
宿泊事業者
松本旅館 社長 松本義正さん、従業員 熊取谷咲紀さん/RYOKAN GINKAKU KYOTO 支配人 真中喜晴さん、従業員 徳弘ひかるさん/旅館三賀 女将 高橋妙子さん/ひふみ旅館 社長 籠 頌平さん、若女将 籠 真凛さん/松井本館 従業員 山内未柚さん、従業員 宮本美夕さん
学校
学校法人大和学園 京都ホテル観光ブライダル専門学校/京都外国語大学/京都産業大学
2026年2月、京都駅のすぐ近くにある旅館「RYOKAN GINKAKU KYOTO」に京都市内で旅館を運営する経営者とスタッフ、市内の大学や専門学校で観光について学ぶ学生たちが集まり、「京都の旅館で働く魅力とやりがい」等をテーマにディスカッションを行う座談会が開催されました。業界での働き方やキャリア形成など、話題は多岐にわたります。学生と宿泊事業者の間で、積極的な意見交換が行われ、両者ともに深い学びを得ることができました。
館内を見学。伝統的な設えで日本の文化を感じながら快適性も追求

大規模改修工事を終え、2023年5月にリニューアルオープンしたRYOKAN GINKAKU KYOTOでは、一般客の利用に加え、1年のうちの約130〜150日間は修学旅行等の予約を受けています。常務取締役支配人の真中喜晴さんに館内をご案内いただきました。館内の様々なところで、宿泊客の人数や用途に合わせて、快適に施設を利用してもらえるような工夫が施されています。最初に向かったのは、贅沢に檜があしらわれた舞台がある宴会場。
「ここは催しを行うだけでなく食事会場でもあり、最大480名の収容が可能です。分厚いパーテーションで3分割することができ、修学旅行の学校別や男女別で分けて使用することもできます。鉄扉で仕切れば、行き来ができなくなり、他校を気にすることなく、利用していただけます。大浴場も同様です。貸切風呂以外に男湯と女湯を2つずつ設けています」と真中さん。

続いて客室へ。下部の障子を上げると、座ったときに庭園が見えるように設計された雪見障子のある客室や、壁面が気品ある紫色で、調度品などがあしらわれた『源氏物語』がコンセプトの特別室など、さまざま客室があります。日本ならではの文化や伝統を感じさせる美しい設えに加え、宿泊客の快適性を追求した旅館の運営スタイルに、学生たちは興味深々でした。
グループに分かれてディスカッション。宿泊業界で働くとは?

館内を見学した後は、グループごとにディスカッションを開始。ファシリテーターは、京都外国語大学国際貢献学部グローバル観光学科の五嶋俊彦教授です。これまで大手旅行会社、ブライダル会社での勤務経験を活かし、観光業界への就職指導や人材育成に尽力されています。

4つのグループに分かれ、京都の旅館で働く魅力とやりがい、宿泊業界の働き方やキャリアについて、ディスカッションをスタート。付箋に気になることを書き出しながら進めていきます。グループ1では、宿泊業界で働くことについて議論を深めました。
学生から「どんな勤務時間があるのか」といった勤務体制に関する質問があがりました。また「宿泊業界はシフト制で夜勤があり、日々働く時間が変動するため、体調管理ができるか不安」といった声も。

それに対し、ひふみ旅館の若女将・籠さんが勤務体制について答えてくれました。「夜勤専属のスタッフがいて、それ以外のスタッフは、業務に合わせてシフトで働いてもらっています。勤務時間は固定されてはいませんが、日勤と夜勤が混ざらないため、生活のリズムは整えやすいと思います」

一方、RYOKAN GINKAKU KYOTOの真中さんは「調理担当以外は、7時間拘束の6時間勤務です。これは、プライベートの時間を有意義に使ってもらいたいという思いから。限られた勤務時間で運営するため、スタッフには1時間ずつ出勤時間をずらしてもらっています。夜勤は主に希望する人に入ってもらっていますが、日勤の人に入ってもらうことも。できるだけ勤務時間が変動しないようなシフトにできればと考えています」
勤務体制は旅館ごとに違うものの、それぞれ働きやすい環境を整えるため、工夫しながら運営していることが分かりました。
旅館ごとに異なる業務分担やキャリア形成
勤務時間やシフトと同様に、業務分担やキャリアは旅館ごとに異なります。ひふみ旅館では、さまざまな業務ができるオールラウンダーの育成に力を入れているそう。
「みんなで業務を並行することで気づきも増え、業務改善にも役立ちます」と籠さん。「スタッフの適性を踏まえてジョブローテーションをすることもありますが、フロント、配膳、調理、清掃とすべて分業。まずは、一つの業務の取得を目指します。経験年数が増すと、旅行会社と打ち合わせをしてプランを作成したり、学生団体と宿泊コースの打ち合わせをするなど、仕事の幅が広がります」と、RYOKAN GINKAKU KYOTOの真中さんは話します。現在係長を務める松本旅館の熊取谷さんは「フロント業務を行いつつ、シフト管理やスタッフの指導など、視野を広く持つことを意識し、全体に目を向けるようにしています。年数を重ねていくなかで、できる仕事が増えていく楽しさがあります」と教えてくれました。

「旅館はマルチタスクのイメージがありました」と分業制に驚く学生も。旅館ごとにかなう働き方はさまざま。自身の思い描くキャリアに合う旅館が見つかるのでは、と学生たちも期待を寄せていました。
直接「お客様の声」を聞けることが働くやりがい
「京都のおすすめの観光スポットをお伝えしたら、実際に足を運び、感想を伝えてくれるお客様も。『よかった!』と直接喜びの声を聞けることがやりがいにつながっています」とうれしそうに話してくれたのは、松本旅館の熊取谷さん。ひふみ旅館の籠さんは「笑顔で帰っていかれる姿をみるとほっとします」とのこと。後日、個人の宿泊客の方や、修学旅行生からお手紙をもらうこともあるそうです。

RYOKAN GINKAKU KYOTOではお客様アンケートを実施しており、海外の宿泊客からメッセージをもらうことが多いと真中さん。「英語が拙くてもいいから、“コミュニケーションを取りたい”という姿勢が一番大切だと日頃から伝えているので、『コミュニケーションがフレンドリーでよかった』と書いてくださっているのをみると、スタッフの頑張りを認めてもらえたようで自分のことのようにうれしいです」
宿泊者からの声が励みになっていることを実感した学生たち。「お客様との間で生まれる温かいやり取りが素敵だと感じました。コミュニケーションは得意ではないけれど、でも好きなんです。私もできるかもしれない、やってみたいと思いました」と、背中を押された学生もいました。
文化の継承に携わる旅館の仕事の魅力を実感

ディスカッションの後は、それぞれのグループで話し合った内容を学生が発表しました。
「宿泊業界で求められているのは、“人を喜ばせるのが好きな人”。大変なことがあっても、お客様からの『ありがとう』の一言が励みになっているというお話が心に残りました。誰かのために何かやってあげたいと思う気持ちの積み重ねによって、ホスピタリティが生まれるのだと感じました」
「旅館には、畳や障子、床の間といった伝統的な設え、仲居さんのおもてなし、旬の食材を使った和食、館内にあしらわれたお花や提供されるお茶など、たくさんの日本の魅力が詰まっています。このような『旅館文化』に興味を持つお客様が多くおられ、日本の良さを伝えられる場所の一つが旅館なのだと感じました。歴史や伝統が育まれてきた京都で、文化の継承に関われる旅館の仕事は、とても素敵だと感じました」
「海外のように日本の旅館でもチップ制を取り入れてはどうかなど、新たな仕組みの導入を検討している旅館があって、面白いと感じました。目に見える評価が、働く人のやりがいにつながると思います」

さまざまな気づきがあった学生たち。発表を受けて、五嶋教授からは「宿泊業界で働く人こそ、旅行に行っていろいろな体験をしてほしいと思います。そのときに人からしてもらってうれしかったことを、今度はお客様にしてあげる。その繰り返しのなかで真のホスピタリティを体得していくのだと思います。そして、チップなどのインセンティブによって、スタッフの頑張りを正当に評価する仕組みを構築し、さらに働きがいを感じられる職場を目指していきたいですね」とフィードバックをいただきました。

学生の疑問を宿泊事業者へ

ディスカッションの後は、各グループで質問タイムを設け、学生が宿泊事業者に疑問を投げかけます。
グループ1では、学生からの「どんな福利厚生があるか」という質問に、RYOKAN GINKAKU KYOTOの真中さんは、資格取得で合格した場合、受験料などの費用は全額会社が負担していると教えてくれました。「業務に合わせて和食検定やおもてなし検定の資格を取得してもらっています。業務に関連する資格であれば、それ以外でも対象です」

「以前働いてた旅館では、華道の先生が来てくれ、希望者は花の生け方を指導してもらっていました。その費用は、福利厚生として会社持ちでした」と、体験談を話してくれたひふみ旅館の籠さん。旅館によって福利厚生の内容もさまざま。学びを支援してくれる制度が充実し、スタッフの成長にも期待ができそうです。
そして、籠さんから学生に「どういう福利厚生があればうれしいか」と質問が。「旅行に行きたいので、2日以上のまとまった休みがほしい」といった意見が出ました。

「今度、4連休をもらって海外に行きます。旅館だとオーナーとの距離が近いので、休みのことも気軽に相談しやすいと思います。若女将も気にかけてくれ、アットホームな雰囲気です」と、松本旅館の熊取谷さん。
また、施設のメンテナンスで1週間休館したり、オフシーズンに3日間ほどの休館日を設けたりも。そういった休館日をスタッフの連休取得に活用している旅館もありました。質問タイムの終了後、最後にグループ内で出た質問や感想を学生たちが全体で共有しました。

「旅館が大切にしている『おもてなし』とはどういうことかと尋ねたときに、“サービスとは違う”と教えてもらいました。サービスは、対価を伴うものであるけれど、おもてなしはそうではない。 たとえば、足が悪いお客様であることが分かれば、少しでも快適に過ごしてもらえるように、1階に部屋をお取りするなど、事前にできる限りの準備を行っているそうです。ホスピタリティは、配慮をすることなのではないかと思いました」
「旅館によって異なりますが、業務はマルチタスクで、対応するお客様も修学旅行生や海外のお客様などさまざまです。外国語を学んできた人、教育関係を勉強してきた人など、いろいろな人が活躍できる業界だと感じました」
「旅館が提供する日本らしさに感動しました。日本ならではの文化を大切に、私もその魅力を後世に伝えていきたいと思いました」

学生たちの発表を聞いた五嶋教授から「おもてなしを日常的に提供しているのが旅館です。そして、旅館は日本の文化の一つ。それを支えるスタッフの皆さんがいるからこそ成り立っています。大変なこともあるとは思いますが、旅館で働く魅力を体感してもらうために、大学と連携してアルバイトからはじめてみるなど、仕組みづくりを検討していきたい 」とコメントがありました。
学生と宿泊事業者とのつながりを大切に

学生たちは宿泊事業者に率直な疑問を投げかけ、積極的にディスカッションを行い、座談会が終了。意見交換をするなかで、旅館のおもてなし文化や旅館で働く魅力、そして働き手の意見を取り入れた勤務体制など、旅館ごとの工夫が感じられ、学生たちはたくさんの学びを得たようです。また、学生の率直な考えや思いを聞くことができ、宿泊事業者にとっても採用活動において役立つ情報を得られる機会に。両者にとって貴重な機会となりました。
五嶋教授から「旅館はたくさん『ありがとう』をいただける素晴らしい仕事です。業界的には人手不足と言われていますが、今日話したように宿泊事業者の方から宿泊業界で働く魅力について直接お話をいただける機会を、大学でも積極的に設けていきたいと思いました。リアルな業界の姿を伝えることで、進路の選択肢の一つに旅館が加わればと願っています」とメッセージをいただきました。

最後に、京都観光旅館連盟会長の松本旅館 松本さんからの挨拶では、「私たちの仕事は人と人とのつながりをなくしては成り立ちません。人を大事にできる人こそ、この仕事が務まると思っています。まずは、いろいろな人と会話をして、どんな人がいるのか、どんな考えを持っているのか、人に関心を持っていただきたい。人を知ることで、その人のために優しさを渡したり動くことができます。宿泊業界に興味を持ってもらえたのなら、アルバイトなどで現場に立ち、ホスピタリティを学ぶ機会を持っていただければうれしく思います。そして皆さんと協力しながら、京都の宿泊業界を盛り上げていければと考えています」と学生への心強い言葉をいただきました。
学生と宿泊事業者が直接対話することで、宿泊業界の魅力、そして京都の旅館で働く魅力を実感する有意義な時間となりました。
▼京都で働きたい人と観光事業者をつなぐメディア「京都観光はたらくNavi」
https://job.kyoto.travel/
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記事を書いた人:株式会社文と編集の杜

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京都で活動している編集・ライティング事務所。インタビュー、ガイドブック、書籍などジャンルを問わず、さまざまな「読みもの」に携わっている。近年は、ライティングに関するイベントの開催も。
https://bhnomori.com/


