【Street Guide】山科疏水-木村克己さん(トレイルランナー)

エリアごとに独特の文化や歴史が色づく街、京都。たくさんのガイドブックがこの地の魅力を語っていますが、それが全てではありません。旅を忘れられないものにする、驚きや発見。その地を自分の足で巡り歩いた人だけが見つけられる、知られざるスポットがまだまだあります。

※Street Guideシリーズは、外国人観光客向け京都観光オフィシャルサイト「Kyoto City Official Travel Guide」にも掲載しています。

https://kyoto.travel/en/street/index.html

 

今回、町を案内してくれるのはトレイルランナーの木村克己さん。林道や登山道など、未舗装の道を、もろともせずに走り抜けるアスリートです。またプレイヤーのみならずコーチとしても活躍中。「きむかつコーチ」の愛称で親しまれ、険しい道のりを楽しむトレイルランの魅力や、身体を動かすことの喜びを発信しています。

案内人:木村克己(きむら・かつみ)

かつてはトライアスロンでオリンピックを目指すほどだった木村さん。27歳の時に交通事故で足首に後遺症を負ってしまい、そこでリハビリがてらに出会ったスポーツがトレイルランでした。それ以来、これまでのタイムに縛られる競技とはまったく違う奥深さに心酔。季節を肌で感じたり、鳥のさえずりに耳を傾けたり、仲間と交流したり、五感を研ぎ澄ませてその場を楽しむことを知ったそうです。

歩く、走るという行為を単なる移動手段ではなく、感性を豊かにするものにまで押し広げるトレイルランナーの木村さんと一緒に自然豊かな山科エリアを散策します。最短ルートばかり目指して疲れてしまいがちな現代の社会、普段なら意識せずに通り過ぎてしまいそうな道を、木村さんはどのように感じ取るのでしょうか?

山科疏水エリアの特徴

御陵駅からスタート

山科疏水沿いは四季折々の色づきを楽しめます

 木村さんも大好きだと語る山科エリア。春は桜が、秋には紅葉が山を彩り地元の人から愛され、多くの観光客でも賑わいます。そんな山科を、京阪京津線 / 地下鉄東西線の御陵駅からスタートして、琵琶湖第一疏水に沿って1時間程度のコースを歩きます。

 スタート地点である「御陵(みささぎ)」という地名は「天皇の墓」を意味します。西暦538年から西暦710年の飛鳥時代を治めた天智天皇の御陵が山のふもと、駅から10分程度の距離にあるからです。自然も豊かな御陵のすぐ傍を、琵琶湖疏水が横断し、自然豊かな様相を見せています。また三条通から南へ歩いて5分程のところに伸びている道はかつて交通の要であった東海道。古くから人や物が多く往来し、日本の歴史でも重要な役割を果たしてきました。ほかにも日本の初期モダニズム建築である栗原邸や、日蓮宗本圀寺なども点在。美しい自然と重層的な歴史の断片がすぐそこにあるのが山科という町の魅力です。

意識していなかった感覚と向き合う

木村さんの撮ったチェキは思わぬ視点を提案してくれます。

「遠征や旅行のときは、必ず走ります。その町の人の暮らしや価値観を感じることができる気がするんですよ」と木村さんは語ります。身体を動かしたぶんだけ感受性が促されるらしく、五感を研ぎ澄ませて走るトレイルランナーならではの発想に驚かされます。

「刺激が変わると思考が変わります。デスクワークが捗らない時に僕は色んな履物で外に出て気分転換します。ランニングシューズとサンダルと厚底靴では感覚が全然違います。感覚が変われば発想も変わるんですよ」と、日常での取り組みを交えて身体と頭が繋がっていることを力説してくれました。

この遊歩道は信号もないので、足をとめられることはありません。徹底的に自分の五感と向き合うことができそうです。

「木漏れ日の不規則さも美しいし、日陰にも日陰の落ち着きがあります」と解説しながら写真を撮る木村さん。天気や季節はスマートフォンで確認するものではなく、自分の肌で感じて判断するものなのだという当たり前の事実に気づかされます。何気なく過ごしていると見落としがちな変化を楽しむのが本当に上手な人です。

沿道から眺望する山科盆地

天智天皇陵を越えると今度は南側に山科盆地を一望することができます。実はこれは冬ならではの風景。桜や楓といった木々も落葉して見通しが良く、空が青く澄んでいる冬だからこその眺めです。夏は木々が茂って市街地は見えませんが、涼しくて植物の活気あるみずみずしい空間になるそうです。意外にも山科の歴史にはあまり触れない木村さん。「知っているともっと面白いですけれどね。でも知らなくても感じられるものがあります」と意気揚々。座学ではなく身体で感じるのが大切なのだと実感します。

静に春を待つ枝葉にも目を向けてみる余裕が生まれます

「冬のこの乾燥して澄んだ空気がまた良いですよね。僕はトレイルランをはじめてから鼻が利くようになったんですよ。妻の香水の違いとかもそれまでは全然わからなくて」と恥ずかしそうに話す木村さんはどこか嬉しそう。それまで意識していなかった感覚が研ぎ澄まされることで人とのコミュニケーションが増えて生活が豊かになる一例を示してくれました。

感性を磨くと心が自由になる

木村さんは未舗装の場所も軽やかに走り抜けます

地元の人々にとっても憩いのスペースです

トレイルランナーにとって、地面はすべて道になります。僕たちが歩く場所をときに大きく外れて、舗装されていない疏水の柵のそばを走り抜けます。

慌てて筆者もそれに続くと、柔らかい感触が足裏を包み小気味の良い音が耳を撫でます。落葉だ。革靴の上からでもたしかに感じることができました。普段はまったく感じない刺激が新鮮です。こんなに情報量の多い感覚を普段は一切無視していたことに驚きます。この感動をそのまま伝えると木村さんは「こうするともっと面白いですよ!」と、裸足になって駆け出していきます。

足の裏で感じる新たな刺激

緩やかに弧を描く沿道に木漏れ日が差し込みます

「自然」と一口に言っても様々。視線を下ろすとまた違った景色が。

裸足になっても木村さんの俊敏さはさっきまでと変わりません。筆者も真似てみます。痛い。まず最初に反射的に感じるのは足裏の刺激。さっきまで平気で踏みつけていた石や砂利が、今度は反対に私を踏みつけてくるかのようです。地元の人がランニングコースとしても利用する疏水沿いの平坦な1本道。平坦だと思い込んでいた道は、ソール越しには感じられなかった凹凸がありました。木村さんは跳ねるように前に進みます。まったく追いつけないのですが、そんな自分の運動音痴さも含めてなんだか楽しい。「行動で心が解き放たれる」というのはこのことかと実感しました。

疏水エリアをあとにして、三条通まで南下して山科駅へ。革靴を履いて市街地へと戻ります。自然の中を歩き、一度は裸足になった直後は町の見え方が違います。傾いた日が美しく、下校する子どもの声にも頬が緩んでくる。緑の中で自分自身と向き合い、感受性を豊かに耕すきっかけが、山科疏水に隠されています。

木村さんの目線で切り取られた山科疏水エリア 


ライター:川合裕之
写真:岡安いつ美
取材:2020年2月

記事を書いた人:ANTENNA

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