人気の観光地・東山エリアに2022年夏、開業したTHE HOTEL HIGASHIYAMA by Kyoto Tokyu Hotel。小学校跡地に地域の交流施設と併設するかたちで建てられたこのホテルは、京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」にも選ばれています。地域コミュニティーとの繋がりや、京都の文化と深く結びついた取り組みについて紹介します。
小学校跡地に誕生した京のアートと地域交流をテーマにしたホテル
京都には丹波口や鞍馬口などの都に繋がる主要な街道の玄関口があり、それらを「京の七口」といいます。この成立には諸説あり、豊臣秀吉が御土居建造のときに作った出入り口が7つであったなどともいわれています。
なかでも東海道が通る粟田口は古くから多くの旅人たちが行き交い、街道沿いの高台に鎮座する「粟田神社」は、旅立ちを守護する神としても信仰されています。
その粟田神社のすぐ隣、三条通に面してTHE HOTEL HIGASHIYAMA by Kyoto Tokyu Hotelは建てられており、ロビーに一歩入ると、吹き抜けに掛けられた大型のタペストリーがひときわ目を引きます。西陣織の手法を用いた手塚愛子氏による現代アートには「かつてこの地にあった白川小学校・粟田小学校の校章や校舎図がモチーフに取り入れられているんですよ」と総支配人の小川原照枝さんが教えてくれました。
京都では明治に入ってすぐ、全国に先駆けて小学校が開校していますが、設立を担ったのはそれぞれのまちの人々でした。地域ごとに競い合うように建てられた小学校はまちの自慢であり、それだけに学校への思い入れは深く、閉校後の跡地利用についても「地域の歴史や文化が伝わるものにしてほしい」との要望が多く寄せられていたといいます。
その思いに応えようと、ホテルではロビーのアートはもちろん、この地に伝わる粟田焼の茶器類や壺などが展示され、館内や客室のデザイン、ショップの品ぞろえやレストランの料理、体験プログラムなども京都ならでは、この地域ならではのものになるよう工夫が凝らされています。
粟田神社の祭礼である「粟田祭」にもホテルを挙げて参加しており、期間中は町会所の代わりとなるロビーに祭壇が置かれるほか、祭に用いられる大型の大燈呂の保管・展示も担っています。同じ敷地内には「地域交流施設あわた」があり、祭やイベント、冬の大根焚きなどの行事に弁当や屋台料理を提供するほか、地域の人々と合同で防災訓練を行い、消防団やママさんバレーのチームにもスタッフが加わって親睦と協力体制を深めています。
つくり手が見える地域の味と、京の工芸品
館内にあるレストラン「ナナノイチ」はフランス料理の伝統に和のエッセンスを掛け合わせた京フレンチを提供しています。名前は京の七口の一つであること、また、地域の人にも七日に一日、気軽に来てもらえるようにという願いが込められているのだとか。
ヴィーガンやベジタリアンなど食の多様性に対応しているのはもちろん、地産地消の一環として野菜や肉など地元の食材を取り入れており、さらにはホテル近隣にある「千鳥酢」や「大阪屋こうじ」、「柿善商店」の昆布と鰹節など、昔から東山の地で愛されてきた老舗の食材を使っているのも大きな特徴です。
ロビーフロアのTea & Barは同じく東山区にある宇治茶の老舗「祇園辻利」のプロデュースで、中庭を眺めながら本格的な抹茶、煎茶が楽しめます。
館内のショップに並べられている工芸品は、近くにある「京都伝統産業ミュージアム」がセレクトした京焼・清水焼、京友禅など現代の気鋭の作家たちによる作品で、一つひとつに作家や工房について詳しい解説が付けられています。季節ごとにテーマを設けた特別展示も行われ、ミュージアムショップを思わせるような雰囲気のなか、あれこれと質問しながら品物を吟味する人の姿も見受けられました。
地域の魅力を伝えるしつらえと、サステナブルなサービス
ホテル内や客室のインテリアには、近くを流れる白川のせせらぎや、水面に反射する光のゆらぎをイメージした落ち着いたデザインが施されており、すべての客室に京都や日本の文化をテーマにキュレーションした書籍が置かれています。
とくに目を奪われたのは、急須や湯呑が入れられた「茶箱」。茶道具などを手掛ける「高野竹工」によりこのホテルのために特別に誂えられたものです。職人が一つひとつ竹を曲げ桐と組み合わせて仕上げた姿は、無駄をそぎ落とした美のなかにモダンな佇まいがあり、客室に京ならではの洗練を添えています。
宿泊客の7割がインバウンドというなか、お茶の淹れ方について英文付きの解説書も添えられ、「海外からのお客様にも気軽に宇治茶に触れていただき、客室というプライベート空間でよりリラックスして日本文化を身近に感じてくだされば」と小川原さん。これをきっかけに宇治茶や茶碗などに興味を惹かれ、自国に帰ってからも楽しみたいという人もいるそうです。
また、SDGsへの取り組みも積極的に進めており、食材に無駄が出ないよう野菜の皮や切れ端などをスープやソースに活用する「ベジブロス」を一部メニューに取り入れているほか、アメニティーグッズの紙包材化や、桜の木のカードキー、パイナップルの葉繊維ストロー、木製マドラーなどを導入。客室の飲み水にもペットボトルではなくアルミ缶のボトルウォーターを採用しています。
さらに東急ホテルグループ全体での取り組みとして、宿泊客が備え付けのアメニティー類を使用しなかった場合、備え付けの「グリーンコイン」をフロントに持参すると、ホテルが宿泊客に代わって環境保全活動の基金に寄付するという制度も設けています。
より深い文化を体験できるワークショップを企画
ホテルの立ち上げから関わってきたという小川原さんは、京都生まれの京都育ち。長年にわたり京の地でホテルマンとしての経験を積み、そのなかで歴史ある神社仏閣や京都伝統工芸ミュージアムをはじめ、多くの職人さんや作家さんと交流を深めてきたといいます。ホテルに飾られたアートやショップに並ぶ工芸品、そしてホテルが主催するさまざまなワークショップや体験会には小川原さんが培ってきたネットワークが生かされています。
とくに人気が高いのが、ホテルオリジナルのアクティビティ「京いろは」。より深く、楽しく京都の文化を感じることができるよう、「食す、観る、薫る、触る、聴く」という五感にあわせた五つの切り口から体験メニューが用意され、充実したプログラムの内容にリピーターも多いとか。
また、ホテルのある東山エリアは平安神宮や南禅寺、永観堂、八坂神社や知恩院などの名所も多く、さらには明治時代に京都の近代化を牽引した文化ゾーンでもあります。京都国立近代美術館や京都市京セラ美術館、琵琶湖疏水インクラインなどがあるほか、まちなかにありながらホテルの裏は東海自然歩道につながっており、トレッキングの拠点にもなっています。観光や散策の疲れを癒せるよう、広々とした中庭に足湯が設けられているのもうれしいところです。
「古刹から近代建築までが点在し、まちと自然が近いのも東山ならではの魅力ではないでしょうか」という小川原さんの言葉を参考に、このまちが見せてくれるいくつもの表情を体験しに旅に出てみませんか。
※2025年1月10日よりホテル名称が
THE HOTEL HIGASHIYAMA KYOTO TOKYU,A Pan Pacific Hotel に変更になります。
■リンク
◇THE HOTEL HIGASHIYAMA by Kyoto Tokyu Hotelホームページ
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記事を書いた人:上田 ふみこ
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ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。