京都国立博物館主任研究員・末兼俊彦先生に聞く刀剣の「いびつ」な魅力

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※豊国神社 薙刀直シ刀「骨喰藤四郎」(重要文化財)

2021年に開催される第46回「京の夏の旅」のテーマは<京の不思議と異界伝説>と<伝説の名刀>。7カ所で、普段は見ることができない文化財が多数公開されます。

そこで今回は、近年話題の「刀剣」についてご紹介。難しそうなイメージのある刀剣の魅力について、京都国立博物館主任研究員で、金属工芸が専門の末兼俊彦先生に教えていただきました。京都国立博物館で開催される特別展「京(みやこ)の国宝―守り伝える日本のたから―」についてもご紹介します。

1. 京都国立博物館主任研究員・末兼先生が考える「刀剣」の魅力

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―むずかしそうなイメージのある刀剣ですが、まずは鑑賞のポイントを教えてください。

末兼先生:いきなりですが、刀って物体としては混じりもののない、ただの鉄の棒なんですよね。金属工芸に使われる金属は、金・銀・銅・錫・鉄などがありますが、その中で素材の原価が最も低いのが鉄です。1kgあたり数十円なので、素材の価値はほぼゼロなのです。

つまり、金製品や宝飾品のように素材の価値にたよらず、刀の価値って「歴史」と「職人の技術」の二つしかないんです。

刀を見るということは、素材ではなく、技術とか歴史に価値を見出すことなんですね。

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―少し方向を変えて、金属工芸としての刀についても教えてください。

末兼先生:刀剣はもちろん、普通のジュースのアルミ缶もそうなんですけど、金属って加工するのにものすごく高い技術がいるんです。

 金属工芸の鑑賞法は実はすごくシンプルで「クオリティが高い・技術的に上手い」=「良いもの」なんです。いわゆる「へたうま」はありません。金属工芸で作者の想いを形にするには高い技術が必要で、形が歪んでいたり、むらがあったり、そういうのは全部「下手」なんです。刀も同じ。そして「上手い」ほど価値があるんです。

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※京都国立博物館 平成知新館

―刀には不思議な力を感じる気がします。

末兼先生:刀というのはもともと邪を払うもの。刃物に邪を払う力があるというのは、恐らくほぼすべての民族が持っているイメージなんですよ。

祇園祭の長刀鉾はまさにそれです。山鉾巡行で先頭をきって、長刀鉾が京都にある良くないものを祓うから、後ろの鉾は安心して回れるという分かりやすい例です。

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※京都国立博物館 平成知新館グランドロビー

―刀剣について研究されたきっかけを教えてください。

末兼先生:僕のそもそもの研究テーマは「装飾論」なんですよ。僕はファッションでもインテリアでも派手なものが好きなんです。派手といってもいろいろ方向性がありますが、それはつまり装飾・「かざる」という行為にあると思ったんですね。

「Function(機能)」と「Decoration(装飾)」を比較し、あえて装飾の部分に人の興味を引く本質があるんじゃないかと考え「装飾論を学びたい」と思ったんです。

 

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※京都国立博物館 明治古都館

ー改めて、刀の魅力とは何でしょうか?

末兼先生:第46回「京の夏の旅」で『髭切』『膝丸』が特別公開されますね。この2振の刀は、異国の刀鍛冶が造ったものとされています。日本ではなく海外の先進的な力・技術で造られたことにより「霊性」がある、と暗に示しているのです。

また、『髭切』『膝丸』は、罪人で試し斬りをしたところ、首を切った勢いで一方は髭まで斬れた、もう片方は膝まで斬れた、ということからその名が付きました。これは武器としての実際の機能を担保するエピソードです。霊力があり、性能も格段にすごい、となると、これはもうただの鉄の棒ではなく、もっと特別な価値が加わり崇拝の対象にすらなる。

もちろんこれらは全てお話の中のことです。現存している『髭切』『膝丸』は作者も時代も違います。ですが、名刀には、製作年代は違おうとも、伝承や歴史を一身に背負えるだけの説得力のある美しさ、心を惹きつける魅力があるんです。だから、人々はその刀にいろんな思いを託して、伝承を付加していくのだと思います。

2.国立博物館の特別展「京(みやこ)の国宝」開催について

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―今回の特別展のテーマを教えてください。

末兼先生:展覧会には学術的なコンセプトがあります。物にはいろんな側面があって、どういったところを見せたいかによって、展覧会の構成をかえるんです。そこを読み取って展覧会の流れを見ると、より一層楽しめると思います。 

文化財保護法が制定されて約70年。今回の国宝展は「文化財の保護について考えよう」というテーマです。そのため、「国宝展」ですが国宝ではないものも展示されます。

―「国宝展」なのに国宝ではない…とは、どういうことでしょうか?

末兼先生:例えば金閣寺の鳳凰。国宝だった舎利殿・金閣は昭和25年(1950年)に全焼しましたが、そのとき、本来なら屋根の上についているこの鳳凰だけが修理のために外されていたため、あやうく難を逃れたんです。

つまり足利義満が創建した金閣で、今も残っているのは鳳凰だけなんですが、火事で燃えたことで金閣は国宝指定を解除され、この鳳凰も国宝を外れました。そういった、かつての国宝や国宝の一部であるのに国外流出したものなども展示しています。

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―そういった説明を聞くとさらに興味深いですね。

末兼先生: 今回の「京の国宝」展は、その点がすごく凝っていると思います。いろんな人たちが力を尽くして文化財を守ってきたことがよく分かる展示になっています。 

そして、「京の国宝」展には、国宝の刀も登場しますよ。鎌倉~南北朝時代のものとされる名刀で、戦後、最初に国宝指定を受けたもののひとつです。本当に美しい刀なので、ぜひこちらも注目してみてください。

京都国立博物館 特別展「京(みやこ)の国宝―守り伝える日本のたから―」

2021年7月24日(土)~9月12日(日)

(前期:7月24日(土)~8月22日(日)/後期8月24日(火)~9月12日(日))

※一部の作品は上記以外にも展示替えあり

アクセス:市バス「博物館・三十三間堂前」から徒歩すぐ

時間:9時~17時30分(入館は17時まで)

ホームページ:https://www.kyohaku.go.jp

※オンラインでの「事前予約優先制」を導入

3. 第46回「京の夏の旅」の見どころと開催概要

「京の不思議と異界伝説」と「伝説の名刀」をテーマに開催される第46回「京の夏の旅」。2020年は残念ながら中止となった「京の夏の旅 文化財特別公開」ですが、2021年は各施設やスタッフの感染拡大防止対策を徹底したうえで、開催されます。

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※北野天満宮「鬼切丸」(別名 髭切)(重要文化財)

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※旧嵯峨御所大覚寺「薄緑」(別名 膝丸)(重要文化財)

目玉となっているのは、先ほど末兼先生のお話にも出てきた名刀『髭切』『膝丸』です。平安時代に、源満仲の命によって造られたという2振の太刀で、どちらも重要文化財に指定されています。

さまざまな伝説を持ち、そのたびに改名を繰り返したとされる名刀。『膝丸』は旧嵯峨御所大覚寺で、『髭切』は北野天満宮で、同一期間に公開されます。

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※豊国神社 薙刀直シ刀「骨喰藤四郎」(重要文化財)

もう一つは、豊国神社で公開される『薙刀直シ刀 無銘 名物骨喰藤四郎(ほねばみとうしろう)』(重要文化財)です。斬る真似をするだけで骨まで砕いたという伝説を持つ刀。普段は京都国立博物館へ寄託されているものが、豊国神社に凱旋することでも話題となっています。

貴重な文化財の特別公開のほかにも、京都の文化・歴史を体感できるイベントもありますので、ぜひホームページをチェックしてみてください。特別公開は「事前予約優先」なので、お出かけ前の予約をお忘れなく!

第46回「京の夏の旅」

2021年7月10日(土)~9月30日(木)

時間:10時~16時30分(16時受付終了)※公開箇所により異なる場合もあり

ホームページ:https://ja.kyoto.travel/specialopening/summer/2021/

※インターネットによる「事前予約優先」で公開(当日受付で空きがあれば拝観可能)

ゲームの影響などもあり、近年ファンが増えている「刀剣」。すこし難しそうなイメージのある刀剣の鑑賞について、京都国立博物館主任研究員の末兼先生に、その見どころや魅力などを教えていただきました。

また、京都国立博物館で始まる特別展「京の国宝」、貴重な名刀が公開される第46回「京の夏の旅」についても紹介しました。貴重な文化財をぜひこの機会にチェックしてみてください。

※掲載している価格は2021年7月時点の税込価格です。

※取材・編集:JTBパブリッシング 

取材をした人:末兼俊彦

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京都国立博物館主任研究員。専門分野は美術史・金属工芸史。2012年に京都国立博物館研究員となり、2016年から東京国立博物館研究員を経て、2018年に再び京都国立博物館へ。2015年12月の特集陳列「刀剣を楽しむ―名物刀を中心に―」や、2018年11月の特別展「京のかたな 匠のわざと雅のこころ」を手掛けた。

この記事を書いた人:るるぶ編集部

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全国各地の「見る」「食べる」「遊ぶ」を徹底的にガイドした旅行情報誌『るるぶ』の編集部です。神社仏閣やグルメ、おみやげ、話題のニュースポットなど、京都のお出かけにかかせない情報を幅広く網羅。旅行者はもちろん、地元の方にも役立つ情報を日々チェック!

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