伸ばそうと決めたんです。

ー 木って頭がいいんですね……!

三浦:植物は生まれる場所を選べないからこそ、多様さを殺さないように自分たちの成長を自在に調整して生きていくすべを知っているんです。この感受性の高さは素晴らしいですよ。スパコンにも負けないんじゃないかなと僕は思っています。

いのちの森

梅小路公園

住所:京都市下京区観喜寺町56-3((公財)京都市都市緑化協会 梅小路公園管理事務所)
電話番号:075-352-2500(おもいやり駐車場(交通弱者用):075-321-7776
アクセス:市バス33・特33・58・86・88・205・208「梅小路公園・JR梅小路京都西駅前」下車すぐ、JR嵯峨野線「梅小路京都西」駅下車すぐ、JR京都駅より徒歩約15分
営業時間(朱雀の庭・いのちの森 ):9:00~17:00(最終入場16:30まで)
定休日(緑の館及び朱雀の庭・いのちの森):月曜日(祝日の場合その翌日)、年末年始(12月28~1月4日)
入園料:無料(公園)、200円(朱雀の庭・いのちの森)
ホームページ:http://www.kyoto-ga.jp/umekouji/

※新型コロナウイルスの影響により、営業時間が異なる場合がございますので、事前に施設HPまたはお電話にてご確認をいただきますようお願いいたします。

ja.kyoto.travel

旅を終えて

三浦さん

ー おもしろかった……! 開発が進んだ京都の、こんなすぐそばに手つかずの自然が育っていたことも驚きですし、街のあちこちに森へ還ろうとする木のダイナミックさを感じることができました。

三浦:よかったです。普段もまいまい京都でこういったツアーをおこなっているので、興味があればぜひ調べてみてください。これをきっかけに、街の中にある森の気配を感じる人が増えたら嬉しいなあと思います。

アゲハチョウ


三浦さんいわく、梅小路公園は京都の街なかにある「隠れた秘境」。雑然としているけど理を持ったワイルドに生きる植物たちの楽園です。手つかずの自然が都市のすぐそばにあることにきっと驚くはず。京都駅からの散策も含め、足を運んでみてくださいね。

 

企画編集:光川 貴浩、長谷川 茉由(合同会社バンクトゥ)、平山 靖子
ライター:平山 靖子
バナー作成:金原 由佳(合同会社バンクトゥ)
写真撮影:牛久保 賢二

取材した人:三浦 豊(みうら ゆたか)

三浦 豊(みうら ゆたか)

森の案内人/庭師。建築家を目指して日本大学芸術学部へ進学するが、庭の魅力にひかれ、卒業後は庭師を目指して聴風館造園研究所に入所。その後、日本の森や木々を知るために研究所を退所し、日本中の森をフィールドワークで巡る。現在は、庭師のかたわら「森の案内人」として、「まいまい京都」などでツアーをおこなっている。 また、2020年9月から、森に関するオンラインサロン「森と〜」を開始。毎週木曜日の20時から1時間、写真とスライドトークを展開中。著書に『木のみかた 街を歩こう、森へ行こう』。
公式WEBサイト:https://www.niwatomori.com/

この記事を書いた人:平山 靖子(ひらやま やすこ)

平山 靖子(ひらやま やすこ)

関西を中心に活躍するwebライターのひとり。「おかん」の愛称で人気を集め、多くのフォロワーを持つ。担当する記事はカジュアルで親しみやすいものが多く、京都に長く在住するからこその情報を提供する。




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