初心者でもわかる能と狂言~京都で伝統芸能に触れてみよう~

能・狂言というと、なんとなくイメージはあっても、詳しくは知らないという人が多いのではないでしょうか。今回は、そんな初心者の方に向けて、能と狂言についてわかりやすく解説します。

能と狂言はどう違うの?

能と狂言は、中世に流行していた猿楽(さるがく)から派生して生まれた、いわば兄弟のような芸能で、能と狂言をセットにして「能楽」と呼ぶこともあります。

鎌倉時代初期、物まね芸を中心とした滑稽な寸劇であった猿楽に、歌や舞の要素を取り入れ、物語性のある歌舞劇へ発展させた「能」が生まれました。能が人気を博し、瞬く間に広まる一方で、もともとの猿楽らしい滑稽な劇も人々に愛され続け、「狂言」と呼ばれるようになりました。つまり、猿楽の寸劇の芸術性を高めたものが能、滑稽さを追求したものが狂言といえます。


以下では、能と狂言それぞれについて、もう少し詳しく紹介します。

能とは

能は、能舞台という専用の舞台で行われる歌舞劇です。「能は引き算の芸術だ」という言葉があるように、舞台には基本的に何も置かず、演者の洗練された動きや声、音楽で情景を描き出します。

能では主役のことを「シテ」といいます。シテは、面を付け、美しい衣裳を着て舞を舞います。シテと応対する役は「ワキ」といいます。シテは演目によって幽霊や精霊である場合もありますが、ワキはいつも生きている成人男性で、面を付けずに演じます。

能では、シテを演じる人の集団(シテ方)と、ワキを演じる人の集団(ワキ方)は全く別のグループで、それぞれに流派があり、シテ方の役者はずっとシテのみを、ワキ方の役者はずっとワキのみを演じ続けるのだそうです。「今日は〇〇流の能を見に行く」というときの○○流というのは、シテ方の流派のことをいいます。

能の演目の中には、一般によく知られた話も多くあります。例えば、演目「葵上」は、光源氏の正妻である葵上への嫉妬に狂った六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)が、鬼女となって葵上を呪い殺してしまう、という源氏物語の中の有名なシーンを描いたものです。また、「鞍馬天狗」は、春の鞍馬山を舞台に、牛若丸と鞍馬山の大天狗との交流が描かれます。

初めて能を見に行かれる方は、題材となっている物語のあらすじを事前に読んでいくことをお勧めします。その上で、まずは、あの世とこの世が「曖昧」になった空間に浸り、演者の所作やお囃子、装束などの美しさを味わってみましょう。

狂言とは

狂言は、中世の庶民の暮らしを描いた、会話中心の喜劇で、能と同様に能舞台の上で演じられます。

狂言では能と異なり、神や動物などに扮するとき以外は面を付けません。また、登場人物には「葵上」などの固有の名前がないことが多く、「太郎冠者(たろうかじゃ)」(主人に仕える使用人のこと)や「大名」「女」などの役柄で呼ばれます。

狂言では、人間だけでなく、色々な動物も登場します。例えば「蚊相撲」には、相撲が得意な男に化けた蚊の精が登場します。また、「柿山伏」は、修行から帰る途中の山伏が、お腹がすいて道中の畑の柿の木に登って柿を食べていたところ、それを見つけた畑主が山伏をからかって『あれは鳥だ』『猿だ』などわざと間違ったことを言い、正体を隠したい山伏が鳴きまねをして誤魔化す、というストーリーです。

また、狂言の世界には「猿に始まり、狐に終わる」という言葉があります。狂言の家に生まれた子供は4歳頃に初舞台を踏みますが、その時の役は必ず演目「靭猿(うつぼざる)」の小ザルです。セリフはなく、タイミングを見計らって「キャー!」と鳴き声を上げます。その後経験を積んでいき、20歳頃に「釣狐(つりぎつね)」で老狐と化けた僧侶の2役をしっかり務めることができたら、一人前の狂言師として独り立ちします。先ほどの言葉は、その修行の過程を表したものです。

狂言は、能と比べて1曲が短いので、現代でいうコントやバラエティー番組を見るような気楽な気持ちで鑑賞してみましょう。もちろん、大笑いしても大丈夫です!

京都市内の主な能楽堂、能舞台

京都には、能舞台や能楽堂がたくさんあります。京都御所近くの金剛能楽堂、平安神宮近くの 京都観世会館は、毎月たくさんの公演が行われています。また、河村能舞台大江能楽堂も街中にあり、年数回の定期公演が行われています。

京都の社寺には古くから常設の能舞台を持っているところが多く、特に西本願寺の北能舞台は現存する日本最古の能舞台で、国宝に指定されています。南能舞台も重要文化財で、毎年5月21日の親鸞聖人の降誕会には祝賀能が舞われます。また八坂神社の能舞台は、毎年1月3日に初能奉納が行われ、たくさんの人でにぎわいます。

金剛能楽堂

イベント案内

各能楽堂で行われる能の公演の他にも、ちょっと変わった能・狂言に関連するイベントがありますのでご紹介します。

京都薪能(たきぎのう)

平安神宮の境内で、薪を灯し、能を鑑賞する京都薪能は、京都市と京都能楽会によって昭和25年(1950)に始まりました。毎年6月1日・2日に行われ、今では京都の初夏の風物詩としてすっかり定着しています。

京都薪能

壬生狂言

これまで説明したいわゆるプロが行う能楽の狂言とは別に、京都では、民俗芸能として伝承されてきた「大念仏狂言(だいねんぶつきょうげん)」というものがあります。壬生寺の壬生狂言はその一つで、他には引接寺(いんじょうじ)の「ゑんま堂大念仏狂言」や清凉寺の「嵯峨大念仏狂言」がそれに当たります。
地元の「壬生大念仏講」の人たちによって行われ、能楽の狂言とは一味違う野趣あふれる雰囲気が人気です。壬生狂言は、セリフが無く、全てパントマイムで行われるのが特徴で、毎年春の大念仏会(4月21日から9日間)のほか2月と10月にも公開されます。

 

最近では、各所で初心者や子ども、外国人にもわかりやすい入門公演や能楽体験などを多様なプログラムが実施されています。

金剛流特別企画 幽玄な舞台芸術 能楽体験

金剛能楽堂にて、能楽の歴史や能舞台、能面・能装束について学びます。また、実際に能舞台に上がり、謡(うたい)や舞(まい)の体験をすることができます。
実施日:2023年6月11日(日)、9月10日(日)※要予約

ご予約は以下をご覧ください。
金剛流特別企画 幽玄な舞台芸術 能楽体験|【京都市公式】京都観光Navi

日本伝統文化入門公演~ギオンコーナー

毎年春に祇園甲部の芸妓舞妓による「都をどり」が開催される祇園甲部歌舞練場に隣接する祇園甲部歌舞練場小劇場では、毎夕「日本伝統文化入門~ギオンコーナー~」が開催されています。
ギオンコーナーでは、狂言や能(能は時期によっては文楽に変更)はもとより、京舞、雅楽、茶道、華道、箏といった7つの日本の伝統文化や伝統芸能を約1時間で身近に鑑賞できる施設として、国内外の観光客に親しまれています。
公演日:毎日18:00~、19:00~(二回公演)

ギオンコーナー|【京都市公式】京都観光Navi

まとめ

能・狂言を楽しめる視点は様々。京都では能舞台も多く、能・狂言と出会えるイベントもたくさん!毎日上演している施設もあるので、京都観光のプランに組み入れてみてはいかがでしょうか。能ではあの世とこの世の曖昧な空間を感じて、狂言ではバラエティー番組を見るような気持ちで、ぜひ気軽に楽しんでみてくださいね。

さらに興味を持った方はぜひ、京都市発行のデジタルブック『能楽入門の入門』も読んでみてくださいね。
能楽の入門の入門

 

記事を書いた人:千賀 佳織

青森県出身のきもの伝道師 兼 ライター。母の実家が小さい呉服店であったことから、幼少期より着物に興味をもち、就職を機に京都に移住しました。着物や京都の文化を学ぶ日々を過ごしています。わかりやすく親しみやすい記事を目指しています。お気に入りイベントは天神市。

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