外から見る京都は、伝統と格式を守り続ける、他所の人間が入り込みにくい街だと思われがちです。確かに、それも一部においては事実かもしれません。その一方で、観光客や学生に対して想像以上に懐が深く、何よりも新しもの好きという側面もあります。大切なものはしっかりと受け継ぎながら、外からの刺激も受けつつ、また新しい伝統を生み出し続けているのです。悠久の街、京都が老若男女を魅了し続ける理由はそこにあるのかもしれません。これからがさらに楽しみな、“知らなかった京都”にお邪魔しましょう。
《見る》手捺染の職人が、デザイナーとしてデビューした?
着物の友禅に端を発す、長い歴史がある京都の染色は、伝統をベースに現在さまざまな発展を遂げている。伏見区の〈久山染工〉は、手捺染の工場。職人技で一枚一枚を手作業で仕上げるからこそ自由度が高く、古着のようなダメージや色褪せも、染めで表現できる。オリジナルの生地見本は数を把握できないほどで、その表現力の奥深さ、幅広さは素人目にも驚きだ。誰もが知る世界のトップメゾンからオファーが絶えないことも納得できる。さらに面白いのは、ここの職人である吉田力さんが、技術を継承しながら自ら、自社ブランド〈9M〉を立ち上げたこと。すでに6シーズン目を迎えるが、テキスタイル、デザイン、ルック作りに、卸しや自社ECまでを担う。ルックを見れば分かるが、アウトプットはモードなストリートファッション。一見、友禅から遠く離れているように見えるが、1点ずつを見ていけば、そこに歴史と技術が確かに継承されているのだ。
9M(ナインエム)
2018年からスタート。2021年AWのテーマは「The power of sport」。さまざまなユニフォームの機能性を重視。
Photo/Yoshiko Watanabe text/Yusuke Nakamura
《買う》平安神宮で蚤の市、これは京都・骨董市のニューウェーブなのだ。
京都の骨董市、といえば東寺の弘法市と北野天満宮の天神市が有名。ところが、そこに風穴をあける新勢力が。平安蚤の市は地元の若い古道具店主が中心の市で、希少性や歴史的価値だけに頼らない、つまりデザインや店主のセンスで選ばれたモノたちとその配置がなんともニューウェーブ。例えばプラスチックの大量生産品も壊れた道具もまるでアートのインスタレーション作品のように並べられていたり。主催者で古道具店〈soil〉の仲平誠さんは「朝イチでなくても案外いいモノが残ってる」とは言うけれど毎回、開始1時間前からお客さんがぞろぞろと。じつに納得。
平安蚤の市(へいあんのみのいち)
●岡崎
2019年4月から始まった、現在毎月約150店舗が参加する骨董市。6月は10日、7月は11日に開催予定。
●京都市左京区岡崎最勝寺町(平安神宮前広場)。
☎︎070•1745•1503。9時~16時。毎月ほぼ10日開催。
詳しくは、
Photo/Shoichi Kajino text/Yusuke Nakamura,
《食べる》食通がこぞって注目する、イノベーティブ和食の新星。
とりわけ飲食業界が大変なこのタイミングで、店を構えた若き料理人がいる。
料亭〈菊乃井〉で10年、中華の名店〈京、静華〉で1年、その間にはNYの寿司店やイノベーティブレストラン〈LURRA°〉での経験を積んだ酒井研野さん、31歳だ。「日本料理は引き算の料理。足し算の要素を学べば、可能性が広がると感じて」と振り返る。2021年3月に開店するやいなや、予約困難な人気店へと躍り出た。料理は月替りの1本。コースを通して日本料理の端正さを持ちながら、手打ち麺や中華食材、スパイスなどでアクセントをつけた皿が緩急をつける。足し算の食材づかいも新たな調和を感じさせ、若々しく新鮮。時代にジャストフィットした日本料理は、今後の進化にも期待せずにはいられない。
日本料理 研野(にほんりょうり けんや)
●岡崎
元〈餃子王〉だった場所。内装は建築家の佐野文彦が手がけた。料理はコースのみ12品前後、14,300円。予約制。
●京都市左京区岡崎徳成町28-22
☎︎075・708・7912。
17時、20時の2部制。日曜・月曜休、ほか不定休。予約はHPから、毎月1日に翌月の予約開始。
Photo/Kunihiro Fukumori text/Mako Yamato
BRUTUS
No.940(2021年6月1日発行)
101 things to do in KYOTO
京都で見る、買う、食べる、101のこと。
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記事を書いた人:BRUTUS
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