【京の夏の旅】特別公開の堂本印象アートをめぐる。スタンプラリーで特典も。

京都では毎年夏に「京の夏の旅」キャンペーンが行われていることをご存知でしょうか。京都市と京都市観光協会が主催し、7月から9月の間、普段は見られない文化財が特別に公開されたり、観光バスの運行やガイドツアーなど、この時期だけの楽しい旅の企画が実施される取り組みです。

2024年は「世界遺産登録30周年」と「京の名建築と夏の庭」をテーマに寺院など8箇所で建造物や寺宝などが公開されています。この記事では2025年に没後50年を迎える日本画家・堂本印象(どうもといんしょう)の作品を公開中の仁和寺(にんなじ)と智積院(ちしゃくいん)にスポットを当ててご紹介します。

“日本画”と聞くと、かたい、難しい…といったイメージを抱く方もいるかもしれませんが、堂本印象の画風はとても幅広く、特に晩年の作品は装飾的で色鮮やかな抽象表現。趣深くも心踊るような世界感です。

百聞は一見にしかず、早速出発しましょう。
京都府立堂本印象美術館から仁和寺、智積院をめぐるルートです。

▶︎おすすめルート
京都駅から京都市バスまたは西日本JRバス高雄京北線でバス停「立命館大学前」下車(約30分〜45分)。徒歩1分で京都府立堂本印象美術館へ。
 ↓
バス停「立命館大学前」で京都市バス、または西日本JRバス高雄京北線に乗り、バス停「御室仁和寺」下車(約7〜8分)。徒歩1分で仁和寺へ。
 ↓
バス停「御室仁和寺」から京都市バスを乗り継ぎ「東山七条」停下車(約1時間)。徒歩1分で智積院へ。

京の夏の旅キャンペーン 詳しくは特設サイトをご確認ください。
https://ja.kyoto.travel/specialopening/summer/

堂本印象を知るにはまずはここから。京都府立堂本印象美術館

バス停「立命館大学前」で降りると、眼前に異彩を放つ白い建物が現れます。京都府立堂本印象美術館です。同館はその名の通り日本画家・堂本印象の作品を収蔵し、公開する美術館。

堂本印象は、自身の居宅の隣に美術館を設立しました。

明治24年(1891)、京都で生まれた堂本印象は、京都市立美術工芸学校を卒業すると染織業を営む龍村平藏(たつむらへいぞう)の工房で図案を描きました。20歳で父親が亡くなると、図案仕事に内職も加えて懸命に働き、家族を養いながら日本画家を志します。やがて帝展、日展など、名だたる展覧会で高い評価を得るだけでなく、油彩画、陶芸、染織、茶道具など、多岐にわたってその才能を開花させていきました。

堂本印象美術館は昭和41年(1966)に自らが設立したミュージアム。平成3年(1991)に京都府へ寄贈されてからも年3〜4回のペースで展覧会などが催され、印象はもちろん、印象ゆかりの作家作品や、他の美術館との共催など、幅広い視点で多くの美術品を世に紹介しています。

美術館の様子。印象がデザインした木製の椅子(写真左)。ガラス戸の取手にも印象の作品が(写真右)

展覧会と共に注目いただきたいのが建物です。外壁や窓枠、内装の壁面、扉や照明の装飾に至るまで、デザインはすべて印象が手がけました。つまり建物自体が巨大な “印象アート” なのです。

しかもその当時、印象は75歳。齢を重ねてもなお美を追及しつづけるエネルギッシュな創造力に圧倒されます。展覧会のみならず、建物から印象の気概も感じられる、日本でも貴重なミュージアムと言えるでしょう。

そんな多彩な印象作品をモチーフにしたクリアファイルや缶バッジなどのグッズも定評がありますが、中でも近年人気は特製羊羹「光る窓」です。同館のガラス戸にあしらわれている印象の絵をモチーフにした麗しい羊羹で、その透明感、キラキラとした風合いを再現した京の菓子職人の技にも脱帽です。

実際に堂本印象作品の粋を見て感じて、さらにはグッズにもときめいていただきたいので、ここでは詳細な写真は伏せておきます。ぜひ足をお運びください。

<基本情報>
京都府立堂本印象美術館
京都市北区平野上柳町26-3
開館時間:午前9時30分~午後5時(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(祝休日の場合は開館し、翌平日に休館) 及び 年末年始(12月28日~1月4日)※その他、展示替えなどで臨時休館することがあります。
入館料:一般510円(400円)/高大生400円(320円)/小中生200円(160円)※( )内は団体料金(20名以上)・小学生以下の方は無料です。
https://insho-domoto.com/
※駐車場はありません。
※京都府立堂本印象美術館は「京の夏の旅」の観光施設とくとくサービスの対象施設です。「京の夏の旅」リーフレットおよびホームページの画面提示で入館料が割引になります。

▽観光施設とくとくサービスについては以下をご確認ください。https://ja.kyoto.travel/specialopening/summer/presents.php

平安王朝の面影残る門跡寺院で、格調高い堂本印象作品と出合う

さて、堂本印象の基本に触れた後に訪れたいのは世界文化遺産・仁和寺です。京都府立堂本印象美術館からバスに乗って7〜8分。バス停「御室仁和寺(おむろにんなじ)」で降りると荘厳な二王門、金剛力士像が迎えてくれます。

広大な境内。参道から見た二王門(写真左)
屋根が五層ともほぼ同じ大きさの五重塔(写真右)

同寺の起源は平安期。光孝天皇が寺の建立を発願したことに始まります。その遺志を継いだ宇多天皇が仁和4年(888)金堂を創建。やがて31歳で譲位し、出家した宇多天皇は、仁和寺に御室(僧坊)を営み、修行に励んだといいます。以後、明治維新までの千年もの間、同寺は門跡寺院として皇室から代々住職を迎えていました。真言宗御室派の総本山です。

御殿の入り口

今回の「京の夏の旅」で特別公開しているのは二王門の北西にある御殿とその庭園です。中でも御殿内にある黒書院は、およそ3年にわたる修復工事を終えたばかり。その完成を記念して黒書院内では堂本印象が描いた「竹図」「柳図」など多数の襖絵が披露されています。

白砂敷きの南庭。左が勅使門。右奥には二王門が見えます。

御殿に入ると視界に広がるのは右手の南庭(なんてい)に風雅な唐破風(からはふ)屋根の勅使門(ちょくしもん)。これは天皇、あるいはその使者が来た時にしか開かない特別な門で、門扉の優美な彫刻が施されています。現在、舞台のようにせり出した特設回廊があるため、通常よりも近くで鑑賞できるのも嬉しいところです。

宇多天皇の掛け軸が静かに見守る宸殿、上段の間。

さらに奥へ進むと、御殿で最も重要な建物で、明治以後の木造建築としては設計、施工ともに最高峰の1つと言われる宸殿(しんでん)が現れます。部屋の内部には入れませんが、廊下からでも明治期の画家・原在泉(はらざいせん)による絢爛な障壁画などを鑑賞できます。一角にさりげなく、将棋の竜王戦の資料展示があるのも仁和寺ならではですね。

かなり近くまで見ることができます。

その宸殿と霊明殿(れいめいでん)とを結ぶ回廊の途中に黒書院があります。明治時代に建てられたもので、昭和6年(1931)宇多天皇千年御忌の記念事業として、堂本印象が52面の襖絵を納めています。現在も黒書院を構成する6室すべてに堂本印象の襖絵があり、「松鷹」や「秋草」など、襖絵の画題が部屋の名になっています。

スズメやウサギのほかに、鷹やサギなど、随所にかわいい動物が登場。

入室は限られますが、ほとんどの襖絵を間近で鑑賞することができます。印象の落款印もしっかりと見てとれるほどです。

力強い筆致で描かれた松や柳の枝ぶり、墨の濃淡の妙によって表現された奥行き、そして梅花や萩のそばにちょこんと佇むスズメやウサギなど。宸殿に比べれば侘びた風情の黒書院ですが、生き生きと描かれた動物たちによって各部屋には穏やかな生命の営みが息づいていました。

中でも愛らしいリスが描かれた「竹図」には意表をつかれました。日本画の伝統的なモチーフの竹とコミカルな表情のリスが見事に調和した襖絵でした。

7代目小川治兵衛が改修した北庭。右側に見えているのは宸殿(写真左)
スタンプラリーを忘れずに(写真右)

黒書院の襖絵を描いた時の堂本印象は40代で、毎年のように開催される帝展、日展などへ出品するかたわら、京都、東京、岐阜などから寄せられる障壁画の制作依頼を多数受けており、当時の日本画家の中では珍しかったようです。

そんなおびただしい数の創作活動の中で、竹とリスを取り合わせるような新たな創造を生み出しつづける、好奇心が旺盛な人だったのでは、そんなことを想像しました。
黒書院のどこかにリスがいます。ぜひ探してみてください。


さて、次は七条エリアにある智積院へ向かいます。

その前に「京の夏の旅 涼味スタンプラリー」のスタンプを忘れずに入手。「京の夏の旅」では、対象の2箇所を拝観してスタンプを集めると、指定の場所で甘味や冷たいドリンクを無料でいただける “冷たいちょっと一服” 特典があります。興味のある方は各箇所の拝観受付などで、スタンプ欄付きのチラシ(上記写真右)を入手してスタンプを集めてください。

今回の旅でどんな特典が受けられたかは記事の最後で紹介します。

<基本情報>
第49回京の夏の旅 仁和寺 御殿・庭園
開催日程:2024年7月12日(金)~9月30日(月)
時間:9:00~17:00(16:30受付終了)
料金:大人(大学生以上)1,000円/高校生以下 無料※通常公開部分を含む
*期間中、「御殿・庭園」と「霊宝館」のセット券(大人1,300円/高校生以下無料)「御殿・庭園」と「御影堂」のセット券(大人1,500円/高校生以下無料)もあります。

第49回京の夏の旅 仁和寺 御殿・庭園|【京都市公式】京都観光Navi
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=10031

時代を先取りした唯一無二の世界観。名刹で見るモダンな襖絵

智積院は京都駅から東の方向、七条エリアにあります。仁和寺からは京都市バスなどを乗り継いでおよそ1時間。下車したバス停「東山七条」のすぐ前にあります。

同寺は、およそ3000の末寺を擁する真言宗智山派の総本山。

門の奥に見えるのが講堂(写真左)。取材時、境内には桔梗が咲いていました(写真右)

鎌倉期に興教大師(こうぎょうだいし)が高野山で真言宗を興隆し、やがて現在の和歌山県にて根来寺(ねごろじ)を開創したのですが、桃山期に入ると、この根来寺は豊臣秀吉によって焼き討ちに遭います。当時の学頭・玄宥僧正(げんゆうそうじょう)と多くの学僧たちは、その難を逃れて京都・東山へ。そこで智積院を再興したと伝わります。

座って思い思いの過ごし方をする参拝者。

それでは早速、中へ入っていきましょう。交通量の多い東大路通沿いにありながら、境内はその喧騒を忘れるほど静か。美しく整えられた石畳を通って講堂、そして大書院(おおじょいん)へ。

大書院の中に入ると広い座敷があり、参拝者は皆、外に向かって座っていました。視線の先は利休好みと伝わる名勝庭園です。

庭を目前にすると、なるほど確かに腰を据えて鑑賞したくなる、寛容でおおらかな気に満ちていました。奥にこんもりとした小高い丘のような山があり、その手前に池が広がる池泉鑑賞式庭園です。

庭は中国にある名山・廬山(ろざん)の景色を模したものと伝わります。石組みと植え込みが点在する野趣あふれる雄大さの中にも、素朴さ、ありのままを包み込むような優しさがあり、まるで奥深い山に佇んでいるような癒しを感じました。とうとうと滝の水が岩に当たる音や、池の鯉がじゃぶんと跳ねる音も一服の清涼感。いつまでも眺めていられる名庭園でした。

特別公開中の宸殿へ(写真左)。院内には随所に桔梗の紋が(写真右)

堂本印象の襖絵があるのは、大書院の奥にある宸殿です。昭和33年(1958)に賓客を迎えるための館として建てられました。通常は非公開です。その宸殿内の3室を飾る襖絵を、という依頼で同年、堂本印象が26面の襖絵を納めています。中でも必見なのが一番奥の部屋にある「婦女喫茶図(ふじょきっさず)」です。

2人の女性は印象の姪がモデルです。

まず目に飛び込んでくるのは、その色使い。ゴールド、ピンク、グリーン、パープルなどを多用した煌びやかな世界で、実に斬新です。気品漂う2人の女性がテーブルでお茶を嗜んでいます。

仁和寺で見た襖絵は伝統的な水墨画でしたが、智積院の襖絵は同じ作者とは思えないほどの画風の転換です。

それもそのはず。堂本印象は61歳の折に、半年かけてイタリア、ドイツ、フランスなどを旅し、西洋画に多大な影響を受けて帰国。その後、次第に抽象表現へと移行していったといいます。「婦女喫茶図」が納められたのは67歳ですから、この作品にはヨーロッパ仕込みの進取の気風が込められているのでしょう。

また堂本印象は制作において、智積院が所蔵する長谷川等伯一門の障壁画「楓図」「桜図」(いずれも国宝)を意識したとも言われています。「100年ぐらいは悪口を言われるだろう」という覚悟のもと、尊敬と対抗の意を込めて制作に携わったのだとか。思いっきりモダンに描く印象の挑戦の心が感じられます。

そうして改めて襖絵と対峙すると、散りばめられた遊び心、和と洋のコントラストが見えてきました。

テーブルの左に座る着物姿の女性は柄杓(ひしゃく)を持ち、前に座る洋装の女性にお茶を点てようとしています。立礼式(りゅうれいしき)と言われる茶道の作法ですが、よく見ると足元は洋風のサンダル。自邸の庭でしょうか。

その様子を軽く手を組みながら眺めている洋装の女性。前髪を切り揃えたヘアスタイルもモダンで、聡明な面立ち。

2人の頭上にあるのは茶道で使われる野点傘(のだてがさ)。傘にあしらわれた桔梗の意匠は加藤清正由来の紋で、智積院の寺紋。

彼女たちの背景に描かれる色とりどりのデフォルトされた植栽はまるでお菓子のようです。

夢中になるほどに楽しい想像が膨らむ、まさに軽妙洒脱な襖絵。間近で見られるのも希少な機会ですので、建物ごと、空間の美を体感していただきたいです。

「楓図」は息子を亡くした長谷川等伯の哀惜の念がにじむ傑作。必見です。

堂本印象が意識したと言われる長谷川等伯一門の国宝・障壁画は宝物館で見ることができます。「京の夏の旅」期間中は、宸殿と宝物館をセットで拝観できるお得な共通券(大人1,200円、小学生600円)も販売中。ご興味のある方はこちらもチェックしてみてください。

<基本情報>
第49回京の夏の旅 智積院
開催日程:2024年7月12日(金)~9月30日(月)
時間:10:00~16:30(16:00受付終了)
料金:大人800円/小学生400円※2023年4月にリニューアルオープンした宝物館(長谷川等伯の国宝襖絵収蔵 大人500円/中高生300円/小学生200円)は特別公開ではありませんが、「京の夏の旅」期間中お得なセット券で拝観できます!(宝物館は7/31のみ拝観休止)
第49回京の夏の旅 智積院|【京都市公式】京都観光Navi
https://ja.kyoto.travel/event/single.php?event_id=10030


効率良く、涼しくめぐりたい方は定期観光バス「おこしバス」もあります。「Lコース」は今回ご紹介した仁和寺、智積院を含む4箇所をめぐるプラン。京料理の昼食付きです。
もう少しコンパクトにまわりたい方はタクシープランもあります。ジャンボタクシーの相乗りになりますが、仁和寺と智積院をめぐる「Aコース」があります。
バスもタクシーも京都駅発着ですので、アクセスがスムーズで嬉しいですね。
詳しくはWebをご覧ください。
<おこしバス>https://ja.kyoto.travel/specialopening/summer/bus.php
<タクシープラン>https://www.yasakataxi.jp/taxiplan/summer/plan024300.html

最後に智積院の受付で「京の夏の旅 涼味スタンプラリー」、2つ目のスタンプを押してもらったので、智積院茶寮 桔梗で涼味一服。市内をひとめぐりして火照ったからだをリフレッシュできました。
「京の夏の旅」では、対象の2箇所を拝観してスタンプを集めると、指定の場所などで冷たいドリンクや甘味などが無料でいただけます。対象箇所や特典内容などの詳細はWebをご覧ください。
▽京の夏の旅 涼味スタンプラリー
https://ja.kyoto.travel/specialopening/summer/stamp.php
<ご注意>
・仁和寺、智積院は文化財です。素足での拝観はご遠慮ください(靴下を着用ください)
・両寺院ともに下駄箱はありますが、混雑時は靴の取り違えが起きることがございます。靴袋をご持参いただくと安心です。
・祭典・法典や悪天候など、都合により拝観・見学できない日や時間帯が生じる場合があります。最新情報は以下のWEBサイトをご覧ください。

▽京の夏の旅 特設サイト
https://ja.kyoto.travel/specialopening/summer/

参考文献)
「堂本印象 想像への挑戦」(京都府立堂本印象美術館 編、株式会社 淡交社 発行)

記事を書いた人:五島 望

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東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。

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