お客さまより注文を受け、料理を作って届ける「仕出し業」は、日々の暮らしや年中行事を大切にする京都独特の食文化です。近年はめっきり少なくなってきましたが、ここ「菱岩」は200年近く続く仕出し専門の老舗として現在もその伝統を守っています。お店を訪ね、仕出しの歴史や料理の特徴、おもてなしの心を伺いました。
“町衆の台所”から発展した仕出し文化
「昔は町ごとに仕出し屋があって、家庭のもう一つの台所みたいな存在でした。菱岩も開業の頃は朝仕入れた魚を天秤棒で担いでご近所の大店を御用聞きに回り、ご主人の好みの料理を作り、同じ料理でもお家ごとの味に変えてお届けしていました」と話すのは「菱岩」の5代目主人、川村岩松さん。
注文の仕方や料理は時代とともに変化し、次第に気の張る来客のもてなしやお祭り、慶弔事の料理の注文を受けるように。普段は慎ましく、その一方、おもてなしを大事とする町衆の台所として発展します。
花街・祇園の宴席を裏方として支える
「菱岩」では代々の主人が料理の研讃を重ね、3代目主人、松之助は漆塗りの半月型のお弁当箱や深さのある折箱を考案。5代目の岩松さんは祇園のお茶屋さんへの仕出しを始め、会席、松花堂、半月、折詰弁当など、用途に応じた料理を充実させました。
「私が店を継いだ頃は晩の注文は受けておらず、お茶屋さんから夜の料理をしてみはったらと言われ、会席やお弁当をお届けするようになりました。花街の宴席は料理屋さんと違って芸舞妓さんが主役。料理はおいしく、でも華美にならないように気をつけています」と、“お茶屋さんの台所”として裏方に徹しています。
冷めてもおいしく、色彩華やかに
仕出しの料理は、冷たいものは冷たいうちに、熱いものは熱いうちに出せる料亭や割烹の料理をそのまま取り入れることはむずかしく、お弁当は冷めてもおいしいように味はしんみりとしたやや濃いめで、強弱や濃淡がつけられます。「おかずは一つひとつ味を替えていますが、メインはだし巻きと白いご飯です。あれこれ迷いながらおかずをつまみ、間にだし巻きとご飯を食べてもらうようにお作りしているお弁当です」
限られたスペースに美しく盛り込まれたおかずとご飯は、味は五味、色は赤、黄、緑に白と黒の5色が基本。奥から手前に向かって詰め、左上を高く、右下に向かって低く詰めることをポイントとし、味移りや食べやすさへの配慮もされています。
場所を選ばず楽しめる、正統派京料理
折詰弁当は場所を選ばす、顔見世やお花見、旅の車中など、特別なひとときに楽しめ、味土産として家に持ち帰ることもできます。
「仕出しの形や提供の仕方は時代とともに少しずつ変わってきましたが、京料理の伝統を守るお客さまの台所という心構えは変わりません。その時々に創意工夫を重ねながら、これからも京都らしさを継承していきたい」とご主人。時代の流れに添いながら、けれんを求めず、奇をてらわない仕事を継承し、暖簾に記された“京趣味”をていねいに守り続けています。
<京趣味 菱岩(きょうしゅみ ひしいわ)>
京都府京都市東山区新門前通大和大路東入る西之町213
TEL 075-561-0413
定休日 日曜、第2・最終月曜、月1〜2回不定休あり
電話にて要予約。(6月〜9月のお弁当販売は基本お休み)
予約受付時間 11時〜19時
販売受付時間 11時30分〜19時
表示価格はすべて税込です。
取材・文/西村晶子 撮影/内藤貞保
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記事を書いた人:家庭画報.com
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