北山杉に囲まれた静けさのなか、四季折々の自然美が楽しめる京都・高雄。もみぢ家は、この地を訪れる人々を100年以上にわたりもてなしてきた料亭旅館です。古くから地域の観光振興をけん引してきた老舗でもあり、京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」に選ばれています。時代とともにさまざまなサービスを考案してきた同館では、現在、訪日外国人への対応についても工夫を重ねています。

創業1907年、京都・高雄の魅力を伝え続けて
京都市街の北西、愛宕山系の高雄山の中腹に位置する神護寺。栂尾山高山寺、槇尾山西明寺とともに「三尾(さんび)」と呼ばれ、深い山々に抱かれた三つの寺は、密教の名刹として古くから信仰を集め、秋には紅葉の名所として多くの観光客が訪れます。

神護寺の膝元で明治37年(1904)に創業したもみぢ家は、この地域随一の老舗の料亭旅館として知られ、本館の高雄山荘のほか、清滝川に架かる専用のつり橋を渡ったところに別館川の庵があります。純和風造りの建物と山里の風情に包まれながら、京都ならではの旬の味覚や、夏には川床料理が楽しめます。

現在、同館を切り盛りしているのは六代目の山本雅人さんと、姉で女将を務める浜田いづみさん。旅館業としての創業は明治ですが、それ以前から神護寺領下の庄屋として、また寺の総代として地域をとりまとめてきた家の一つであり、「古くから参拝される方々をおもてなししてきた家だった」と、いづみさんは伝え聞いてきたといいます。
とくに旅館事業の創業者である山本忠兵衛氏は村長を務めた人物であり、明治に入って観光客が増えるなか、地域を守るための保勝会「三尾会」の立ち上げに尽力しました。以来、観光の振興をはじめ、景観や環境の保全などに代々携わり、地域団体と連携して活性化に貢献しています。
明治の先人たちから受け継ぐ、観光と地域社会の共生
創業者の忠兵衛氏は、観光客の誘致や景勝地の風致保存だけにとどまらず、訪れる人々が安心して観光できるよう、暴利を得る茶屋などを取り締まり、風紀の維持などのために地域の中心となって働いたことが記録に残されています。
明治の先人たちの公共心を受け継いで、同館では高雄保勝会に加盟し、積極的に活動を行ってきました。現在は雅人さんが同会の副会長を担っています。

秋の恒例となった「高雄もみじちゃん祭」は、父でもみぢ家会長の山本信さんが同会会長を務めていたころに始めたイベントで、幅広い世代に観光を楽しんでもらおうと、ミニステージやフォトコンテスト、かわらけ投げ大会、川床yogibo体験などの催しのほか、紅葉時期の混雑回避を目的にシャトルバスの運行によるパーク&ライドなどにも取り組んできました。

イベントのシンボルになっている「高雄もみじちゃん」は、地域の大学生を巻き込んで誕生したキャラクターで、ステージにも学生グループが登場。同館も毎年各種イベントの運営に協力しています。

ほかにも保勝会の取り組みとして、京都市建設局との市民共同清掃活動を実施。清滝川沿いの散策路の安全と美観を守るほか、もみじの植栽や海外の都市との交流に携わっており、もみぢ家として地域の祭りへの協力なども長年にわたり行っています。

海外からの訪日客のニーズに応え、花街や市街地ホテル等とも連携
顧客のニーズにも常にアンテナを張って対応し、質の高いサービスをめざしてきました。「舞妓さんに会いたいけれど、お茶屋さんは敷居が高くて…」という声に応え、花街の協力のもと、川床での舞妓との歓談や舞を鑑賞できるプランを始めたのは約40年前のこと。ほかに先駆けた取り組みは大きな話題を呼び、いまも人気のプランとなっています。

さらには同じ宿泊施設である市街地のホテルとも連携し、「泊りはホテル、昼食や夕食を同館で」というプランも展開しています。また、館内施設も常にニーズを捉えてリニューアルし、団体客から個人旅行を楽しむ人が増えるなかで、客室の数を減らしてゆったりと広い間取りにしたほか、客室露天風呂など自然を感じてもらえる工夫を重ねてきました。

コロナ禍の少し前から海外からの旅行客が増えはじめ、高雄の自然の美しさと京都ならではの文化、きめ細やかなもてなしがSNSなどで取り上げられたことをきっかけに人気に火が付きました。現在ではインバウンド需要が利用客の9割に上るといいます。
英語のほか、中国語、韓国語などに対応し、近年ではミャンマーから正社員も採用しています。「彼女たちは多言語に対応できるだけでなく、私どもが代々受け継いできたおもてなしも身に着けてくれています」といづみさん。インターンシップ制度などを活用し、良い人材の確保に努め、質の高いサービスをめざしています。
料理についても、ベジタリアンやビーガン、グルテンフリーなど文化や指向の違いにも柔軟に対応。可能な限り要望に応える姿勢を貫きつつ、日本料理の基本を守り、この国ならではの文化を体験してもらえるように趣向を凝らしています。
また、訪日客には環境問題に関心が高い人も多いことから、リサイクル可能なペットボトル製品を導入するほか、連泊の際のアメニティの追加や寝具の交換が不要な場合に意思表示する札なども用意し、環境負荷の軽減にも努めています。
旅館ならではの目配り、気配りで快適な旅を提供
海外から高雄を訪れる旅行客は、三尾を回遊したり、清滝川沿いにハイキングを楽しんでいます。「みなさまには、山々や寺院が地元の人々にとって神聖な地であることをお伝えするようにしています」といづみさんは話します。

「ホテルと比べると設備面ではかないませんが、お一人おひとりに寄り添い、近い距離で接客できるのは旅館ならでは」と、細やかな目配り、気配りを心掛けています。そのサービスを高く評価する利用客も増えており、「世界中の五つ星ホテルに泊まってきたけれど、ここのもてなしが一番いい、と言っていただけたときには、うれしく誇りに感じました」とさらなるサービスの向上に努めているとか。
いま、一部の観光スポットへの観光客の集中が課題となるなか、「高雄をはじめとする三尾は、季節や時間帯によっては穴場でもあります。そういった情報も発信もしていければ」といづみさん。
高雄を拠点に、金閣寺や嵐山などの観光地をめぐる人には、早朝などの時間帯を勧めるなど混雑を回避する方法をアドバイスすることもあり、京都にはさまざまな楽しみ方があることを提案することも、観光事業に従事する者の務めと話してくれました。
■リンク ◇【京都観光モラル】優良事例集
◇もみぢ家ホームページ
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記事を書いた人:上田 ふみこ

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ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。


