京都では、パンがとても親しまれている。
平成28年(2016)の情報にはなるが、総務省の家計調査における都道府県別パン消費ランキングで、京都は1位に輝いた。京都というと和なイメージが強く、パンと結びつきにくいかもしれないが、実際に街を歩いてみると何軒ものパン屋さんを目にする。
パン愛好家の間では10年以上も前から「京都のパンがアツい」と噂にはなっていたのだけれど、近年特に盛り上がりを見せているのは、京都の“ある通り”が「パン・ストリート」と呼ばれるほど注目を集めているから。
その場所とは、京都市の市街地北部を東西に走る街路……沿道には京都大学や京都御所などが立ち並ぶ「今出川通り」だ。
パン好きの人は、今出川通りと聞いたら、名店「ル・プチメック」を思い浮かべる人も多いだろう。1998年に今出川で第1号店をオープンし、今では東京・日比谷にも出店している。京都のパン人気を牽引したと言っても過言ではない人気店だ。
今回は、そんな今出川通り周辺で展開されるパン屋の中でも、比較的新しく、かつ筆者が実際に訪れて気になった店を4つ紹介したい。
なお、今出川エリアへは、京都駅から地下鉄烏丸線に乗り、「今出川」駅で下車するとたどり着ける。3・4・6番出口から地上へ出ると、ちょうど今出川通りの真ん中あたりだ。
- 1.クロワッサンが絶品! 「パティスリー タツヒトサトイ」
- 2.クオリティーの高いパンが130円~で味わえる「パンドブルー 堀川今出川本店」
- 3.お土産にもぴったりな“大文字パン”が買える「松」
- 4.小ぶりなサイズのパンが並ぶ「喫茶とパンdo.」
1.クロワッサンが絶品! 「パティスリー タツヒトサトイ」
まず紹介したいのは、京都大学の近くにある、平成28年(2016)にオープンした「パティスリー タツヒトサトイ」。
店主の里井達人氏は、京都市内で展開するパン屋「フリアンディーズ」で働いた後、横浜の有名な洋菓子店で数年間修業し、独立してこのお店を開業した。ちなみに、ご実家も「ブラザーベーカリー」というパン屋を京都市内で営んでいるのだそう。
看板に「パティスリー」(ケーキや洋菓子を専門に扱う店)と「ブーランジェリー」(フランス語でパン屋を意味する言葉)の両方が入っているとおり、入店するとすぐにスイーツのショーケースが目に飛び込んでくる。パンはその反対側に陳列されていて、惣菜系から甘めなパンまで品ぞろえも幅広い。
大きなガラス張りの窓から自然光が入り、店内に並ぶ抹茶やショコラ、チーズなど彩り鮮やかなパンも映える。どれにしようか迷うことさえも、うれしくて顔がニマニマしてしまう。
その中でも一番人気は、シェフのスペシャリテ(看板メニュー)でもあるクロワッサン。
クロワッサンをオススメしているパン店は多いのだが、こちらのお店のクロワッサンは、食べてすぐにオススメしている理由が分かった! おいしい! おいし過ぎる!
これまでクロワッサンは何個も食べてきたが、「パティスリー タツヒトサトイ」のクロワッサンは生地に引き(伸びること)があり、ばりっ、ざくっ、とした食感が楽しめる。
そんな外側の生地と、バターがじゅわりと染み込んだ中の層。もっちりしつつも軽い食感が、絶妙なコントラストを生んでいる。
もう一つは、抹茶とあずきのフレンチトーストをいただいた。食パンの生地に、抹茶とあずきが練り込まれているというもの。抹茶で落ち着いた味わいになり、そこへあずきが良いアクセントとして加わっている。上品なフレンチトーストという印象だ。
店内にはポップな音楽も流れ、入って左奥にはスタイリッシュなイートインスペースもある。朝8時からオープンしているので、朝食がてら足を運んでみてはいかがだろうか。
パティスリー タツヒトサトイ
- 住所:京都市左京区北白川追分町2番地 Eフラット北白川1階
- 電話:075-285-1171
- アクセス:京阪電車「出町柳」駅より徒歩約15分、京都市バス17号系統「京大農学部前」より徒歩約2分
- 営業時間:8:00〜18:30
- 定休日:なし
購入したパンは、せっかくなので、近くにある鴨川(賀茂川)のほとりで食べてみた。筆者がパンの食べ歩きをするときの楽しみの一つに“外パン”がある。持ち帰って家でゆっくり食べるのも良いが、外の空気や風景を楽しみながら食べるパンも格別なのだ。
いつもは近くの公園などで食べることが多いのだが、京都に関しては川沿いで食べることが多い。それだけ、食事と共に自然の風景が楽しめる場所なのだなと感じる。賀茂大橋のふもとには、よくテレビドラマにも出てくる飛び石があり、一人で「ああ、京都に来たな」と感慨にふけってしまった。
2.クオリティーの高いパンが130円~味わえる「パンドブルー 堀川今出川本店」
今出川駅を下車し、京都大学の反対側である西へ歩いて行くと、また違った景色が見えてくる。30年以上も今出川で営業を続けている「マリーフランス」と、前述の「ル・プチメック」の間に、平成24年(2012)開業の「パンドブルー 堀川今出川本店」がある。
最初はノーマークのお店だったが、次から次へとお客さんが入っていくので、引き込まれるように入店した。客層は、観光客というよりは、地元の方……それも男性のお客さんが多かったような印象だ。
最大の特徴は、お値段が130円(税込)~購入できるということ。
白と黒を基調にした外観から、小洒落た今どきのかわいらしいパンが陳列されているのかと想像していたが、実際にはがつんとお腹を満たしてくれそうな惣菜パンと菓子パンが中心だった。
店内を囲むようにさまざまなパンが並べられており、中には「うまか棒」のように変わった名前のパンや、フライドチキンの入ったボリューミーなハンバーガーも。どれもおいしそうで、トレーを持ちながらかなり迷ってしまった。
最終的に購入したのは、自家製カレーを包みこみ揚げた「ゴールデンカレーパン」。
形はオーソドックスな楕円形。細かめなパン粉でカリッと揚げられ、チャツネというペースト状の調味料が隠し味になっている。カレー自体の味がしっかりしているので、時間がたっても旨味がじゅわりと広がる一品だった。
パンドブルー 堀川今出川本店
- 住所:京都市上京区今出川通大宮東入二丁目西船橋町322
- 電話:075-417-1007
- アクセス:地下鉄烏丸線「今出川」駅より徒歩約11分
- 営業時間:8:00〜17:00
- 定休日:木曜
3.お土産にもぴったりな“大文字パン”が買える「松」
京都大学を通り過ぎ、銀閣寺がある東の方へ歩みを進めると、平成27年(2015)にオープンした「松」がある。横文字を使った店名が多い中、漢字一文字という潔さ。引き戸にのれん、落ち着いた色合いの木枠という店構えは、今まで歩いてきた今出川通りの中でも特に和を感じるパン屋さんだった。
実は、以前京都観光へ来た際に、パン好きのタクシー運転手の方から教えてもらったのが「松」だった。その時は定休日で訪問できなかったので、ぜひとも来てみたかったのだ。
食パンが一番人気だそうで、近所に住んでいたら購入したいところだが、旅人の身なのですぐに食べきることができるパンを探す。すると、目を惹くパンを見つけた。
台形にかたどられた抹茶マーブルの生地に、あずきが練り込まれたブリオッシュ。斜面にはチョコレートで大きく「大」の字が書かれている。その名も「大文字」というパン。店の近くに「京都五山送り火」で有名な大文字山があるためだろう。
食べてみると、外側はさっくり、中はしっとり。バターのコクが噛むごとに口内へ広がっていき、おいしい。京都土産のパンとして持ち帰っても良いかもしれない。
松
- 住所:京都市左京区浄土寺西田町73
- 電話:075-771-7550
- アクセス:叡山電鉄「元田中」駅より徒歩約17分、京都市バス5・17号系統「銀閣寺道」 より徒歩約2分
- 営業時間:7:00〜19:00
- 定休日:月曜
4.21時まで営業! 小ぶりなサイズのパンが並ぶ「喫茶とパンdo.」
せっかく銀閣寺エリアまで来たので、有名な「哲学の道」まで足を運んでみた。
ここへ訪れたのは中学生の修学旅行以来。ひさしぶりにこの辺りを歩いて気づいたのだが、京都大学は、哲学の道の近くにあったのだと分かった。京都大学の教授であり日本を代表する哲学者でもある西田幾多郎氏らが好んで散策したことからこの名がついたのも納得できる。
そんな哲学の道のそば、先ほど紹介した「松」にも近い場所に、「喫茶とパンdo.」はある。平成29年(2017)にオープンしたベーカリーカフェで、その名の通り食事のできる喫茶店だ。入り口の手前に陳列されているパンに限り、テイクアウトとして購入できる。
一つ一つが小ぶりなサイズ。「イチジクとクリームチーズのライ麦パン」は手のひらに3個ぐらい乗りそうなほどかわいいサイズだが、小さくても、中にはクリームチーズがたっぷり入っている。酸味とイチジクの甘味の調和が良く、ライ麦の奥深い味わいも相まって、かなりパンチが効いた味。
「喫茶とパンdo.」で購入したパンは、地下鉄烏丸線「今出川」駅付近にある「京都御苑」内の児童公園で食べてみた。桜の名所としても有名らしいので、春には花見をしながら“外パン”するのも気持ち良さそうだ。
なお、令和2年(2020)3月現在は、モーニング営業を1年ぶりに再開したとのこと。これに伴い、パンのラインナップも変更された。以前はあったディナータイムの営業もなくなっているので、足を運ぶ際はご注意を。
喫茶とパンdo.
- 住所:京都市左京区北白川東久保田町10-1 第二白川ハイツ1階
- 電話:075-746-2301
- アクセス:叡山電鉄「元田中」駅より徒歩約19分、京都市バス5・17号系統「銀閣寺道」 より徒歩約2分
- 営業時間:モーニング 8:00〜11:00、軽食・喫茶 11:00〜16:00(ラストオーダー フード14:00、ドリンク 15:30)
- 定休日:月曜
- 【京都観光Navi観光スポット・サービス情報】
- 喫茶とパンdo.
今出川通りのパン屋さん巡りをしてみると、この通りは、新旧のお店がお互いを尊重しながら両立している場所だとあらためて感じた。古くて良いものはもちろん大事にしているが、新しいものも文化の発信地として応援している、そんな印象を受けた。
また、こんなに激戦区だというのに、パンの価格がそれほど高くないということにも驚いた。学生の街ということもあるだろうが、それだけパンが市民の生活に欠かせない存在なのかもしれない。
通りをぶらりと歩くだけでも楽しい、今出川エリア。京都観光のテーマとして、ぜひ「パン屋さん巡り」も候補に入れてみてほしい。
※取材は令和2年(2020)2月に行いました
※記事中に記載の価格は全て令和2年(2020)2月時点の税込価格です
編集:はてな編集部
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この記事を書いた人:片山 智香子(かたやま ちかこ)
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国内外を旅し、食べ歩いたパンは1万個以上。全国のパンを紹介する日本最大級コミュニティー「パン屋さんめぐりの会」を主宰。著書に『ボウルで3分こねるだけ!ラク!早!カンタン!おうちパン』(学習研究社)『愛しのパン』(洋泉社)がある。パンマニアとしてテレビや雑誌など数多くのメディアにて出演。
- Twitter:@katayamachikako
- ブログ :http://travelbread.hatenablog.com/