【京都グルメ】妙心寺 退蔵院 松山大耕さん ~京料理の“道”は、仏性へと通ずる~

京都レストランスペシャル・アンバサダーインタビュー 臨済宗大本山 妙心寺 退蔵院 副住職 松山大耕さん

禅の修行と、膳の修業と
京都レストランスペシャル・アンバサダー特別インタビュー第二弾でご登場いただくのは、「精進料理というのは、すなわち仏教の実践である」と話す松山大耕さん。作る人は丁寧に手間をかけて作り、食べる人はその真心に感謝する。そのようにして互いに相手を思いやり、人の心のやさしさを噛み締めることが、なにより料理をおいしくしてくれる調味料なのだといいます。宗教者としてはもちろん、観光大使やオピニオンリーダーとして、さまざまな分野で活躍されている松山さんに、京料理と仏教の「切っても切れない関係」を中心にお話を伺いました。

京都レストランウインタースペシャル2023(2/1~3/27)

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プロフィール
1978年京都市生まれ。2003年東京大学大学院 農学生命科学研究科修了。2007年より退蔵院副住職。日本文化の発信・交流が高く評価され、2009年観光庁Visit Japan大使に任命される。2016年『日経ビジネス』誌の「次代を創る100人」に選出。2022年より京都観光大使。世界各国で宗教の垣根を超えて活動中。

京都の哲学がお皿で表現されたものは、すべて「京料理」である。

松山さんから見た京都の食文化の伝統。その根本には仏教の教えがあり、「精進」があるといいます。実際に京都で一流と呼ばれる料理人の多くが、料理の道に入る前に禅寺での修行を経験していて、なかには天龍寺の修業道場で2年にわたる本格的な修行を終えてから料理の道に入られた方もいるのだそうです。それが、京料理の料理人に「精進の心」「仏教の精神」が息づいている所以であり、そしてその精神はイタリアンやフレンチなどの他ジャンルのシェフにも受け継がれ、それが京都の料理人全体の伝統になっているのではないかと松山さんはいいます。妙心寺にもフレンチやイタリアン、スパニッシュなどこれまであまり交流のなかった分野の料理人の方々も近年は学びを求めて訪れることが増えているのだとか。松山さんは「お寺で修行すると掃除の仕方が変わる。掃除が変わると料理に向きあう精神性が変わる」と話し、そうした日々の積み重ねが、京料理に限らずどんなジャンルの料理であれ、共通した「京都の哲学」となって、店に、味に、お皿に滲み出てくるのだといいます。

「道元禅師の言葉に『喜心・老心・大心』というものがあります。『喜心』は喜びの心。料理でいえば義務感でイライラしながら作るのではなく、喜びの心をもって作りましょうということ。『老心』は思いやり。たとえば子どもに出すときは食べやすく小さく切って出すとか、食べる人への思いやりが大事ですよということですね。最後の『大心』は、大いなる心。素材の産地や銘柄がどうとか、希少部位がなんだといったことよりも肝心なのは、たとえ野菜のヘタでもヘタなりにおいしく料理する、その大きな心持ちだという教えです」

いまある限られたものに知恵と工夫を施し、最大限に生かす。そうした心がけこそが大事なのだという松山さん。たとえば妙心寺の道場では米の研ぎ汁を使ってけんちん汁を作るのだといいます。理由は、まず栄養価が高いこと。それに研ぎ汁は油を分解するので、食器洗いの際に研ぎ汁に一度くぐらせると洗剤がすくなくて済むのだそうです。また米の研ぎ汁は苔の生育にもよいのだとか。一般の家庭では捨ててしまうものでも、それを最大限に使い、生かす。その精神が仏教の実践であり、京都では食の世界においてもそれが徹底されていると松山さんは話します。鱧(はも)のような食べにくい魚を骨切りまでして食べてきた。水の良さを生かして地場の野菜を育ててきた。だからこそ、あるものを生かし、かえって強みにするという仏教の精神が根づいたのではないでしょうか。

手間をかけて作られたお料理を、丁寧に、綺麗にいただく。

松山さんは、作る人だけではなく、食べる人の側にも精進の心が求められると話します。たとえば「洗鉢(せんばつ)」といって食事の最後にお茶碗に熱いお湯かお茶を入れて、残しておいた一枚のたくあんで綺麗にさらってから食事を終えるという作法があります。これは、食べ物を粗末にしないということと、もうひとつ食器を洗う人のことを考えてのこと。精進料理は「手間をいただく料理」といわれ、素材も味付けも質素であるぶん時間と手間をたっぷりかけて作られています。そのため洗う手間までかけてしまっては申し訳がないということで、すこしでもその手間を少なくしようとの教訓に基づいて行うもの。それがつまり、作る人と食べる人が互いを思いやる心であり、精進料理の本質なのです。単に野菜を使ったお料理ということではなく「仏教の実践」であり、その精神性の有無が単なるベジタリアン料理と精進料理の根本的な違いなのです。

「近年、グローバル展開する日本企業の研修の場として修行体験を求めて来られる方が増えました。朝早く起きて、お経をあげたり座禅をしたり、裸足になって雑巾掛けして、庭掃除をしてというもの。研修の最後に『なにがいちばん印象に残りましたか」と質問するのですが、どの研修会でも『ご飯が美味しかった』という答えが返ってきます。もちろん精進料理をお出ししているわけですから近江牛も江戸前寿司も出てきません。ではなぜそんなにおいしいのか?理由はかんたんで、道場でお食事をいただく際はひと言も喋らずに、居住い直って、姿勢正して、黙々とごはんだけを食べることになります。そうすると、ごはんの香り、お味噌汁のコク、お野菜の甘みなどがダイレクトに感じられるからだとわたしは思います」

飽食の時代といわれて久しいいま、なにを食べるか?という側面ばかりにフォーカスされがちですが、そもそもどうやって、どのようにいただくか?といった、食べる側に問いを突きつけてくる環境、それが新鮮な学びとして参加者にインパクトをもたらすのだろうと松山さんは考えています。

おいしく食べたいという心持ちが、なにより料理をおいしくする。

ここまで京料理における精進料理や仏教の影響を語っていただいた松山さん。その一方で、ふだん使いのお店でも、個性があって値打ちのある良いお店がたくさんあるのが京都の多様な食文化の魅力のひとつだと話します。なかでもご自身のソウルフードだと公言し、愛してやまないラーメン屋さんが妙心寺の近くにあります。およそ40年にわたって同じ味を貫き、メニューもラーメンとライスのみという潔さ。コロナ禍にあってもつねに行列が絶えない人気店です。実はかつて、とある賓客をあえてそのラーメン屋さんにお連れしたところ、たいそう喜ばれたというエピソードがあるのだそうです。

松山さん「その方はすでに世界中のおいしいものを食べていらっしゃるわけです。だからこそ三つ星レストランだとか高級店だとか、そういった表面的な評価ではなく、いまその人が食べたいものはなんなのか?その人がどんな体験を求めているのか?それを叶えてあげたほうが喜ばれると考えたんです。実際にその方は『日本で食べた食事のなかでいちばんおいしかった』と言ってくれました。やはりそれもまた、ただおいしければいいわけではない、という食の本質とつながりますし、最終的には精進につながるんですよね」

最後に、松山さんは「わたしの最後の晩餐は、白いご飯、お味噌汁、ぬか漬けです」といたずらっぽい笑顔で教えてくれました。それは決して僧侶ゆえの「質素の追究」ではなく、松山さんにとって純粋にそれがいちばんおいしい食事だから、ということでした。

修行時代には必ず料理当番として修行僧40人前の料理を毎日朝・昼・晩と作っていたなかで、綺麗に食べてもらえたり、「おいしかったよ」というひと言があったりすることが、なによりうれしかったと話す松山さん。人のために真心込めて料理を作った人にしかわからない気遣いを、いまもなにより大切にしているそうです。この冬、みなさんもあらためて作り手の手間に心を向け、綺麗な食べ方と感謝のひと言を実践する、「精進」な食べ歩きをしてみてはいかがでしょう。

京都レストランウインタースペシャル・アンバサダー 松山様からのメッセージ

京都の通は冬に来る、とよく言われます。華はないけれども、最もシンプルで庭本来の味わいを楽しむことができるのが冬。
 繁忙期は観光客で溢れますが、この時期は比較的ゆったりと過ごすことができます。もちろん、人気のレストランにもアクセスしやすいです。何より、お迎えする私たちも時間的、精神的ゆとりがあるので、心のこもったおもてなしができます。是非、冬の京都をゆったりとお楽しみください。

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記事制作:ENJOY KYOTO

企画:京都レストランスペシャル

「京都レストランウインタースペシャル」では、京都の有名料理店・レストランなどで京都レストランウインタースペシャル限定のメニューが特別価格で楽しめます。人気の名店で気軽に冬の京都の味覚をお楽しみください。

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