京の暮らしに息づくおもてなしの心「仕出し」

 お客さまより注文を受け、料理を作って届ける「仕出し業」は、日々の暮らしや年中行事を大切にする京都独特の食文化です。近年はめっきり少なくなってきましたが、ここ「菱岩」は200年近く続く仕出し専門の老舗として現在もその伝統を守っています。お店を訪ね、仕出しの歴史や料理の特徴、おもてなしの心を伺いました。

“町衆の台所”から発展した仕出し文化

「昔は町ごとに仕出し屋があって、家庭のもう一つの台所みたいな存在でした。菱岩も開業の頃は朝仕入れた魚を天秤棒で担いでご近所の大店を御用聞きに回り、ご主人の好みの料理を作り、同じ料理でもお家ごとの味に変えてお届けしていました」と話すのは「菱岩」の5代目主人、川村岩松さん。

f:id:kyokanko:20210408091204j:plain

初代、菱屋岩吉の名前をとって「菱岩」を名乗るようになった天保初年(1829)創業の仕出しの専門店。5代目主人の川村岩松さんは花街・祇園の仕出しを中心に、観劇や行楽の折詰弁当を手がける。京都の食文化への貢献から、京都和食文化賞を受賞。

注文の仕方や料理は時代とともに変化し、次第に気の張る来客のもてなしやお祭り、慶弔事の料理の注文を受けるように。普段は慎ましく、その一方、おもてなしを大事とする町衆の台所として発展します。

f:id:kyokanko:20210408091258j:plain

切溜(きりだめ。料理を入れて運ぶための箱)を担いでお茶屋さんに料理を配達する白衣姿のスタッフ。そのさまは昔から変わらず、祇園の風物詩となっている。

花街・祇園の宴席を裏方として支える

「菱岩」では代々の主人が料理の研讃を重ね、3代目主人、松之助は漆塗りの半月型のお弁当箱や深さのある折箱を考案。5代目の岩松さんは祇園のお茶屋さんへの仕出しを始め、会席、松花堂、半月、折詰弁当など、用途に応じた料理を充実させました。

f:id:kyokanko:20210408091517j:plain

「松花堂弁当」は5400円~。写真は一例。春のお弁当の中は、だし巻き、鶏松風、サーモン山椒焼き、筍・小芋・飯蛸などの炊き合わせ、白魚、鮑柔らか煮、帆立焼き霜、豆ご飯、鯛桜葉寿司など。お造りは鯛、お椀は海老しんじょう。(仕入れによって内容が変わる)

「私が店を継いだ頃は晩の注文は受けておらず、お茶屋さんから夜の料理をしてみはったらと言われ、会席やお弁当をお届けするようになりました。花街の宴席は料理屋さんと違って芸舞妓さんが主役。料理はおいしく、でも華美にならないように気をつけています」と、“お茶屋さんの台所”として裏方に徹しています。

f:id:kyokanko:20210408091614j:plain

お茶屋さんへの仕出しは、会席や「松花堂弁当」が多い。お椀のだしは配達先で温め、熱々が供される。(撮影協力/かとう)

冷めてもおいしく、色彩華やかに

仕出しの料理は、冷たいものは冷たいうちに、熱いものは熱いうちに出せる料亭や割烹の料理をそのまま取り入れることはむずかしく、お弁当は冷めてもおいしいように味はしんみりとしたやや濃いめで、強弱や濃淡がつけられます。「おかずは一つひとつ味を替えていますが、メインはだし巻きと白いご飯です。あれこれ迷いながらおかずをつまみ、間にだし巻きとご飯を食べてもらうようにお作りしているお弁当です」

f:id:kyokanko:20210408091724j:plain

2種類の卵と濃いめのだしを合わせて作る、名物のだし巻き。手前から巻く“京都巻き”にすると卵の間に空気が入らず、美しいだし巻に。

f:id:kyokanko:20210408091755j:plain

焼き色をつけないように焼いては巻き、巻き簀で形を整えたら完成。真空パックにして1本から販売している。(要予約)

限られたスペースに美しく盛り込まれたおかずとご飯は、味は五味、色は赤、黄、緑に白と黒の5色が基本。奥から手前に向かって詰め、左上を高く、右下に向かって低く詰めることをポイントとし、味移りや食べやすさへの配慮もされています。

f:id:kyokanko:20210408091844j:plain

場所を選ばず楽しめる、正統派京料理

折詰弁当は場所を選ばす、顔見世やお花見、旅の車中など、特別なひとときに楽しめ、味土産として家に持ち帰ることもできます。

f:id:kyokanko:20210408092059j:plain

折詰弁当は「梅」3240円~。写真は20品ほどの料理を詰めた「花」5400円。

おかずの味が混ざらないように入れた斜めの仕切りは料亭「吉兆」の創業者・故湯木貞一のアドバイスで作られた。

f:id:kyokanko:20210408092125j:plain

手で持って食べやすいように折箱は縦長に使い、奥にだし巻きとご飯を詰めるのが「菱岩」のスタイル。2段の折詰やご飯が寿司になるお弁当もある。(要予約)

「仕出しの形や提供の仕方は時代とともに少しずつ変わってきましたが、京料理の伝統を守るお客さまの台所という心構えは変わりません。その時々に創意工夫を重ねながら、これからも京都らしさを継承していきたい」とご主人。時代の流れに添いながら、けれんを求めず、奇をてらわない仕事を継承し、暖簾に記された“京趣味”をていねいに守り続けています。

 

<京趣味 菱岩(きょうしゅみ ひしいわ)>
京都府京都市東山区新門前通大和大路東入る西之町213
TEL 075-561-0413
定休日 日曜、第2・最終月曜、月1〜2回不定休あり
電話にて要予約。(6月〜9月のお弁当販売は基本お休み)
予約受付時間 11時〜19時
販売受付時間 11時30分〜19時

https://www.hishiiwa.com

 

表示価格はすべて税込です。
取材・文/西村晶子 撮影/内藤貞保

記事を書いた人:家庭画報.com

f:id:kyokanko:20210408093038j:plain

家庭画報.comは、 世界文化社が発行する雑誌『家庭画報』の公式サイト。 選りすぐりのレストランや手土産、素敵な旅や暮らしの情報、 美容やファッションの最新トピックスなどを、365日毎日更新中です。

https://www.kateigaho.com/

観光に関するお問合せ
京都総合観光案内所(京なび) 〒600-8216
京都市下京区烏丸通塩小路下る(京都駅ビル2階、南北自由通路沿い)
TEL:075-343-0548

※新型コロナウイルス感染症拡大により、4月25日(日)~当面の間、一時閉所いたします。
なお、引き続き電話での対応(8:30~17:00)は行います。
京都観光Naviぷらすの運営企業
公益社団法人 京都市観光協会 〒604-8005
京都市中京区河原町通三条上ル恵比須町427番地
京都朝日会館3階
聴覚に障がいのある方など電話による
御相談が難しい方はこちら
京都ユニバーサル観光ナビ 京都のユニバーサル観光情報を発信中。ユニバーサルツーリズム・コンシェルジュでは、それぞれの得意分野を持ったコンシェルジュが、京都の旅の相談事に対して障害にあった注意事項やアドバイスを無償でさせていただきます。
京都観光Naviぷらす
©Kyoto City Tourism Association All rights reserved.
  • ※本ホームページの内容・写真・イラスト・地図等の転載を固くお断りします。
  • ※本ホームページの運営は宿泊税を活用しております。