応仁の乱から555年!「西陣」の今昔

西陣

西陣といえば、世界に名だたる高級織物「西陣織(にしじんおり)」を思い起こすとともに、京都市上京区から北区にわたる地域名としても知られています。ところで、なぜ「西陣」と名づけられたのでしょうか?それは、室町時代中期の応仁の乱にまでさかのぼります。京都で勃発した応仁の乱は、東軍と西軍に分かれて戦いました。その際、西軍は総大将・山名宗全(やまなそうぜん)の屋敷に本陣を構えます。この「西」軍の本「陣」から、山名邸跡地の付近を「西陣」と呼ぶようになりました。

山名宗全邸 跡地 (京都市上京区堀川通今出川上ル山名町)

西陣は平安時代から織物が盛んな地域でした。応仁の乱後、戦乱から逃れていた職人たちがこの地に戻ると、町衆の尽力もあって「西陣織」として大きく発展します。祇園祭の山鉾が現在のように絢爛豪華になったのもこの時代のことで、西陣織が山鉾の美しさに色を添えたといわれています。ちなみに、応仁の乱が終結した1111日は、西陣呼称の誕生にちなんで「西陣の日」として制定されました。

また、2022年は応仁の乱の勃発から555年の節目の年でもあります。

西陣織の美

京都の織物といえば、西陣織と並んで京友禅が有名です。両者の違いは「先染め」と「後染め」にあります。友禅染は後染めで、白地の生地に独特の技法で色鮮やかな模様を描かれるのが特徴です。対して先染めの西陣織は、色とりどりに染められた糸で模様を織り込んで造られます。糸を美しく染めるためには綺麗な水が必要で、昔は水路として活用されていた「堀川」の名水が、西陣織の美しさに一役買っていたといわれています。

20近くもある工程を経て紡ぎだされる西陣織は大量生産が困難なため、希少価値があります。その用途は多岐にわたり、帯や着物はもちろんネクタイやキーケースなどの小物や、能装束をはじめとした伝統文化の衣装にも西陣織が採用されています。近年はシャネルやルイ・ヴィトンといった海外ブランドの商品や店舗の内装にまで西陣織を見ることができます。

写真提供:西陣織工業組合

西陣とはどこ?

不思議なことに京都の住所を隈なく探しても「西陣」と名のつく町名は1つもありません。したがって「西陣とはどこのことをいうのか?」は大変な難問です。「行政区域として定められていないため、人それぞれの感覚によって異なる」のが実態です。そこで、かつて宅配ドライバーとして西陣の地を駆けていた筆者が、西陣エリアを2段階(狭義と広義)に分けて定義してみることにします。

まず狭義の西陣とは、「東は堀川通、西は七本松通、南は中立売通、北は鞍馬口通」この4つの通りで囲まれた長方形を西陣とします。このあたりを歩くと町家が立ち並び、「○○織物」と書かれた看板が散見されます。次にもう少し範囲を広げた広義の西陣は、「新町通~西大路通、丸太町通~北大路通」が線引きラインです。東の端になる新町通の界隈にはたしかに織物屋さんが多いのですが、同時にこの周辺は茶道家元の三千家をはじめとした公家文化の香りが漂う地域でもあります。西陣エリアの定義が難しいとされるのは、こういった理由があるからです。

ちなみに、西陣の中心地といえる大宮通今出川の一帯は「千両ヶ辻」とも呼ばれ、江戸時代中期には西陣織で1日に千両(現在の約5,000万円に相当)もの売上があったことがその由来となっています。周囲は今も町家が立ち並ぶ風情あるエリアです。

明治以降、洋服文化が浸透し、西陣織は厳しい局面を迎えることになりました。しかし、西洋の技術をはじめ時代の変化を取り入れ今日に至っています。西陣に立ち並ぶ町家の風情と、時おり聞こえる「カシャン、カシャン」という機織りの音は、古き良き時代を偲ばせるとともに、「伝統と革新のまち・京都」の象徴であるといえます。

見どころ、イベント紹介

西陣織会館 

西陣織の紹介や史料の展示があります。職人による実演や制作体験(有料)もあり、西陣織の魅力に触れられます。

織成舘(おりなすかん)

江戸時代後期~昭和初期の着物コレクションや、復原した豪華な能装束、日本各地の手織物の展示を行っています。手織り工場の見学や体験(有料)などもあります。

写真提供:織成舘

西陣CROSS Week

2022年は西陣呼称555年記念事業で様々なイベントが開催されます。
・プロカメラマンによるきもの撮影会
場所 西陣織会館内
日時 20221112日(土)、13日(日)10:0016:00
きものを着て参加すると、プロカメラマンが無料で撮影してくれます。画像はダウンロード可能です。

西陣GOGOマルシェ

場所 西陣織会館駐車場(地上)
日時 20221113日(日)10:0016:00
飲食店を中心に西陣で選りすぐりの銘店が集結!地場産品を堪能できます。

西陣555年記念特別きものショー

場所 西陣織会館3F
日時 20221111日(金)、12日(土)10:30~、13:30~、15:00
60年以上の歴史がある「西陣きものショー」を約3年ぶりに開催。OSK日本歌劇団の舞美りらさんや、2022京都・ミスきものも特別出演します。

空引(そらびき)機の再現

場所 西陣織会館1F
日時 20221111日(金)~15日(火)
明治時代以前に使用されていた空引機を完全復元し、実演を行います。
実演は、①11:00 14:00 15:30~の3回です。  

西陣BAR in きものの日

場所 西陣織会館6F
日時 20221115日(火)18:00
西陣地域を支える織文化と食文化を楽しみながら、西陣の織元たちと語り合う交流会です。

〈参考文献〉
歴史でめぐる洛中洛外/井上満郎
週刊日本の町並み「西陣/大宮通界隈・小川通・上七軒」
京都の地名由来辞典/源城政好・下坂守
京都の大路小路/森谷尅久
京都を楽しむ地名・歴史事典/森谷尅久
謎解き京都/読売新聞大阪本社編集局
西陣織工業組合オフィシャルサイト
上京区精密住宅地図/京都吉田地図株式会社
日本銀行金融研究所 貨幣博物館サイト

記事を書いた人:吉川哲史

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一般社団法人 日本ペンクラブ会員。八坂神社中御座三若神輿会 幹事。祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。さまざまな京都ネタを題材に仮説を立てた記事をKyoto love Kyoto. サイトに寄稿中。2021年「西陣がわかれば日本がわかる」を上梓。

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