長い歴史を越えて今に息づく、京の和菓子。時代の流れと共に、緩やかに変化し、それぞれのお店が伝統を守りながら、心のこもったていねいな菓子づくりを続けています。創業210余年の菓子司「亀屋良長」を訪ね、京菓子の今と昔、さらに未来に向けた思いを伺いました。
都の文化に寄り添う、美しき京菓子の世界
和菓子の始まりは諸説ありますが、遣唐使のもたらした唐菓子、茶道文化発展期の羊羹や中国伝来の饅頭、キリスト教宣教師によって伝えられた南蛮菓子など、時代ごとに新しい素材や技法を取り入れ、発展・普及しました。
長きにわたり御所があり、豊かな地下水にも恵まれた京都には、周辺地域から質の高い原料が集まり、菓子作りにとって理想的な環境が整っていました。京の菓子は二十四節気など季節の移ろいをことさら大切にする精神のもとに育まれ、茶の湯の発展とともに洗練を極め、味覚・触覚・嗅覚・視覚・聴覚の五感で菓子から情景を思い浮かべ楽しむものとなりました。そのような発展が、他の地域では見られない独自の和菓子の文化を生み、今日に至っています。
歴史を継承しつつ多様化する和菓子
「太平の世となった江戸の元禄年間に今の和菓子の形が定着し、庶民もちょっと贅沢をしたいときにお菓子を楽しむようになったようです。その頃、文化の中心地だった京都には上菓子屋仲間(砂糖が扱える店)が246軒あったという文献が残っており、京菓子や上菓子が発展しました」と話すのは、享和3年(1803年)創業の「亀屋良長」の8代目主人、吉村良和さん。
代表銘菓の「烏羽玉(うばたま)」や四季折々の生菓子は、創業時から受け継がれてきたものですが、大正時代から昭和初期にかけてはケーキも作っていたとのこと。戦後は高度成長の波に乗って商品も多様化し、観光客のための日持ちのするお菓子や。洋菓子のテイストを併せ持つさまざまな和菓子を作るようになりました。
ユニークな発想とデザインで和菓子を身近に
「和菓子を知ってもらうきっかけや、今の暮らしに合う楽しみ方を見つけてもらいたい」と、近年は昔ながらの羊羹や「烏羽玉」にフルーツやチョコレートを組み合わせ、味わいも見た目も楽しいものを企画。例えば、「そんなバナナ、」はバナナ風味の羊羹の上にカカオ羊羹をかけたオリジナル商品です。クスッと笑える名前といい、ルックスといい、かなり大胆ながら素材にこだわり、「ダンデライオン・チョコレート」のタンザニア産カカオと波照間産の黒糖を使い、後味よく仕上げられています。
また、食パンにのせて焼くだけであんトーストになる「スライスようかん」はスライスチーズから発想を得た薄いシート状の羊羹。パティシエとコラボレーションした「Satomi Fujita」や健康に配慮した「吉村和菓子店」などの新しいブランドも立ち上げ、伝統や和洋の枠にとらわれない新感覚のお菓子を次々と生んでいます。
京菓子の未来を担う若い力にも活躍の場を
「最初は恐る恐るでしたが、食べ慣れた素材との組み合わせや見た目の楽しさとともにお伝えすることで、若い方たちを中心に新しいお客さまが増え、手作り教室で和菓子づくりを楽しまれる方もいらっしゃいます」と話すのは商品企画開発に関わる奥さまの由依子さん。
さらに、お店や工房で働く若い世代のスタッフによる、二十四節気にちなんだ和菓子を考える「かめや女子和菓子部」と「かめや男子和菓子部」を発足させたのも由依子さん。メンバーたちの活動をあたたかく見守っています。
「家業を継いだ頃には、受け取ったバトンを次の代へ渡すだけと思っていましたが、今は想いを形にして多くの方に喜んでもらいたい」とご主人。京菓子への想いを深めながら日々新たな表現に挑戦しています。
亀屋良長
京都府京都市下京区四条通油小路西入る柏屋町17-19
TEL 075-221-2005
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取材・文/西村晶子 撮影/内藤貞保
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記事を書いた人:家庭画報.com
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