【京都の仏像・入門編】これだけは知っておきたい仏像の見方と種類! 観光のプロが教える仏像の基礎知識

仁和寺 阿弥陀三尊像

京都に観光に来た際、お寺で仏像を拝むけれど、どこに注目すればいいのか正直よくわからない……という方、意外に多いのではないでしょうか? 今回の記事は、仏像をもっと身近に知るための入門編。京都観光のエキスパートである若村亮さん(らくたび代表)に、仏像の見方やその種類など仏像のイロハを教えていただきました。

若村亮

若村亮さんは、京都の庭園入門編でもお話をおうかがいしています!

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1.そもそも仏像とは誰のこと?

ー よろしくお願いします! 京都でお寺や美術館に行くと、仏像と出会う機会が多いです。ありがたいのはわかるのですが、正直ちょっと難しいイメージもあって……。今さら聞くのは少し恥ずかしいことも、今回はいろいろお聞きしたいです!

若村:任せてください! 仏像って、寺院はもちろんのこと、家のお仏壇や町角のお地蔵さんなど意外と私たちの生活に身近にあるものです。なので、難しく考えなくても大丈夫です! たとえば「あの仏像はなぜあんな表情なの?」とか「持っているのは何かな?」とか、見た目にもわかるちょっとした違いを知っているだけでもいろんな発見があり、仏像をみるのが楽しくなりますよ!

ー では、さっそく。そもそもの話になってしまうのですが、仏像とは、一体何なんでしょうか? 人のような形をされてはいますが。

若村:いい質問ですね。仏像は、仏教を開いた人であるお釈迦様(おしゃかさま)の死後、仏教を信仰している人々が「お釈迦様の姿を拝みたい」と、そのお姿を像にしたものです。仏像の多くが、くせ毛のような巻き髪をしているのは、お釈迦様がインド出身という背景があるともされています。

釈迦誕生仏お釈迦様は生まれてすぐに7歩あるき、右手は天を、左手は地を指して「天上天下唯我独尊」と話したと伝えられている。

ー なるほど。たしかに顔の彫りも深く、どことなくオリエンタルな表情ですね。

若村:お釈迦様はもともとインドの奥地、現在のネパールの辺りにあった国の王子様だったのですが、地位や財産、妻子をも捨てて出家されたといわれています。「どのように生きたら心安らかに生活ができるか」を求めて悟りを開いた、その方法が今の仏教ですね。諸説ありますが、紀元前5〜4世紀ごろの話だといわれています。

ー 死後、何千年経っても拝められる、カリスマなわけですね?

若村:はい。仏像の歴史をさかのぼると、初めから人の形をしていたわけではなく、最初はお釈迦様の足の裏の形をかたどったモノを拝んでいる時代もありました。

仏足石お釈迦様の死後、仏教を信仰している人々はお釈迦様のお墓を礼拝するようになり、さらに「お墓では物足りない! お姿に近い形のものを拝みたい!」ということで仏足石が生まれた。

ー え、足の裏だけですか? なぜでしょう?

若村:初めの方はお釈迦様のお姿を作ることはおそれ多かったようです。ところが月日が流れるにつれて、やはりもっと具体的なものを拝みたいということで、現在広く知られているお釈迦様のお姿をかたどった仏像が作られました。

ー なるほど。では現在の仏像は、すべてお釈迦様ということですか?

若村:いえ、仏像の始まりはお釈迦様の姿が刻まれたものだったのですが、そこから仏教の広まりとともに、様々な種類の仏像が誕生しました。古来インドの神が仏教の中に入ってきたり、実在の人間が仏化した像も生まれたり、どんどん派生していったのです。

2.知ると楽しい、仏像の見た目

ー 仏像にもたくさん種類があるんですね。

若村:仏像の種類は、大きく分けると如来菩薩明王天部の4種に分類されます。4種には位があって、僕はよく学校にいる先生たちで例えたりしますね。

仏像ランク図

ー 学校にたとえる発想は面白いですね! それぞれ見た目の違いってあるのでしょうか?

若村:もちろんありますよ! 今回は、そこに注目しつつ見ていきましょう。

如来如来(にょらい)

若村:まず、「如来」は学校でいう校長先生です。というのも、如来というのはお釈迦様、悟りを開いた最上最高の存在なんです。見た目の特徴としては、「螺髪(らほつ)」と呼ばれるパンチパーマのような髪型に、ぽっこり膨らんだ頭頂部の「肉髻(にくけい)」。あとは、おでこの中央にポツンとある「白毫(びゃくごう)」、そして服装は布を身に纏うだけで極めてシンプルであるというところでしょうか。

仏像の見方その1 頭に注目!如来の螺髪は、釈迦の生まれであるインドの人の髪質である巻髪を表している。眉間にある白毫からは慈悲に満ちた光を放ち、人々を救うとも。肉髻には、豊かな知恵が詰まっているとされている。

ー 1番すごい人なのに服装はシンプルなんですか?

若村:そうですね。如来は悟りを開いた存在なので、すべての欲(煩悩)を捨てることができました。なので人前に出る際にもカッコよく見せたい、キレイに見せたいということがなく、装飾をする必要がないんです。一方、「菩薩」というのは“悟りを求める者”という意味で、如来になるために修行中の身です

菩薩菩薩(ぼさつ)

ー 菩薩はまだ悟りを開いていない姿ということですか?

若村:その通りです。具体的にはお釈迦様が悟りを開く前の、修行中の頃のお姿とされています。だからまだ欲を捨てきれずにいて、首飾りや耳飾りなどのアクセサリーを身につけています。悟りを開いた如来に比べて、我々に少し身近な存在です。学校でいうと担任の先生という感じでしょうか。

仏像の見方その2 服装に注目!布を1、2枚だけまとう如来、きらびやかな装飾品を身に付けた菩薩など、それぞれの地位や役割に応じた服装を身につけている。

ー 欲をまだもっていると聞くと、少し親近感が湧きます(笑)。

若村:身近とはいっても、私たちとは比べ物にならないパワーをもっていますけどね(笑)。たとえば、東山にある、三十三間堂の千手観音坐像。こちらは、左右にズラリと並ぶ千手観音立像の中央に座っていらっしゃる、ひときわ大きな菩薩像です。千手観音というのは、千の手と眼を持ち、無限の救いと慈悲をもっている菩薩のことです。三十三間堂の千手観音坐像をじっくり見ると、右下のほうの手に、ドクロを持っているのがわかります。これは、悪魔をもねじ伏せる大きな力をもっているということを表しているんですね。

ー す、すごいパワーですね……。残りの明王や天部の特徴も教えてください!

明王明王(みょうおう)

若村:「明王」は如来の教えに従わない人々をあえて怒りを表して正しい道へと導く存在。怒りの表情が特徴です。愛情をもって厳しく叱る生活指導の先生みたいな役割ですね。如来や菩薩は優しさで人々を救うのですが、人は優しさだけでは救うことができない時もある。時には強引にでも叱咤激励して正しい道へ引っ張っていくというお役目です。

ー 愛情ゆえの厳しさ、というやつですね。

若村:子育てに例えるとわかりやすいかもしれません。子どもが悪さをしたら、初めは如来や菩薩のように優しく諭してあげますよね。でも優しく諭している時は言うことを全然聞かない(笑)。そうするとだんだんと背中に炎が揺らめき、髪が逆立ち、牙が出てきて、目がつり上がり、そして怒る!

仏像の見方その3 表情に注目!悟りの境地で静かな表情の如来、優しい表情を浮かべる菩薩、怒りの表情で導く明王など、仏像の種類によってその表情も様々。

ー お母さんが鬼の形相になるという、あるあるですね(笑)。

若村:でも正確にいうと怒るのではなくて、子どもを正しい道に導きたいと優しさがありながら、手段として怒りを表しているんです。憤怒(ふんぬ)という表情にこそ、明王の優しさが表れているんですよ。明王の中でも中心的な存在とされているのが不動明王で、東福寺の同聚院の不動明王なんかは大きくてドシンと構えた姿が迫力満点です。目の前にすると、つい背筋を正してしまいますね。

ー 明王の手に縄や剣など武器のようなものを持っているのは、何か罰を与えられるということでしょうか?

若村:いえいえ、人を傷つけることはしません。人々の緩んだ心を、左手に持った羂索(けんさく)という縄でキュルキュルっと捕まえて縛り、そして右手で持った剣で切り離してくれるんです。戦うための道具ではなく、人々を正しい道へ導くための道具なんですよ。

仏像の見方その4 持ち物に注目!仏像が手にするものを持物(じもつ)という。あらゆる病を治す薬が入った「薬壺(やっこ)」、すべての願いが叶う功徳水(くどくすい)が入った「水瓶(すいびょう)」など、仏像の役割によって持物が変わる。

若村:鎧を着ていないのも特徴で、何かと戦うわけではないので鎧の必要性がないということですね。これもまた比較するとおもしろいんですが、明王と違い、「天部」の中には鎧を着ているものも多いです。

ー つまり天部は何かと戦っているということでしょうか。

天部天部(てんぶ)

若村:天部の中にも大きく分けて2種類あり、仏教を守護する「武神タイプ」と、福徳をもたらす「女神タイプ」がいます。武神タイプのものは、仏教を守るために外敵と戦っているので、鎧を身に付けて武器を持っています。学校でいう守衛さんの役割ですね。京都だと、東寺の四天王などが武神タイプの天部に分類されます。ちなみに、四天王というのは仏教を守護する四神のことで、それぞれ古代インドの神話に登場する神々です。鎧を身にまとう堂々とした出で立ちは、なかなか迫力がありますよ。

ー 心強い味方ですね!もう一方の、女神タイプについても教えてください。

若村:女神タイプは福徳神という言い方をします。幸せや財産、お金、運が上がるなどの福をもたらす存在ですね。吉祥天や弁財天など、どちらかというと女性的な姿で出てくることが多いです。学校で例えると保健の先生のような役割です。

ー なるほど、4種の違いについては理解できました! 他に見た目の特徴で気になっていたことがあるんですが、仏像の手の形ってそれぞれ違いますよね。どんな意味があるのでしょうか?

若村:仏像の手の形や組み方のことを「印(いん)」と言います。その仏像の意思を表す重要なポイントなんですね。印を見ることで仏像の種類を判別することもできるので、ぜひ注目して見てほしいです。

仏像の見方その5 手に注目!インドでは手や指などで心を表現する習わしがあり、それが仏像の手指を様々な形に折り曲げて、仏の悟りや力を象徴的に表すようになったとされている。

若村:たとえば、親指と人差し指で輪っかを作る「来迎印(らいごういん)」(画像左)や、「阿弥陀定印(あみだじょういん)」(画像中央)。これらは、如来のひとつである「阿弥陀如来」に見ることができる印です。来迎印はいわゆる「OK」のハンドサインですね(笑)。阿弥陀如来は、極楽浄土つまり死後の世界へ我々を迎えに来てくれる仏様。代表的な仏像だと、大原の三千院の阿弥陀三尊坐像や、宇治にある平等院の阿弥陀如来坐像が知られていますね。

ー そういえば「仏様のマネ~」とかいって、OKサインをした記憶があります。「極楽に来てOK」と言われているように見えますね(笑)。

若村:もう一方の阿弥陀定印は、まさに深い瞑想に入られている姿を表しています。御室にある仁和寺の阿弥陀如来坐像は、阿弥陀定印を結ぶ現存最古の阿弥陀様ですね。通常は春と秋の特別公開時期にしか拝めない仏像ですが、現在、仁和寺ではプライベートツアーを開催されていて特別に見ることができます。僧侶の方の解説を聞きながら、直接お寺を案内していただけますよ。

「世界遺産仁和寺 特別プライベートツアー」予約サイト
※プライベートツアーは2020年9月30日まで開催

ー 手のひらをこちらに向けているような印も見た記憶があります。

若村:「施無畏印(せむいいん)」と「与願印(よがんいん)」(画像右)ですね。これらもよく見かける印です。施無畏印は右手で挨拶するようなポーズ、与願印は左手を下に垂れています。時代によって、指を揃えていたり、中指や薬指を軽く曲げていたりの違いがあるんですよ。それぞれ読んで字のごとく、施無畏印は「畏れなくていいよ」、与願印は「願いを叶えますよ」という意味が込められています。

ー 手の形には様々なメッセージがあったんですね。印以外にも、知っておくといい見た目の特徴ってありますか?

若村:あと、見逃しがちなのは「台座」かな。仏像が祀られる下の土台ですね。「蓮華座」と呼ばれる蓮の花の台座は、如来や菩薩が座る台座として最も多く見られます。

ー なぜ蓮の花に座っているんですか?

若村:蓮は泥沼から生えてきたとは思えないような美しい花を咲かせ、秋には蓮根(れんこん)を実らせますよね。仏教の世界 では、泥沼の世界、つまり迷いや煩悩の世界の中にあっても、それに染まらずに悟り(美しい花と実)を得ることから、蓮の花は悟りの象徴といわれているんです。

ー そういう意味があるんですね。

「岩座」というゴツゴツとした自然の岩を象った台座もあります。主に明王や邪鬼を踏みつけている四天王に用いられ、仏様の力強さを表しています。

仏像の見方その6 台座に注目!蓮華座や岩座のほかにも、獅子(ライオン)の姿を彫った「獅子座」や、象の大きさや力強さを象徴した「象座」などのユニークな台座もある。

ー 崇高さを表すか、力強さを表すかで台座が変わってくるんですね。なんとなく、顔や手に持っているものを見てしまいがちだったので、足元も要チェックですね!

若村:余談ですが、普段私たちがよく使う「台無し」という言葉がありますよね? これは、長い歴史の中で台座を失ってしまった仏像が、どことなく威厳がなくなったような姿に見えたため、面目を失うことや形をなさないことを「台無し」と言うようになったんです。

ー おもしろい! 仏教にまつわる言葉が現代にも使われているんですね。

若村:日本では、日常用語になるほど生活と仏教が密接に関わってきたと言えるかもしれませんね。

3.気楽に考えてOK!仏像をお参りする心構え

ー では最後に。京都にはたくさんの仏像がありますが、どの仏像に会いに行くべきですか? 心構えがあれば教えてください。

若村:それは素直に、自分がどんなご利益を受けたいかという点で、会いにいく仏様を選ぶのが良いと思いますよ。

ー そうなんですか? なんだか自分の欲が一番みたいで気が引けますが……。

若村:そもそも仏様には、極楽浄土に迎え入れるのが得意な仏様、病気を治すのが得意な仏様、というふうに、願い事の専門があるんですね。

恋愛、金運、美容の仏像仏像には、その時代ごとの人々の願いや悩みに応じて、多種多様の仏様がつくられてきたという歴史がある。

ー 願い事の専門ですか?

若村:数学の先生に美術を教えてほしいと言っても難しいでしょう(笑)。それと同じで、叶える願いにも得意分野があります。仏教というのは、人の願いの数だけ仏様がいるという、ある意味では現実的な宗教なんです。

ー つまり自分の悩みを振り返るところから始めればいいと。

若村:そうですね。仏教はかなり柔軟な宗教です。多くの人々に広まった教えの中には、とにかく拝むことが大切と説くようなものもあります。わかりやすいからこそ、字も読めない時代から多くの人が共感し、広まっていったんですね。その時代ごとに柔軟に変化しながら多くの人々に救いの手を差し伸べてきたんです。

ー なるほど。懐が広い! 気楽に自分の悩みから考えていいんだな、と少し安心しました。

若村:今回はご紹介し切れませんでしたが、仏様の体に備わっている優れた特徴は全部で112もあります(笑)。知れば知るほど奥深い世界ではありますが、入り口も広いので、はじめは自分の悩みや願い事から考えるといいと思います。まずは興味をもっていただき、その後、仏様のいろんな特徴や意味について、より深く知っていってもらえたら嬉しいです。


若村さん、ありがとうございました! 難しそうな仏像の世界も、見た目の特徴から紐解いていくとおもしろいことがわかりました! いろんな仏像に出会って、自分のお気に入りを見つけるというのも楽しそうですね。

 

監修:若村 亮(株式会社らくたび)
企画編集:光川 貴浩、長谷川 茉由(合同会社バンクトゥ)
ライター:大宮 由布子
イラスト作成:上田 広樹(合同会社バンクトゥ)
サムネイル写真提供:仁和寺

取材をした人:若村 亮(わかむら りょう)

若村 亮(わかむら りょう)

2006年4月に「 株式会社らくたび 」を創立して京都に特化した事業経営を行い、『らくたび文庫』など京都関連書籍の企画・編集・執筆や、旅行企画プロデュース、各種文化講座の京都学講師、京町家の魅力発信や活用・維持保存、テレビ・ラジオ番組の出演など、多彩な京都の魅力を広く発信している。また、京都関連の観光施設・商業施設・学校法人・不動産(京町家)事業などのアドバイザー&コンサルタント事業も行っている。

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