比叡山延暦寺とは
京都市左京区と滋賀県大津市の府県境に位置する比叡山(ひえいざん)の標高は848メートルあり、路線バスやケーブルカー、ロープウェイなどで山頂まで行くことができます。比叡山は聖なる山として殺生が禁じられてきたため、野鳥をはじめ豊かな自然がそのまま残されているのが特徴です。山頂からは琵琶湖や京都市街を一望でき、夜には宝石を散りばめたようにきらめく夜景が楽しめます。
その比叡山の全域を境内とするのが、天台宗総本山の比叡山延暦寺です。「延暦寺(えんりゃくじ)」という固有の建物があるのではなく、1700ヘクタールの山内に点在する約100の建物の総称です。その延暦寺の起源は平安時代初期にさかのぼります。桓武天皇が平安京を造成する際に重視したのが、古代中国の思想である「風水」です。風水では北東を「鬼門」といい、鬼が出入りする縁起の悪い方角とされました。平安京にとっての鬼門が比叡山であったため、鬼門除け(厄災から京の都を守る)の役割を担ったのが延暦寺です。遣唐使船に乗って中国に留学した最澄(伝教大師)が、延暦7年(788年)に道場として開いた「一乗止観院(いちじょうしかんいん)」が延暦寺の起源とされます。延暦寺の名は、延暦の元号にちなんで付けられたものです。
日本仏教の母として
後に法然(浄土宗)・親鸞(浄土真宗)・日蓮(日蓮宗)といったそうそうたる顔ぶれが、この比叡山延暦寺で学んだことから「日本仏教の母山」と呼ばれるようになりました。百人一首で有名な慈円は「世の中に山てふ山は多かれど、山とは比叡の御山(みやま)をぞいふ」という歌を詠み、比叡山を日本一の山としてあがめたほどです。この歴史的経緯を背景に、延暦寺は「古都京都の文化財」として1994年に世界文化遺産に登録されました。
山内は「東塔(とうどう)」「西塔(さいとう)」「横川(よかわ)」の3エリアに分かれていて、なかでも東塔の根本中堂(こんぽんちゅうどう)は最大の仏堂であり、延暦寺の総本堂となります。なお、根本中堂および廻廊は2016年から約10年をかけて大改修の工事を行っています。ご本尊は薬師如来です。堂内に灯る明かりは、1200年間消えることがない「不滅の法灯(ほうとう)」と呼ばれています。
焼き討ち事件を乗りこえて
1200年の歴史を誇る延暦寺にも大きな危機がありました。織田信長による「延暦寺焼き討ち」です。戦国時代の1571年、織田信長と争った朝倉義景・浅井長政連合軍を延暦寺はかくまいます。これに怒った信長は、なんと延暦寺を焼き討ちするという強行手段に訴えます。これを「神仏に対する大罪」として織田信長を激しく非難する人もいれば、「戦国の世を終わらせ真の平和に導くためには、やむをえなかった」と擁護する人もいます。いずれにしても、僧兵や僧侶はもとより女性や子どもに至る3,000人の命とともに、多くの堂塔が焼失したのは事実です。その後、豊臣秀吉や徳川家康により講堂は再建され現在に至ります。
祇園祭と延暦寺
また、意外と知られていないのが、祇園祭と延暦寺の関係です。祇園祭を司る八坂神社は、明治維新までは「祇園社」と呼ばれていました。神仏習合の考えのもと、祇園社は延暦寺の末寺として位置づけられていた時代もありました。祇園祭の斎行にも延暦寺の意向が強く反映され、祭の延期や中止となることが度々あったそうです。
このように歴史の荒波を乗りこえてきた比叡山延暦寺は、天台宗の道場にふさわしい荘厳な空気とともに、今日も多くの観光客を迎えています。
拝観案内・アクセス
延暦寺の拝観時間
東塔エリア
通年 9時~16時
西塔・横川エリア
1月~2月 9時30分~16時
3月~11月 9時~16時
12月 9時30分~16時
※エリアと時期によって異なるのでお気を付けください。
東塔・西塔・横川エリアは比叡山内シャトルバスで移動できます。1日乗り降り自由のお得な「比叡山内1日フリー乗車券」を是非ご利用ください。
大人 1,000円 小人500円
最新情報は延暦寺公式サイトをご確認ください。
延暦寺へのアクセス
京都駅から比叡山ドライブバス約70~80分(※冬は運休のためご注意ください。)
東塔か比叡山頂で下車→比叡山内シャトルバスでエリア移動
叡山電車 出町柳駅から八瀬比叡山口へ 約14分
徒歩で叡山ケーブルに乗り換え ケーブル八瀬駅からケーブル比叡駅へ 約12分
徒歩でロープウェイに乗り換え ロープ比叡駅から比叡山頂駅へ 約4分
比叡山内シャトルバスでエリア移動
スポット (八瀬比叡山口駅周辺)
比叡山麓にも多くの魅力的なスポットがあります。比叡山に登る前に立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
・八瀬もみじの小径
叡山ケーブル「ケーブル八瀬駅」横にある回遊路。叡山ケーブルの待ち時間等にもふらっと立ち寄れます。秋の紅葉シーズンはもとより青もみじなど四季折々の景色が楽しめます。
・瑠璃光院
比叡山の麓にある浄土真宗の寺院。「瑠璃色に輝く」と言い表されるほど美しい苔が張り巡らされる「瑠璃の庭」や、紅葉が書院の写経机に映り込む様子は絶景です。
・エクシブ京都 八瀬離宮
離宮の名にふさわしく、比叡の眼下に広がり、八瀬大原の清流がそばを流れる自然に包まれたホテルです。天然温泉や美味に舌鼓をうって、極上のヒーリングタイムを満喫できます。
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記事を書いた人:吉川哲史
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一般社団法人 日本ペンクラブ会員。八坂神社中御座三若神輿会 幹事。祇園祭と西陣の街をこよなく愛する生粋の京都人。さまざまな京都ネタを題材に仮説を立てた記事をKyoto love Kyoto. サイトに寄稿中。2021年「西陣がわかれば日本がわかる」を上梓。