
「京の冬の旅」とは、京都市および京都市観光協会が中心となって展開している、普段は公開されていない文化財の特別公開やバスツアー、体験イベントなどを軸とした観光キャンペーンです。
坐禅体験や酒蔵見学、京菓子や京焼・清水焼のワークショップなど、京都の歴史文化、伝統産業や伝統文化、食文化に触れられるさまざまな企画を通して、毎年、冬の京都の魅力を発信してきました。
そんな「京の冬の旅」が2025(令和7)年度で60回目を迎えました。
60年にわたり「京の冬の旅」へお越しいただいたお客様、ご協力いただいた寺社・施設様、事業者の皆様への感謝とともに、「京の冬の旅」スタートの頃や京都観光の足跡を振り返ってみます。

「京の冬の旅」が始まった60年前、近代から現代までの京都観光
政治や学問、宗教、芸術など、千年以上にわたってあらゆる活動の中心地だった京都は、現在のような交通網が整備されるずっと以前から多くの人が訪れる“旅の目的地”でした。
明治以降、東京が事実上の首都となり、京都は一時的な停滞を経験しますが、勧業政策の重要な柱の一つとして、1871(明治4)年には日本初の博覧会が開かれ、外国人を含む1万人を超える来場者を集めました。これを契機に、「京都博覧会」は以後、毎年開催されるようになります。
さらに1895(明治28)年には、平安遷都1100年を記念して第1回時代祭が開催され、京都の歴史や文化を観光として発信する取り組みが本格化していきます。
1927(昭和2)年には京都駅前に観光案内所が開設。その3年後、京都市には日本の自治体で初めて「観光課」が設けられ、積極的に観光振興が進められました。
終戦後は、“旅が人心に潤いを与える力になる”として、いち早く「観光課」が復活し、高度成長期の旅行の大衆化、修学旅行人気も相まって、日本屈指の観光都市へと成長していきます。

しかし一方で、冬季の観光客減少が長年の課題でもありました。
京都は盆地ゆえに、夏は暑く冬は寒い。また、日本の冬の旅行といえば「温泉」「スノースポーツ」が主流だった中で、京都にはそのイメージがなく、冬の旅行先になりにくい状況でした。
宿泊業界、土産品業界、飲食業界からは「春秋は多くのお客様で賑わうが、冬はガラガラで従業員を1年間雇うためには”冬に仕事が無い”では困る。何かやってほしい」というお声もあり始まったのが「京の冬の旅」キャンペーンです。今から60年前、1967(昭和42)年のことでした。


ちょうど翌年が明治100年の節目であったことから、第1回「京の冬の旅」では「明治維新史跡めぐり」をテーマに6箇所を定期観光バスで巡る、バスツアーを実施。50日間で約3,500人が利用し、翌年は1万人以上が利用しました。

10回目を迎えた1976(昭和51)年からはバスツアーに加えて、普段は非公開の文化財を期間限定で公開する「非公開文化財特別公開」が多くの寺社、史跡などの協力を得てスタート。秘められた貴重な文化財を多くの人に知っていただき、後世へ継承していくため、その価値や大切さを認識いただく機会にもなっています。中には「京の冬の旅」がきっかけで、一般に公開されるようになった寺社もあります。

「最初は公開箇所も運営スタッフも少ない、小さな取り組みでのスタートでしたが、企画の数も増え、今や毎年楽しみにしてくださるリピーターも多く、愛され続けるキャンペーンに成長しました。これもひとえに関係者様、皆様のご理解とご協力のおかげです」と話すのは歴代の「京の冬の旅」の担当者です。
第10回からは「10年続いたからもう少し規模を広げていこう」と、国鉄(JRの前身)の後援も頂き、広く協力を得て宣伝するようになりました。さらに、第14回「京の冬の旅」で、初めて JR グループの「デスティネーションキャンペーン(DC)」の地域指定を受け、全国的な宣伝展開が始まったことで、「京の冬の旅」の名前は全国区に。
また当初、特別公開する際の受入対応を、寺社・施設の方にお願いすることが多かったのですが、規模が大きくなると対応しきれなくなり、現役大学生による学生ガイド団体に仕事を依頼するようになりました。詳しい説明が聞けることが好評で、現在も学生ガイドさんやシルバーガイドさんなど複数のガイド団体が、それぞれの特色を活かしたご案内で「京の冬の旅」を支えてくれています。
多くの関係者による60年という積み重ねで「京の冬の旅」は少しずつ知られるようになり、規模も拡大、そして毎年恒例の行事として定着するに至ったのです。
ここからは、過去の「京の冬の旅」で実施されてきた企画を、当時の世相や時代背景を映す大河ドラマ、ヒットした歌謡曲などとあわせて紹介します。
ご当地ソングが京都観光ブームの後押しに!?
「京の冬の旅」キャンペーンが始まった1967(昭和42)年は、高度経済成長期の真っ只中。1964(昭和39)年の東京オリンピック開催に合わせて東海道新幹線が開業し、東京から京都間の移動が格段に早くなりました。さらに1970(昭和45)年に開幕した大阪万博も国内旅行ブームに拍車をかけたことでしょう。
この時代の歌謡曲も、長崎や知床、瀬戸内や函館を舞台にした旅情を誘うご当地ソングがヒット。京都をテーマにした歌も多くリリースされました。
1970(昭和45)年に発売された「京都慕情」(歌手 渚ゆう子)もその一つで、当時「京の冬の旅」キャンペーンで京都を訪れた方も聴いていたのではないでしょうか。
別れた恋人への未練を抱えながら京都の河原町から高瀬川、さらに嵐山から東山へと赴き、最後は桂川へと辿り着く…。辛い悲恋を歌うものですが、曲調は軽やかで、どこか前向き。つい口ずさみたくなる京都旅にぴったりの1曲です。

そして、「京の冬の旅」で開催される非公開文化財の特別公開や定期観光バスコースには毎年独自のテーマがありますが、これもまたその時の”旬”なテーマを設定しているのです。
「古都京都の文化財」世界遺産に登録
国内旅行ブームが続く中、京都観光にとって大きな転機となったのが世界遺産登録です。
1994(平成6)年、「古都京都の文化財」がユネスコ世界文化遺産に登録され、17の寺社・施設が世界的な価値を持つ文化遺産として認められました。
「京の冬の旅」でも、この世界遺産登録を重要な節目として位置づけています。
5年ごとの節目の年には、世界遺産に関連した特別公開や企画を盛り込み、文化財の魅力をより深く伝えてきました。
例えば、2024年の第59回「京の冬の旅」では「世界遺産登録30周年」をテーマに、鹿苑寺(金閣寺)、慈照寺(銀閣寺) 、清水寺 、天龍寺、龍安寺、仁和寺、西本願寺、東寺、醍醐寺といった寺院にご協力いただき、お堂や庭園などの特別公開を実施しました。
大河ドラマにちなんだテーマも
日本史上の名将やその妻、家臣などの半生を約1年にわたって描く大河ドラマでたびたび京都が登場し、ゆかりの寺社や史跡が注目されるきっかけを作ってきました。
歴代の「京の冬の旅」でも大河ドラマに登場する場所や人物、その時代にちなんだ特別公開やバスツアーを行い、好評を得てきました。
近年の大河ドラマにちなんだテーマとしては、第52回「幕末・明治維新や西郷隆盛ゆかりの地」(「西郷どん」)や、第54回「明智光秀と戦国の英傑たち」(「麒麟がくる」)、第57回「徳川家康と同時代を生きた武将ゆかりの地」(「どうする家康」)、第58回「紫式部と源氏物語」(「光る君へ」)などがあります。
平安時代から明治に至るまで、千年の都であった京都は、どんな物語(ストーリー)にも登場し、時代の節目の舞台となってきたまち。歴史の層の厚みこそが京都の魅力であり、色々な切り口で「京の冬の旅」を実施できる”京都の強み”なのでしょう。
60回目を迎えた今年度の「京の冬の旅」でも、2026年大河ドラマ「豊臣兄弟!」にちなんだ内容が多く盛り込まれています。高台寺や豊国神社はもちろん、豊臣秀吉の弟・秀長の菩提寺など、彼らが生きた時代やゆかりの地にスポットをあてています。

節目の年に出会う、京都ゆかりの人物たち
歴史的なできごと、また生誕100年あるいは没後1000年というふうに、高僧、日本画家、茶人といった人物の“節目の年”がテーマになることも。これも、本山級の寺院や、総本社などが集まる京都だからこそ。また、長年の都であったために伝統芸能、文化、芸術が引き継がれ、残されてきたからこそという京都の興味深い点です。
過去の「京の冬の旅」でも、多くの文化人にスポットをあて、ゆかりの名所・史跡、絵画展などを組み込んだ企画を実施してきました。

例えば2022(令和4)年は、茶の湯を大成した千利休の生誕500年、織田有楽斎没後400年の年であったことから、普段は非公開の茶室の特別公開などが実施されました。
また、2023(令和5)年は弘法大師空海の生誕1250年と、親鸞聖人の生誕850年という節目が重なり、各寺院で多くの法要が営まれたり、その行事に合わせて修復された文化財の公開も行われました。
2017(平成29)年は、京都・二条城で行われた大政奉還から150年の節目だったことから、各地で幕末・明治維新に関連したユニークなイベントが行われ、「京の冬の旅」をはじめ、京都全体で盛り上がりを見せました。
年数が数百から千以上という途方も無い数字ですが、これも京都の歴史の深さを体感するエッセンス。好きな文化人、注目の画家、日本史の潮目に関わった出来事などを調べ、その節目に関連づけて旅の計画を練るのも楽しいものですよ。
そして、60回記念!
「京の冬の旅」は閑散期対策事業として始まりましたが、それだけでなく「冬の京都」の魅力を知って欲しいというキャンペーンとして展開してきました。
研ぎ澄まされたような空気の中で見る枯山水庭園、色彩の少ない冬景色の中に映える極彩色の建物、日暮れも早く黄昏の気配が漂う堂内で仰ぎ見る仏像の荘厳さ・・・。
それだけでなく、正月や節分、桃の節句など多彩な京都の冬の伝統行事や、冬にこそ美味しい日本酒や漬物、冬にしか味わえない華やかな菓子など、他の季節にはない「冬の京都」ならではの魅力。
遠方からのお客様だけでなく、京都にお住まいの方や近郊の方にも、日頃身近にあって気づかない京都の素敵な部分を、冬にこそ発見して知っていただきたい。知ることが、守り、引き継ぐことへの一歩となります。

ここまで、「京の冬の旅」の60年を振り返ってご紹介しましたが、今年も色々な冬の京都の魅力をいっぱいに詰め込んでいるのが、開催中の60回記念「京の冬の旅」キャンペーンです。
記念すべき60回目は、貴重な非公開文化財15箇所が特別公開されているほか、定期観光バス(おこしバス)やタクシーで巡る特別コースも実施。今回は1983(昭和58)年(第18回)にスタートし好評を博した“京の味めぐり”がテーマの定期観光バス「あじわい」コース(L4)も復活しています。

さらに60年の感謝を込めて、非公開文化財特別公開スタンプラリーに参加いただいた方の中から抽選で60名様に、京都の宿泊券や伝統工芸品などが当たるプレゼントキャンペーン「おおきにキャンペーン」も実施中!
詳しくは、京都駅ビル2階にある京都総合観光案内所「京なび」などで無料配布するパンフレット、またはWebサイトをご覧ください。
寒さ対策を万全にして、たっぷりと京の冬をお楽しみください。
60回記念 京の冬の旅
https://ja.kyoto.travel/specialopening/winter/

参考資料)
「京都観光50年の歩み」(発行/社団法人 京都市観光協会)
「京都・観光文化検定試験 公式テキストブック」(発行/淡交社)
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記事を書いた人:五島 望

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東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。


