Q&Aでサクッと早わかり! 京町家ガイド 〜知ればもっと京都が楽しくなる〜

京都市内を歩いていると、必ず見かけるのが「京町家(きょうまちや)」と呼ばれる木造の家。その格子(こうし)や瓦など、シンプルながらも意匠一つひとつが街に趣を添え、京都らしさを醸し出しています。

しかし近年、この京町家が急激に減少していることをご存知でしょうか。その減少数は年間およそ800軒。1日に2軒以上の割合で減っていることになります。

その保全・継承への支援や情報発信など、京都をあげてさまざまな取り組みが実施されていますが、まずは京町家とはいったいどんな家なのか、基本的な構造や歴史について知ることから始めませんか。

京町家を知ることは先人の暮らしぶりに触れること。何より、いちだんと京の街歩きが楽しくなります。

写真提供:公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会

Q.「京町家」ってどんな家? 「うなぎの寝床」って?

A.一言で言えば細長~い家。その奥行きの深さから、よく「うなぎの寝床」と例えられます。

京町家の最大の特徴は間口が狭く、奥に細長い構造であること。まさに「うなぎの寝床」とは言い得て妙。見事な表現です。

「京都市京町家の保全及び継承に関する条例」では、主に以下にあてはまる建物を京町家と定義づけています。

・昭和25年以前に建築された
・木造建築物
・伝統的な構造 など

その多くは仕事場(お店など)と住居が一つになった職住一体型の家だったようです。

外観の特徴で言えば、道に面した外壁には木の「格子(こうし)」、屋根には「一文字瓦(いちもんじがわら)」などが葺かれ、2階建ての場合は「虫籠窓(むしこまど)」がある家も多いです。その家の商いなどによってそれぞれの形状や有無は異なりますが、これらは京町家の主な見どころと言えるでしょう。

また、京町家はポツンと1軒だけ立つというよりは、似たような外観の家が近接しながら連なっていることも多いです。しかも軒の高さや格子の風情など、それぞれに微妙な違いはあれど、おおむね同じような外観が寄り添っています。これは、1軒は単独の家でありながら軒を連ねる家々のうちの1軒という、「町」としての共同体意識の表れと言われています。

家の姿だけでなく、住み手同士の平等で緩やかなつながりがあるからこそ、美しい京町家の風景が形作られているのです。

Q.屋内はどうなっているの?

A.家の表口と奥(裏口)をつなぐ通路のような土間があり、それに沿って複数の部屋が設けられています。

中に入ると、まず目に飛び込んでくるのは家の奥へと続く細長い土間。これを「通り庭(とおりにわ)」といい、表口から裏口までを一直線に貫いているのが特徴です。

その土間に並行して「店(みせ)の間」「中(なか)の間」「台所(だいどこ/居間)」「奥(おく)の間」といった部屋が並んでいます。この並びはあくまで原則ですので多少異なる場合もありますが、家の表に近いほうが仕事場、つまりワークスペースで、奥はプライベートスペースと覚えておくと良いでしょう。

京町家は柱や梁などを隠さずにそのまま露出していることも多く、石の上に柱がのっている姿も見かけます。これは地面の湿気から木の腐食を防ぐ工夫。「火袋(ひぶくろ)」と呼ばれる「通り庭」の吹き抜けのダイナミックな木組みも必見です。

夏になると衣替えならぬ、建具替え(たてぐがえ)をするのも大変ユニーク。襖や障子は目にも涼やかな葦戸(よしど)などに替えられ、家中の雰囲気が一変します。涼を取り入れる素敵な工夫です。

町家の構造【表屋造】の一例



Q.いつからあるの?


A.平安時代が起源。江戸中期には現在の京町家の原型が形成されました。

平安末期の書物に「まちや」という呼び方が登場していますが、当初は簡素な小屋だったようです。

室町期になると道に面して商いを行う家が軒を連ね、応仁・文明の乱後は道を挟んだ両側の家々で構成される「両側町(りょうがわちょう)」というコミュニティが次々と誕生。町ぐるみで自分たちの身は自分たちで守るという、自衛や自警対策も進められました。

今日の町家の原型となる家が確立されたのは江戸中期のこと。しかし残念ながらその多くは幕末の禁門の変(蛤御門の変/1864年)で焼失してしまいました。現存する町家のほとんどは明治から大正期に建てられたものです。

ちなみに、町家が細長くなったのは豊臣秀吉による都市改造計画が大きく影響したと言われています。

それまで1つの町の大きさは約120m四方の正方形でしたが、土地の高度利用を図るために1町の中ほどに小路が通され、まるで細胞が分裂するように土地が細分化されていきました。

これによって短冊状の、つまり「うなぎの寝床」サイズが生まれたのです。

Q.おすすめの見どころは?


A.外観と内観の主な見どころを紹介します。

形状のみならず、歴史も構造も奥が深い京町家ですが、主な見どころをカンタンにまとめました。街歩きや、町家見学の際の参考にどうぞ。

外観

「格子」

光や風を通しながら外からの視線を遮る工夫がなされた格子。糸屋格子(いとやごうし)や染屋格子(そめやごうし)など、その家の商いによって形状、名称が異なります。写真は糸屋格子。

「軒瓦(のきがわら)」と「鍾馗(しょうき)さん」

間口に設けられた庇(ひさし)に葺かれた瓦。写真は瓦のアンダーラインが直線的な「一文字瓦」です。庇の上に鎮座する瓦製の人形は「鍾馗さん」の愛称で親しまれる魔除けの神。睨みをきかせて邪鬼を祓うものですが、やや横を向いていたり、箱に入っていたり。さまざまな表情も見どころです。

「犬矢来(いぬやらい)」

道に面した壁や格子の下部を覆う竹製の柵。家と道の境界を表し、犬を追いやるものですが、直線的な町家のデザインにふっくらとした曲線を添えているようにも見えます。

内観

「通り庭」と「おくどさん」

写真提供:公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会

「通り庭」は表から裏へと続く細長い土間の総称。中戸より手前は「店庭(みせにわ)」、奥は「走り庭(はしりにわ)」と呼ばれます。「走り庭」には炊事場があり、「おくどさん」と呼ばれる竈が残る家もあります。家人が忙しく立ち働く、あるいは風が縦横無尽に走り抜けることから「走り庭」の名がついたと言われています。

「庭(にわ)」

写真提供:公益財団法人奈良屋記念杉本家保存会

家の中ほどに設けられた小さな「中庭(なかにわ)」、一番奥の「奥庭(おくにわ)」などがあります。四季折々の風景を見せるのはもちろん、風通しと採光の役割も。写真のお座敷は夏のしつらえです。

「引手(ひきて)」と「欄間(らんま)」

千鳥やひょうたん、鶴など、ユニークなデザインの引き手を採用する町家もあります。また、格子や透かし模様の欄間をはめることで季節感や光、風を取り入れる工夫も。

Q.見学はできるの?


A.一般公開している京町家があります。また、38日の「町家の日」に合わせて各所でイベントも催されます。

見学できる代表的な京町家をご紹介します。ただし、大切に守り継がれている文化財クラスの京町家ですので、くれぐれも以下のことを守って見学してください。

・屋内での飲食はおやめください。(プランによっては飲食できる場合もあります)。
・裸足での見学はご遠慮ください。
・壁によりかかったり、荷物が調度品などに触れないようご注意ください。
・屋内撮影ができない場合もあります。

詳細は各町家のホームページでご確認ください。

■重要文化財 杉本家住宅

見学料:大人1,500円、高校生以下800
住所:京都市下京区綾小路通新町西入ル矢田町116
TEL.075-344-5724 
ホームページ:https://www.sugimotoke.or.jp

西陣 くらしの美術館 冨田屋

見学料:2,200円~(要予約)※2日前までにご予約ください。
住所:京都市上京区石薬師町697
TEL.075-432-6701
https://tondaya.co.jp 

秦家住宅

見学料:大人1,000円、高校生800円、中学生500円(前日までに要予約)
住所:京都市下京区太子山町594
TEL. 075-351-2565
https://www.hata-ke.jp 

京都生活工藝館無名舎 吉田家

見学料:大人2,000円、大学1,000円、小中500円(小学生1年生~3年生は無料)※前日にまでに要予約

住所:京都市中京区六角町363
http://r.goope.jp/kyoshida/

くろちく「八竹庵」

見学料:一般1,700円、中高生500円、小学生200円 団体割引あり 
一般のお客様ご入館につきましては「文化財保護継承協力金」1,000円を含んでおります。
住所:京都市中京区三条町340
TEL.075-708-7189
https://www.kurochiku.co.jp/hachikuan/

 

市内中心部の見学可能な町家一覧ならびに、印刷用の地図はこちらからご覧いただけます。
▽京都市内の主な見学可能な町家一覧https://global.kyoto.travel/resource/global/download/18-pdf.pdf

 

3月の「March(マーチ)」、8日の「ヤ」にちなんで38日は「町家の日」とされています。毎年38日前後の期間中、市内の各町家でアートギャラリーやワークショップなど様々なイベントが実施されますので、ぜひチェックしてみてください。

金額はすべて税込です。2024年9月現在の情報です。

記事を書いた人:五島 望

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東京都生まれ、京都在住のライター・企画編集者。
京都精華大学人文学部卒業後、東京の出版社に漫画編集者等で勤務。29歳で再び京都へ戻り、編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。紙媒体、Web、アプリ、SNS運用など幅広く手掛ける。

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