【京都一周トレイル®公式】京都の自然と観光地を小分けで満喫!(東山コース中編)

f:id:bankto_htn:20201027085804j:plain※「京都一周トレイル」®は京都一周トレイル会の商標登録です。ご利用される前には事前にご連絡をお願いします。

京都一周トレイルの東山コースの中編は、清水寺や祇園といった京都市中の中心部の外縁を通るルートをご紹介します。山側からアプローチしてみると別世界。すでに訪ねたことがあったとしても、まったくちがった姿を感じることでしょう。今熊野からスタートして、粟田口で市街地に出た後、南禅寺を経て蹴上から大文字山を登ります。

一緒にコースをめぐるのは、前編に引き続き、スペイン生まれスペイン育ちのマンガ家で、京都の大学を卒業したばかりの若菜さん。町に近いのに自然が豊か。そんな本当の京都の姿をみる旅です。

東山東山の穏やかで美しい稜線は、人の寝姿に例えられ「布団着て 寝たる姿や 東山」と詠まれました。南から北へ向かってなだらかに高さを増し、凸凹をつくりながら山並みは続いて、五山の送り火で知られる大文字山、そして最高峰が北端の比叡山です。

東山トレイルマップ※京都一周トレイルコース全体図はこちら

ルートと所要時間

【ルート1】今熊野〜粟田口/所要時間:約2時間50分(約6km)


【ルート2】蹴上〜鹿ヶ谷/所要時間:約3時間20分(約6km)


【番外編】もう一歩足を運んで。東山コース周辺ガイド

※所要時間(距離)は目安です。観光・散策時間(距離)は含まれていません。
※本記事は8月・9月に取材しています。日没を考えて、余裕をもったスケジュールを立てましょう。
※途中で体調が悪くなった場合は、無理せずエスケープ(コースから離脱)しましょう。

各コースの公式ガイドマップを、京都駅ビル2階の京都総合観光案内所(京なび)などで販売しています。
ガイドマップ販売店舗一覧:https://ja.kyoto.travel/tourism/article/trail/stores.php

この記事にも登場する「道標」の番号やトレイルのみどころなどを掲載した、トレイル歩行時必携の公式ガイドマップです。
トレイルを歩く前にはぜひご購入ください!

※ガイドマップの売上は、コースの維持補修費用に充当しています。

京都一周トレイルコースの詳しい情報は、京都一周トレイルサイトへ。

【ルート1】今熊野〜粟田口
所要時間:2時間50分(約6km)
道標:東山9-1〜東山29

ルート概要:最寄りのJR「東福寺」駅から今熊野商店街を抜け、道標9-1番からトレイルコースに入り、清閑寺へ。お参りをしたあと、清水寺の裏山で高台寺国有林を抜け、将軍塚青龍殿で絶景を拝み、粟田神社のほうへ下山します。ルート上の清水山は標高241mで、少し勾配があります。

東山トレイルマップ

1.低地の紅葉しない森を楽しみながら清閑寺へ

JR「東福寺」駅〜清閑寺
所要時間:約50分
道標:東山9-1〜東山16-1

東山コース

道標9-1番から京都一周トレイル東山コースに入ります。最寄り駅はJR東福寺。道標11番から階段を上がり、山道へ。すると住宅地のすぐ近くなのに、深い森が。「昼間でも結構薄暗い……!」と驚きつつ歩みを進めます。

このあたりは紅葉の多い東山コースの中では珍しく照葉樹が多い自然林。標高が低いからこそある森で、秋になっても深い緑のままです。粘土質で明るい茶色をした道は、湧き水で濡れているとちょっと滑りやすいので注意。 

清閑寺

道標15-1番で一般道に出ました。近くには、京都国立博物館や三十三間堂があります。国道1号線を歩行者用のアンダーパスで横断し、階段を登ると清閑寺に到着です。

清閑寺
真言宗智山派。最初の創建は9世紀のはじめといわれる。一度荒廃し、10世紀に一条天皇の勅命で天台宗の寺院として再建。室町時代には京都の東の入口を護衛する要衝だったため、見晴らしのいい高台にある。古くから文人墨客を集め、清水寺に並ぶほど大きなお寺だったとも。

2.世界文化遺産の裏山である高台寺国有林を抜ける

清閑寺〜粟田神社
所要時間:約2時間
道標:東山16-1〜東山29

東山コース

清閑寺を過ぎて道標16-1番から再び山道に入ります。ここから道標27番の粟田神社の手前まで、南北に細長く広い範囲が高台寺国有林です。前半はちょうど清水寺の東の裏山。世界文化遺産に彩りを添える森です。森の中には京都一周トレイルとは別に国有林歩道が設けられていて、清水寺のほか知恩院・円山公園方面に下っていく枝道になっています。

今回は離脱せずに道標21番の東山山頂公園に出ます。西の京都の中心地だけではなく東の山科の町並みまで見渡せる絶好のスポット。また山中にあるトイレポイントでもあるので、寄っておくと安心です。

将軍塚青龍殿からの景色

青蓮院 将軍塚青龍殿
開山は天台宗を開いた最澄といわれている。1200年以上の歴史がある古刹で、大原の三千院、東山七条の妙法院とともに天台宗三大門跡に数えられる。お寺の本拠は、粟田口にあり、ここは飛地境内。国宝の青不動明王を安置する青龍殿と回遊式庭園と枯山水を合わせた青龍殿庭園、そして市中を望む展望台が有名。

蹴上の町並み

道標25番から道標27番の粟田神社の裏に行く間に、眺望が広がります。北に目を向けると蹴上の町並みの向こうに広がる山々がきれいでした。写真右端の、より高みに延びる稜線は比叡山。

粟田神社

さらに下ると尊勝院があり、境内を出ると、森を出て住宅地に。粟田神社の鳥居の前を抜けると三条通沿いの道標29番に到着。ルート1のゴールです!

粟田神社
祇園の八坂神社と縁深い神社で、9世紀後半に牛頭天王(ごずてんのう)を祀ったのが始まりという説がある。10月初旬の粟田祭は、古くから剣鉾巡行と神輿渡御が行われ、祇園祭の山鉾巡行の原形といわれている。

【ルート2】蹴上〜鹿ヶ谷
所要時間:約3時間20分(約6km)
道標:東山29〜東山48

ルート概要:南禅寺、インクライン、日向大神宮に寄りつつ、大文字山山頂を目指します。山頂からの市中の町並みを堪能したあとは、楼門の滝で涼をとり、鹿ヶ谷へ下ります。大文字山山頂は標高465.4m。ここからのルートはこれまでで最も勾配があります。

東山トレイルマップ

3.南禅寺、そして蹴上インクライン

粟田神社〜蹴上インクライン
所要時間:約20分
道標:東山29〜東山32

道標29番は「粟田口」という地名の通り、かつて都へ繋がる入口の役割を担った場所です。粟田神社から蹴上へ移動。明治時代に琵琶湖の水を京都に引き込むためにつくられた、琵琶湖疏水の遺産が多く残るエリアです。

ねじりまんぽ

道標31番に隣接し、三条通から南禅寺へ抜けるトンネル「ねじりまんぽ」は、琵琶湖疏水の歴史遺産のひとつ。トンネルの上をインクラインのレールが通るため、その重みに耐えられるよう石造を基礎としつつ煉瓦を螺旋状にねじって組んであるのでその名がつけられました。

南禅寺

トレイルコースを少し外れますが、ねじりまんぽを抜けると南禅寺にたどり着きます。
広大な境内に建つ大伽藍は壮観! とりわけ有名なのは巨大な三門でしょうか。江戸時代の伝説の大泥棒、石川五右衛門が屋根まで登って京の都を見渡し「絶景かな! 絶景かな!」とうなったと伝わる南禅寺三門。この逸話は歌舞伎「楼門五三桐」で創作された話です。屋根とはいきませんが、上部への入場は可能(有料)で市中の絶景を見渡すことができます。

南禅寺
鎌倉時代から禅宗を学問の基本に置き始めた幕府は、道場である禅宗寺院に寺格という順位を設けた。その中でも南禅寺は「別格」という特別な順位を与えられた名刹。

水路閣

南禅寺境内にある水路閣。こちらも琵琶湖疏水の歴史遺産です。煉瓦造りのアーチ橋の上を、今でも水が流れています。カエデの緑と、水路閣の赤が反対色で美しいです。

蹴上インクライン

かつて琵琶湖疏水を利用した船による輸送ルートの傾斜鉄道であった「蹴上インクライン」。現在は国の史跡であり、桜並木の名所として親しまれています。インクラインの軌道に沿って延びる京都一周トレイル東山コースを再び歩き始めました。

4.蹴上からパワースポットを目指して

蹴上インクライン〜日向大神宮
所要時間:約20分
道標:東山32〜東山33-3

琵琶湖疏水

インクラインの軌道から離れると、日本遺産・琵琶湖疏水の水門施設に行き着きます。疏水にかかる橋からはレンガ造りの旧御所水道ポンプ室など、明治期の偉大な事業の一端を見ることができます。春と秋には大津まで運航する「びわ湖疏水船」の乗船場にもなっていて、琵琶湖疏水を船の上からめいっぱい楽しむこともできます。


そんな疏水に架かる橋を渡ると、トレイルはいよいよ山道に。「五山の送り火」の「大文字」でまっ先に灯る如意ヶ岳(472m)の前峰にある大文字山(465.4m)へとトレイルは伸びています。

大文字山に多い落葉広葉樹。春に薄緑に芽吹いて新緑を迎え、夏には生い茂る葉が日陰をつくり、やがて萌える紅葉がやってきて、葉が落ちると冬の訪れを知らせます。そんな四季を感じる山々を、古の人々が信仰の場にしたり、思索の場にしたり、自然を愛でる遊興の場にしたのも大いにうなずけます。

天岩戸

大文字山へは、神明山、大日山を越えていきます。神明山を登り始めて約15分、道標33-1番を左に折れると日向大神宮の境内に行き着きます。
東海道を往来した旅人たちも道中の安全を祈願したという日向大神宮。内宮を少し過ぎると「天岩戸」があります。巨岩にトンネルのような洞窟が開けられ、ここを通り抜けることを「ぬけ参り」といい、開運、厄除のご利益があるそうです。大文字山の山頂までの安全も祈りながら、お参りをしました。

日向大神宮
「京の伊勢」と別称されるように、三重県にある伊勢神宮と同じ、神明造という建築様式。茅葺き屋根の上に突き出た千木(ちぎ)、棟に並んだ鰹木(かつおぎ)が特徴。その始まりは古墳時代といわれ、京都の中でも最古級の神社。

5.大文字山の山頂までラストスパート

日向大神宮〜大文字山
所要時間:約1時間40分
道標:東山33-3〜東山45

東山コース道標42

さらに登っていくと不思議な地名が登場しました。「七福思案処」。東の山科からの道、西の南禅寺からの道、大文字山に延びる道が交差しています。昔の人もどちらへ行こうか思案したので、その地名がついたそうです。

大文字山からの眺望

トレイルコースからは外れますが、大文字山の山頂にも少し足を伸ばして行くことができます! 山頂に立つのは、やっぱり最高の達成感がありますね。山頂直下からは展望が開け、京都市中が一望できます。「ニデック京都タワーがあんなに小さい……!」と、今日の自分のがんばりを実感します。もちろん、南禅寺の山門の屋根よりも高いので、ぜひ「絶景かな! 絶景かな!」と叫んでみてください。

6.楼門の滝で涼をとりつつ鹿ヶ谷へ下山

大文字山〜鹿ヶ谷
所要時間:約1時間
道標:東山45〜東山48

大文字山四つ辻に戻り、ここから麓の鹿ヶ谷方面へ。下山時間の目安は、およそ45分から60分です。

鹿ヶ谷へのルートは急勾配の連続。ここを下る場合、陽が暮れると一気に暗くなるため、明るいうちに下れるように下山時間を見込んで計画を立てましょう。踏み跡はつけられていますが、自分でジグザグにルート取りするなど、安全に下る工夫をしてくださいね。

楼門の滝

道標46番を少し行くと、黒い岩肌に白い滝筋をのばす「楼門の滝」が現れます。上段、中段、下段の3段に分かれて流れ落ち、落差は約12m。水量こそ少ないものの、町の近くとは思えない原始の雰囲気があってマイナスイオンをたっぷり感じられるスポットです。

里の風景

道標47-2番を越えると、里の風景に。「同じ町並みでも、頂上からの景色とはまた違って見えますね」と、今回の旅を通して、町にいるだけでは見えない世界に気付くことができました。


 町からのアクセスが良く、山から離脱しやすい東山コース。自然と都市との共生を自分の足で歩きながら考えるという意味では、これほど適したトレイルはないでしょう。ぜひ、自分に合ったルートを楽しんでくださいね。

【番外編】もう一歩足を運んで。東山コース周辺ガイド

鹿ヶ谷から「哲学の道」で見つけた立ち寄りどころ

鹿ヶ谷〜浄土寺
道標:東山48〜東山51

大文字山の麓、道標48番から山裾を歩くと、道標49番で法然院に行き当たります。そこから道標51番までは「哲学の道」と名付けられた遊歩道。明治後半から昭和前半に活躍し、東洋思想と西洋哲学を初めて結びつけた哲学者で、京都大学教授も務めた西田幾多郎が考えながら歩いた小径なので、その名がつけられました。このエリアには、個性的な施設やお店が点在しています。その中から、2つのスポットをご紹介します。

東山の自然をもっと深く知るなら「法然院森のセンター」

法然院森のセンター

法然院は、浄土宗の開祖である法然が弟子とともに修行をしていた草庵が元になった寺院。寺を地域に開き、市民活動にも積極的に支援しており、その活動のひとつが「法然院森のセンター」。市中に近接しながら動植物も多い如意ヶ嶽を中心に東山の魅力を発信する施設です。自然に詳しい研究者、写真家、作家などを招いてセミナーを開くこともあります。運営はNPOフィールドソサイエティーが行なっています。

法然院森のセンター

1階には東山の自然環境を伝える標本や、ぬいぐるみ作家がつくった東山に生息する哺乳類の原寸大作品が。展示された写真から、自分が訪ねた時期ではない季節に、周辺が自然がどんな姿を見せるのか知ることができます。トレイルを歩いて気になった動植物について、スタッフの方々とお話するのも楽しいですよ。

京都でも珍しいおにぎりの専門店「青おにぎり」

青おにぎり

道標49番から西にコースを外れると、ユニークなお店を見つけました! テイクアウトもイートイン(4名以下)もできるおにぎりの専門店「青おにぎり」です。店前にはおにぎりの形をした石を祀る店主自作のおにぎり神社。店内にはおにぎりにちなんだオリジナルグッズや、おにぎりの包みに押す手づくりハンコ作品がずらっと並んでおり、店主のおにぎり愛が伝わってきます。

青おにぎり

羽つき鉄釜で丁寧に炊きあげたご飯を丹精込めて手で握っていただけます。これぞ手塩にかけたおにぎり! 3つ以上からは、テイクアウトをお願いすると竹皮に包んでくれるのもうれしいポイントです。旅、畑仕事、行楽など、古くからお弁当の定番だったおにぎりはまさに日本の宝。トレイル前に立ち寄るのもおすすめです。

今回登場したスポット

※新型コロナウイルスの影響により、営業時間が異なる場合がございますので、事前に各スポットHPまたはお電話にてご確認をいただきますようお願いいたします。

清閑寺
住所:京都市東山区清閑寺歌ノ中山町3
電話番号:075-561-7292
拝観時間:10:00~16:00
拝観料:100円
休日:不確定

青蓮院 将軍塚青龍殿
住所:京都府京都市山科区厨子奥花鳥町28
電話番号:075-771-0390
拝観時間:9:00~17:00
拝観料:500円
休日:なし
ホームページ:http://www.shogunzuka.com/

粟田神社
住所:京都市東山区粟田口鍛冶町1
電話番号:075-551-3154
参拝時間:8:30~17:00
参拝料:境内無料
休日:なし
ホームページ:https://awatajinja.jp/

南禅寺
住所:京都市左京区南禅寺福地町86
電話番号:075-771-0365
拝観時間:8:40~17:00 ※12月~2月は8:40~16:30
拝観料:方丈庭園600円、三門600円、南禅院400円
休日:12月28日~12月31日
ホームページ:http://www.nanzen.net/

日向大神宮
住所:京都市山科区日ノ岡一切経谷町29
電話番号:075-761-6639
参拝時間:閉門なし、社務所は10:00~14:00
参拝料:境内無料
休日:なし
ホームページ:http://www12.plala.or.jp/himukai/

法然院森のセンター
住所:京都市左京区鹿ヶ谷法然院町72-2
電話番号:075-752-4582
営業時間:10:00~17:00
定休日:火曜日、第1・第3月曜日、年末年始(12月28日~1月5日)
ホームページ:http://fieldsociety.la.coocan.jp/ 

青おにぎり
住所:京都市左京区浄土寺下南田町39-3
電話番号:075-201-3662
営業時間:11:30〜18:00
定休日:月曜日、火曜日不定休
ホームページ:https://aoonigiri.com/

 

企画編集:滝沢守生(株式会社ヨンロクニ)、光川貴浩、長谷川茉由(合同会社バンクトゥ)
ライター:藍野裕之
モデル:坂本若菜
バナー作成:金原由佳(合同会社バンクトゥ)
写真撮影:光川貴浩(ルート1)、外山亮介(ルート2、番外編)
協力:京都一周トレイル会、東岳志(「山食音」店主)

一緒にめぐった人:坂本 若菜(Wakaiki)

坂本 若菜(Wakaiki)

マンガ家、イラストレーター(Wakaiki名義で活動)。スペインで生まれ育ち、ストーリー漫画を学びに京都精華大学に進学後、独立。主な作品は、LINEマンガでの連載「Heromask a lot memory」など。日本とスペインで活動中。スペインの友人たちのガイド役を務めるなかで、京都の主要な観光地は「ほとんど巡った」のだそう。
Instagram:https://www.instagram.com/wakaikiart/

この記事を書いた人:藍野 裕之(あいの ひろゆき)

藍野 裕之(あいの ひろゆき)

ライター・編集者。山岳雑誌、アウトドア雑誌、旅雑誌などに関わってきた。東京に生まれ育ちながら、4年前に一大決心をして憧れだった京都に移住。比叡山の麓に暮らしている。京都一周トレイル東山コースの北部は普段の散歩道でもある。好物は鯖寿司。


観光に関するお問合せ
京都総合観光案内所(京なび) 〒600-8216
京都市下京区烏丸通塩小路下る(京都駅ビル2階、南北自由通路沿い)
TEL:075-343-0548
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