【京都観光のいま】 創業400年へ向けてー 老舗が伝える和傘の文化と魅力~京都和傘屋辻倉~

江戸初期創業の京都和傘屋辻倉は、伝統の技術を継承しながら、現代の顧客ニーズに応えるオーダーメイドの和傘や、和傘を活用した照明器具など新たな提案を行う日本最古の和傘屋。京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」の同社は、SNSを活用した情報発信やインバウンド需要への対応など、和傘の文化と技術を未来へつなげる取り組みを積極的に進めています。

画像提供:辻倉

創業1690年、和傘の魅力をいまにつなぎ、世界に向けて発信

百貨店や商業ビルが立ち並ぶ京都随一の繁華街・四条河原町。最新のファッションや話題の飲食店などが多く集まるこの界隈はまた、数百年の歴史をもつ老舗が軒を連ねているのも大きな特徴です。江戸初期の1690年に創業した辻倉は、この地で伝統的な製造と販売を行う日本最古の和傘屋として広く知られています。

河原町といえば、古くから多くの観光客が訪れ、賑わいの絶えないエリアです。「以前はふらっと店をのぞいていただける路面店でしたが、先代のときにビルに建て替え、店舗を階上に移しました」と話すのは当主の木下基廣さん。

当初のビル化の目的は、和傘を日用品として使う機会が減り、高度経済成長期以降の需要が低下するなか、テナント収入によって安定した経営基盤を確保することでした。しかし、時代が進むにつれ、SNSで情報発信ができるようになり、路面店である必要はなくなったと振り返ります。「観光客が増えるなか、興味のある方だけが店舗にいらっしゃるスタイルは時代に合っているかもしれません。接客の人手を抑えて、製造に力を注げるようになりました」

基廣さんが当主になったのは18年前。17代目として奥様の実家の家業を引き継ぎました。実家の呉服業を30年以上前に継いでおり、二足のわらじで多忙を極めることになりましたが、「全国でも数が少なくなった和傘づくり技術と文化を守りたい」という思いから継承を決意。同じ伝統産業である和装業界のネットワークを生かし、さまざまな取り組みに挑戦してきました。

SNSでの情報発信とオーダーメイドで現代のニーズに応える

画像提供:辻倉

自社で職人を抱える辻倉は、和傘のオーダーメイドや顧客の要望に応じたカスタマイズにも柔軟に対応しています。なかでも人気なのがミニチュアサイズの「姫和傘」。名前を入れて誕生日の贈り物にする人も多いそうです。最近では「人形にあわせて仕立てたい」という依頼も増えており、「和傘に“推し活”需要があるとは思わなかった」と作り手側が驚いたエピソードもあったそう。

熟練した技術を持つ職人が在籍していることで、購入後の修理やメンテナンスなど、迅速なサポート体制を整備しました。持ち込まれる和傘のなかには年代物も多く、修繕を通して、昔の職人技に触れられることがあるといいます。顧客サービスが技術向上の機会を生み、結果としてより質の高いサービスにつながる、良い循環が生まれています。

 インターネットを活用した情報発信も、基廣さんのネットワークを生かした取り組みの一つ。10年ほど前からSNSを積極的に活用し、着物ブランドや五花街の芸舞妓とコラボレーションした撮影を行うなど、イメージアップを図りながら和傘の伝統美を広く発信してきました。

画像提供:辻倉

また、常に新しい情報を発信できるよう、SNS運用は職人や接客など現場の若手スタッフに任せているとか。京都らしさや受け継がれてきた伝統から大きく外れないよう、クオリティや品位の保ち方は徹底的に吟味しつつ、ブランド力の向上を重視してきました。

海外の市場に目を向け、インバウンド客には京都ならではの体験を提供

和傘の国内需要が伸び悩むなか、辻倉では早くから海外市場に目を向け、ネット販売に積極的に取り組んできました。現在では売上の約2割がオンライン経由、さらに来店客の約7割を外国人が占めています。和傘は和紙と竹で作られ、使用する油も植物性。サステナブルな道具であると、SDGsの観点からも発信しています。

画像提供:辻倉

海外からの観光客のなかには、「モノ」を購入するだけでなく、京都というまちでものづくり体験など「コト」を重視する人が増えています。そこで同社では、英語で参加できる和傘製作ワークショップを開催。つくる過程そのものを楽しむのはもちろん、和傘に込められた技術や先人の知恵を伝えることで、文化的な理解を深めてもらえる工夫をしています。

画像提供:辻倉

ワークショップは英語が話せるスタッフが担当し、中国語、ロシア語などのマニュアルも準備して多言語に対応。「翻訳機を使えばもっと効率的なのかもしれませんが、ボディランゲージを交えながら、わいわいと教え合う時間そのものが魅力。人と人が直接向き合うからこそ生まれるコミュニケーションを大切にしたい」と話し、老舗の取り組みから異文化交流も生まれています。

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伝統を守るためにー和傘を支える技術や素材に向き合い、人を育てる

画像提供:辻倉

他都市と比べて和装姿が多くみられる京都では、和傘を日常的に手にする人も珍しくありませんが、全国的には需要が減少しています。そこで辻倉では、和傘の技術を生かした和紙照明などインテリア製品を早くから手掛けてきました。近年は日傘の制作にも取り組み、その粋な風合いが話題となり、男性利用者も少しずつ増えています。

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また、和傘を雨の日だけでなく、日常空間でも楽しめるよう、オリジナルの和傘スタンドを開発。スタンドには照明機能を備え、普段はライトとして使えるよう工夫しました。インテリアとして、宿泊施設や料亭からも好評だそう。「傘の開閉で店舗の開店を知らせるなど、お客様から新しい用途を教えていただけることもあり、作り手冥利に尽きます」と笑顔を見せます。

画像提供:辻倉

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和傘の材料については、純国産にこだわってきましたが、質のよい竹の栽培者が減り、傘づくりに必要な道具を作る職人も少なくなってきているのが現状です。以前は製材した竹を仕入れていましたが、その加工を担う職人も減っており、いまでは自社で竹材づくりから行っているといいます。 

竹を育てる農家と関わりが生まれたことをきっかけに、現在では持続可能な材料調達など環境への配慮や、放置竹林など地域の課題にも取り組んでいます。

 「和傘照明のプロデュースなどの依頼もいただきますが、まずは技術と伝統の継承の地盤づくりに注力したいと思います」と基廣さん。創業400年に向けて、「新たな定番」となる和傘の開発にも取り組んでおり、次代へしっかりと事業を手渡すことを第一に考えています。ものづくり以外の分野へチャレンジすることは「次の世代が考えてくれればいい」と、長い視野でこれからを見据えています。

 先人たちが重ねてきた工夫と、それを受け継ぐ人々の不断の努力は、世界中の人々を惹きつけています。「一つの道具を知っていただくだけでも、その奥深さにみなさんが驚かれます。まちも同じで、100回訪れても見尽くせない魅力があるのが京都。それぞれが魅かれるものを手にとり、肌で感じ、体験することで、京都への思いを深めてもらえればうれしい」。その言葉には、京都観光のあり方や楽しみ方のヒントが凝縮されています。

 ■リンク ◇【京都観光モラル】優良事例集
                   ◇辻倉ホームページ

記事を書いた人:上田 ふみこ

ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。

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