【祇園祭 記念対談】八坂神社宮司×祇園祭山鉾連合会理事長~4年ぶりの完全斎行に向けて~

毎年7月1日から31日の1か月にわたって行われる「祇園祭」は、京都・東山にある「八坂神社」の祭礼で、なかでも17日と24日に行われる山鉾巡行と神輿渡御は、祭の中心となる祭事としてよく知られています。

2023年、祇園祭はコロナ禍の影響を経て4年ぶりの完全斎行となります。そこで、御祭神を祀る八坂神社の野村明義宮司と、山鉾巡行を担う祇園祭山鉾連合会の木村幾次郎理事長に、祭への思いや意気込み、また祭にあわせて京都を訪れる人々に伝えたいことなどをお伺いしました。

八坂神社宮司 野村明義様 × 公益財団法人祇園祭山鉾連合会 理事長 木村幾次郎様

木村理事長(左)と野村宮司(右)

<Profile>

八坂神社 宮司 野村明義(のむら あきよし) 様
昭和34年(1959年)石川県出身。令和3年(2021年)10月1日付で八坂神社宮司就任。

公益財団法人祇園祭山鉾連合会 理事長 木村幾次郎(きむら いくじろう) 様
昭和23年(1948年)京都生まれ。小学2年で長刀鉾の囃子方に。長刀鉾囃子方副代表、祇園祭山鉾連合会理事、副理事長を経て2019年から現職。悉皆(しっかい)屋「万足屋きむら」3代目。

祇園祭は疫病対策の国家事業だった!?

――そもそも祇園祭や山鉾巡行はどのようにして始まったのでしょうか?

■野村:古く八坂神社は祇園社と呼ばれており、祇園祭も祇園御霊会(ごりょうえ)と言われていました。貞観11年(869)に京の都をはじめ日本各地に疫病が流行した折、天皇の命を受けて始まったのが祇園御霊会です。八坂神社から北西へ4キロほどのところに平安京と同時に造られた神泉苑があり、ここの水は古くから神聖視されていて、雨ごいや厄祓いが行われてきました。この神泉苑へ祇園社から神輿を送って疫病を祓ったのが祇園祭の起源とされています。医療や科学が発達していない時代のことですから国家事業としての疫病対策だったといえます。

八坂神社宮司 野村明義様

■木村:貞観11年の御霊会では、神輿とともに当時の国の数である66か国にちなんで66本の矛を立てたと伝わっています。時代とともにこの矛に装飾が施されるようになり、現在の山鉾巡行の姿になっていきました。室町時代にはすでに町ごとに特色のある山鉾が作られていたそうですが、応仁の乱(1467~1477)で京の都が焼きはらわれ、祇園祭も長く中断しました。しかし、町衆が力をあわせて復興し、山鉾の懸装品(けんそうひん)も競い合うように豪華になっていきました。各山鉾にはそれぞれの町内で独自に守ってきた歴史があり、山鉾連合会はその取りまとめ役を担っています。

公益財団法人祇園祭山鉾連合会 理事長 木村幾次郎様

祭と信仰が人をつなぎ、地域を活性化させる

――祇園祭はなぜここまで人々をひきつけ、長く守り継がれてきたと思われますか?

■野村:神事というのはもちろんですが、古来、祭には地域や町を活性化させるという機能があると思います。疫病で疲弊していたこの国を復興させようと祇園祭が始まったように、たくさんの人が集まって、一致団結して一つのことを行うなかで、祭は「人と人をつなぐ」という役割を担ってきました。そして、その中心に「神さん」がおられるというのがとても大切なことで、信仰によって人がまとまり、地域を盛り立て、そのなかから文化が生まれてきたのだと思います。

■木村:信仰のかたちは人それぞれで、何を大切にして守り伝えるかということについては、互いに尊重し合う文化が日本にはあると感じます。祇園祭は八坂神社のお祭りですが、各山鉾では観音様を祀っていたり、故事に題を取っていたり、御神体もさまざまで、やはりそれらも尊重されてきました。

そういえば、私は祇園さん(八坂神社)の氏子ですが、キュウリの切り口が祇園さんの神紋に似ているから祭の期間中には食べない、という人がありますね。あれはいつごろから言われるようになったんでしょうか?私が子供の頃にはそんな話はなかったんですよ。キュウリが美味しい季節でもありますから、むしろ祇園さんの力をいただくという意味で私はたくさん食べます。みなさんも大いに召し上がってほしい(笑) 

八坂神社の神紋「唐花木瓜紋」
画像提供:八坂神社

4年ぶりの完全斎行に向け、今年の見どころは?

――4年ぶりの完全斎行に向けての思い、また今年の見どころを教えてください。

■木村:2019年に山鉾連合会の理事長になってすぐコロナ禍に見舞われ、2020年、2021年は巡行を見送り、2022年は一部条件付きで巡行を行いました。山鉾巡行といえば交差点で鉾を方向転換させる「辻回し」が見どころの一つですが、2022年は疫病退散の願いを込め四条河原町の辻で、八坂神社さんの境内で汲み上げた「青龍神水」を榊で道に撒き清める儀式を行いました。また今年の山鉾の見どころとしては、ベルギー製のタペストリーを使っていることで知られる「白楽天山(はくらくてんやま)」の前懸が復元新調されています。昨年196年ぶりに復活した「鷹山(たかやま)」では御神体の衣装が新調されていますので、ぜひ注目してみてください。

画像提供:公益財団法人祇園祭山鉾連合会

■野村:私も木村理事長と同じで、コロナ禍での着任でした。そこで疫病を祓うという祇園祭の本来の意義を改めて見直し、「水で 浄化して疫病を鎮める」という自然の原理に立ち返った神事の再興などに力を入れてきました。国宝の八坂神社本殿の地下には「龍穴(りゅうけつ)」と呼ぶ池があるとされております。龍穴は神泉苑の池とつながっているという伝承もあり、2022年から神泉苑に両社寺の水を供えて、互いの境内に水を注ぎ合う「御神水交換式」を始めました。これにより、新たに生まれたのが青龍神水です。また、神輿渡御が行われる17日の神幸祭の翌日から24日の還幸祭まで四条御旅所に御神水が毎朝供えられ、前日の水は鴨川に返すという神事も行います。 さらに水の浄化を期待して氏子地域の各学区で打ち水をしていただくなど、水にまつわる神事から祇園祭の意義について、改めてみなさんに考えていただければと思っています。

画像提供:薬師洋行

祭を訪れる人々に、ぜひ知ってほしいこと

――祇園祭でいちばんお好きな場面は? また祭にあわせて京都を訪れるみなさんに伝えたいことがあればぜひお聞かせください。

■木村:好きな場面を挙げるとすれば、一つはやはり「鉾建て」でしょうか。私は長刀鉾の囃子方を長年やっていますので、四条通に鉾の真木(鉾の中心となる木)が立ち上る姿は感慨深く、何度見ても心が躍ります。最近は巡行だけでなく鉾建てを見学に来られる方も増えていて、懸装品を飾る前には木と木を縛る縄がらみも見ることができておすすめです。

長刀鉾の鉾建て
画像提供:公益財団法人祇園祭山鉾連合会

■野村:私が印象に残っているのは一昨年2021年、コロナの感染予防のために渡御できなかった神輿が、満月のあかりに照らされて夜の八坂神社の舞殿上に据え置かれている姿です。祇園祭は戦さや災害で延期になったことはありますが、疫病で中止にまで至ったことは実は一度も記録に残っていないのです。そんな無念の思いがあの光景に象徴されているようで、撮影した写真をパネルにして飾っています。

神馬と満月
画像提供:三宅徹

■木村:鉾は釘を一切使わず縄だけで組み立てますが、縄の材料になる藁(わら)が入手できなくなっていることや、鉾建てを担う職人が年々減っていることは深刻な問題です。コロナ禍で中断した際には技術が継承されないことを危惧して鉾建てだけを行いました。祭には人づてで伝えられているものも多く、先の第二次世界大戦ではお囃子の継承なども危うくなったと聞いています。祭を行えるのは平和であってこそなんです。また、最近では祇園囃子に対して「うるさい」とクレームを言う人もあるそうですが、人から人へ大切につないできた神様と町衆の絆を尊重していただければと思います。

■野村:山鉾巡行は単なるパレードではなく、神へのご奉仕の思いからみなさんが大切に守ってきてくださったものです。そういった祭の本質を知れば、見物をされていても奥深さを感じていただけて面白いはずです。祭や信仰を大切に守り伝えてきた先人たちに敬意を払い、担う側も見る側もマナーと礼儀を大切にしたいものです。

――祇園祭が神社、そして町衆の方々がつなぎ守ってこられた祭であることを改めてよく考えたいと思います。お二方にはご協力いただき誠にありがとうございました。

対談写真撮影:今村写真場

 

【関連記事】


記事を書いた人:上田 ふみこ

ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。

観光に関するお問合せ
京都総合観光案内所(京なび) 〒600-8216
京都市下京区烏丸通塩小路下る(京都駅ビル2階、南北自由通路沿い)
TEL:075-343-0548
京都観光Naviぷらすの運営
公益社団法人 京都市観光協会
〒604-0924
京都市中京区河原町通二条下ル一之船入町384番地
ヤサカ河原町ビル8階
サイトへのご意見はこちら

聴覚に障がいのある方など電話による
御相談が難しい方はこちら
京都ユニバーサル観光ナビ 京都のユニバーサル観光情報を発信中。ユニバーサルツーリズム・コンシェルジュでは、それぞれの得意分野を持ったコンシェルジュが、京都の旅の相談事に対して障害にあった注意事項やアドバイスを無償でさせていただきます。
京都観光Naviぷらす
©Kyoto City Tourism Association All rights reserved.
  • ※本ホームページの内容・写真・イラスト・地図等の転載を固くお断りします。
  • ※本ホームページの運営は宿泊税を活用しております。