生粋の京女が語る「京都流の涼のとり方」

夏は蒸し暑く、冬は底冷え。京都の気候を端的に表した言葉です。京都は山で囲まれた盆地のため、空気が循環しづらいためだそうです。もっとも、京都の美しい四季の眺めは、この寒暖差のおかげという説もあります。

夏の京都観光を満喫するためには、暑さ対策が必須。そこで生粋の京女である鳴橋明美さんに、おススメの避暑スポットや、京都らしい夏のしつらえなど、京都流の涼のとり方について教えてもらいました。

鳴橋さんは先祖代々300年も西陣の京町家にお住まいで、伝統産業である京くみひもや飾り結びを取り扱う「鳴橋庵」を営むかたわら、おばんざいやお祭り、京ことばなど暮らしに根づいた京文化を伝える「京都上京KOTO-ことつぐの会」の会長をされていらっしゃいます。

※鳴橋さんは普段づかいの京ことばでお話くださっています。はんなりとした京ことばを味わいながらお読みください。

おすすめの避暑地はどこですか?

貴船の川床や鴨川の納涼床は、しょっちゅうは行けへんので、私は近所で自然を楽しむことにしてます。例えば京都御苑。市街地にあるとは思えんほど静かな場所です。朝夕は格好のお散歩コース、お昼ごろでも日陰の土や草原はひんやりとしていて、近所の人が木陰を探してベンチに座ったり、コロンと寝転がったりしたはりますね。江戸時代、今は草原になっているところにはお公家さんの家がぎっしりと並んでいました。そんな昔の風景を思い浮かべながら涼むのもええもんです。また、京都御苑の南から3分の1あたり西側には「出水の小川」という水場があります。流れている水は地下水なのでかなり冷たいです。子どもが小さいころ、油照りしてるような日でも外で遊びたいて言うて困りましたが、そんな時はここに連れてきて自分も涼むことができましたよ。そやけど、ときに京都の夏は、直火でじっくり焼かれるような炎熱地獄になります。暑さに負けそうなときは、無理せず涼しい休憩所に入ってくださいね。

京都御苑「出水の小川」(環境省京都御苑管理事務所)

外出先で活用できるアイテムは何ですか?

持ち物で涼しくなるものと言うたら、間違いなく扇子です。扇子も団扇も涼しくしてくれますが、やっぱり扇子はコンパクトさに勝るので、外出先では必需品です。それに、扇子は人をオシャレに見せてくれる道具。隣の人が浴衣の帯に差した扇子を抜いてあおいだら、チラッと横目でついチェックしてしまいます。両端の扇骨にちょっと透かしの彫刻がしてあったりしたら、「おしゃれやなぁ」と思ってしまいます。京都には老舗の扇子店が多いですが、私のおすすめの扇子店は、「宮脇賣扇庵」京都本店さん。文政6年創業の老舗の雰囲気が漂う店構えから一転して、中はモダンな内装。迷うほどたくさんある扇子が、意外にもお手頃価格で購入できるのが嬉しいポイントです。2022年は2階の天井画制作120周年記念ということで、素敵な匂い袋がいただけるのも注目です。



京都ならではの「夏の味」。おススメのお店はありますか?

私のおすすめは「入山豆腐店」さんと「京やさい佐伯」さんです。入山豆腐店は、大豆をおくどさん(かまど)で炊いて作る京都でもほんまに少ないお豆腐屋さん。京都の豊富な地下水を使ったお豆腐が有名ですが、最近はそのお豆腐を使ったスイーツがSNS上で評判になってます(火木土のみ販売)。 「トッフル」と名前の付いたお豆腐入りワッフルはヘルシーで食べ応えがあり、午前中に売り切れてしまうくらい人気なんやとか。もちろんお豆腐と揚げ豆腐は絶品で、観光客の方は持ち帰りやすい揚げ豆腐をたくさん買うて帰らはるそうです。私をふくめ京都人の大好物なので、ぜひ味わってもらいたいですね。

京やさい佐伯は京都市内西部、西ノ京で何代にもわたって、有機野菜と露地栽培にこだわった野菜を作ったはります。東京からも噂を聞いて来られるという、知る人ぞ知るお店なんですよ。私のお気に入りは普通の大きさの倍はある大きなきゅうり。毎年夏になると佐伯さんの店先に出るのを待ってます。普通のキュウリと種類が違うそうですが、どうやって食べると思いますか?皮をむき、種をとり、お出汁と薄口しょうゆ、みりんで炊くのです。これをあんかけにして冷たく冷やして、おろししょうがを添えていただきます。冬瓜と似てますが、キュウリのほうが実がしっかりしていて煮崩れることもありません。瓜は身体の熱を取り、しょうがは冷え過ぎを防ぐので、とてもバランスの取れたおかずですね。暑いときに口当たりも良うて、食べると身体がシャキッとしますよ。

また、これからのおすすめの野菜は、農薬ほぼ不使用のおなすと鷹峯とうがらしやそうです。おなすは柔らかいし、辛味がほとんどない鷹峯とうがらしは肉厚で食べ応えがあって、上品な甘みも感じます。きゅうりもこれらもすべて夏が旬の京野菜。夏バテ防止に役立つ美味しいおくすりやと思って食べていただきたいです。

夏をのりきる京都らしいイベントはありますか?

夏のイベントは今年も不規則な開催予定になりそうですが、私のおすすめは、827日(土)、28日(日)の13時~20時に行われる「モノノケ市」。嵐電の「妖怪電車」を手掛ける河野隼也(こうのじゅんや)さんがプロデュースする、妖怪をテーマにしたアートフリマです。メイン会場となる大将軍八神社は、平安京の四方を守る方除け・風水の神様として作らはった由緒正しい神社。心霊スポットの多い京都でも妖怪を扱うイベントは少ないので、妖怪ファンが全国から集まって来やはります。千年の昔、「百鬼夜行」で一条通を行進したような鬼や妖怪に会えるかも。夏の終わり、夜の神社の妖怪はちょっと怖いけど、神様ちゃんと守ったはります。安心して涼みに行ってくださいね。

ここからは「京都での暮らし」について、お聞きしました。

 京町家は涼しい」といわれますが、実際のところどうなのでしょうか?

暖房で温められる冬ではなく、蒸し暑い夏を基準にして作られているのが町家の特徴です。町家はよう風が通るので冬はものすごく寒いですが、夏はその空気の動き具合がちょうどええ塩梅になっています。西陣にある私の実家は町家で、べんがら格子の内側がガラス戸になってることから、その戸を少し開けるとすぐに風が入ってきます。そんなことしたら外から丸見えになる、って思わはるかもしれませんが、町家は光の入るところが少なく、中が暗くて見えへんのですよ。

毎日の暮らしのなかで工夫されていることを教えてください。

朝は多くの家が自宅前の掃除をして、夏はまだお日さんがきつく照ってないうちに水を撒きます。その風が町家の通り庭から裏庭まで一気に通り抜けるんです。通り庭に掛けている暖簾がほぼ横になるくらい風が通ってそれは涼しいもんなんですよ。昔は夕方、まだお日さんが沈まんうちに水を撒いても涼しかったもんですが、今はアスファルトなので、撒いた水がお湯になって熱風へと変わります。それに、今の暑さは町家にとっても想定外なので、どうしてもエアコンの力は必要です。エアコンの効率を上げるため、大きな「よしず」や「すだれ」を掛けて家に当たる熱を遮っていますが、これも京都人の昔の知恵を活かせてるのかなと思っています。

京都は夜でも蒸し暑い日が続きますよね?

昔であっても、打ち水をしてもやっぱり家の中は暑かったのでしょう。そこで、夕方になるとあちこちの家から人が出てきて、外に置いてある床几(しょうぎ)に座って涼んでました。路地(ろうじ)の奥ではステテコ姿のおじいさんが、団扇であおぎながら近所の人とお話してる風景がよく見られました。エアコンとは違う自然の風は身体にも優しいし、それで風邪をひくことも無かったです。そして、晩御飯の時になってもどうしても暑いようやったら、「なんか冷たいもん食べよか」ということになります。そこで出てくるのがおそうめん。これは今でもそうですね。冷やしたおそうめんをショウガ・シソの葉・ミョウガ・ゴマなどでいただきます。ホンマに質素に見えるけど、これが実は身体をうまいこと冷やして、夏バテ予防となります。ショウガやシソの葉は体温を下げ、ミョウガはむくみを取って食欲を出してくれる。ゴマは質の良いたんぱく質が摂れます。ホンマ昔の人は賢うて、暑さから身体を守る食べ物をよう分かったはったんですね。

最後に京都を訪れる観光客の方にメッセージを。

その土地その土地の暮らしに接するのも旅行の醍醐味のひとつです。蒸し暑さではヨソさまの県に負けないと自負する京都の夏ならではの過ごし方や生活の知恵を味わっていただければ嬉しく思います。

 

いかがでしたか。鳴橋さんは「特別な場所に行かなくても夏の京都を楽しめることを知ってもらいたい」と仰っていました。名所を巡る京都旅行もよいのですが、人出が多い場所は暑さがこたえます。暮らしに溶け込む夏の一日をゆったりと過ごす。そんな京都の味わい方もあるんだと鳴橋さんの日常が教えてくれました。

記事を書いた人:鳴橋明美

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鳴橋庵 店主・京都上京KOTO-継(ことつぐ)の会 会長  形になりにくい文化(お祭・京都のおかず・伝統工芸・京ことば)の継承のお手伝いをする「京都上京KOTO-継の会」会長。「能舞台フェスタ in 今宮御旅所」実行委員会会長。組紐とお抹茶体験を鳴橋庵店舗にて行っている。合間合間に京都のお話を挟みつつ、楽しく体験していただけます。著書「京都人度チェック~年中行事~」は京都新聞でも取り上げられるなど好評発売中。
鳴橋庵HP

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