【京都一周トレイル®公式】深い木々の古道を越え、里山に泊まる(京北コース編)

f:id:bankto_htn:20201207112518j:plain※「京都一周トレイル」®は京都一周トレイル会の商標登録です。ご利用される前には事前にご連絡をお願いします。

京北は京都市の北部に位置する山間の地です。ここに整備されている京都一周トレイル京北コースは市中の外縁部をまわる他のコースから離れ、全長約34.8kmの周回路を中心に4本の枝道を有するトレイルとなっています。古くから北山杉の産地で、他のコースに比べて山は深くなります。長いコースの中から、もっとも市中に近い細野口をスタートして余野(よの)、大森西町、中江と集落をつなぎ、農家民宿に1泊するコースをご紹介。山間が続く、京都と若狭を結んだ古道「西の鯖街道」や、紅葉に色づく京北の山々を歩きました。また、2日目は京北の中心部でもある周山地区にも少し足をのばします。

今回、コースを案内してくれたのは京北で生まれ育った林業家で、国体山岳競技の京都府代表にもなった登山家の塔下守さん。2005年4月1日に京北が京都市に編入されてから、地元京北の山々を知ってもらおうとトレイルの整備を中心になって進めた人でもあります。

京北コースマップ※京都一周トレイルコース全体図はこちら

ルートと所要時間

【ルート】
1日目:細野口〜滝又の滝〜茶呑峠〜パラグライダー離陸場跡〜賀茂神社〜農家民宿ほろろん
2日目:農家民宿ほろろん〜ウッディー京北
所要時間:約7時間(約16km)

※所要時間(距離)は目安です。観光・散策時間(距離)は含まれていません。
※本記事は11月に取材しています。日没を考えて、余裕をもったスケジュールを立てましょう。
※途中で体調が悪くなった場合は、無理せずエスケープ(コースから離脱)しましょう。

各コースの公式ガイドマップを、京都駅ビル2階の京都総合観光案内所(京なび)などで販売しています。
ガイドマップ販売店舗一覧:https://ja.kyoto.travel/tourism/article/trail/stores.php

この記事にも登場する「道標」の番号やトレイルのみどころなどを掲載した、トレイル歩行時必携の公式ガイドマップです。
トレイルを歩く前にはぜひご購入ください!

※ガイドマップの売上は、コースの維持補修費用に充当しています。

京都一周トレイルコースの詳しい情報は、京都一周トレイルサイトへ。

1.落差25mの3段の滝を仰ぎ見る

西日本JRバス「細野口」バス停〜滝又の滝
所要時間:約1時間
道標:京北1〜京北4

京都駅発着のJRバスは市中から高雄を通り京北に入ります。バス停「細野口」で下車して、目印の元細野小学校の校舎へ向かって少し歩くと、京北コース周回路の起点であり終点の道標1番があらわれます。ここでは、トレイルを歩く人のために敷地内トイレが利用可能です。

京北コース道標3番

道標2番からしばらく林道を歩き、道標3番まで来ると鉄製の橋がかかっています。橋を渡った先に延びているのが「滝又の滝」へ続く道です。奥へ奥へと歩くと、やがて「滝又の石仏」が並ぶ石畳の道になります。道を進んでいくと、右手に滝又の滝へつづく道がありますので、見落とさないようにしましょう。

滝又の滝

川を溯るように谷間を歩いて行き当たるのが滝又の滝です。最上部から滝壺までの合計の高度差は25m。最上部からの水の流れは、滝、岩の上、滝、岩の上、滝というふうに、滝また滝となるため、「滝又の滝」の名がつけられたとも。紅葉の時期はとくに美しい景観になります。滝の見学道はトレイルコースから少しだけはずれますが、案内表示にしたがって歩くと道標4-1番に出てトレイルに戻ることができます。

2.狭い谷間の林道を歩いて余野の集落へ

滝又の滝〜余野
所要時間:約50分
道標:京北4-1〜京北9

京北コース

京北は、かつての丹波国(現在の京都府北部)南東端の地域。丹波高地の真っ只中なので、市中の外縁部も自然が豊かだとはいえ、やはり、奥へ奥へと入っていくと他のコースとは別格の山深さです。そこに古くからある街道や山仕事のための小道をつなぎ合わせて京都一周トレイルの京北コースとなりました。「少し目を離すと自然の力で道が崩れたり、草木に覆われて道が隠れたりしてしまうところを、私たちが整備しています」と塔下さん。

余野

峠を登り、さらに下ると山間の小さな集落、余野(よの)の家並みが見えてきます。道標8番の先には獣害防止フェンスがあり、それを開けて先に進みます。周囲を深い山に囲まれた田畑は、集落の方々が手塩にかけて作物をつくっています。それを狙ってシカやイノシシが下りて来るのを防ぐためです。京北コースには、獣害防止フェンスを開けて先へ進むところが何箇所かあります。各集落の人たちが心を込めて育てているお米や野菜を守るためのフェンスですので、開けたら必ず閉めるようにしましょう。

3.磨き丸太に仕上げられる北山杉の森を抜けて

余野〜大森西町
所要時間:約50分
道標:京北9〜京北13

北山杉

京北は林業がさかんです。これだけ都市部に近い環境で、林業が成り立っている地域は日本の中でもそう多くはないでしょう。さまざま樹種がおり重なってつくる低山の自然林も魅力的ですが、人が植え、世代交代しながら長い年月をかけて育てた、手入れの行き届いた杉や檜の森もきれいです。

かつて京の都のさまざまな造営を、京北の木材が支えました。山々から切り出された木材は、上桂川の流れに乗せる「筏流し(いかだながし)」という方法で都へ向かい、神社仏閣や町家などの建造物として都そのものを形づくりました。

磨き絞丸太

古くから京都で産する銘木は北山杉。京北コースのいたるところで見られます。北山杉の中でも「磨き絞丸太」と呼ばれ、細いくぼみが幾重に走るもの。床柱など化粧材になります。ある程度大きくなった杉の幹に、細い材を当てて金網を巻いておくと、木が成長にするにしたがって幹にくぼみができます。こうして磨き丸太はつくられているそうです。

台杉仕立て

トレイルを歩いていると、塔下さんが沿道の杉に目を止め、説明してくれました。「太い株から、何本かに分かれて幹が伸びているでしょう。これは京都北山の独特の育樹法で、台杉仕立てといいます。切り株に残った枝を太く、大きく育てていくことで、1本の木から多くの丸太(垂木=たるき)をとることができるんです」。この台杉仕立ては、京北コースのいろいろなところで見られるそうです。ぜひ、古人の工夫によって育てられた不思議な木を探してください。

4.山々の中腹にある古道「小浜街道」は落葉でふかふか

大森西町〜茶呑峠〜竜ヶ坂峠
所要時間:約1時間40分
道標:京北13〜京北18

紅葉

道中には、ふとこんな景色も。杉の緑だけでなく、紅葉の季節には、木々の隙間からオレンジに染まった山を覗き見ることができます。

西の鯖街道

道標13番の大森西町の集落から谷沿いに峠までたどり、その中腹を西、そして北へ伸びるトレイルは、京都と若狭の小浜を結ぶ小浜街道です。東の大原街道に対して若狭の魚を運んだところから「西の鯖街道」とも呼ばれています。崩れやすい崖を石垣で補強した場所は古道の証拠。登りも緩やかで、中腹まで登ってしまうとアップダウンが減り、さすがに往来があった街道、とても歩きやすくなります。しかも落葉でふかふか。クッションが足に伝わって気持ちがいいです。

5.パラグライダー離陸場跡から大展望を堪能

竜ヶ坂峠〜パラグライダー離陸場跡
所要時間:約50分
道標:京北18〜京北D1〜京北18

パラグライダー離陸場跡

道標18番から枝道を上がっていくと北西の斜面が小さなスキー場のように切り開かれた場所に行き当たります。ここは、パラグライダーの離陸場としてつくられました。現在は使われておらず、何も施設は建っていません。木のない斜面が広がるこの場所ですが、京北の山々と里の集落がおりなす大パノラマが待っています。自分の足でようやくたどり着いた景色は、感動も倍増です。

竜ヶ坂の二石仏

圧巻の景色を楽しみつつひと休みしたら、道標18番に戻ります。上桂川の河畔へと下りはじめる手前に、「竜ヶ坂の二石仏」がありました。木の根本に石を積んでつくられた石窟にふたつの石仏が安置されています。向かって左が地蔵菩薩、右が大日如来。ともに18世紀中頃につくられたといわれています。旅人の往来で賑わった昔を偲ぶ史跡。かつて石仏の近くに茶店まであったそうです。

6.ゆっくり下山の後は賀茂神社にお参りして中江の集落へ

竜ヶ坂峠〜賀茂神社〜中江
所要時間:約40分
道標:京北18〜24

竜ヶ坂の二石仏から先のトレイルは、道標24番まで一気に下ります。この間の標高差は約300m。今回ご紹介するコースでは、いちばんの難所です。コース後半での難所は、長い距離を歩いてきて疲れもたまっているので気をつけて進みましょう。とくに下りは1歩、また1歩と踏み込んで歩きます。ともかく安全第一。ゆっくりいきましょう。

賀茂神社

山道を下りきる寸前にパワースポットがあります。うっそうとした杉木立の中へと導かれるように伸びる緩やかな登りの参道。賀茂神社です。

賀茂神社

創建年代は定かではありませんが、1000年を超えているのではないかと考えられています。宮司さんは常駐していませんので、たいていは無人。まさに森閑とした秘めやかな空間で、最近にわかに人気が高まっているとも。

京北コース道標24番

山を下り終えて里の風景が広がる道標24番。ここは山国地区中江の集落です。ここからトレイルはしばらく舗装道です。車も通りますので、ご注意を。

7.山国の元庄屋の古民家を目指して上桂川沿いを北へ

中江〜農家民宿ほろろん
所要時間:約1時間10分
道標:京北24〜京北34

上桂川

舗装道を進み、亀ノ甲橋で上桂川を渡ると、トレイルは河沿いを北に伸びています。山国という地区名があらわす通り、河畔まで樹木が迫り下りていました。道標31−1からは河川敷です。ところどころで岩を越えていきますが、トレイルはおおむね平坦な道です。

農家民宿ほろろん

上桂川が大きく湾曲しているところから、対岸を見渡すと大きな茅葺の屋根が見えるはず。そこが、この日のゴールの「農家民宿ほろろん」です。京北では珍しくなってしまった茅葺古民家。こちらは、かつてのこのあたりの庄屋さんだったところ。現在の建物は築年数は220年以上で、その前の建物は一説によると明智光秀に攻められた際に建て直したものだったとか。山とともにある昔ながらの京北の暮らしを存分に体験できる貴重な民宿です。

8.農家民宿で食材のありがたさを知りながら1泊

農家民宿ほろろん
道標:コース外のため道標なし

「農家民宿ほろろん」では、民宿のご家族といっしょに料理をするのがルールです。野菜は主に京北の地で採れたもの、そのほか、健康的な地鶏、アマゴ、アユなどは、地産地消。地鶏の捌き体験ができることもあります(宿泊予約時に要確認)。都会ではなかなか実感できない、命をいただいてこそ命をつなげるのだ、という当たり前のことに気がつくはず。

井戸から汲み上げた伏流水

水は伏流水を井戸から汲み上げて使っています。

八角形の囲炉裏

玄関を入ると広い板の間。そこに大きな囲炉裏が切ってありました。民宿の方々といっしょに刻んだ鶏肉と野菜は、ここで調理していただきました。八角形の囲炉裏は、どこからでも全員を見渡せるのが大きな特徴。顔を見ながら食が進めば、民宿の方々とのお話も自然にはずむことでしょう。薪の炎は焚き火を囲うかのように身体も温まってきます。都会では味わえない農家民宿ならではの食事です。

納豆餅

朝食もいっしょにつくります。この日は、自家製の「納豆餅」でした。納豆を混ぜた餅は、京北の名物。納豆の塩味がすでにあるので、醤油などをつけずにいただけます。京北では黒砂糖をつけて食す風習があるそうです。ご主人のおすすめはバター焼きで、バターの風味もよくマッチします。ストーブで焼くのも農家らしい姿です。

じつは、京北は関西における納豆発祥の地との説があります。京北の地に納豆が誕生したのは光厳法皇という北朝初代天皇が関わっていたとされ、現在の常照皇寺に落ち着いた法皇は、毎日のように村人からワラに包んだ煮豆を献上されていたようです。あるとき、日がたって糸を引き始めた煮豆に法皇は塩をふって食べたそう。これが納豆の始まりといわれています。

農家民宿ほろろんの朝食

納豆餅にくわえ、地元の野菜、魚、採れたての卵など、朝からお腹いっぱいいただきました。

ほろろんのご主人・河原林成吏さんと宿主を務めている娘のより子さん

ほろろんのご主人・河原林成吏(かわらばやし しげり)さんは表具師ですが、丹波踊りの指導や地元の寺社のガイドも務めています。お話はとてもおもしろく、いまも先祖から受け継いだ田畑を耕し、宿主を務めている娘のより子さんとお米や野菜をつくっています。とても貴重な建物は、京都市内から研究者も訪ねて来るほど。屋根用のカヤもご自分たちで育てています。

そんなおふたりに見送られ、帰路につきつつ、せっかくなのでもう少し京北の里を満喫していきます。

9.京北の名物に舌鼓を打ち、おみやげを買う

道の駅ウッディー京北
道標:京北S13

京都市中へ戻るJRバスの乗り場がある周山に向かいましょう。周山までの行き方はさまざま。宿によっては車で送迎してくれる場合がありますのでお泊りの際はご相談してみてください
他には、トレイルを道標34番から逆にたどり、道標26番から車道をハイキングする方法(約3時間)や、京北地域で運行する「ふるさとバス」を利用する行き方もあります(ただし、本数は少ないのでご注意ください)。

道の駅ウッディー京北

京都市中に戻るJRバス「京北合同庁舎前」停留所に近接している「道の駅ウッディー京北」は京北の物産が集まる場所。地域の方々のつくった食材から工芸品まで、バラエティー豊富にそろっているので、お土産を買うのに最適です。帰りのバスの待ち時間を使って、ぜひ立ち寄ってください。

鯖寿司

さすがに西の鯖街道の沿道だけあり、鯖寿司を販売しています。市中では軽くしめた鯖を乗せたものが主流で、山間は焼き鯖寿司が主流だったといわれます。ウッディー京北では、両方を揃えていました。食べ比べをしてみても面白いかもしれませんね。

納豆ジェラート

京北では、今でも納豆づくりがさかん。ウッディー京北には、地元の納豆を使ったジェラートも売っています。まろやかなバニラアイスに、ほんのり広がる納豆の風味。クセになるお味でした。

ウッディー京北のある周山エリアには、酒ケーキなどを販売している和洋菓子店の「亀屋廣清(かめやひろきよ)」、黒毛和牛のステーキがいただける「登喜和(ときわ)」、地酒の試飲ができる「羽田酒造」など他にもたくさんのグルメスポットもありますので、バスまでの時間にぜひ立ち寄ってみてください。


京都市の北部に位置する京北コースでは、古くから自然と共生する人々の知恵と暮らしを垣間見ることができます。今回のルートでは、磨き丸太や古道の石垣、農家民宿など、町なかではめったにない出会いや体験がたくさんありました。ぜひみなさんも、自然いっぱいの京北の里山に訪れて、素敵な思い出をつくってくださいね。

今回登場したスポット

※新型コロナウイルスの影響により、営業時間が異なる場合がございますので、事前に各スポットHPまたはお電話にてご確認をいただきますようお願いいたします。

農家民宿ほろろん
住所:京都市右京区京北大野町廣畑45
電話番号:075-853-0113
宿泊料(1泊2食):1名利用ひとり12,600円、2名利用ひとり11,800円、3名利用ひとり11,000円、4名利用ひとり10,000円、5名利用ひとり9,000円 ※最大5名まで
ホームページ:https://www.facebook.com/hololon.garden/

道の駅ウッディー京北
住所:京都市右京区京北周山町上寺田1-1
電話番号:075-852-1700
営業時間:9:00〜18:00
定休日:年末年始(12月29日〜1月3日)
ホームページ:https://fuw.jp/woody/

 

企画編集:滝沢守生(株式会社ヨンロクニ)、光川貴浩、長谷川茉由(合同会社バンクトゥ)
ライター:藍野裕之
モデル:塔下守、坂本若菜
バナー作成:金原由佳(合同会社バンクトゥ)
写真撮影:外山亮介、光川貴浩(「農家民宿ほろろん」の朝食)
協力:京都一周トレイル会、塔下守

一緒にめぐった人:塔下 守(とのした まもる)

塔下 守(とのした まもる)

京北山国地区に生まれ育ち、京都府立大学に在学中は山岳部に所属。国体山岳競技の京都府代表に選ばれたこともある。大学卒業後は林業家となり、山と樹木に精通するようになった。京北自治振興会では京北トレイル部のリーダーを務め、京都一周トレイル京北コースの開設に尽力し、現在もトレイルの整備の陣頭指揮を執っている

この記事を書いた人:藍野 裕之(あいの ひろゆき)

藍野 裕之(あいの ひろゆき)

ライター・編集者。山岳雑誌、アウトドア雑誌、旅雑誌などに関わってきた。東京に生まれ育ちながら、4年前に一大決心をして憧れだった京都に移住。比叡山の麓に暮らしている。京都一周トレイル東山コースの北部は普段の散歩道でもある。好物は鯖寿司。


観光に関するお問合せ
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