鬼の副長、土方歳三の生涯を描いた司馬遼太郎の名作「燃えよ剣」が、岡田准一さん主演で55年ぶりに映画化され、再び注目が集まる新選組。幕末、庶民出身ながら歴史の舞台に躍り出て、短い生涯を燃やした土方らの生きざまは、今も多くの人の心をつかんで離さない。新選組誕生の地であり、日々の暮らしの中心でもあった壬生(京都市中京区)かいわいを訪ね、彼らが生きた証に触れた。
1863年冬、江戸を出た土方や近藤勇、沖田総司らは、京都の西に位置する壬生村に到着した。当時は田園地帯だったというが、今はびっしり家屋が立つ住宅街だ。阪急京都線・大宮駅から、京福電鉄(嵐電)四条大宮駅を左手に見ながら西へ進み、坊城通りを南に入って嵐電の踏切を渡ると、新選組の前身、壬生浪士組が屯所(宿舎)とした八木邸と旧前川邸がある。
最初の屯所となった八木邸はガイド付きで公開されている。長屋門をくぐると右手に、ほぼ当時のままの姿で残る主屋がある。19世紀初めごろに建てられたといい、ウナギの寝床のように細長い京町家とは違い、やや長方形の建物に、2列3部屋の計6部屋が配置されている。中に入るとけっこう広く、2階もあるので雑魚寝なら確かに数十人は収容できただろう。
奥の座敷は、浪士組の頃、近藤や土方ら江戸の試衛館派と主導権を争った水戸派の芹沢鴨が暗殺された場所だという。庭に面した縁側の鴨居には、その際に付いたという深い刀傷が生々しく残っている。土方や近藤勇らが寝起きしたというかつての離れの跡には和菓子店「京都鶴屋 鶴寿庵」が立ち、新選組にちなんだ菓子が売られている。
坊城通りを挟んで東に立つのが旧前川邸。現在も住居として使われているため非公開だが、土日祝日のみ関連グッズを販売しており、入り口の土間に入れる。この土間は雨の日、隊士らが修練場にしていたという。八木邸側からは、敷地の奥に立つ土蔵の2階の窓が見える。土方らが暗殺事件を起こす直前、ここから芹沢らの動向を探っていたといわれる。土蔵は尊王攘夷派の志士、古高俊太郎の拷問が行われた場所でもあり、新選組の名を世に知らしめた池田屋事件の発端となったと伝えられている。後に隊を出奔して連れ戻された山南敬助が切腹したのも旧前川邸だ。山南の遺体は、現在の嵐電四条大宮駅近くにある光縁寺に埋葬された。当時から残る墓が、数名の隊士らの墓とともにひっそりとたたずんでいる。
八木邸の西に位置する壬生寺は広い境内が修練場になっていたというが、地元芸能である壬生狂言を鑑賞したり、相撲興行を企画したりと、血なまぐさい日々の中で隊士たちがひと時の安寧を得た場所でもあったようだ。一番隊組長・沖田が、境内に子供たちを集めて遊んだという逸話も残る。夕暮れ時、広い境内を見渡しながら、そんな光景を想像してみた。暗殺された芹沢はこの寺に眠っている。後に近藤の遺髪もまつられており、今頃はあの世で酒を酌み交わしているかもしれない。
1864年の池田屋事件で尊王攘夷派を急襲し、御所焼き討ちを防いだとして名を上げた新選組は、隊勢の拡大に伴って屯所を西本願寺に移した後、1867年に最後の屯所に入る。後に大政奉還から鳥羽・伏見の戦いへと続く激動の年。そんな混乱もあってか、「不動堂村」とだけ記録が残るその正確な位置は分かっていないが、敷地の広さや形から、有力地の一つとされるのが、京都駅の西に立つリーガロイヤルホテル京都(下京区)だ。2019年に開業50周年を迎え、薄緑色の外観は堀川通りのランドマークとなってきた。ホテルの入り口前に近藤の句を刻んだ碑がある。各地から京都に参集した彼らが最後に過ごした場所が今はホテルになっていることに、運命のいたずらを感じずにはいられない。
開業以来、半世紀以上にわたって営業を続ける回転展望レストラン「フレンチダイニング トップ オブ キョウト」はこのホテルの知られざる名物だ。かつては全国にあった回転レストランだが、今も回り続けているのは、ホテルでは札幌市のセンチュリーロイヤルホテルとここだけだという。食事をしながら360度の京都の眺望が楽しめ、北はすぐ目の前に西本願寺、奥には五山送り火の左大文字、北東には比叡山が見える。南側は東寺の五重塔と東海道新幹線が同時に眺められ、カメラに収めることもできるので、鉄道ファンにも喜ばれそうだ。50周年の節目を経て最近、設備を更新したといい、これからも100周年を目指して回り続けるという。
新選組の隊士が足しげく通った花街は島原。壬生からも近く、今の地図で見るとJR山陰本線・丹波口駅の東側のエリアだ。現在の料亭に当たる「揚屋」だった「角屋」の建物がほぼそのまま保存されており、当時の面影を残す。芹沢は暗殺される直前、ここで酒宴を開いていた。長州藩、薩摩藩なども頻繁に利用していたというから、よく鉢合わせにならなかったと感心する。戦時中に空襲対策として取り壊しの危機を迎えた際、西郷隆盛が使った「たらい」が残っていることを当局に説明し、免れることができたという逸話も残っている。現在は「角屋もてなしの文化美術館」として、毎年9~12月と3~7月ごろに期間限定で公開されている。
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