
保津峡といえば、京都屈指の美しい景観で知られ、亀岡市の保津橋付近から嵐山の渡月橋に至る渓谷です。その自然美をより身近に感じることができるアクティビティとして人気なのが、保津川でのラフティング。これを運営する「ビックスマイル」は、京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」に選ばれており、観光事業に加え、河川の安全を担うレスキュー活動や環境保護活動にも積極的に取り組んでいます。
寺社散策だけじゃない!?京都で自然を満喫するアクティビティ

画像提供:株式会社ビックスマイル
ラフティングとは、5~10人乗りのゴムボートで急流を下るレジャースポーツ。大自然のなかで水に親しみながらスリル満点の冒険を楽しめるのはもちろん、ボートに乗り込んだみんなが一つのチームとなって一体感を味わえるのも大きな魅力です。
このアクティビティを1999年に京都・保津川と四国・吉野川で始めたのが宇山昭彦さん。立命館大学の探検部出身で、国内外の山や川、洞窟などに挑んできた経験を活かし、日本でもラフティングの楽しさを広めようと「ビックスマイル」を設立しました。現在は全国6拠点で、年間約5万人が利用する事業を展開しており、一般社団法人日本ラフティング協会の理事長を務めるなど、業界の発展や安全性の向上に取り組んでいます。
「とくに保津川は、嵐山という観光地が近いため、寺社めぐりなどの散策と自然のなかでの体験を組み合わせた旅もできるのが特徴です」と宇山さん。スタート地点の平野部から、奇岩や激流のある渓谷、トロッコ列車との並走など、変化に富んだ楽しみ方ができるのも、ほかの河川にはない魅力なのだとか。

コースの途中には、ボートをとめて淵での飛び込みやゲームなどを楽しむプログラムも組み込まれており、若者だけでなく、子どもや年配の方でも楽しめるファミリーコースも評判です。
リバーレスキューの専門家として、地域の安全対策・救助活動に貢献
宇山さんが長年にわたって大切にしてきたのは、ラフティングのインストラクターとしてレスキューを学ぶこと。利用客を守り、ラフティングの安全性を高めるのはもちろん、レスキューに対する高いノウハウをもつスタッフが増えることで、近隣エリアでの救助活動を担えるようになり、安全対策の啓発など地域貢献にも繋がります。
保津川でも、京都中部広域消防組合と連携し、河川の安全に向けた協議や合同訓練を行っており、安全対策を徹底して行ってきました。実際の救助活動にも従事しており、ラフティングを利用する観光客を守るだけでなく、河辺で困っている人、遭難者などを救助することもあります。

宇山さん自身も海外でレスキューを学びましたが、とくにリバーレスキューは、山や海に比べて世界的にも専門家がまだまだ少なく、ニッチな分野なのだとか。近年、ゲリラ豪雨による河川の増水や氾濫などが各地で多発するなか、消防や機動隊など“救助のプロ”からの講習依頼も増えています。とくに保津川は、市街からの交通の便がよい一方で急流も多いため、訓練には最適な環境。そのため、さまざまな団体が講習に訪れており、宇山さんのレスキューの技術と安全への思いは全国へ広がりつつあります。
観光にはどうしてもオフシーズンがあるため、閑散期にレスキュー講習を請け負うことで、スタッフの仕事や技術向上の機会を確保できます。スタッフには登山など、高所作業に関する技術をもつ人が多く、橋梁の打診診断などを請け負うほか、レスキュー用具などのネット販売も手掛けています。
安全説明の多言語化など、おもてなしの質向上へ
技術や安全面はもちろん、サービスの質を向上させるため、インストラクターによる接客関連の資格取得や勉強会を行い、2015年には経済産業省が創設した「おもてなし規格認証」の金賞を認証。アドバイザーを迎えて社内で話し合いの機会をもち、多言語化やWi-Fiの導入などにもいち早く取り組んできました。

外国人観光客の受け入れ態勢も早くから整えており、円滑なコミュニケーションと満足度の高い体験の提供を実現するため、多言語を話す従業員を積極的に雇用しています。とくに多いのは山岳観光が盛んなヒマラヤのあるネパール出身者。言語だけでなく、観光アクティビティと安全対策に関する理解と高い技術を備えている人が多く、また「日本の観光シーズンがヒマラヤの閑散期というのもあり、両立してもらいやすい」といいます。
コロナ禍では一度は利用客が激減しましたが、サービスの質向上や多言語対応、修学旅行生の受け入れ強化の取組が功を奏し、現在では順調に利用者を増やしています。
自然の営みやチームワーク、歴史や環境問題を学ぶ機会に

保津川は古くから丹波・丹後と都を結ぶ物流路でもあり、水運を利用して木材が輸送されてきました。いまも京都に残るさまざまな歴史的な建造物のなかには、保津川水運によって運ばれた資材で建てられたものも数多くあります。こうした歴史を、川と触れ合うことで知ってもらおうと、修学旅行向けの情報サイト「きょうと修学旅行ナビ」への掲載などを通じ、ラフティングを教育旅行の機会として広める事業も進めています。

「長い歴史があるためか、流域に住む方々の保津川への思い入れはほかの河川よりも強いと感じます」。宇山さんは、NPO法人プロジェクト保津川の正会員として清掃活動にも参加し、地元企業に呼びかけながら、地域一体となって環境保全に努めています。
教育旅行のプログラムでは、自然や景観、歴史のほか、それらを守る一人ひとりのモラルの大切さをどのように伝えていくかについても検討を重ねているとか。マイクロプラスチックの問題など、保津川の流域でも河川ごみは大きな課題となっており、上流である保津川から伝えていく機会にしたいと計画を進めています。
ほかにも、インバウンドへの対応として、来日前の電話での事前説明にAIによる多言語対応を取り入れることも視野に入れ、京都観光モラルの啓発にも引き続き力を入れていきたいといいます。
「観光だけでなく、ものづくりや交通などさまざまな事業とのマッチングにより、よりよい観光資源にしていけるはず」と宇山さん。交流の場の創出など、行政の役割にもさらに期待を寄せていると話してくれました。
■リンク ◇【京都観光モラル】優良事例集
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記事を書いた人:上田 ふみこ

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ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。


